第18話 そうだ、家を借りよう


 錬金術師になると決めた次の日。


 今日のToDoは、錬金作業のできる家を借りること。家と書いて拠点きょてんと読む。男のロマン、そう拠点づくりだ。


 さっそく、不動産屋について宿屋のおばちゃんから情報収集をした。


「おばちゃん、ここらで不動産屋知らない?」


「不動産屋?」


「そう、不動産屋」


「不動産屋って何?」


「家を貸してくれたり、売ってくれたりするところ」


「それなら商業ギルドじゃない」


「あそこでやってんの?」


「この宿屋も、商業ギルドの紹介で手に入れたんだよ。もう、二十年になるかねー。うちの主人が一山ひとやま当てて、それで……」


 妙なスイッチが入っちゃったよ。おばちゃんの話に適当に相づちを打って、


「おばちゃん、悪いけど、今日から新居入りできるかもしれないから、延泊えんぱくはしない」


「そうかい。だめだったら、またうちに泊まっておくれ」


「あいよ。その時はお願い」





 ここは、昨日きのうも訪れた商業ギルド。


 門衛もんえいさんに会釈えしゃくして、建物の中に入っていく。


 正面の受付には今日も昨日と同じ二人の女性が座っていたので、今日は右側の女性に話しかけてみた。特に意味はない。


「あのう、すみません」


 隣の女性は前を向いている。


「はい」


「家を借りたいと思いまして、相談に来たんですが」


「おはようございます。昨日さくじつの、ショウタさまですね。かしこまりました。担当の者を呼びますので、こちらでしばらくお待ちください」


 昨日きのうと同じように二階の応接室に案内されてしばらく待っていると、リストさんと、昨日お金を運んできてくれた女性が入って来た。


 その女性は大きな台帳を抱えている。


 リストさんは貴金属担当って言ってたような気がするが、不動産も担当なのか? 案外このギルド、建物が大きいわりに人が少ないのかな?


「おはようございます。ショウタさま、家をお探しとか?」


「ええ、この街ですと素材も手に入りやすいので、少し落ち着いて、錬金術の勉強をしようと思いまして。それで、自宅を兼ねた錬金術の工房こうぼうを探してます」


「なるほど、なるほど。カーラさん、その台帳を見せてくれますか?」


 リストさんは、差し出された大きな台帳をめくりながら、


「物件は、キルンのどのあたりでお探しですか?」


「特に希望はありません、街の中ならどこでも構いません」


「うーん。それでしたら、これなんかどうでしょう。元靴工房で、一階が作業所として使っていた土間と台所兼食堂。二階に三部屋。そのうちの一部屋は物置に使っていたようです。場所は、冒険者ギルドからそんなに離れてませんね。歩いてせいぜい二十分ってところです」


「良さそうですね。家賃はいかほどですか?」


「ここですと、年あたり小金貨十五枚です。ショウタさんには、これからも取引でお世話になるでしょうから、年あたり小金貨十二枚で結構ですよ」


 契約は年単位なんだ。月単位だと事務手続きがその分増えるもんな。


「ありがとうございます。これから実物を見に行っても?」


「ええ、それでしたら、このカーラがご案内します」


「カーラさん、よろしくお願いします」


「ショウタさま、こちらこそ」




 手提てさげかばんを持ったカーラさんに案内されてアスカともども元靴工房にやって来ました。


「こちらが、元靴工房だった物件です。裏手には狭いですけど井戸の付いた庭もあります。中に入ってみましょう」


 ここに来る途中、一番大切な錬金術で使う道具を扱っている店のことや、家具屋さん、食器類を扱っている雑貨屋とか、新居で生活を始めるにあたって必要なものを買いそろえるための店屋についてカーラさんに教えてもらった。全部は覚えきれなかったが、うちのアスカなら全部覚えているだろう。うん。


 通りに面したその元靴工房の敷地は、間口まぐちが十メートルくらい、奥行きは20メートルくらい。木造2階建て。築四十~五十年? 窓ガラスはなく、木でできた鎧戸よろいどがはまっている。ちょっとばかし古すぎか? 裏手に回ってみると、なるほど、小さな庭に井戸がある。井戸には板が打ち付けてあり、人が過って落っこちないようになっていたが、残念なことに水をくみ上げる桶やらロープなどは付いていなかった。


 ドアの鍵を開けて中に入り、閉め切っていた鎧戸を開けて明かるくなった部屋の空気を入れ替えてやる。中は意外と清潔で、造りもしっかりしていた。作業場にしていたという土間は二十畳くらいの広さか。中は、棚が壁にくっ付いているだけで何もなくすっきりしている。土間のわきにはトイレがあった。台所兼食堂は八畳ほどの板の間で、その先の流し台とかまどのある部分は土間になっていて、脇に裏口へのドアがついている。


 やや狭めの階段を上がると廊下になっており、ドアが三つ並んでいた。開けてみると三部屋とも板の間で、中身はすっからかんで少しほこりをかぶっている。


 ここで、良いんじゃないかな。


「カーラさん。ここが気に入りました。さっそく、今日からお借りしたいんですが。どうすればいいですか?」


「気に入っていただけて何よりです。それでしたら、この書類にサインをお願いします。このペンをお使いください」


 ペンぐらい買っておけばよかった。


「これでいいですか」


 渡された書類にサインをする。


「はい、結構です。一年契約で小金貨十二枚ですので、よろしくお願いします」


 書類と代金をカーラさんに手渡し、代わりに家の鍵をもらった。


「ショウタさま、この物件はかなり年季が入っていますので、内部をご自由に改装かいそうされても結構です。もし、建て替えられるときはご相談ください」


 いや、借りた家を建て替えたらダメでしょ。いいの? ヤッチャウヨ。


 カーラさんが手提てさげかばんを大事にかかえて帰っていった。




[あとがき]

宣伝です

短編SF『我、奇襲ニ成功セリ』

http://kakuyomu.jp/works/1177354054894691547

公開中です。お暇でしたらよろしくお願いします

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る