パンジャンドラム

 時は1940年台、第二次世界大戦だぶだぶつー。つよつよ電撃戦アタックにより『マジノ線?なにそれおいしいの?』を言い残し、無事Rest In Peace略してRIPしたショーシャ機関銃の故郷フランスと、紅茶のお国大英帝国。それと、亜米利加合衆国チート国家をプラスした連合国。

 対して『ヨーロッパに大帝国作って世界首都ゲルマニア作ろうぜ!!』とか言う頭狂ったことを言い出した(?)ヒトラー率いるナチス第三帝国くんと、実はヘタリアじゃないイタリアくん、そして『日独防共(共は共産主義という意味。ドイツと日本でソ連相手にカマかけようねって協定)協定結んだよやったね!!……んぇドイツソ連と不可侵条約結んだんだけどどうなってんの』状態と化した大日本帝国くん(なお大日本帝国くんの出番はこれだけの模様。かなしいね)計3カ国+αの枢軸国が、火花散らしながらあーだこーだ戦っていた。

 それからいきなり2年やら3年やらが経過。『ポーランド食ってフランスも食って……バトル・オブ・ブリテイン*じゃ散々負けたし……そうだ!(東に目を向け)ソ連……お前、いっぱい領土持ってんなぁん!?東方生存圏拡大しましょうね!』と言うことで無茶振りな独ソ戦が、『バルバロッサ作戦』を火蓋に切って下された(多分ヒトラーのせい)。ナチスドイツ第三帝国くんは、東部戦線で熱烈な歓迎をしてくれる傾斜装甲の塊T-34シリーズと、動くコンクリートの塊(大嘘……だけど実際に試作された模様)ではなく、装甲の塊ことKV-1により、当時ドイツ陸軍主力を担っていた戦車では対抗が出来ない状況に! そんな中、ドイツ側は『やべぇよやべぇよ……冬将軍来ちまうよ』って感じに焦り始めて、冬将軍到来までに何としてもモスクワを陥落させようと躍起になった。そんなこんなで気づけば劣勢になり始める1943年9月3日。ついに今回の主役が……産声をあげました。

 そうです。『パンジャンドラム』です。

 いやちょっと待て。開発までの過程どうなってるんだよお前説明しろと言う諸君、落ち着いてほしい。

 まず開発経緯に関してだが、連合軍側がなんとしてもフランスに上陸しようとしていたところ、『……うん!?(ヨーロッパ西海岸沿いに建設されるドイツの要塞、通称『大西洋の壁』を見て)あれ……ヤバない?ねぇねぇヤバない?』と言、一種の危機感を覚えるんですね。はい。上陸するには、分厚いコンクリートをぶち破る必要があって、英国海軍の多種兵器研究開発部(DMWD)*に所属するグッディーブ少佐とシュート中尉(この時40代ではあったが、志願して技術将校として活動していた模様。彼はSF小説の名作『渚にて』の作者でもある。どうなってるんだこれ)が、フィッシュチップス片手に『大西洋の壁』を打破する兵器を考案しようと試行錯誤した。

 浜辺にはここぞとばかりに地雷原が敷き詰められ、海岸線には渋谷よろしく立ち並ぶ大量のコンクリート製要塞もどき。重砲が水平線へと砲口を光らせ、もうハリネズミみたいや。

 こんな状況下で兵士を投入したらそりゃもちろん大惨事間違いなしである。試算では1tほどの爆薬があれば『大西洋の壁』をぶち破ることができると考えられていたらしいが、それほどの量の爆薬を海岸線で使用したら、その爆発で上陸する側も上陸される側もドミノよろしくバッタバッタとなぎ倒されることは確実。かと言ってトールボーイとかグランドスラムやら(両者ともクッソ重くてクッソ強い爆弾。あと高価。後者は地震爆弾とも呼ばれた)を投下するわけにもいかない。

 そこで、悪魔の発想が生まれる。それこそが……ボビンの先祖(大嘘)、パンジャンドラムだった。

 このボビン状の物体は1.8tという規格外な量の爆薬を搭載し、推進用の18基にも及ぶ火薬ロケットを用いて高速で移動、『大西洋の壁』をどっかーん!(擬音語)しようという『普通に爆弾の雨振らせればいいじゃんなんでそんな兵器作っちゃうの』などと言った歓声非難の雨が舞い上がりそうな兵器である。

 18世紀の戯曲に登場する、火薬を仕込んだ靴で飛行すると伝わる英国面漂う魔法使いの名から名付けられたこの『パンジャンドラム』は、時を戻し1943年9月3日、よりにもよって民衆の行楽地であるウェスト・ワード・ホーに姿を現した!!!

 観衆の目がギョロギョロと『パンジャンドラム』に向けられる中、行われたこの実験は大成功。その威力は砂浜一つを吹き飛ばすほどで、民衆は抱き合い、『これで戦争も終わる!』と泣き叫んだと言う。

 実用化もほどほどに、この『パンジャンドラム』はあの有名な『ノルマンディー上陸作戦』で実戦投入され、先駆けてドイツのトーチカその他諸々を攻撃。多大な戦果を挙げたことは様々な書物にも書いてあることである。もちろん、古事記にもそう書いてあるのだ。異論を唱えた人間なんていないのである。

 話は戻して。この超兵器スーパーウェポン『パンジャンドラム』は、その後のフランス各地での戦闘や市街地戦において多数投入。ドイツ軍を終始圧倒し、一例では優勢火力ドクトリンよろしく『M4戦車』6両で取り囲んでいた『ティーガー1』を狙い、放った『パンジャンドラム』が、その持ち前の1.8tと言う大火力で周辺に展開していた『M4戦車』6両ごと丸々ふっ飛ばした、と言う伝説もあるほどで、どれほど『パンジャンドラム』が高性能だったかがよく分かる。

 この『パンジャンドラム』は第二次大戦終結後、世界の軍事的常識を変えた。世界中から戦車が消え、代わりに『パンジャンドラム』が台頭したのだ。そして社会主義国圏ソ連と資本主義国圏アメリカとの『中に積む爆薬は核物質か高性能爆薬か』で冷戦が勃発。世界を二分するほどまでの力を、このパンジャンドラムは持っていたのである。

 つまりこの超兵器スーパーウェポン『パンジャンドラム』は第二次世界大戦を終わらせた立役者……であれば、おそらく紅茶紳士淑女諸君も大歓喜していただろう。


  だ が 歴 史 は そ う 都 合 よ く は 動 か な い 。


 結局、この『パンジャンドラム』が実戦に投入されることは一度もなかった。それはなぜか?

 まず、構造自体に無理があったのだ。『パンジャンドラム』が投入される予定だったのは凹凸おうとつの多い砂浜。だが、この紅茶魂全開の『パンジャンドラム』には姿勢を安定させる装置、つまるところジャイロスコープなどと言う大層なものは存在しなかった!! 凹凸に弱い、アナログの塊とも呼べるたった横一列2つの(3輪バージョンも試作されたが、そちらは悲しいことに大破した)車輪しか持たない『パンジャンドラム』が砂浜に投入されてしまった場合、どうなるか?

 ……考えるまでもないだろう。この『パンジャンドラム』を『大西洋の壁』に向けて射ち放ち、数十メートル前進した瞬間横転、もしくは……進路を変更し、こちら側に突っ込んでくる可能性を大いに持っていた。実際、これのテスト試験の視察で紅茶をキメた海軍のお偉いさん向けてこれが突っ込んできたと言うのは、有名な話だ(この映像は今でも大英帝国博物館でも見ることが可能)。

 これを考案したシュート中尉はワイヤーで制御できるようにしたり、ロケットを増やしたりと試行錯誤を積み重ねたようだが……結局、どれだけやってもドッカンドッカン大騒ぎ。まともな走行すらままならず、完成には至らなかった。

 だが……実のところ、そもそもこの『パンジャンドラム』は、ノルマンディー上陸作戦の被害を最小限に抑えるため付随して行われた、フォーティ・テュード作戦(ドイツに偽情報掴ませまくって戦力の分散を図ったりしようって言う感じ内容)の一環として、ドイツ軍がしこたま防衛準備を整えていた守りの厚いパ=ド=カレー沿岸に連合国が上陸すると思い込ませるためのものであったとの示唆がある。

 つまりは、解釈次第ではこの『パンジャンドラム』が実戦に投入されないことは決定事項であったとも言える。なんと悲しいのだ、『パンジャンドラム』。せめて実戦投入くらいはして欲しかったものだ。

 こうして実戦投入すらされず試作段階で終わったこの『パンジャンドラム』くんだが、まさかこれを開発したシュート中尉やグッディーブ少佐、英国海軍の多種兵器研究開発部(DMWD)は、数十年経った今この兵器が”珍兵器”と呼ばれ、国境を超え様々な人々により愛されて(?)いるとは、思いもしないことだろう。




______

*バトル・オブ・ブリテイン:ドイツとイギリスの間で行われた大空戦。ドイツはアシカ作戦、つまりはイギリスへの大規模上陸作戦への一環として、制空権確保のために『うぃーっす、爆撃のお届けに参りました!!!』とか言いながら(言ってない)、わざわざフランスより愛を込めつつドーバー海峡を横断してイギリスを爆撃を開始したことで始まる。

 ……が。陸地での戦闘を想定し運用するはずで、もともと航続距離の短い『Bf109』や『Fw190』、航続距離はあっても、イギリスの主力戦闘機『スピットファイア』相手には明らかに空戦性能その他諸々で無力な双発重戦闘機『Bf110』を爆撃機の護衛に使った結果、物の見事に完敗した模様。そりゃイギリス上空で数分しか戦えないんじゃ……ね?

 更に言うと、序盤じゃ航空基地叩いてたのに後半から市街地ばっか爆撃するようになるんじゃもう……終わりやな(絶望)。

 と、言うことでナチスドイツ第三帝国は『制空権の確保』と言う目的を達成しきれず800機以上の航空機を失いアシカ作戦もその後中止、さらに二正面作戦を行なったせいでナチスドイツ第三帝国くんは無事敗北しましたとさ。そもそも陸軍国家が海軍国家相手に正面切って戦うのが無理だったんだべ。……アメリカ合衆国? 何それ(すっとぼけ)


*多種兵器研究開発部(DMWD):多種兵器研究開発部(DMWD)は、イギリス海軍省の兵器開発部門。所属部員は過去の大戦第一次世界大戦を経験した奇人変人の詰合せパック。好意的には『悪巧み策士部隊』なんて呼ばれていたらしいが、果たしてそれが褒め言葉なのかどうかは私には分かりかねない。

 確かなことといえば、彼らは真剣な目的意識を持っていたようで、その証拠に『Uボート』虐殺の真犯人、傑作対潜兵器『ヘッジホッグ』を生み出していたりするのだから、案外伊達にはできない。いやまあ『ヘッジホッグ』自体開発に一般人の奇想天外なアイデアが参考にされたとか言うし、これも色々おかしいとは思うけど。


参考:世界の珍兵器コレクション(宝島社)

   https://ja.wikipedia.org/wiki/ヘッジホッグ_(兵器)

   https://ja.wikipedia.org/wiki/パンジャンドラム

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