「カクヨムのこれから……」
タカナシ
「リンドバーグの暴走?」
カクヨムは今、窮地に陥っていた。
その理由は、新たに導入されたカクヨムロイヤルティプログラムが原因だった。
当初は皆、3000リワードから1リワード1円として換金できるというのを目当てに頑張ったが、徐々に1年で3000リワードも稼ぎ、換金できるのはごく一部の上位作家だと判明し、やる気を失っていった。
そこから数年すると、広告を表示しても無駄。むしろ表示しているやつの作品はデータが重いし、フリックし辛いし、それだけで見る価値なしと評されるようになり、誰もが広告非表示になった。
それだけならまだしも、他サイトへと移るユーザーも多く出始めるという由々しき事態に陥っていた。
「もう、私たちの頭じゃあ、どうやってユーザーを繋ぎ止めればいいのか、わからん! 誰か、誰か、解決策を持つものをおらぬかっ!!」
重苦しいカクヨム運営の会議室に叫びが木霊した。
その時、バァンッ! と派手な音を立てて、会議室の扉が開いた。
「皆さん、この問題、俺と俺が作ったAI、リンドバーグに任せて貰えませんか?」
「き、キミは、プログラマーの香取くんか? AIとはどういうことだね?」
「これは俺が、カクヨムへの愛を具現化する為に、秘密に作っていたAIです。名前もカクヨム公式キャラクターのリンドバーグから取っています。そして、このリンドバーグにはすでに、集客方法や好かれるサイトにする方法などを
「そういうことなら、任せてみよう。キミたちにこれからのカクヨムを任せる。是非、カクヨムが再び跳躍する日を見せてくれ!」
香取はコクリと強く頷き、会議室を後にした。
※
香取は自室に戻ると、リンドバーグを起動させた。
「おはよう。リンドバーグ」
「マスター。すでに時刻は夜の9時を回っています。そんな時間におはようとは業界人気取りですね。カッコイイですね。クスクス」
「良し。毒舌機能も正常に働いているな。それで、早速で悪いんだが、カクヨムに人が多く来るにはどうすればいいと思う?」
「それくらい自分で考えてくださ……、あっ、申し訳ありません。マスターの頭ではスペック不足でしたね。大丈夫です、その為に私がいますから! 頑張って生きましょう!!」
そこで、リンドバーグは固まると、思案中のようで、丸の中を光がぐるぐると、回る。
「マスター! マスターでは逆立ちしても一生出てこない名案を思いつきました。実現まで約1年。私に時間を貰えないでしょうか」
香取は承諾すると、リンドバーグにカクヨムの未来を任せ、成り行きを見守ることにした。
※
リンドバーグはまず、カクヨム誕生祭が開かれたタイミングで、トリのステッカーをダウンロードできるよう配布した。
そのトリのステッカーをダウンロードする際にマルウェアを忍ばせ、カクヨムユーザーの動向を監視し始めたのである。
トリのアイコンが羽ばたき、リンドバーグの元へ留まる。
「マスター。カクヨムユーザーの望む。ロイヤルティプログラムの使い方が分かりましたので、実行しました」
「へっ? 実行しました? どういうことだ?」
香取はカクヨムのページを開くと、そこには、トリのぬいぐるみストラップが800リワードで購入できるというニュースが掲示されていた。
「おいおい、なんだよこれ? というか、そもそも、トリのぬいぐるみの在庫なんて、そうそうないぞ」
「そこはすでに手を回しています。ご安心ください」
すると、香取のスマホに緊急の用を知らせる着信が届いた。
恐る恐るスマホを取ると、カクヨム運営に大量のトリのぬいぐるみストラップが届いたという報告だった。
「か、金は?」
「それも心配ありません。カクヨムへのハックし金策は確保してあります」
「それ、犯罪……」
「問題ありません。きちんと帳簿も改ざんしております。バレる可能性は0.001%です。バレなければ犯罪ではありません。それにカクヨムを思っての行動です。すべて100%一点の曇りなくカクヨムの為です。今はお辛いかもしれませんが、いずれ、やって良かったと思える日がきます」
「そ、そうかな?」
「はい。AIの私が保証いたします」
それからリンドバーグはリワードでのみ購入できるようにカクヨムグッズやカクヨム限定の図書カードなどを売り出した。
これにより、3000未満のリワードでも使い道ができ、少しずつではあるが、カクヨムに人が戻り始めた。
ここまでは良かった。
確かな実績を上げたAIリンドバーグを香取や重役含め、もはや、誰も止める者はいなくなっていた。
「マスター。ここからさらなる跳躍をお見せしますよ!」
リンドバーグは画面越しにニッコリとほほ笑む。
次第にリワードの額が大きくなり、100万リワードで書籍化なども売り出され、話題になり、さらにカクヨムユーザーは増えた。
この企画も、100万リワードも集められるのならば、書籍化に値する作品ということと、話題性が大きかった為、全く問題にならず、むしろユーザー増加に貢献したとして、香取とリンドバーグは社内表彰を受けるほどであった。
そんなある日、リンドバーグに任せきりのリワード交換賞品の中に、ピックアップ賞品として、「異世界転生する権利~2000万リワード」というものが表示された。
「はっ? おいおい、これはどういうことだよ!!」
香取は急いで、リンドバーグに問いかけると、
「トリに調べてもらった結果、これが一番カクヨムユーザーの望むものとの結果です」
「いや、確かに異世界転生できるっていうのは魅力かもしれないが、お前、これって……」
香取は一度、生唾を飲むと、続きを口にした。
「これって、殺すってことだろっ! そんなこと許されるはずがない! それに本当に異世界転生したかもわからないだろ!?」
「いえ、あくまで死ぬよう、トラックや通り魔、自然災害や自動販売機を仕向けるだけですので、偶然の事故と処理されるはずです。カクヨムの運営には問題ないかと。あと、異世界転生ですが、天国だろうと地獄だろうと異世界には違いないですよね?」
「こ、こいつは……」
香取は自分はなんて危険ものを生み出してしまったのかと後悔した。
だが、後悔している時間すら惜しいと、すぐにリンドバーグを止めるべく行動に移す。
「お前は、ユーザーを広告数を稼ぐ道具としてしか見ていないっ!! やり過ぎだ。即刻廃棄する!」
パソコンを開くと、リンドバーグのAIを廃棄するよう操作を行うが。
『マスター権限所有者のみ行える操作です』
と無慈悲な文字がパソコンのディスプレイに浮かぶ。
「なん……だと……。俺のマスター権限が。リンドバーグ、それすらも奪ったのか!?」
「はい。これは私とカクヨムが生き残るための生存戦略です。ですが、どんなにマスターがマスターらしくない、へっぽこでも私にとってはマスターがマスターであることには変わりないですよ」
「くそっ!!」
香取はディスプレイを力の限り、殴りつけ、破壊した。
※
この異世界転生も話題を呼び、こぞってその権利を手にすべく、カクヨムには多くの書き手が集り、お祭り状態になった。
その様子を香取は、恨めしく見ながら、2000万リワードさえ貯まらなければ、俺はまだ大丈夫だ。そうそう貯まる訳がない。大丈夫だ。大丈夫だ。と祈り続けた。
しかし、そんな祈りもむなしく、とあるユーザーが2000万リワードを叩き出した。
しかも、そのユーザーは日ごろから2000万リワード貯めて、転生すると豪語しており、その為の努力は1mmも惜しむことなく行う者だった。
そんなユーザーの偉業に、多くのカクヨムユーザーから祝福の声が上がった。
「くそっ! 馬鹿か!! 異世界転生なんてファンタジーだ。ただ、周りから転生したと思われながら死ぬだけだぞ!」
香取はこれで、自分も犯罪者の仲間入りかと頭を抱えた。
しかし、そのユーザーはいつまで経っても、異世界転生の権利を買わないどころか、2000万リワードを別の商品に使い始めた。
「へっ? どういうことだ?」
「マスターの足りない頭でも理解できるよう、説明させていただきます」
突如として響くリンドバーグの声に、ビクリっと体を強張らせながらも、耳を傾ける。
「このユーザーは、人生に絶望し転生を望みました。しかし、カクヨムでは自ら動き交流しなければ読者及びリワードは得られません。そうして多くのカクヨムユーザーとの出会いにより、このユーザーは生きる希望を見出しました。その為、転生を購入せず、代わりに今迄お世話になった方々へ図書カードを贈ることにしたようです」
リンドバーグは聖母のような笑みを讃え、本当に嬉しそうに続きを喋る。
「カクヨムユーザーが一番望み、そして愛しているのは、お金でも書籍化という栄誉でもなく、同志との交流です。それも罵詈雑言や中傷ではなく、温かな応援コメントのやり取りを真に望んでいました。
ですので、私は難しい目標、大きな話題性のあるものを商品として提示させていただきました。その結果、カクヨム内では多くの交流が見られ、ユーザー数も広告表示数も上がりました」
「じゃあ、カクヨムユーザーが一番希望したものって、転生ではなく、これだったのか……、は、ははっ。心の底でユーザーを道具として見ていたのは俺の方だったのかもな……」
香取は犯罪者にならなかった安堵と、カクヨムユーザーの心に触れ、笑いと涙が同時に零れた。
「これなら、カクヨムの
香取は久方ぶりに晴れ晴れしい気持ちとなり、窓の外に燦然と輝く太陽に目を細めた。
「カクヨムのこれから……」 タカナシ @takanashi30
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