第2話 収納士?


「殿下、コダマ殿の運は目を見張みはるものがありますしMPも高めですが、物理戦闘や魔法で重要となる項目に見るべき数値がありません。この方は、どうやら勇者さま方の召喚に巻き込まれたではないでしょうか」


 メモを取ってた人が、殿下と呼ぶ少女に小声で話している。


 聞こえてるぞ。何だよ、俺は村人Aなのか? 勝手に呼び出しておいてそれはないだろ。俺はどうなっちゃうんだよ?


 いまの話し声が三人組たちにも聞こえたのか、微妙な顔をしてこっちを見ている。


 あっ! この兄ちゃん、俺のことをバカにしてるような顔してる。口元が笑ってるよ。


「あいつの制服見てみろよ。あいつ〇〇高校だぜ」


 そう、俺は県内でも有数の受験校〇〇高校の1年生だ。中学時代必死に勉強して何とか合格した高校だ。それをほこりに思っているし着ている制服にもほこりを持っている。


「あいつは、俺たちの勇者召喚に巻き込まれた刺身さしみのツマだろ。プッ! プー!」


 コラッ! 人の方を指さして笑うな。


ひかる、人のこと笑っちゃだめだよ。プッ! プー!」


 お前もだろう。


「あなたたち、笑っちゃだめだよ。あれ? ショウタ・コダマって児玉翔太じゃない。私と同じの小学校にいたやつよ。黒ぶち眼鏡で分かんなかった。あいつ、小学校の時から優等生だったんだけど、〇〇高校に行ってたんだ。ま、私にはどうでもいいわ。でも、私たちが勇者さま、賢者さま、それに聖女さま? ほんとにいいのかな?」


 三人で勝手に盛り上がってろ。


「せっかくなので、残りのお三方さんかたも鑑定させていただきます。よろしいですね」


「ステータス鑑定!

 ……

 ヒカル・カネダさま


 職業:勇者


 PA    150

 MP    300

 スタミナ  300

 体力    150

 精神力   150

 素早さ   100

 巧みさ   100


 運     50」



「ステータス鑑定!

 ……

 サヤカ・ツキシマさま


 職業:賢者


 PA    100

 MP    400

 スタミナ  200

 体力    100

 精神力   200

 素早さ    75

 巧みさ    50


 運      50」


「ステータス鑑定!

 ……

 モエ・クドウさま

 職業:聖女

 PA    100

 MP    200

 スタミナ  200

 体力    100

 精神力   150

 素早さ    50

 巧みさ    75


 運      50」


 一人ひとり鑑定されるたび、鎧を着た人たちからどよめきが起こる。


 観測するまで不確定だったが、俺が巻き込まれた一般人であることが今、確定したようだ。


 俺の額から冷たい汗が流れる。どうする俺? どうなる俺?


「コダマさま。われわれの不手際ふてぎわで、コダマさまを間違って召喚してしまったようです。まことに申し訳ございません。ですが、コダマさまの収納士しゅうのうしという職業は、詳細は不明ですが荷物運びには有用な職業とお見受けします。ぜひ勇者さま方とご一緒に、魔界ゲートの封鎖ふうさにご協力ください」


 美少女殿下、それ全然フォローになってないよ。


 だけど俺は、うなずくしかなかった。


 荷物運びという言葉がはまったのか、三人組は笑いをこらえながら俺の方を見ている。もうそんなに腹も立たなかった。


「それでは勇者さま方、おくつろぎいただきながら、これからのことなどをご説明いたしますので、こちらにおいでください」


 鎧を着た人たちに先導され、三人組は殿下と呼ばれるおそらく王族?の美少女のすぐ後ろを歩き、俺はそいつらから一歩も二歩も離れて、一番後ろをとぼとぼとついて歩いていった。この順番が召喚組のヒエラルキー、序列じょれつになるのかと漠然ばくぜんと考えながらである。


 連れて行かれた先は調度品の並ぶ豪華な広間で、真ん中にある大きなテーブルに並んだ椅子に座るよう言われた。


 美少女殿下が一番前のはしの席、右側に三人組、左側に俺一人。 


「改めまして、私はアデレード王国第二王女マリア・アデレードと申します。王家に伝わる勇者召喚術を使い、異世界の皆さまを私たちの世界にお連れしました。勇者さま方にしかなしえないことをお願いしたいのです。まことに厚かましいとお思いでしょうが、どうぞ皆さまのお力で、この世界を救っていただけないでしょうか?」


 テンプレだよね。これってテンプレだよね。この流れで行くと、腹黒王女に良いように利用される勇者さまご一行。 


「俺たちなら、大丈夫だいじょうぶだ。二人ともいいだろ? 世界を救うってカッコいいじゃないか」


ひかるがそうしたいんなら付き合ってもいいよ」


「しょうがないか」


 な、思った通りだ。勇者さまは美少女のお願いを断れないんだよね。どちらにせよ俺の状況が変わるわけじゃないがな。


 とにかく居心地いごこち悪い。なのでダメもとで、


「あの、あまり役立ちそうにない僕は、元の世界に戻していただけませんか?」


まことに申し訳ありませんが、送還そうかんする方法を私共は持ち合わせておりません。しかし、魔族を駆逐し、勇者さま方の力で、二年後に開くと予想される魔界ゲートを閉じれば、送還のための門が新たに開くのではないかと伝わっております」


 ほーらな。テンプレご馳走様ちそうさま。 


「そういうことなら、荷物持ちでも何かの役に立つだろうし、足手まといにならないのなら、俺たちについてきたら」


 こいつあおってくるな。とは言え今は我慢がまんだ。実際、こいつらが頑張って、魔族とやらをやっつけてくれたら、元の世界に還れるかも知れんからな。


「分かりました。僕も協力します」


 刺身のツマじゃうなずくことしかできないよな。


 その後、明日あしたからのことについて軽く打ち合わせのようなものをして散開し、俺は侍女の人に案内され自分に与えられたという部屋に向かった。


 テンプレだと俺だけ待遇悪いんじゃないかと思っていたが予想に反し、案内された部屋はかなり立派な部屋だった。


 あと二時間ほどで、俺たちの歓迎会があるということだったが、俺はパスできないかと侍女の人に言ったら簡単に了承された。ま、そういうもんだよな。


 そのころになったら、この部屋に食事を運んでくれるそうだ。





 何もすることも無いので、部屋の中を見て回ったり、窓の外を眺めていたりしたら、二時間たったようで、侍女の人がワゴンに乗せた料理の数々を運んできてくれた。


 侍女の人が部屋の中にあった小さなテーブルの上に料理の乗ったお皿やお盆を置いて部屋を出ていき、俺は部屋の中に一人残された。


 さびしくはあるが気楽に立派な食事をおいしくいただき。ふかふかのベッドで、その日は早々に眠りについた。


 あれ? ここの人たちって案外いい人たちだったのか?




[あとがき]

 ここまで拙作を読んでいただきありがとうございます。

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