第44話 ポーション量産


 耳だけを短く偽装ぎそうしたフレデリカ姉さんを連れて帰宅した。もう面倒なので、きょてん(しかも借家しゃくや)のことを「拠点」と呼称するのはやめました。いずれ本格的な基地を作ってやるぞ。その時までこの言葉は封印ふういんだ。



「ただいま。シャーリー、それにヒギンスさん」「ただいま」


「お帰りなさいませ、ご主人さま。おかえりなさい、アスカさん」「お帰りなさい、ショウタさんにアスカさん」


 二人が台所の方から顔を見せてやってくる。


「今日はお客さんを連れて来たんだ」


「お邪魔じゃまします。錬金術屋のハザウェーご存じでしょうか。そこの店主をしてます、フレデリカのめいになります。名前はアンジェラといいます」


 そう来たか。


近々ちかぢか叔母おばは引退して田舎いなかに帰ると言ってまして、この私が店を引き継ぐことになりました。今後とも、よろしくお願いします」


 さらに驚愕きょうがくの事実。リアル背乗はいのり。おまわりさーん、この人でーす。なりわりですよー。


「今日は、ショウタさんが先ほど購入された錬金道具の使い方を実地で教えてほしいということですので、こうしてまいりました」


 何だか、うまくまとめたよ。


「いらっしゃいませ。アンジェラさま」「いらっしゃい。アンジェラさん。ショウタさんモテモテね」


 絵面えづら的にはそうかもしれませんね。絵面えづら的にはね。大事なことなので二回言いました。


「そういうことなんで、みんなもアンジェラさんをよろしくね」


 とりあえずフォローしとこ。




「アンジェラさん、ここが作業場になってます。ここらに瓶詰びんづめ機を置きますか」


「それでは、手を洗って作業を始めましょう」



 瓶詰め機を空いた場所に置き、収納から蝋の塊とこの前作ったPAポーションが十リットル入った大瓶を一本取り出す。


 ここからの作業は、アスカに任せよう。


「最初に、魔素貯留器を確認して、十分な量の魔力が残っていることを確認すること。ここの端の色が緑色の場合は問題ないわ。赤くなったら、魔素の形で魔力を充てんしてね」


 そんなに簡単に確認できたとは知りませんでした。後で家の中の魔道具を調べて、魔力を充填しておこう。まだやったことないけど、できるよね。魔力だけは無駄に余るほどあるからな。


「次は洗浄せんじょうね。下の方にコックがあるのでそこを開いておいてちょうだい。そこから洗浄で使った水が出てくるから下におけを置いとくといいわ。そしたら上に付いた、ガラスの筒の上の蓋を取ってちょうだい。その上から純水をまんべんなく振り撒いて洗います。そう、そんな感じでいいわ。それを二回繰り返して中の汚れをきれいにします。雫が下の方から落ちなくなったらコックを閉めて。

 それで今閉めたコックの隣にあるつまみをポーション小と書いてある印に合わせて。ポーション小だと五十cc用、中だと七十五cc、大だと百ccになるわ」


「それじゃあ、ろうの塊をこの皿の上に適当に置いて。置いたらここのボタンを押す。そうすると、蝋を入れた皿が熱くなり始めて、すぐに蝋が融け始めたでしょ。そしたら、上の透明タンクにポーションを注いでちょうだい。ふたをしたら準備完了」


 アスカが作業している間、俺の方はというと、ポーション瓶を収納庫から取り出していた。全部で六十リットルPAポーションを作ってあるから都合千二百本だ。


「それじゃあさっそく、瓶詰め始めましょう。そう、蓋をとったポーション瓶を右の穴にぐっとはめ込んで、ポーションが注入されてすぐにいっぱいになるから。そしたら、蓋をして隣の穴にはめ込んで、カチッと音がしたらでき上がりよ」


 その間三秒でした。単純計算で三千六百秒、一時間で千二百本のポーションの瓶詰めが終わる勘定かんじょうだ。素晴すばらしい。


「そのままアスカは、全部やっといて」


 丸投げである。とはいっても、もう俺のやることないし。


 これなら、二日もあればポーションの原液作りを含めて全部で五千本のポーションができそうだ。アスカ頑張ってくれ。俺は、薬草をちゃんと手渡してやるからな。


「アンジェラさん、ご指導ありがとうございました。ちょっとわれわれは休憩しましょう。アスカ、後は頼んだ」


「そうね、それじゃアスカちゃん、頑張ってね」


 アスカに対してちょっと無慈悲むじひだったか? フレデリカ姉さんも大概たいがいだな。



 少し休憩して、フレデリカ姉さんも店の方に帰ったので、俺は千二百本分の残りのポーション瓶を収納から取り出しながら並べ、できたPAポーションを収納して行く、当然そんなことはすぐ終わるので、アスカをはげますことにする。


 アスカ、ガンバ!!


 アスカの流れるような作業風景を見ていて気付いたのだが、連続操業れんぞくそうぎょうの利点は、面倒な器具の洗浄が不要なところだと気が付いた。


 単体の作業をこなす時間は短縮できないが、作業を続けることで、本来必要な作業部分を省略でき、全体の効率が大きく向上するのだ。よわい十六にしてブラック経営者の極意ごくいを学んでしまった。


 アスカの健闘けんとうによって、無事残り四千八百本のPAポーションが次の日の昼過ぎには完成した。先に作っていた二百本を合わせて五千本。ご苦労アスカ、よくやった。


 商業ギルドの買い取り価格は一本あたり税引き後銀貨4枚。五千本で大金貨二十枚ゲットだぜー。


 これぞ、男子高校生のストリングひも理論の実践じっせんである。この分ならスーパーストリング理論の実践も間近だ!



  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る