第15話 宿屋


 次は宿屋だ。ギルドのお姉さんに勧められた宿屋は二人部屋で一泊二人で銀貨三枚だった。朝夕の二食付き。水だけどシャワーが部屋に付いている。風呂はない。


 アスカを収納しとけば、銀貨二枚で済むが、ちょっとかわいそうに思ってしまった。同じパーティーだしな。いよいよ金に困った時には我慢がまんしてもらうかも。


 夕食にはだいぶ間があったが、教えられた三階の二人部屋に早々に引きこもり、俺はツインのベッドの片側に寝っ転がって、今日の出来事できごとを思い出す。


 アスカはというと、自分のベッドに腰を掛けて、こっちを向いて座っている。剣帯は外して、横に置いているようだ。


 ローブも脱いでくつろげばいいのにと思ったが、あれ? アスカって、普段着どころか下着も持ってないじゃん。



 あわてて、アスカの服を買いに行くため宿を二人で飛び出した。


 宿屋のおばちゃんに聞いたそういった服を売っている店は、宿屋からそんなに離れていない表通りにある結構大きな店だった。


 女物なんか俺にはわからないし、アスカにも無理だろうから、店員さんに丸投げして、適当に見繕みつくろってもらい、下着類を数セットと普段着を数セット購入した。ついでにタオルっぽい布を数枚、俺の下着なんかも買っておいた。布製品は全般的に値段がするようで金貨二枚近くしてしまった。普段着なんかは古着だったが、結構な値段だった。


 この買い物で手持ちが早くも心もとなくなってしまった。明日あしたは、どこかで金の延べ棒を売って一気に小金持ちになるとしよう。



 宿に戻って、アスカに下着をつけさせたうえで、普段着を着せた。どうも、アスカは見た目清楚せいそ系美少女なので、こういった古着の普段着は似合わないようだ。明日以降、収納庫の中の金の延べ棒を売れば、お金に余裕ができるだろうから、アスカ用の普段着をあつらえてもらおう。



 そうこうしているうちに、夕食の時間になったので、二人で一階の食堂に降りて行く。


 案内された二人掛けのテーブルに着き、本日の夕食の定食が運ばれてくるのを待っていると、近くの席に座っている連中がチラチラとこっちの方を気にしている。これはアスカをチラ見しているのか?


 これだけ美人だと、しょうがないのか。街の中では、アスカはローブのフードをかぶって下を向いてたからな。俺の彼女ってわけじゃないけど、少々鼻が高い。


 プレートに盛られて、定食が運ばれてきた。アスカは初めてだろうに、意外とナイフとフォークを器用に使って食事している。アスカはちょっと前までマネキン姿だったのに、どういった技術なのか魔法なのか、ただただ、すごいと思う。



 二人で、黙って食事していると、周りの話し声が自然と聞こえてくる。


「ポーションもうちょっと安くなんないかなあ」


「そうだよな、高いよな。だからといって買わないわけにはいかないし」


「俺たち冒険者にゃ、必需品だからなー」


「値段もそうだけど、近頃のポーションの効きが前と比べて悪くなったってよく聞くぜ」


「ああ、確かに効きが悪くなったと思う」


「PAポーションで銀貨一枚はないよな。一回ダンジョンにもぐりゃ、二、三本は飲むだろ」


「ダメージ受けなきゃいいっていってもなー」


「PAが減るとどうしても飲むからな」


 ふむふむ。PAポーション一本で銀貨一枚。十本だと小金貨一枚か。ポーション作成は確か錬金術れんきんじゅつだよな。他のポーションならもっと高いかも知れんな。これは要市場調査だ。おれの「ToDoリスト」に記入しておこう。



 そんなこんなで、食事を終え自室に撤収した。シャワーを浴びた後、ベッドに寝っ転がって明日することを考える。アスカはシャワーを浴びて、今は普段着に変えベッドに腰を掛けている。まだ寝ないようだ。



明日のToDo 


1.金の延べ棒を買い取ってくれるところを探して、買い取ってもらう。

2.ポーションの市場調査

3.錬金術の調査


 こんなところか?

 あとは、今日の反省だな、


 自分のステータスに酔って、暴力的思考に染まっていたようだ。このままでは、暗黒面に落ちてしまう。明日からは、心を入れ替え、できるだけ平和的に生きていこう。




◇◇◇◇◇◇


 そのころ、テンペラ宮、王女マリア・アデレードの仮執務室かりしつむしつ


 マリア王女とキルン迷宮での訓練から帰還したトリスタン騎士団長が勇者たちについて話し合っている。


「殿下、ただいまキルン迷宮での訓練から帰還いたしました」


「ご苦労さま。それで、訓練の方はどうでした?」


「勇者さまたちの訓練はおおむね、予定通りでした。しかし、訓練中の事故で、コダマ殿が行方不明となってしまいました」


「それは、どういうことですか?」


「発見した宝箱をコダマ殿が開いたところ、罠が作動してしまいました。

 その罠は、どうもテレポーターだったようで、コダマ殿が目の前から消失してしまいました。

 場所が、浅層せんそうの三層でしたので、さらに深層しんそうに飛ばされた可能性が高いものと考えられます。

 予備隊によって、一層から五層にかけて、捜索はしましたが手がかりはありませんでした。

 コダマ殿には、戦闘技能はありませんでしたから、深層に一人で飛ばされてしまった場合、自力での帰還は絶望的かと思います」


「そうでしたか。残念です。われわれがおこなった勇者召喚に巻き込まれてしまったために、命を失うとは」


「申し訳ありません。それと勇者さまたちに随行ずいこうしていた騎士たちの未確認の情報ですが」


「何ですか?」


「どうも、勇者さまは、宝箱に罠が仕掛けられていることを知っていたにもかかわらず、あえてコダマ殿に宝箱を開けさせたのではないかと」


「それは、本当ですか?」


「賢者さまは鑑定を持ってらっしゃいますから、おそらく」


「そうですか。このことは他言無用たごんむように願います。騎士たちにもそのように」


「かしこまりました」


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