第42話 フレデリカ姉さんに報告


 翌朝。


 早めに支度したくをして、アスカとともにフレデリカ姉さんのところに報告に行った。



「フレデリカ姉さん、おはようございます」「おはようございます」


 くぐり戸を開けて元気に挨拶あいさつすると、今日はすぐにフレデリカ姉さんが表に出て来た。


「ショウタ。無事に戻ってこれたんだね」


 素顔のフレデリカ姉さん。今日は偽装ぎそう魔法を使わずスレンダー美人のエルフ姿だ。エルフって長生きで、年をとっても老けないって設定が多いけど、実際はどうなんだろう。フレデリカ姉さんも見た目は二十歳そこそこだけど実は相当、なんてね。


「フレデリカ姉さん。何とか約束は果たせたと思います。言われた場所にいたドラゴンはたおしました!」


 さすがのフレデリカ姉さんも驚いたか? フレデリカ姉さんがアスカに何か問うように顔を向けると、アスカは横でうなずきで答える。


「ショウタ、本当なのね。ありがとう」


 この姿だとバアさん言葉は使わないらしい。こっちの方が好ましいのでなにも言わないけど。


「それで、これがたおしたドラゴンの魔石です」


 目の前に、大きな魔石を排出すると、フレデリカ姉さんが恐る恐る手を伸ばして魔石に触りながら、


「怖いくらいに大きくて硬い。これがドラゴン」


 別の場面で聞くと面白そうなセリフだな。


 昨日のアスカの妙な作り話のせいで変な連想をしてしまう。アスカさん口元が笑ってるように見えるが。


 アスカのヤツ、最近、表情が豊かになったな。無口キャラかと思ってたけど、どうも少し違うな。そのうち、突っ込みキャラにならないか心配だ。


「あと、これを見てもらいたいんですが」


 そう言って、片羽かたはちょうの髪飾りを取り出した。やはり、フレデリカ姉さんが今つけてる髪飾りと左右は逆だが同じものだ。


「これを、あの村で?」


「はい。ドラゴンのねぐらで見つけました」


「これは、私の双子の妹の髪飾り。母さんが私とおそろいで妹に買ってやったもの。うぅ……」 


 人によっては、もらい泣きするかもだけど、俺は、やはり美人の涙は素晴らしいと不謹慎ふきんしんなことを考えてしまった。30年も前に亡くなった知らない他人のことだものそうそう感情移入かんじょういにゅうはできなかった。


「それから、値打ちのあるようなものもそれなりに見つけたので見てみますか? フレデリカ姉さんの身内の人が持ってたものがあるかもしれないですし」


「それはいいわ。ショウタの物にして。その代りと言ってはおかしいけど、この髪飾りを売ってもらいたいの」


「フレデリカ姉さんに差し上げるために持って帰って来たようなものですからどうぞ。お金なんかはいりませんからね」


「ありがとう。ショウタ。あなたやっぱりいい人ね」


 これは、デレ期来たのか? そんなことないか。


「それから、亡くなった人たちの頭蓋骨ずがいこつとか人骨らしき骨がたくさんあったんですが、それは持って帰らずそこに埋めてきました」


「それも、ありがとう。お礼と言っても、私に出来ることはショウタにお金を渡すくらいだけど。ちょっと待っててね。いま取ってくるから」


「ちょっと待ってください。お金なんかいらないと言ったじゃないですか。その代り、私のお願いを聞いて欲しいんですが」


「何でも言ってみて。できることなら何でもするから」


 その言葉は、男子高校生と借金取りには禁句ですよ。


「フレデリカ姉さんは、エルフで魔法が得意なんですよね? そこを見込んで、私に魔法を教えてもらいたいんですが」


「魔法が得意ってわけじゃないんだけど、幻惑げんわく系? そっち方面なら何とか教えられると思うわ」


「攻撃系はどうです? 私ができるのは、指先からちょろちょろっと火の出るファイアだけなんで、何とか強そうな魔法が使いたいんですよね」


「攻撃系は私も得意じゃないので、人に教えるのは難しいと思うわ。それに、魔法は魔術と違ってヒト族には扱いづらいみたいだし」


「そうですか。それなら、なんかこう、すごいポーションの作り方みたいなのを教えてくれませんか? 私がいた国にはお話の中だけですけどエリクシールとかいう万能のポーションがあったんですけど」


「エリクシールならあることになってるわ。私も作り方は知ってる。というか、それなりの錬金術師ならみんな作り方なら知っていると思うわよ。特に秘密ってわけでもないし。ただ、作るための材料が手に入らないことと、作るためのMPが莫大に必要で、実質作成は不可能ってだけで。

 誰も作れないんで、レシピが本物かどうか確認できないんだけど。その昔、ある大賢者が作ったって記録があるの。錬金術師じゃなくて賢者ってとこがみそなのよ。それで、その時のエリクシールを飲んだのがどっかの国を作った初代の国王だったそうよ。まあ、建国神話みたいなものだからほんとかどうかはわからないけれどね」


「とりあえず、そのレシピを教えていただけますか。錬金術の目標にできるので」


「そう、それじゃあ、少し待ってて。そのレシピが書いてある本があったはずだから」



 しばらく待っていると、小冊子しょうさっしを持ってフレデリカ姉さんが帰って来た。


「これがそのレシピが書いてある本よ。持っていって」


「ありがとうございます」


 礼を言って受け取りぱらぱらとめくると、目次に、「1.ライフストーン」「2.アムリタ」「3.エリクシール」「4.賢者の石」


「どう、すごいのばっかり載ってるでしょう。どれも、作成は不可能と言われてるわ」


 試しに「3.エリクシール」を開いてみると、


 1.取れたてのエンシャントドラゴンの血、ポーション瓶三本分を清潔な蒸留器じょうりゅうきに入れる。

 2.蒸留器に魔力を注ぎ込み続けると、ドラゴンの血は全て蒸発し ポーション一本分の蒸留液となる。蒸留には一定量の魔力を注ぎ、一時間で蒸留し終えるようにすること。

 3.その時、出来上がった蒸留液じょうりゅうえきがエリクシールである。


注)エンシャントドラゴンの血は新鮮なものほど良い。採取さいしゅ後、一日以上経過したものは使用に適さない。

注)ポーション瓶三本分のエンシャントドラゴンの血を魔力だけで蒸留するには、MPで3000程度の魔力量が必要である。なお、注ぐ魔力は同一人物の魔力でなくてはならない。


 惜しーい、魔力は何とかなるのに、エンシャントドラゴンの血がないよ。あの黒いドラゴン、もっとレベルが高かったならなあ。全く惜しいことをした。


「そんな本一冊では足りないから、また何かあったら言ってちょうだい。できることなら何でもするから」


「それじゃ、期待してます。この本ありがとうございました。それじゃあ失礼します」「失礼します」


 おや、ここではアスカのやつ挨拶あいさつ省略しないんだ。


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