第2話 夜長2 想定外の月読命 月に帰るまで……

 休憩室の音楽プレイヤーにCDを入れる。


 お菓子

 晩飯

 飲み物

 音楽

 暖房


 長い夜を過ごすには十分……


 プレイヤーからギターが聴こえる……


 ナンバーガールだ……


 最近嵌まっていた……


 削り取る様なギター……

 地味な眼鏡ボーカルが目を三角にして叫ぶ……

 隙間を埋める様なドラム……

 武骨な男臭いベース……

 疾走感……

 つんのめるリズム……


 自動ドアの事を半分忘れて、ポテチを喰いながら音楽に浸る……独りの僕の楽しみは音楽・映画・本だった。

「ピー」と音がしてお湯が沸いた……お湯の入ったヤカンを持ち上げ、テーブルのコルクマットの上に置く。

 次いでカップ麺の蓋を開けて、スープの元を取り出し、かやくを放り込み、ヤカンの湯を注ぐ……

 蓋をして、上に自分の携帯を重石替わりに置いた。

 後は3分待つだけ……


 ……自動ドアは依然として変化はない……


 ぼ~っと防犯カメラの映像を観ていると、2分半経過した。

 僕は固めの麺が好きな事を思い出し、携帯を持ち上げカップ麺の蓋を剥がす。

 液体スープを入れる、親指と人差し指でスープを絞り出す。

 アルバイトがコンビニからもって帰った未開封の割り箸が休憩時の鉛筆立てに数本突っ込んである……1つを引き抜き袋を開ける、ソイツでスープを撹拌する、カップに口をつけて一口スープを飲む……

 少しの大蒜と食欲をそそる醤油の味わいが、仕事で疲れた体に染み渡る……

 箸でちぢれ麺をリフトして啜る……いつもの味だが飽きが来ない味でもある……僕は家にダースで購入している位コイツが好きなのだ。

 一頻り啜れば、喉が渇いた……炭酸飲料を忘れていた。

 冷蔵庫を開けて引っ張り出す……ボトルキャップを捻ると、「プシュ」という清涼感のある音がして、その後「シュワシュワ」と泡の砕ける音がする。

 一気に嚥下する……少し痛いとも思える程の爽快感に僕は包まれる……後はもう、無言で啜るだけだ、数分も経たず、僕は夜食を終えた……深呼吸して、再度炭酸飲料を飲んだ。

 食事をしたら何だか余裕が出てくる……まだまだ食料もある、TVもある音楽もある、自動ドアには「SE×OM」の文字が貼ってある....相手からしたら無理やり入ろうとすれば、警備会社がやって来ると思っているだろう。

 ※僕がセキュリティ解除していることは知らないだろう……

 そうなのだ……僕は圧倒的に有利なのだ……ただ朝まで音楽や映画や本、娯楽に興じていれば良い……時は過ぎ、朝に後はなれば人も来る……ヤツラも姿を消すしかないだろう……


 ……とは言え、ヤツラを放置してイイ訳では無いと、余裕が出てきた僕は再度、自動ドアの不振人物らしきモノが何か?調べたい欲求に駆られる。


 事務所から出ても、途中にある商品棚で、自動ドアからは僕は見えない筈だった……店舗に備え付けの頑丈そうな懐中電灯を片手に持った。

 意を決して、僕は事務所の扉を開ける。

 夜間作業時は何時も思うのだが、照明の無い店内は少し気持ち悪い……ビデオの棚に隠れながら、出入り口を見る。


 ……


 やっぱり、自動ドアの外側にもたれ掛かる様に人影らしい陰影が見える。


 ただ、動かない……3分程度観察していたが、人影は身動ぎ一つしない。

『ヤンキーじゃないのかな?』僕は仮説をたてた。


 昼間のヤンキーなら、もう少しで暴力的な手段で僕を脅すだろう、そして現状の人影の行動は、どちらかと言えば、酔っ払いが自動ドア前で寝てしまった、的な感じだ。


 背を低くして、僕は出入り口横の商品の返却カウンターまで匍匐前進する。


 出入り口の壁面は自動ドア以外も全面ガラス張りの為、近くまで接近したら、ガラス越しに外の様子が見えると考えたからだ。


 返却カウンターから僕は頭だけを出し、自動ドア外を確認する。


 ……えっ!?……


 歩道に放り投げられた様に真っ直ぐ伸びた長い脚が見える、スリムなジーンズを履き白いハイカットのスニーカーの爪先が上を向いている。


 ……やっぱり酔っ払い……自動ドアを背にして寝てしまったのかもしれない。


 ……デカイな、脚からそう思う、ここからは流石にもたれ掛かった上半身は見えないけど、ガラスに写る人影は痩せていたが、180センチは有りそうだった……


 ……やだな、「帰ってください!」と言いたいところだが、自分より、相当でかいのが、気を滅入らせる。

 もしかして、格闘技とかしてないよな、酔っ払いだから手加減無しに殴られたりしたら最悪。

 だが、12月のこの季節で外で寝ている人をほって帰り、朝になったら、凍死で新聞沙汰なんて洒落にならない……TVのサスペンスでたまに聞く死亡推定時刻から僕がここに居た時間にはデカイヤツはここに居ました、なんて事が立証されたら僕が見捨てた事になり、これまたややこしい事になる。


 意を決して、勝手口に近づき、回転式の錠前を外す、静かに、方開きのドアを開けて、僕は外に出た……人影を見る。


 ……!……デカイ、180センチ以上だった。パリコレでももて余す身長だろう……バスケット選手の方が向いてる。


 ヒールのほぼ無い、スニーカーでこれだ……ヒール履いたら190センチになる位の……


 

 女の子!!!


 ……女の子かよ……


 彼女は上半身を自動ドアに凭れて、歩道に腰から脚を放り投げて寝ていた……いくらなんでも寒いだろ……僕なら痔になりそうな歩道の寒さだ。


「あの~」僕は遠巻きに嫌々ながら小さな声で女の子に話し掛ける……

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