第4話 出逢2 暴君は聞く耳を持たない

 逆レイプって、AVでしか聞いた事が無いけど、まさかね……

 僕は、巨人に鷲掴みにされて店内に居る。

「あのさ、貴女こんな事しても何も解決しないよ……」僕は上を見上げて諭す様に、静かに彼女に言う。


「なんか飲み物無い???」巨人は言う。

 『無視かい!!!話聞けや!コラッ!!!』僕は内心毒ずくが、表面上は、「あの、話聞いてる???」と聞いただけだった。

「……あっ、あそこ明るい」巨人は人差し指で休憩室を指差す。

僕の首は、巨人の脇の下、右腕を首に回されて、腰を曲げてヒョコヒョコ歩いている、突き飛ばしたい衝動に駆られるが、相手はコレでも、女性だ……僕にはまだ『痴漢』扱いされる危険性を鑑み、大人しくしているしか選択肢はなかった。テレビみたいにはならないモンだ……


 ……事務所に引き摺られる……その際に左頬に柔らかい物体を感じて……

「あっ……」と声が出る。

「どしたの?」彼女が僕を覗き込む。

「いや……あの~首が痛くて、腕外してくれない」僕は咄嗟に嘘を付く。

「アソコまで行ったらね!」彼女は呑気に僕に告げると、休憩室の扉を開けて、僕ごと引きずり込む。


 ……ラーメンと炭酸飲料の匂い……

「美味しそう……な匂い」彼女は鼻をクンクンさせて続ける。

「合コンじゃ、緊張してろくに食べてないから……」と言いつつ、ラーメンを指差して、

「これ有る!ちょうだいな」彼女は宣う。

『あぁ……うぜえ、うざすぎる』折角、おっ○いの感触に浸っていたのに、僕は現実に引き戻される。

「ねぇ、無いの?ラーメン!ちょうだいラーメン!」彼女が催促する。

「……はいはい……そこの冷蔵庫に1個有るから……」僕は彼女に言い、冷蔵庫を指差しながら、頬に押し付けられたおっ○いの感触を感じる。身体の割に、小さくないかコイツ……

「なんでカップ麺を冷蔵庫に入れてるの面白い……」彼女は冷蔵庫のドアを開けて笑う( *´艸`)

「別の場所に置いたら食べる時面倒だろ、どうせ飲み物とラーメンはセットなんだから……」僕は言い返すと、彼女は急に真顔になって、

「まぁ、確かに問題ないか……」と言いつつ僕を小脇に抱えたまま、(おっさんが持つセカンドバッグみたく)冷蔵庫のカップ麺を掴み、休憩所に戻る。

「貴方はコッチね」と言い、休憩室の入り口から遠い椅子に僕を座らせる。

彼女は僕と入り口を塞ぐように、椅子を置いてカップ麺の蓋を開けて、粉末スープをカップに入れている……

「お湯沸かしてくれない」

「ハイハイ……」僕は諦めて、ヤカンを火にかける。

 水はまだまだ、残っている筈だ。ラーメン後のコーヒーを飲もうと考えていたから……


 ……沈黙……


喋る事が無い……ラーメンの蓋を開けて、粉末スープを投入している彼女の胸を見る。

「……やっぱり小さいなぁ」あっ!と思ったが思わず声に出た。

「何が小さいのよ!」粉末スープを残さず投入しようと悪戦苦闘している彼女が顔だけこっちを向いて僕を見る……

「……いや、その……」僕はしどろもどろになり、目が泳ぐ……

「なによー!いいなさいよぅ!」彼女の右手は粉末スープから離れて、僕の首を掴む。

「……違う……一寸、待って……」頭が鬱血する。なんだこの暴力女……宮本武蔵かよ……

 武蔵の握力は竹を握り割ったとか聞いたことがあるけど……

 正にそれ……女宮本武蔵、そういえば身長も合致する。

「なにが、違うのよぅ……言いなさいよぅ、教えてーー」現代の武蔵は女々しかった……僕の首を武蔵はブンブン振る。脳震盪に耐えながら……

「いやー良く見てみると貴女、割と『おっ◯い』小さいなー」こんな出鱈目通じるのか……

 半信半疑で僕は言う。

 因みに『』の言葉は言ってません。

「いぁん……ホントーーそう思うのーーーアンタサイコー」武蔵大喜び……武蔵は歯が浮くほどのお世辞がお気に入りの様子……喜びの余り、右手は更にブンブン……僕の首もグラグラ……首の骨が達磨落としに成るかと思う間際……


 「ピーーーー」ヤカンから甲高い音……


 冷めきっていないヤカンのお湯は早々に沸騰した。

首がもげる前に助かった。


「お湯が沸いた!!!」彼女は呑気に喜ぶカップ麺の蓋を持ち上げて、

「お湯いれて、お湯!」催促される。


 武蔵の攻撃で僕は赤ちゃんの様に首が座らなかった。視野がまだグラグラしている。

 武蔵はカップ麺を両手で持って、お湯を待っている。

ニコニコした顔に僕の中で憎悪が沸く。


 この湯を彼女にかけて逃げる。一瞬心にそんな事が浮かぶ……


『いやいや、後々、火傷がどうとか、女性の体を傷物にした』なんて中傷されそうで、僕はこの案を諦めた。

それに逆にお湯を取られて浴びせられるなんて最悪な事態も夢想して戦う気が失せた。へなちょこな僕……

「ハイよ……」僕はラーメンにお湯を注いであげる。なんて優しい僕……

「あっりがとぅ」彼女は変なアクセントで僕に感謝して、ラーメンの蓋の上に自身の携帯を置いて重石替わりにする。僕と同じ携帯の使い方だ……と見ていると……携帯の外面に、Nガールのステッカーを見る。

 僕が彼女に邪魔されるまで聴いていたバンド。


「あっ、」また思わず声が出る....

「なぁによ!」彼女は今まさに割り箸を割ろうとしている所だった……一寸不機嫌な返事。

「いや……何でもないよ……」僕は訊きたい質問を飲み込んだ。

「なによ、もう……」彼女は一瞬プンスカした表情をしたが、食欲に負けたのか武蔵には成らず……ラーメンの上に顔を持って行き、鼻でクンクン匂いを嗅ぐと、箸を差し入れて一心不乱に食べ始めた。


 ……『深夜のラーメン程、背徳的に旨いモノは無いよな』旨そうに食べる彼女を見て思う。

 腹一杯になったら帰ってくれるだろうか?

 僕の希望的観測が当たることを祈る。

 首の調子も確認する。

 いつになったら解放されるのだろう?


 夜はまだまだ長い……





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