第9話 俺は人造人間
ワインディングを駈ける。
車体をカーブの内側に寝かせるのが楽しい。
gearが正しく選択出来て、カーブの脱出時にスムーズに加速出来ると嬉しい。
コイツのドコドコドコドコドコいう振動は、beatだ……音楽なんだ。
スロットルで調整できる音楽。
俺の心拍もコイツと同時に上下する。
あっという間に、伊賀市内に降りた。
いつものコンビニの駐車場の出来るだけ隅の方に邪魔にならない様に停車して、買い物に入る。
バイクだから、余り沢山買えない。
一応、サドルバッグの小さいヤツを付けているが、たかが知れている。
パンとお菓子……袋ラーメンを買ってコンビニを出た。
服のポケットに袋ラーメンとお菓子を突っ込み、パンはサドルバッグに捩じ込んだ。
……不便だとは思わない……これが当たり前。
車がメインの連れからは、「絶対車の方が快適じゃん……バカじゃないの」と言われるが、譲れない。
バカで良い……
『バイク乗りはおおよそ皆バカだ……』俺の持論。
快適さと安全性を望むなら、バイクなんて乗る意味がない。
二階建てのアパートの着く。
駐輪場にバイクを停めて、ハンドルロックを掛ける。
後、駐禁ポールとバイクの後輪をチェーンロックで繋ぐ。
サドルバッグからパンを引き出す。
階段を上がる……ギシギシ鳴く。
203号室が俺の住み家だ。
容易にピッキングされそうなシリンダー錠を開けて中に入る。
昨日のラーメンの器がシンクに置きっぱなしだ。焦って出勤したからだ。駄目だな。ゴキブリが出る、直ぐに洗ってごみ袋に入れよう。
靴を脱いで、買ったモノを六畳一間に唯一置かれたテーブルに落下、少し跳ねたが、テーブルからは落ちないのを確認して、キッチンに向かう。
シンクに転がるラーメンの残骸を、洗剤で洗い、水気を落として、ゴミ袋に放り込んで、デカイ洗濯バサミで封をした。
『これで良し』自分に言い聞かせる。
冷蔵庫から2Lの炭酸飲料を出し、コップに並々と注ぐ。
ヤカンに水を入れて、コンロで沸かす。
同時にパンの袋を開けてかぶりつく。
口から大半のパンを飛びださせたまま、袋ラーメンを開けて、スープの素とかやくを取り出す。
丼を食器ケースから出し、蛇口を捻り、お湯で洗う。
丼にかやくとスープの素を落として麺を置く。
お湯が沸騰するのを待つ間に、パンを食べ進める。
最後のパンの欠片を人差し指で口に押し込む。
お湯が沸いた。丼にお湯を入れる。
蓋をして放置。
炭酸飲料を飲む。ホッと一息。
待つ間に、TVをつける。ケーブルテレビに変えてMTVを見る。
VJが視聴者からのリクエストFaxを破り捨て、違う音楽を掛けている所だった。
曲はradiohe◯dのparanoidAnd◯oidだった……
VJはノリノリだった……
「ジョージ、そりゃないわ……リスナーキレるぜ……」俺はTVのVJに向かって毒突いた。
しかし、選曲は素晴らしい。この朝に、この俺にピッタリな……
~~ 歌詞 意訳 ~~
Ambition makes you look pretty ugly
野心なんて持つなよ、醜いだけだぜ……
You Don’t Remember
You Don’t Remember
Why Don’t You Remember My Name?
あんたどうして覚えていない?
あんたどうして覚えていない?
何故あんたは俺の名前を覚えていないんだ?
~~ 以上 ~~
トム……その歌詞は今日、一段と俺に響くぜ……勘弁してくれ……
ダウナー……
堕ちていく……だが、それも心地好い。
曲が終わり、VJがファ◯キンCOOLだとべた褒めする。
あぁ、ラーメンが伸びちまった。
蓋の内側を押さん迄に、膨れた麺を箸で啜る。
噛まずに喰えそうな位……
炭水化物の連発で腹が満たされる。
窓から陽光が挿し込み……温かい。
睡魔が襲う……外着のまま畳に寝転ぶ。
気を失う様に……眠りに付いた。
夢の中で俺は彼女に自分の名前を訊いていた。
何度も、何度も……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます