第19話 借家


「さて、アスカ、今何時だい?」


「午前十時になりました」


 このところのアスカさんは俺の時計だな。


「さっそく、家具やら、食器やら、必要なものを買いに行こう。まずは家具屋だな。アスカ、道分かるかい?」


「問題ありません」


 アスカさんは俺のナビだな。戸締とじまりをして買い物に レッツゴー!


 ベッドを含んだ寝具二組、毛布は余分に。テーブル、椅子いす、作業台にする机、タンスもろもろ。


 家具屋のおやじさんに、自分で持って帰るから安くしろと言ったら、一割負けてくれた。目立ってもいいやと、開き直って全部収納したらビックリされた。


 食器、鍋、薬缶やかん、フライパン、包丁、まな板、適当に。全部収納。


 桶、雑巾にする布、井戸用の桶とロープ。全部収納。


 今日のとりあえずの食料。屋台で串焼き、ホットドッグ、もろもろのファーストフード。全部収納。


 明日以降の食材。塩、胡椒、出来立ての何種類かのパン、肉、野菜、果物。ハムにソーセージ、それとお茶。全部収納。


 家庭用の魔道具。コンロ、照明、全部収納。


 こんなもんかな。


 今日の俺はマジ優秀。収納士バンザイ。


 昼食は屋台で済ませ、店屋を駆け回っていると結構時間が経った。今何時だろ。時計を確認するか。


「アスカ、今何時だ?」


「午後三時です」


「三時か、どっかで甘いものでも食べるか。

 アスカ、どこかで、のんびり甘いものが食べられるところ知らないか?」


 冗談じょうだんのつもりでアスカに聞いてみた。


「それでしたら、この近くですと、美味しいケーキと紅茶を出す評判の店があるそうです。そこでどうでしょう」


 どこでその情報仕入れたんだ? アスカさんマジ有能。予想のはるか上をいくとはこのことか。歩きながらも情報収集していたのか?


 俺は、予想のはるか斜め上をいかないようにしないとな。


 アスカに連れていかれたその店は客が女性ばかりで少々居づらい思いもしたが、ケーキはチーズケーキ風で実際おいしかった。紅茶の方は正直わからん。男子高校生に紅茶の味が分かるはずないだろ。


 喫茶店?でケーキを食べて、お茶を飲んでたら、良い時間になった。暗くなる前に、拠点いえに帰って寝るところだけでも掃除しなくちゃ。


 急いで、拠点いえに帰り、井戸から水をめるようにおおいの板を取り外し、桶とロープを取り付けた。雑巾がけするため、アスカに水を汲んでもらった。力仕事はアスカにまかせた。俺は頭脳担当だ。


 家の中の鎧戸よろいどを開けて、水をきつくしぼった雑巾で、自分たちの寝る部屋を拭いてゆく。俺の部屋が真ん中の部屋で、アスカが手前の部屋。一番奥は当面空き部屋だ。アスカは早々に自分の部屋を拭き終わり、まだ半分も拭き終わっていない俺の部屋の拭き掃除を手伝ってくれた。サンキュ。時間があったので、台所兼食堂の方も軽くではあるが掃除できた。


 それぞれの部屋に収納から取り出したベッドやらの寝具やタンスやらなにやらをセットして行く。当然、微調整はアスカにしてもらった。俺もステータスが高くなってるから、普通に重たい物も持てるんだけど、そこはほら、いい塩梅あんばいに指示を出す人が必要だから。


 食器棚も取り出し、食器を入れてゆく。鍋やら、フライパン、包丁も忘れずに。こんなところか。


 魔道具の照明、セットよし。魔導コンロ、セットよし。


 こういった生活用魔道具の中には魔石を加工した部品が入っており、その中に入っている魔力が、電気やらガスやらの代わりになるらしい。一昔前は、魔石そのものが入っていて、魔石の魔力が空になると古いのを捨てて、新しい魔石に交換しなくちゃいけなかったそうだが、今どきの生活魔道具には、魔素貯留器まそちょりゅうきという魔力を再充填さいじゅうてんできる部品がついているそうだ。


 とはいっても、魔力のあまり無い一般人に再充填は難しいので、空になった魔素貯留器を店屋に持って行くと、比較的安い費用で新しい魔素貯留器と交換してくれるサービスがあるそうだ。照明だと半年に一回くらい、コンロだと二か月に一回くらいの頻度で魔素貯留器の魔力が空になるらしい。魔力の大きい人にはいいアルバイトになるのかな。


 俺は、指先ライターくらいしか魔術は使えないけれど、魔力の充填くらいならできるんじゃないかな。たぶん。今は新品ばかりなので満タンで試せないけどね。 


 明日あしたは、今日買い忘れたこまごました物を買って、それから、錬金術に必要な道具類を見に行こう。


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