第5話 出逢3 童貞は一次会で帰りたい

 彼女はラーメンを凄い勢いですすり上げ……自身の顔中にスープを撒き散らした。

男らしい……江戸っ子の喰い方だ。

多分……そんな感じ……


知らんけど……


 カップを持ち上げてスープを喉を鳴らして嚥下する。

そして飲み干し、『タンッ』と机にカップを置いて、その上に箸を揃えて置いた。


「ウマーイ、もう1杯!!!」とは言わなかった。

 代わりに、

「炭酸ちょーだい!」と言った。

「品切です、お嬢さん」僕は答える。

「なんで!炭酸ちょーだいな……ほしいーーーい!」彼女は身体をブルンブルン振り叫ぶ。

 僕はその動きを観て、

『やっぱり胸小さいな』と思う。

「僕が飲んだので最後なの……冷蔵庫に無いの!」

 僕は負けずに大声で言う。

「えーーー無いの!!」彼女は周囲を見回す。

「!!!!」彼女に喜悦が浮かぶ。

「あったーーーー!」机の横、僕の影に置いてある飲みかけの炭酸……

「……あっ、それは僕の……」

「いいの、いいの、許してあげる!」……許してあげるって、どういう意味ですか?

どんな上から目線ですか……


 ……ゴクゴク……


 飲んで一息付いたのか口を離して、

「大蒜臭いじゃん……」一口飲んで彼女は寸評を述べる。

『そりゃ、僕もラーメン食って炭酸飲んだんだから……』と思う。

「そりゃ、悪う御座いました……」僕は自業自得だろうと思いつつ、形だけ謝る。

「まっ、良いか!!!」気にせずグビグビ飲む彼女、あっという間に炭酸飲料は空になり……

「ケプッ……」案の定、想定内のゲップ。一寸可愛くしている所が余計に腹が立つ……

 そんなとこで女子出すな……

 もう先程、武蔵出してんだからイメージぶち壊しなんです。

「そろそろお腹も満たされたでしょ、ねっ、帰ろう……」僕は子供に諭す様に言う。


「今何時……???」彼女の質問。

「えっ、二時半だけど、どうかしたの?もう帰らないと行けない??」

『シンデレラさんもう12時を大幅に過ぎてます!カボチャ🎃のスクーターに乗ってソッコー帰りましょう!!!』僕はそんな事を思いながら、彼女の返事を待つ……暫しの沈黙……「……そうよね帰らなきゃ……」彼女は呟く、

『いいぞ、いいぞ、その調子……とっとと帰れ!』僕は内心ほくそ笑む。

 彼女が帰ろうと立ち上がり事務所のドアを開けた。

 ドアの開口部から外から歩道に雨が打ち付けられる音が微かに聞こえる。


「……あっ、雨ーーーー!!!」彼女は叫びながら、店を出ていった....

「なんか知らんがラッキー!!!」僕は彼女から開放された事で大喜び……いそいそと閉店の準備を開始……彼女が戻って来る前に正面玄関口を閉めないと、事務所を出て正面玄関口に向かう。

 正面玄関口まで来て施錠する。

そして、彼女を観察する。

外ではじっとりと雨露に濡れた彼女が……雨を凌ぐ為にスクーターを押して店舗前の庇の下に置いている所だった。

 それを見てunderstand……

『彼女は帰る気が無い……』僕は落胆する。

 状況は先程よりも悪化した。

 彼女はスクーターのハンドルに引っ掛けたヘルメットを持ち上げる。

「バシャッ……」あぁ、小一時間雨露に晒されていたソレは、バケツの如く水を溜め込んでいた……


 よくよく考えれば、真冬でソレを被って今すぐこの雨の中を帰れとは、言えなかった……


 ……彼女はびしょ濡れになった自身とヘルメットをブンブン振り回してこっちにやって来る。


 ……僕は正面玄関口の鍵を開ける……

 ……彼女は当然と云うように中に入る……


 なんだこの主従関係は……

 今思えば、警察に引き取ってもらい本人の個人情報から親御さんに迎えに来て貰う……なんて事もできた筈だったのだが、

 そのとき僕はもうこの茶番劇の脇役で主役兼舞台監督の彼女の演技指導に諦めの境地で付き合っていた……そんな感じだった……


「寒いな....なんか拭くものある....これから二次会だな……」彼女はニコリとして僕の背を叩き、そのまま首根っこを掴むと事務所に連行された……


『何が、二次会だよ……』こっちはとっとと帰りたいのに……門限を守らないシンデレラ。

「お前、死ンデレラ……」ボソッと言う。

「なんか言ったーーー!!!」怒気荒い彼女……

「いえいえ、何も申しておりませんです、ハイ」僕は下僕として答える。

「……うーんなんか気に入らにゃい」彼女は僕を先程の椅子に座らせ……何か拭くものを探している様子。

「その棚の上にウエスが有るよ、物拭き用だけど新品だから、使う?」と教える。


「イヤーン、貴方好い人過ぎる……」と彼女。

『イヤーン、貴女暴君過ぎる……』と僕。


 ウエスで髪の毛をフキフキ……そして裏起毛のパーカーを脱ぎ出す……

『ゴクリ( ゚ε゚;)』僕は視ていない振りしてガン見する。

 彼女はTシャツ一枚になる……一寸見たが、ゴツい裏起毛のパーカーが雨を防いで、Tシャツは濡れていなかった……

 スケベな僕は……落胆……ただただ落胆する。

 彼女はジーンズに付いた雨露を拭き……自身のパーカーをパンパン振る。雨露が落ちる。一通り服を拭いた彼女は、僕をガン見して……

「寒いんですけど!貴方!」とキレ気味に言う。

「へっ……なっ何??」僕は困惑……

「分かりませんかーーー!」彼女が叫ぶ。

 ……はい……寒いんですね。

「これで良い???」

 僕は事務所に唯一設置している電気式ヒーターを持ち上げて彼女に見せる。

「わぉ!素敵すぐる……Switch!ON!」三白眼でそれを見つめる。

 僕はテーブル下のコンセント🔌にヒーターの電源コードを差して彼女にヒーターを渡す。

「上にダイアル有るから好きな温度にして暖まりなさいな……」僕は投げ遣りに言う。

 彼女はダイアルを赤い文字のH位置に合わせてぐるりと回す。

「……あん……あったかーーーい……サイコー」彼女はヒーターを抱き締めんばかりに近づいて暖まる。


『そりゃ、暖かいでしょうねぇ……あぁ、これで僕は彼女の身体が乾くまでお付き合いをしなければならない……』それが分かる。


「暇ぁー」ヒーターの温風を顔前に浴びながら彼女はキョロキョロ暇を潰せるモノが無いか探す。


 ……「あっ、(゜O゜;」彼女の視線が、僕のCDプレイヤーに定まる。


 嫌な予感……しかしない……

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