第14話 お約束


 ギルドを出たところでアスカに時間を聞いた。


「アスカ、今時間は?」


「午後零時五分です」


 い時間だな。そこらの屋台やたいでなんか買うか? そういや、アスカは物を食べるのか?


「アスカ、おまえ、食事はできるのか?」


「食事は可能です。これまで食事をしたことはありませんが、有機物を経口摂取けいこうせっしゅし、体内で分解吸収できます。吸収した物質は、元素別に体内異空間いくうかん貯蔵庫に蓄えます。過剰物かじょうぶつや不要物はほぼ発生しません。発生した場合、一般的排泄はいせつ器官から排泄します」


 要するに、外面的には人間と一緒で、食事をして、トイレに行くってことか。



 特に行く当てもなく通りを歩いていると、ちょうど串焼くしやきの屋台があったので、


「おじさん、そこの串焼き四本くれる?」


 何の肉かわからないが、うまそうなタレの匂いのする串焼きを買った。


「あいよ。一本銅貨二枚、四本で八枚な」


「はいよ、銅貨八枚。アスカも二本持ってくれ」


 俺が二本、アスカが二本。両手で二本ずつ。


「アスカ、食べていいぞ」


 俺の食べるのを見て、アスカも串焼きを口に運ぶ。


「アスカ、味はわかるか?」


「マスター、この味は、おいしいのですか?」


「ああ、うまい。かなりおいしい」


「この味を、おいしいと登録しました」


 そうか、味の感じ方は人それぞれだもんな。なんか、味を押し付けたみたいで、アスカすまん。


 食べながら、ぶらぶらと冒険者ギルドも面している大通りを二人で歩いていたところ、


「マスター、こちらを追跡しているヒト族が二名います」


「アスカ、ありがとう」


 さっきから、俺のミニマップにも赤い点が二つ見えていた。これはつけられているな。


 裏道に入っておびき寄せてみるか。


 今歩いている大通りから横道にそれる。


 しばらくすると、赤い点も、こっちの道に入ってきたようだ。ミニマップを注意していたら、赤い点が四つに増えた。


 もう少し進んだところで、さらに細いわき道に入る。ここで待ち伏せしてやろう。




「俺たちの後をつけてきたようだが、何か用かい?」


 赤い点のうち二つは、ギルドでからんできた男とその連れだった。後の二人は記憶にないが、あのときギルドにいたのかもしれない。


「土下座して、あり金全部置いていくんなら許してやるよ」


 ギルドで白目をいて気絶した男が持っていた槍を構えた。


 残りの三人も武器を構える。大剣一人に、片手剣二人。盾を持ってるヤツはいないようだ。俺は見た目丸腰まるごしだしな。アスカの腰の刀は目に入らなかったのか? それとも女だからって、めてるのか?


 白目男のくせにえらそうに。ギルドでは無意味な争いごとは避けようと反省していたのだが、これは降りかかる火の粉だ。払わざるをえまい。


 せっかくだから、対象物指定と指定物同時収納を試してみようか。


『対象:敵対者の武器』


 俺の目だけなんだろうけど、こいつらの構えてる武器が薄く赤く点滅を始めた。


 直接見えているわけではないが、ナイフのようなものやとがった細い棒のようなものもうっすらと点滅しているのが感じられる。


『収納』


 こいつらの持っていた武器や、隠し持っていた武器が、収納庫に収納されたのが分かった。


 された方は驚くよな。


「? なっ! 何をしやがった?」


「さーな」


『対象:敵対者の防具』


 四人組が赤く点滅を始めた。


『収納』


 布の服も、一応は防具なんだ。下着姿になった男四人組。


 下着が防具でなくてよかった。



「アスカ、ちょっと刀を二本とも抜いて構えてくれるか?」


 後ろ手で音もなく抜いた二本の刀を、左右斜め下に向けアスカが構えた。


 アスカはその構えのまま、無表情かつ無言むごんで一歩ずつ四人組の方に近づいていく。アスカさん、俺もこえーよ。


「たっ、助けてくれーーー!」


 四人組が元来た方に走って逃げて行った。四人組がいたところには、小銭入れが三つ落ちていた。連中からぎ取ったものは、この街では売れないだろうから、しばらく死蔵しぞうだな。忘れないようにしないと。



 四人組の馬鹿どものおかげで臨時収入が入った。ダンジョンに入る前に宿屋でシャワーを浴びたきりなので少し不快である。シャワーのある宿で汗を流したい。


 ということで、ギルドに戻って受付のお姉さんに、シャワーのあるお勧めの宿屋と、髪の毛が伸びてきて少々うっとおしくなったので、床屋とこやを教えてもらった。


 こっちの世界にも街角インフォメーションがあって良かった。ただ、ギルドの仕事に無関係で、宿屋と床屋の場所を聞いただけだったので、お姉さんの顔が引きつっていた。


 そんな顔してるとしわが増えて老けるよ。言わないけど。


 異世界だろうと身だしなみは大事と思い、先にお姉さん教えられた床屋とこやに行った。


 適当に短めに刈ってくれと言って目をつぶってうつらうつらしていたら、


「終わりました」


 と、床屋の主人。


 鏡がないので、よくわからないけど、頭を触った感じ、こりゃ、高校球児だわ。これはこれですっきりして気持ちがいいし、知った人間もいるわけではないので、これからは坊主頭ぼうずあたまでいこう。



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