第6話 キルン・ダンジョン


 明日あしたからは、ダンジョンへ遠征だ。予備の武器や、消耗品しょうもうひんを運んでほしいそうなので、もう少ししたら倉庫に行かなくてはいけない。待っていれば、誰かやって来て倉庫に連れて行ってくれるだろうと思っていたら、騎士さんの従者じゅうしゃの人がやって来て遠征用えんせいようの荷物が収められている倉庫に連れていかれた。


 大き目の箱1つと、隣のたる二つを収納してくれと頼まれたのだが、これでは、量が少なすぎる。


「たったこれだけでいいんですか?」


「まだ収納できるようでしたら、ここから、そこまでの資材を、収納できるだけ収納してください」


 特に問題なく言われた物品を全部収納したら、従者さんは驚いていた。やっぱり、俺の収納庫の容量は大きいらしい。収納し終わった今でも俺の収納庫に圧迫感あっぱくかんは全くない。




 翌朝。ダンジョンへの遠征当日。空は快晴。


「それでは、キルンへ向け出発!」


 召喚された初日に立派な鎧を着ていた人の名前はトリスタンさんといって騎士団長を務めているそうだ。そのトリスタンさんが今回の遠征の指揮をとっている。トリスタンさんの馬上からの号令で、三台の馬車がごろごろと動き出した。三人組と俺は、二台目の馬車に乗っているのだが、三人組は俺を無視してぺちゃくちゃ雑談を続けている。俺は何もすることもないので目を閉じて眠ったふり。しかし、こいつら本当によくしゃべるな。



 ダンジョン遠征隊は途中で昼食とトイレ休憩のためいったん道路わきの空き地に停まった。


 昼食のメニューは硬いパンと、冷たいスープ。それに干し肉だった。干し肉は日本で食べるビーフジャーキーのように薄く延ばしているのだが固くて塩辛しおからい。


 もちろん勇者一行は、質素かつまずい食事に、ぶーれていた。移動中の食事はこんなものらしい。昼食後しばらく休んでから再出発。


 午後からは、三人組の雑音の中で寝たふりもしんどいので、馬車の窓から見える大き目の石を収納していくことにした。


 三時間ほど馬車に揺られていたら、今日泊まる村が見えてきた。ここまでで結構な量の石も収納できた。そのうちの三分の一は高速弾にしている。


 村には、木壁きかべ平屋建ひらやだての家屋が並んでおり、その中の一軒、一番大きな家が村長さんの家らしい。


 ぞろぞろと、三台の馬車が村長さんの家の前の広場に停まった。


 今日は目の前の村長さんに泊まるそうだ。出迎えた村長さんにトリスタンさんが挨拶あいさつした後、部屋割へやわりを聞いた。俺は騎士さん三人と一緒で、四人部屋だ。


 三人組と一緒に泊まらなくていいようにトリスタンさんが気を利かせてくれたんだろう。


 部屋に向かうときに、玄関口に立っている村長さんの前を通ったので、


「今日はよろしくお願いします」


 と軽く会釈えしゃくしておいた。


 そこそこ立派な夕食をいただいたあと、暗くなって何もすることもない俺は、すぐに寝床ねどこに入り寝入ってしまった。騎士さんたちは、順番で見張りに立っていたそうだ。申し訳ない。



 翌朝、軽く朝食を済ませ、村長さんに礼を言って、出発。


 その日は何事もなく、遠征隊は昼過ぎには迷宮都市キルンに到着し、そのまま宿屋へ向かった。この町で一番の宿屋ということだったが、高級な宿屋と言っても、中世に毛が生えたような世界なので、サービスなんかは推して知るべしだったのだが、ここでは一人部屋がもらえた。明日は初めてのダンジョンだ。




 キルンのダンジョンは街中まちなかにあった。というか、ダンジョンを中心に街ができたのだそうだ。


 ダンジョンの入り口は不思議な黒い渦でその中に入っていくとダンジョンに到着する。さらに不思議なことに、渦の近くをどこまで掘ってもダンジョンには行きつかないそうだ。


 ダンジョンに入るにあたって、何か武器を持ったらどうかと騎士の人に言われたけど、どうせ武器などうまく扱えないし、いざとなったら丸石高速弾もあるしと思って断った。



 勇者たちがモンスターをたおすのを後ろの方から見ながらダンジョンを3層まで下ってきた。


 騎士さんたちが、レベルアップのため俺にも止めをささせようと、虫の息のモンスターをこっちに寄こすが、荷物運びの自分がレベルアップしても仕方がないから勇者たちに回してくれとそれも断った。 


 俺以外の人たちで、モンスターをたおしながら進んでいると、勇者が隠し部屋を見つけたようだ。中をのぞいてみると部屋の真ん中には、細長いけど、豪華な宝箱が鎮座ちんざしている。


 鑑定した結果、罠はないから運が一番高い俺に宝箱を開けるようにと勇者からのご指名だ。


 罠がないなら問題ない。やっと俺の出番だ。俺の豪運ごううんが火をくぜ!


 さて、何が出るか? 鍵もかかってないみたいだな。宝箱に手を掛け、上蓋うわぶたをゆっくりと開ける。


 その瞬間、意識が一瞬遠のいた。


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