第3話 訓練開始


 翌日からさっそく訓練が始まった。午前中は四人一緒の座学ざがく。午後からバラバラになって実技。まあ、バラバラと言っても勇者組三人は一緒みたいだったけど。


 最初の座学ざがくでは、最もわれわれの関心のある『魔界ゲート』について説明があった。


 『魔界ゲート』は、この国の北にある北方諸王国群のさらに北に広がる北方砂漠というところにあるらしい。そこにあるのなら早いとここわしてくれよと思うが、このゲート、閉じた状態では一切の攻撃を受け付けないそうだ。物理、魔法どちらもだ。


 今現在、ゲートの魔力量が少しずつ増加しているらしい。この魔力量が、ある一定量まで高まるとゲートが開き、そこを通して異界の魔物たちがき出て押し寄せるようになる。


 そのかわり、ゲートは開いた状態になると、少しではあるが攻撃が通るようになるらしい。十分に攻撃が通った上で、勇者が聖剣による特殊攻撃を行うと、ゲートに貯まっていた魔力が拡散し、再びゲートは閉じて異界の魔物たちが湧き出ることも無くなる。しかし、勇者のるう聖剣でもゲート自体の破壊はできないそうだ。


 なんでも、その聖剣は、この国の初代の女王さまが女神さまから頂いた由緒ある剣なのだそうだ。王権神授の変形みたいなものなのだろうが、笑っちゃうよな。とはいえ、歴代の勇者がその聖剣で魔界ゲートを閉じたのは事実らしいので、神剣そのものは本物ではあるらしい。



 勇者の『魔界ゲート』に対する攻撃を少しでも容易にするため、今現在、ゲートの近くに砦を建設中なのだとか。勇者についても、こうやって召喚を終え、ゲートの開く二年前の現在、本番に向け訓練し強化していくというわけだ。


 この二年という期間は、現在のゲートの魔力の増加状況から計算されたもので、目安めやすに過ぎないらしい。二年より早いことも遅いこともありうるということだ。


 ゲートは、おおよそ百年周期で、これまでも何度も開いており、前回ゲートが開いたのは今から九十八年前のことだそうだ。前回は、その前に召喚された勇者一行の活躍で意外とあっさりゲートを閉じることに成功したらしい。


 その勇者一行はどうなったのかと聞いたら、『魔界ゲート』封鎖後ふうさご行方不明になったとかで、詳しいことは正確な記録が残っていないためよくわからないと言われた。


 うそくせー!


 あとは、こちらの世界の常識的なものや、地理、歴史といったものを座学で学んだ。勇者組は予想通り座学は不得手ふえてなようだった。この連中が、地頭じあたまでも俺より優れていたらさらに俺も落ち込むところだったが、見た目通りの連中だった。後ろ向きな考え方だとは思うがちょっと安心してしまった。


 あと、PAって何だろうと思ってたが、プロテクション・オーラと正式には言うらしい。受けたダメージは、このPAを使って、相殺そうさいされるとのこと。PAが無くなると、ダメージが直接体に届き、ケガや、出血などとともに、いろいろなステータスの低下も起こるということだ。PA自体は、ケガやステータスの低下と違い、自然回復するものなので、いかにPAを削り切られるまでに戦闘に勝利するかが重要とのことだった。

 

 われわれのいるこの場所は、王さまのいる王都から馬車で二週間ほど南に下ったテンペラ湖という湖のほとりにあるテンペラ宮という宮殿で、もともとは王族の避暑ひしょ用の離宮だったそうだ。これを今回の勇者召喚と訓練用に改造し今に至っている。 



 座学の講義に魔術の初歩というものがあった。この世界の人は誰でも魔術を大なり小なり使えるそうだ。体の中の魔力を感じて、決められた文言もんごん、いわゆる呪文じゅもんを唱えると、魔術が発動するらしい。


 ちなみに、魔法と魔術は違うものらしいが、その違いはよくわからなかった。ただ、魔術は魔法を使いやすくしたもの。魔法は、それ単体では非常に扱いにくいもの。もう少し簡単には、魔術はアプリ、魔法はアプリを構成するモジュール?っぽいものと俺は理解することにした。どちらも専門に研究する学者さんが大勢いるらしい。


「魔力よ、つどいて、く燃やせ、ファイア!」


 恥ずかしさをこらえて中二病全開の呪文を何度か唱えて、指先に小さな、マッチの火みたいなのがともった時には感動した。勇者組は、三人ともガスバーナーみたいな炎を指先から盛大に噴き出して天井をがしてた。危うく大火事だ。そのせいで座学は中断。全く迷惑なやつらだ。


 午後からの実技の時間は、まともに武器や魔法の使えない俺にとっては、自由時間だ。だからといって何もしないわけにはいかないので午前中の復習や、簡単な魔術書などを貸してもらって読んでいる。いくら読んで試しても指先からの小さなファイアのほかの魔術は俺には使えないようだった。 



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