第40話 戦利品


 黒龍のねぐらは、あっちの方か。林の方に向かって進んで行くと、立木たちきが途切れた先に、屋根が無くなり壁の崩れ落ちた住居跡がいくつも見えて来た。


 新しく何カ所か大きく地面がえぐれた場所がある。俺の高速弾が落ちた場所なのだろう。だいぶ大きな石を選んだせいか威力が半端はんぱない。それでも、ドラゴンには効かなかったのだろうけれど。


 もう少し進むと、地面の色が他と違う場所が見えて来た。その先に小山がある。小山はどうやらガラクタの山だ。これがドラゴンの宝物なのか?


 近寄ってその小山を見ると、剣やら鎧やら、色々なものが野積のづみにされていた。革製の物や布製の物は腐っているものも多い。中には人の頭蓋骨ずがいこつも何個も見える。何だかわからない金属の板や棒なんかも見える。


 なるほど、光り物が好きだったんだな。俺も好きだけど。ドラゴンもカラスと同じようなもんなんだと思うと、ここで殺された人たちが逆に哀れに思える。


 あのドラゴン、よくこんなところにいたなと思う。せめて、雨風あめかぜしのげる場所で寝ろよ、雨曝あまざらしじゃないか。と思ったが、そもそも雨、風といった程度の自然現象など、ドラゴンにとって、気にするほどのこともないのだろう。


 ドラゴンの集めた光り物の山からめぼしいものを収納しながら、人の物と思われる骨と、ガラクタを別々に横にけていく。


 お宝ゲットでも気持ちは沈む。お宝の中に一つ、緑色の石をあつらえた金色の髪飾かみかざりがあった。形は蝶の羽の片側をしている。はて? どっかで同じようなものを見た気がするが、ちょっと思い出せない。


「アスカ、ちょっとこれを見てくれ。どっかでこれと似たような髪飾りを見たことないか?」


「それは、フレデリカさんが、エルフの姿に戻った時にしていた髪飾りではないでしょうか。左右は反対のようですが」


 サスアス。そうだ、あの髪飾りにそっくりだ。おそらく、フレデリカ姉さんゆかりの人の物だったんだろう。これを渡せば、フレデリカ姉さんは喜ぶのか、悲しむのかはわからないけど、きっとそれは、いいことだと思う。最高の戦利品だ。


 粗方あらかたの作業を終え、近くの適当な場所に深さ一メートル、縦横五メートルほどで、土を収納し、穴をあけた。その穴に向かってアスカと二人で骨を投げ入れてゆく。


「ご苦労さま。土を埋め戻すから、少し下がっててくれ」


 収納した土を元の場所に排出し、周りが盛り上がって崩れたところを、足で踏んづけて形を気持ちだけでも整える。最後に収納庫の中で一番大きい岩を真ん中においておしまいにした。


 手を合わせ、「南無阿弥陀仏なむあみだぶつ。南無阿弥陀仏。南無阿弥陀仏」


 俺が唯一知ってるお経を唱えた。 いやこれは念仏ねんぶつか。アスカも、俺の真似をして、手を合わせている。


「そろそろ帰るか」


「はい。マスター」



 このまま北にのぼって行けば、キルンから西に延びてテンペラ宮に続く街道に出るとふんで、例のごとく駆け足で北上することにした。




「アスカ、今何時?」


「午後一時少し前です」


「少し休憩しよう。のども乾いた」


 森の中を駆け抜けること二時間。少し開けたところに、いい塩梅あんばい倒木とうぼくをみつけ、それに腰掛けて一息つく。


「今日この先で一泊して、明日の夕方ごろには、キルンに戻れそうだな」


「何ごともなければ、そうですね」


 アスカさん、フラグ立てちゃダメ、絶対。まあ、この程度のフラグならへし折ってくれるだろ、アスカだもん。



 休憩を終え、日の暮れる前まで進めるとことまで進み、野営やえい準備を済ませて簡単な夕食をとった。


 アスカに見張りを頼み、俺は昨日開いたまま収納していたテントを出して、早々に寝ころんで目を閉じた。


 目を閉じると、あの集落跡で見たドクロがまぶたに浮かぶ。いまさらどうする訳にも行かないのが歯がゆい。俺は、こんなキャラじゃなかったはずだが、アスカやシャーリーと暮らしていて少しずつ変わって来たのかなとか思っているうちに眠りについた。



 翌日も、二人で駆けて、昼をだいぶ過ぎたあたりで、テンペラ宮からキルンに続くと思われる街道に出ることができた。もちろん、途中で出くわしたモンスターは片っ端から、魔石奪取からの収納コンボで片付けていった。


 ここから先は街道を走るのでスピードもでる。途中で、ユリア河に架かる橋を渡った。最初、実戦訓練でキルンに来たとき渡ったはずだが、その時は集中して高速弾を作っていたからか、橋があったことは全く覚えていなかった。


 とにかく、急いで帰って、シャーリーたちを安心させよう。



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