第31話 相変わらず


 一方、こちらは、ショウタたちのいるキルンの街から馬車で二日ほどの場所にあるテンペラ宮のアデレート王国第2王女マリア・アデレードの仮執務室かりしつむしつ


 今は、マリア王女とトリスタン騎士団長が勇者たちの現状について話し合っている。


「トリスタン騎士団長、勇者さま方の訓練の方はいかがですか? そろそろ王都に戻り、陛下へいかへの拝謁はいえつのあと国民へのお披露目ひろめをしなくてはなりません。リーシュ宰相からも催促さいそくが届いています」


「申し上げにくいことですが、訓練の方は、はかばかしくはありません。とにかく勇者さまはまじめに訓練してくれませんので。私が口で言っても無駄むだのようです。賢者さまと聖女さま方の訓練は、そこそこだと思います」


「勇者さまは訓練をまじめにせずに、いったい何をしてるんですか?  賢者さまは賢者さまで『賢者のローブ』を短く切り詰めてダメにしてしまうし。まあ、国宝と言っても代えのきくものですからいいんですけどね」


「わたしもよくわからないのですが、なんでも勇者さまは必殺技ひっさつわざなるものを開発するとか言いながら、先日迷宮で見つけた大剣を辺りかまわず振り回しているようです。それだけでもかなり問題なのですが、眉毛まゆげをお剃りのうえ、たまに奇声きせいを上げたりニヤニヤ笑いながら大剣を振り回しているもので、侍女たちがおびえてしまいまして」


「困りました。陛下への拝謁はいえつはなんとか私がとりなせますからまだしも、国民へのお披露目はごまかせません。一体どうしたらいいのでしょう? いっそ影武者かげむしゃでも」


「殿下、それはいくら何でも」


「いまのは、冗談です。

 勇者さま方とは別口の案件ですが、現在『魔界ゲート』の前に建設中の砦への物資の運搬経路上に砂虫すなが出るそうで、物資の運搬がとどこおってしまい、建設の進捗しんちょくが思わしくないそうです」


「レベル4の砂虫ですか? それはかなり厳しいですね。王都にいるうちの残りの騎士たちと、最精鋭さいせいえいの第1騎士団から人を出してもらえば、何とかなるかもしれませんが。陛下直属の第1騎士団はいつもどこかに遠征していますから無理でしょうね」


「それでしたら、冒険者のかたを雇うのはどうでしょう?」


「高ランクの冒険者でパーティーを組んだものでなくてはなりません。砂虫が一匹だけなら何とかできるかもしれませんが」


「では、勇者さま方ではダメですか? 王都は、ここからだと北方への途中にありますから、王都での予定を早々にこなして応援に行ければと思うのですが」


「レベル4の砂虫では、剣もろくに使えず、ようやくLv10になったばかりの勇者さまでは返り討ちに遭う可能性があります。ゲート開放前に勇者さまを失っては本末転倒ほんまつてんとうです」


「そこまで頼りになりませんか。魔力をほとんど失ってまで召喚した勇者さまがこれでは。悲しくなります」


「お察ししますが、正直私もどうしていいか」


「はーー。そういえば、キルンの街の冒険者で、容量の大層大きなアイテムバッグを持つ冒険者がいると出入りの商人が言っていたそうです。そういったアイテムバッグが沢山あれば資材の輸送はなんとかなりませんか?」


「アイテムバッグは小さなものでも大金貨十枚では買えません。大きなものになりますと、文字通りけたが違います。王国の予算の多くを使っても、そう多くは買えませんし、売ってもいません」


「そうですよね。その冒険者の持っていたというアイテムバッグの容量がいかに大きくても、あの収納士の方には及ばないんでしょうけど。彼はこの前のキルンへの訓練遠征の時、まだ余力を残して結構大量の物資を収納していたそうですよ。このテンペラ宮で一番大きな倉庫の三分の一を余裕で収納したそうです。あの方が事故に巻き込まれてしまい、非常に残念です」


「私もその話は聞いています。あの倉庫の三分の一を超えるのですからすざまじい収納量です。砂虫の出る砂漠の手前で物資ぶっし集積しゅうせきしたうえで、彼一人を護衛しながら何往復かするだけで物資の供給ができますから、純軍事上じゅんぐんじじょうからみても得難えがたい人物でした」



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