拡散する悪意の種。
シグマ
悪魔崇拝者。
世の中には光の部分があれば当然ながらに闇の部分も存在する。
貧困に喘ぐ日陰者たちは、あらゆる物を手に入れた者たちを妬み、そして世界の全てを憎むようになる。
『自分たちが貧しいのは、奴らが富を独占しているからだ』
それは余りにも独善的考えであり一方的な恨みではあるのだが、その憎しみの種は持たざる者たちの間で徐々に伝播していく。
同じ思想を持つ者たちが多く集まれば、それは団体となり組織となる。組織となれば一人では不可能で実行に移すことがないことであろうとも、強気になり肯定された気持ちで実行に移すことが出来るのだ。
そうして彼らは、自分が日陰の立場に落ちた理由を他者のせいにして、だからこそ持つ者たちの富を自分たちで再分配しても構わないだろうと考え始めた。
そして神や天使を崇拝する普通の人たちと対比して、彼らは別の思想を持つ者たちとして別称を与えられる。
世界に恨みを持つ者たちによりどこからともなく結成され彼らは、次第に世界各地で破壊活動を行い始める。
不公平に自分たちの富を奪っているのだから、それを取り戻すことこそが正義であるという考えを持つからこそタチが悪い。
罪悪感なく平気で全てを奪っていくのだ。更にそれによって新たに生まれた貧困が、あらたなるサタニストを生み出す負のサイクルを生み出してしまう。
国も初めは軽視していたが為に、気付けば水面下で取り返しのつかないほどのデカイ組織になってしまっていた。各地で暴徒になるサタニスト共を騎士団を派遣して鎮静化するも、後手後手に回り対処が追いつかない。
「どうなっておるのだ、騎士団長!」
「申し訳ありません、国王様。しかし彼らは一般人に紛れ、突如として現れるので……」
「言い訳はよいわ! 早くなんとかせい!!」
「……畏まりました」
それまで普通に生活していた市民が、ある日に突如としてサタニストとなるのだ。幾ら騎士団が警戒をしてサタニストの拠点を潰したとして、新たな拠点が各地に出来てしまう。
一度でも拡散してしまった悪意の種は人の数だけ伝播する可能性があり、幾ら抗おうとも決してなくなることはないのである。
「こうなれば伝承にある通り、異世界より聖女様を呼ぶしかないかのう……」
追い込まれた国王は、世界に平穏をもたらすとされる聖女を異世界から召喚することを考える。
当然ながらに少なからざる代償を支払わなくてはいけないのだが、しかし日に日に増すサタニストの脅威に合わせて決断に迫られることになるのであった。
──とあるサタニストの拠点。
「どうしたのだザルツ?」
「いや……左腕が疼いてな」
ザルツと呼ばれた男は、失われた腕をさする。
「明日は、聖都を狙う大事な日だ。しっかりと備えておいてくれよ」
「あ、ああ」
魔物に襲われて全てを失ったザルツは、甘言に誘われてサタニストへの門戸を開いてしまった一人だ。
同情すべき状況に陥っていたからと言ってサタニストになることが許されるはずはない。だからこそザルツは現状の自分の行いを、常に悔い続けていた。
だからと言って強奪行為が正当化される訳ではないのだが、ザルツはそれで自分の中で折り合いをつけることが出来ている。
「──全てが憎い。俺たちから全てを奪った世界が憎い。だから俺たちは全てを奪い、壊すのだ!!」
悪意はジワジワと世界を浸食していく。その悪意がついには世界を崩壊しかねない
拡散する悪意の種。 シグマ @320-sigma
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