第16話 商業ギルド


 宿屋に初めて泊ったあくる朝。


「アスカ、お早う」


「お早うございます。マスター」


 あいさつは大事だ。親しき中にも礼儀あり。


 さっそく腹ごしらえをしたら、情報収集して、金の延べ棒売るぞー。


 まあ、情報源は、銀貨六枚で二日分延泊えんぱく頼んだついでの、宿屋のおばちゃんしかないんだけどね。




 やって来ました、ここは商業ギルド。商人のための、商人による、商人のギルドだ!? だよね?


 商業ギルドで商品を取り扱ってもらうためには、商品がまとまった量であること、または、商品の価値が、それなりに高くないといけないそうだ。量が少なかったり、チープなものなら、そこらの小売屋さんに行けってことらしい。


 それで、俺の金の延べ棒はというと、それなりに価値が高い商品じゃないだろうか? 量を寄こせと言われても、収納庫の中には、沢山あるので問題ないだろう。売りすぎると逆に問題になるか。


 商業ギルドの間口まぐち自体は、冒険者ギルドよりも狭いが、周りを石壁で囲われた石造りのどっしりした構えの洋館だった。立派な門の両側には、ガタイのいいガードマンさん?だか門衛もんえいさんが立っていて、ちょっと中に入りづらい。


 こわごわ軽く門衛さんに会釈えしゃくして、建物の中に入っていく。あたりまえだけど、何も言われなかった。


 

 建物の中に入るとそこは吹き抜けの玄関ホールで、正面に受付があり、妙齢みょうれいの女性が二人で座っていた。


「あのう、すみません」


 左側の女性に話しかける。特に意味はない。右側の女性は前を向いている。


「はい」


「えーと、ここ、商業ギルドですよね?」


「はい、商業ギルド、キルン支部の商業会館です。どういったご用件でしょうか?」


「えーと、金を買い取ってもらえたらなーと、こちらにうかがったのですが」


「金といいますと?」


「これになります」


 そういって、金の延べ棒一個約20キログラムを、左側の女性の目の前の机の上に排出した。右の受付嬢もこっちを見てる。


「……! は、はい。今、担当の者にお取り次ぎしますので、こちらにおいでください」


 俺の話しかけた受付嬢が、右の受付嬢に何か言うと、席を立って俺たちを二階の応接室に案内してしてくれた。もちろん延べ棒は忘れず収納したさ。


「こちらの部屋で少々お待ちください。では、失礼します」


 そう言ってドアを開けたまま出て行った。


 アスカは俺の座るソファーの後ろに立ってひかえている。しばらく俺だけ座ったままで待っていると、お盆をもった先ほど案内してくれた受付嬢と、彼女の後ろにオールバックに髪をそろえた、結構いい服を着ているイケメン風のおじさんが部屋に入って来た。イケメン風というのがみそ。


 お盆を持ったお姉さんが、紅茶?を人数分ソファーの高さに合わせた低めのテーブルの上に置いて今度はドアを閉めて部屋を出て行った。これから商談なんだから当たり前か。


 おじさんは、俺の向かいに座り、ニコニコしている。何か言えよと思ってたら、いきなり語り出した。


「私が、当キルン支部で、貴金属を扱っております エーベ・リストと申します。金を売却されたいとか?」


「私の名前はショウタ、こっちがアスカと言います。よろしくお願いします。これなんですが、こちらで買い取っていただけますかね?」


 そういって、先ほどと同じように金の延べ棒を一本、目の前のテーブルの上に排出した。


「なるほど、なるほど。これは、見事な金ですね。鑑定させていただいても?」


「どうぞ」


 おじさんはポケットの中から小型のルーペのようなものを取り出して、金の延べ棒に顔を近づけてのぞいている。


「このルーペは、貴金属、特に金の品位と重さを測定する魔道具でして。これで見たところ、この延べ棒の品位は驚くほどですね。まさに純金。この測定器で、品位が100と出たのは初めてです。それで、重量が二万グラムちょうど。どこでこれほどの物が精錬されたか気になりますが。

 今、金の買取価格は、大口取引の場合一グラム当たり銀貨二枚となっています。それで計算しますと、この延べ棒は、銀貨四万枚、大金貨四十枚ということになります。この価格でよろしければ、今すぐ買い取らせていただきますが、いかがでしょうか?」


「それでは、それでお願いします」


「いま現金をご用意しますので、しばらくお待ちください」


 そういっておじさんはテーブルの端に置いてあったベルをチリンと鳴らした。


「失礼します」


 すぐにドアが開き、受付の女性たちとは違う女性が部屋の中に入って来た。おじさんが、伝票のようなものに何か書きつけ、それを受け取った女性はすぐに退室していった。 


「しかし、お若いのに、アイテムバッグをお持ちなのですね」


「アイテムバッグが珍しいんですか?」


「いえ、アイテムバッグはそんなに珍しい魔道具ではありませんが、何せ高価なものですから。その高価なアイテムバッグをそのお歳で持っていらっしゃることに驚いています。そういった、高価なものを持っているということも、商人に必要な信用というものを得る一つの手段ですから」


「そうなんですね」


「ちなみに、先ほどの金ですが、あれで、在庫はおしまいでしょうか? まだお持ちのようでしたら、あと数本はこちらで購入できますが?」


「いえ、あれ一本きりです。申し訳ありません」


 適当に誤魔化ごまかしておく。正直に何百本も金の延べ棒持ってますとは言えんわ。


「残念ですが、仕方ありません」


「そういえば、こういった取引をした場合、税金ってどうなんですか?」


「先ほど、提示しました買取価格は、税引き後の価格になっています。当ギルドで、取引税を納めますので、ショウタ様が税金を支払う義務はありません。金に限らずギルドとの取引でギルドの提示する価格は税引き後の価格ですので、一般のお客様が取引にかかわる税を支払う必要はありません」


「なるほど、勉強になりました」


 話していると、先ほどの女性が、お盆の上におそらくは大金貨をせて戻ってきた。


「では、こちらが代金の大金貨四十枚と、受け取り書の控えです。本書のこちらにサインをお願いします」


 おじさんに借りたペンでサインをし、大金貨四十枚と、控えをその場で収納し席を立った。このとき、おじさんが目を見張ったような気がしたんだけど。


 ヤバイ! 手に触れず収納してしまった。それも一度で全部。これは目立ったよな。俺の持っていると思われているアイテムバッグはかなり特別製だと思われたな。まあ、後の祭りだ。今後は人前ではできるだけ気を付けよう。


「ありがとうございます。それでは失礼します」


 挨拶あいさつして、アスカと二人商業会館を後にした。




 ◇◇◇◇◇◇


 ショウタたちが帰ったあとに残された二人、エーベ・リストとその秘書カーラの会話。


「カーラさん、さっきのショウタさんについてどう思います?」


「会話や物腰ものごしから、十分な教育を受けた方と思われますが、そのー、髪型が丸刈りでしたので、どうしても貴族のご出身ではないように思います。それに、手を触れずに一度に大金貨を収納されていました。よほど高価なアイテムバッグをお持ちのようでした。しかもアデレード王国ではめったに見ない黒髪。それらから考えますと、遠方の国のご出身で、名のある商家しょうかのご出身なのではないでしょうか」


「なるほど、なるほど。後ろに立っていた、アスカさんはどうですか?」


「非常に美しい方で、まるで人形のような方でした。歩いているところは後ろ姿しか見ていませんが、姿勢がよく、全く体幹たいかんがぶれていないように見受けました。よほどの腕前とお見受けします」


「そうですね。ショウタさんはまだまだいろんなものをお持ちのようですし。ショウタさんとの関係は大事だいじにした方がよいようですね」



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