第34話 オーガ討伐


 注文した錬金資材が届くまで何日か暇になるので、昼食をとったあと冒険者ギルドにやって来た。いつ見てもここにいる冒険者の数は少ない。昼過ぎであるという時間帯にしても人が少ない。


「こんにちは。いつ来ても、ここは人が少ないですね」


 受付のジェーンさんに失礼なことを言う男がいた。この俺だ。


「ええ、キルンの冒険者ギルドは、迷宮前に支部を置いてまして、そっちは迷宮で獲れる魔物の素材の買取がメインですので、いつも混んでますよ」


「そーだったんですか」


 最初に勇者たちの訓練に同行して一度行ったきりでその後、用がないので知らなかった。


「それで、ショタアスのお二人はどういったご用件でしょうか?」


「ショタアス? 何ですか、その危なそうな響きのする言葉は?」


「お二人のことじゃないですか。先日、ギルドマスターにショタアスってパーティー名をおっしゃったそうですが」


『アスカ、俺そんなバカなこと言ったけ?』。小声でアスカに聞いてみた。


『はい。「Eランク冒険者パーティーのショタアスです」とおっしゃいました』


 あちゃー。これは、ハズイ。


『冒険者ギルドだけでなく、商人ギルドの方でも「ショタアス」は広まっているようです』


 まさに、ガーンだ。 ちくせうちくしょう。あのゴリラ、冗談もわからんのか。今に見ておれよ。この恨みはらさでおくべきや。


「何か、冒険者的にいい話でもないかなーと思ってジェーンさんのところに来たんです。私もアスカも暇なもんで」


「それでしたら、キルン迷宮へいらしたらどうですか?」


「あそこは、いろんな事情があって私もアスカもダメなんですよ」


 そりゃ、現ダンジョンマスターと元コア守護者が自分の迷宮を攻略こうりゃくしちゃいかんでしょ。


「そうですか?」


 胡乱うろんげな眼差まなざしとはこんな目つきを言うんだろう。


「それでしたら、これなんかどうでしょう?」


 ジェーンさんがなにやら紙を広げて説明しようとしたところ、大声がカウンターの先から聞こえてきた。


「おお! ショタアスの二人組じゃねーか。たまたま下に様子ようすを見に降りて来ただけだったんだが、ちょうどいいところで出会った」


 ギルドマスターのギリガンさんのでっかい体が三段飛ばしで階段を降りて来た。


「ジェーン、例のヤツがあるだろ? あれをこいつらに出してやれ」


「ギリガンさん、あの依頼はBランクパーティー、それも4人編成以上推奨すいしょうって、ギリガンさんが評価した依頼ですよねえ。この二人は、実力はあるんでしょうが、まだCランクなんですよ」


「だからだよ。こいつらが、あの依頼を達成したら、誰にも文句を言わせず、Bランクにしてやれるだろ。それに、いま、Bランク以上のパーティーはキルンにいないだろ」


「そういうことでしたら。これです」


「オーガ討伐とうばつ?」


「はい、南門を抜けて、街道を南に半日ほど行くと、アデレード王国と亜人あじん国家群を隔ててる大森林が始まるんですが、その森の入り口近辺で、新しい倒木とうぼくが何本もあり、オーガの爪跡つめあとらしきものが刻まれていたと報告がありました。その爪跡と周りの足跡あしあとから、オーガは最低でも三匹は付近に潜んでいるものと思われます。

 今回の依頼は、オーガの発見および討伐です。仮に、討伐に失敗してもペナルティーはありません。依頼を完遂かんすいした場合の報酬は、オーガ一匹当たり大金貨五枚になります。期限は7日です」


「分かりました。それじゃ今から行ってきます」


「おい、おい。準備はきっちりして行けよ。仮にもオーガだ。ゴブリンジェネラル並なんだぞ」


「ギリガンさん、ゴブリンジェネラル並なら、この二人なら問題ないんじゃ?」


「……」


「それじゃ今からちょっと行ってきます」


「ちょっとって、……」




「アスカ、急ぐぞ。駆け足だ。夕方までには終わらせて帰るからな」


「はい。マスター」


 おっ、今回もクエストマーカーが出た。これで、さらに難易度が下がった。




 ギルドを飛び出して、キルンの街の南門を抜け、街道を二人で駆けて行くと、草原の先に森が見えて来た。


「森だ。そろそろ、何かミニマップに見えてくるんじゃないか」


 クエストマーカーに従って森に分け入っていく。確かに倒木が目立つ。自然を大切にしろよ。バチ当たるぞ。今回は俺たちが必ずバチを当てるからな。


「アスカ。ミニマップに映った。五匹いる。こっちが風下だ。このまま行くぞ」


「はい。マスター。今回も私は、警戒だけでしょうか?」


「そうだな。俺の魔石奪取が効かなかったら、アスカは斬撃ざんげきでなく刺突しとつで頼む。なるべくでき上がりがきれいになるようにしよう」


「了解しました」


「行くぞ」 



 腰をかがめながら、音を立てないようにオーガらしきモンスターに近づいてゆく。


 見えた。


 座っているのにでかいな。オーガって思った以上にでかくて迫力ある。例えは失礼だが、ギルドマスターのギリガンさんを何倍も大きくしたようなモンスターだ。


 こいつら何してんだ? 何か食べてるのか? まあいいや、こいつらの魔石の位置もなんとなくわかる。これならいける。


 コンボ発動!


 見事に決まった。南無なむ


 車座くるまざになって何かしていた五匹のオーガがそのままの姿勢で俺に収納されていた。



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