中年おっさんが異世界に行っても中年おっさんだった件。

あつ

第一話

朝、目が覚めると…。


「なんじゃこのボロい木造建築はぁああ!!!

 しかも、小汚ねぇベッドぉおおおおお!!!!」


俺は見たこともない木造の部屋に居た。


「あ、お目覚めですね?

 おはようございます。」


「ん?なんだぁ?」


「ここですよ、ここ。

 おはようございます。」


俺は声が聞こえる足元に目をやると、

一匹の黒猫が佇んでいた。


「…なんで部屋に猫何ているんだよ。

 つーか、何だ?変な声、つーか、ここどこだ…?

 どこの安ホテルだよぉおおおおおおおお!!!!

 また中〇人マッサージかぁ!?

 それともあの女が美人局の片棒だったのかぁ?

 …いや、アフター行ってたような。

 ああああああああああああああああ!!!!

 記憶ねぇし、しでぇ二日酔いだしぃいいいいいいい!!!!」


「私です。喋ってるの。私です。」


足元にいた黒猫は俺が寝ているベッドの上に飛び乗ってきた。

…喋りながら。


「…はぁ~、夢か。前にもこんな夢見たな。

 昨晩もやっちまったしなぁ。

 せっかく願掛けまでしたのに、まあ、バチでも当たって、

 悪夢大上映会中かねぇ~。」


「いいえ、夢ではございません。

 これは現実で、現に私はあなたに話しかけています。」


俺はその黒猫を両手でもって眼前まで持ち上げた。


「…あの女、一服盛ったのか?

 はぁ~、俺、逮捕歴も補導歴も無かったのになぁ。」


「え~っとぉ、信じ難いお気持ちはお察し致しますが、

 もう一度言います。これは現実です。」


「…う~ん、そうか、んじゃあ俺、死んだのか。

 嫌だなぁ~。お前が俺の死かぁ。」


「いえ、あなたは生きております。

 ちゃんとここに生きております。」


「…ゴメン、どっからやってくか。

 猫、整理しろ。」


俺は38歳、バツイチ、独身、ゲーム制作会社勤務の中年だ。

自分で言うのも何だが、酒癖と女癖がとにかく悪い。

法的なんちゃら入れればバツも3くれぇに膨れる。


まあ、そんな残念な俺さ。

今から二年前、そのバツの中の一つでもあるが、

7年連れ添った子持ちの女性に捨てられた。

そして、その後一年岡惚れしたキャバ嬢にも捨てられ、

挙句、勤めていた大手ゲーム会社にもクビを切られた。


人生とは面白いもんで、捨てる神ありゃ何とやら。

十年来の友人、相棒にも近い存在の男に拾ってもらい、

今はそいつのいる会社で大手の下請けとして

ゲームを制作、ディレクションしていたが、

とにかく詰まらなかった。

そして、何より淋しかった。


自業自得だって解っちゃあいる。

だが俺は、そんな日々の全てを洗い流すように、

酒と色に溺れていた。


だからなのか、ポッカリと穴の開いちまった俺は、

どこか自分自身を諦観していて、

例えこんな状況であったとしても、やたらと冷静でいることが出来た。

俺が死んだのだとしても、どうであったとしても。


…と、このヘンテコな黒猫がまくし立てる。


「あの、この態勢、少々きついので、離していただけませんか?」


「ああ、悪い悪い。」


俺はベッドの上に黒猫を離した。


「ありがとうございます。

 自分でも良く解りませんが、あなたの魂の欠片で出来ている、

 特殊な存在のようです。しかも、内2割は別の何かなので、

 この世界について色々と知識があるようです。」


う~ん、どうすっか…俺。


1.一緒に居た女性にイケナイ薬を盛られた。

2.これは夢の中。

3.やっぱり死んでる。

4.面白そうだから猫の話に合わせてみる。


…よし、4だ!!!


「…ん?んじゃあ何か、お前がここにいる理由も、何で話せるのかも、

 お前自身解っていねぇってことなのか?」


「はい。そうなります。」


「がははははは!!!!

 不憫な奴だなぁ~!!!!マジうける!!!!」


「私はあなたの分身ですので、

 私を笑えばあなた自身を笑っているようなもので、

 その、所謂、天に唾を吐く、的な…」


「あああああああああああああああああああああ!!!!

 うっせぇなぁ!!!

 わーったよ、わーった。んで、名前は?」


「解りません。」


「…は?」


「解らないのです。

 気が付いたらある使命ととともにここに居りました。」


「んじゃあ、黒猫だからクロな。決まり。」


「ありがとうございます。これから私はクロです。

 改めて宜しくお願い致します。」


「ああ、で、その使命ってのは何だ?

 この俺様を地獄までお連れしろってか?」


「いえ。」


「…」


「あなたをこの世界で導け。と。」


「…誰が言ったんだよぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 つーか生きてるんなら元の世界へ戻してくれよぉおおおおおおお!!!」


「元とかどうとか、私には理解できません。

 ただ、現状から考察できる答えは2つ。

 今、あなたは生きている。

 そしてあなたの魂が具現化した私に、

 あなたを導くよう使命がくだされている。

 それだけです。」


「お前なんかムカつくと思ったらさ、俺、仕事中そんな口調になることあるわ。

 うん、お前が俺のなんとかだって、信じてやるよ。

 でもさ、…何で猫ぉおおおおおおおおおおおおおおお!!!???

 やっぱ信じないぃいいいいいいいいい!!!!!」


「2つです。まず、私はあなたの魂の欠片で出来ています。

 故に、考え方は貴方に似ています。

 そして、私の姿形はその者の魂に一番似ている型になるそうなのです。

 ですから、元来ならば、貴方同様、人の姿形のはずなのですが、

 あなた本当に人ですか?」


「うるせぇ化け猫ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 …はぁ~~~~…。まあ、いいや。」


「クロです。」


「え?」


「私の名前は化け猫ではありません。クロです。

 そもそも、化け猫、って何でしょうか?

 それが私の本当の名ま…」


「あああああああああああああああああ!!!!

 もういい!!!

 うん、クロ、解った。うん、解った。」


「ありがとうございます。」


エライことになったもんだ。

昨晩いつもの悪癖でもって、浴びる程酒を飲んだ。

相棒と飲んで、ナンパして、相棒は終電で帰宅。

そっからガールズバー行って、

キャバクラ行って、ナンパした子らと合流して、

…いや、アフターだったっけかぁ?

とにかく記憶ぶっ飛ぶまで飲んだ。


で、朝。…今だ。…何なんだよこの状況。

マジで地獄にでも落ちたのか?

まあいいや、どうせ生きていたって詰まらなかったし。

これが夢でも地獄でも何であっても、今を楽しむとするか。


「よし、とりえーず、

 お前は猫型喋るガイドブックってことか。」


「ガイドブック?」


「あ、ああ。うん、何でもねぇ。

 …で、クロ。俺はまず、何をすりゃあいいんだ?」


「はい、それはですね…」


「あああああ!!!チョットたんま!」


「たんま?」


「ああ、えっとね、少し待ってくれ。

 なあ、初めに俺がここにいる理由は解らねぇんだよな?」


「はい。」


「で、お前もここにいる理由は解らねぇが、

 俺を導け、って話なんだよな?」


「はい。」


「んじゃあよ、まず、ここはどこだ?」


「はい、ここはギョウコウ共和国といって、

 今から十四年前の大戦後…」


「すとーーーーーーーーーっぷ!

 クロ、すとっぷ。」


「すとっぷ?」


「あ、ああ。ちょっと話止めてくれ。」


「はい。」


「う~んとぉ、ぎょうこうきょうわこく?」


「はい、今から十…」


「黙れぇええええええええ!!!

 ちょ、俺に一個ずつ質問、させてもらっていい?」


黒猫と宿酔の中、見知らぬ場所で語り合っている俺。

…はぁ~、マジで何やってんだよ。

何やってんだよ38歳ぃいいいいいいいいいいいいいいい!!!!


…と、嘆いても仕方がねぇか。

とりあえずこいつに聴くことしか出来ねぇし…。

って、話している最中に警察とか踏み込んでこねぇよな!?

…まあ、いいや。こうなりゃとことんあすんでやろうじゃねぇか!!


「ここはギョウコウ共和国。オウケイ。」


「おうけい?」


ああ、横文字はダメなのか。


「ううん、何でもない。ギョウコウ共和国。了解。

 で、この、今いるここは、ホテ…、じゃねぇや、宿?」


「左様です。ギョウコウ共和国、東部、アサギ市内繁華街、

 通称のんべぇ横丁にある、ぼろ宿です。」


「…の、のんべぇ…。そこは日本語なのね。」


「他にご質問はございますでしょうか?」


「…あ、あぁ。うん、何もかもわっかんねぇから、

 まずこの俺は何をすりゃあいい?」


「はい、この繁華街を抜ければすぐに市の登録所があります。

 そこへ赴き、あなた自身をここの市民として登録するのです。」


「ほぉ~う、役所みてぇなもんか。

 わーった!行こう!そこへ!」


俺はベッドから起き上がり、身支度でも整えようと、ふと我に返る。

見たことのない寝間着、そして身に覚えのない、

俺の物であろう服。

まあ、この際背に腹はってやつでもって、それに着替える。


今風に言えば、ヘンリーシャツにチノパン、ロングブーツ、

と言ったところか。


洗面所を見れば、うん、まあ、俺だ。

…イケメンになっててほしかったぁああああああああああ!!!!


ふぅ…、まあいっか。


有難いことに歯磨きセットのような物も備え付けてあったので、

歯を磨き、身なりを整える。


「よぉおおおおおおおおおおおしクロぉおおおお!!!

 いざぁああああああああ参らん!!!!」


「はい。

 …あっ、そうだ。」


「んーだよぉ。」


「私は具現化しておりますが、あなたと話しているそれは、

 私たちの間でのみ行われていることらしいのです。

 ですからくれぐれも、外で大きな声で私と話をなさらぬように。

 変人扱いされてしまいますから。」


「はぁ~い。」


って、え!?そうなの?

猫が喋る世界じゃねぇのか?

…まあ、細けぇこたぁ気にしねぇよ。

とりあえずやってやらぁ!!!


俺は勢いよく部屋を飛び出した。

と、あることに気付く。


「…あ!この宿の代金。」


「大丈夫。前払いです。」


「あ、そう。」


って誰払ったんだよぉおおおおおおおおおおおおお!!!

気持ち悪ぃいいいいいいいいいいいいい!!!


俺は宿の二階の角部屋に泊まっていたらしく、

軋む廊下を歩き、階段を降りた。

一階は開けており、小汚いロビーのようだった。

テーブルや椅子がいくつか無造作に置かれていて、

中央にはカウンターがあり、そこには店主らしき人物が座っていた。


「ああ、どうもねぇ。」


「はぁ~い、お世話になりましたぁ~。」


って、はぁああああああああああああああああああ!!!!!???

日本語ぉおおおおおおおおおおおおおお!!!??

見た目中東の人っぽかったけどぉおおおおおお?????


ふぅ~。

どうなってやがんだ、この滅茶苦茶で漫画みてぇな

ご都合主義の世界は…。


俺は宿の戸を勢いよく明け、眼前に移る異様な光景に、

やっぱここは地獄なんじゃねぇのか?と、

内心ビビってしまった。


「東京デ〇ズ〇ーランド&ド〇ク〇じゃねぇかぁあああああ!!!!!」


性根がひん曲がっている俺は、あの夢の国が苦手だ。

(理由は置いておこう。)

そしてそれが現実世界として眼前に広がっている。

…正直怖い。

…なんだ、この世界。


デ〇ズ〇ーと、ド〇ク〇足したような街並みだ…。

人も多いし、格好もいわゆるファンタジーに出てくるそれっぽいなぁ。

見た目も、…どこの国の人間達なんだ?


「デズ?ドラク?…どうなさいました?」


「ああ、悪い、何でもねぇ。」


「呆気にとられるのも無理はございません。

 活気があり、華やかで、街並みも美しい。」


ふぅ~。このクソ猫、淡々としやがって。

マジでムカつくなぁ。


「さ、いきましょう。私に付いてきてください。」


とりあえず俺は、この自称俺の分身黒猫のクロに付いてゆくことにした。


「お、おい!あんまし早く走るなよ!」


「ああ、すみません。」


人、人、人、溢れる人ぉおおおおおおおおお!!!!

…どこの世界も人で溢れかえっているんだなぁ…。

はぁ~、死ぬ前に、女子大生のあの子と箱根でも行きたかったなぁ~。


俺は半ば自棄になりながら、クロの後を追いかけた。


「着きました。ここです。」


「うっわぁ~、でっけぇ~。」


巨大建造物、さんぴえ何とか寺院とか、そんな見た目の建造物。

…まるで海外旅行だなぁ。


俺はとにかく中へと入った。


「また人ぉおおおおおおおおおおおおおお…」


「はい、ここで様々な登録等行いますので、人は多いでしょう。

 あっ、あの方に尋ねてみてはいかがでしょう?」


「ん?…うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!!

 すんげぇ美人!!!!金髪の北欧の姉ちゃんみてぇだ!!!」


「…何を言っているのかさっぱり解りませんが、

 好印象で何よりです。」


「…あ、言葉通じるんだよな?」


俺は恐る恐る受付嬢であろう北欧美人風の女性に声をかけた。


「あ、あのぉ~。」


「はい!なんでしょう!」


す、すげぇーあくてぃぶぅうううううううううう!!!!


「あ、え~っと、市民登録?ってやつはここで出来るのですかね?」


「はい!左様です!あちら側の階段から二階へ上がって頂き、

 すぐ目の前にある受付が市民登録所となっております!」


「あ、どうも。ありがとぉ~。」


ふぅ…。

あんな美人な北欧風の姉ちゃんがシャキシャキ日本語喋ると却って引くわ…。


「さ、では案内に従い、二階へと向かいましょう。」


「あいあい。」


しかし、どいつもこいつも、つーか、これやっぱ、夢なんじゃねぇ?

まあ、面白いからいっかぁ~。


俺は市民登録所の受付へと向かい、木で出来た番号札を渡され、

椅子に座り順番を待った。


って現実と同じじゃねぇかぁあああああああああああ!!!


「あ、これ…」


「どうなさいました?」


「アラビア数字なのか。

 あ、クロ、ここの数字って、ほら、これ、こういうもの?」


「はい、左様です。」


「十進法?」


「じゅっしん?」


「ああ、1から始まって、2、3、4、って、10になって、次、11、

 そんで同じように続いて20、で、21、みたいなこと。」


「はい、左様です。」


「ふ~ん。」


日本語通じてアラビア数字で十進法で、って、まんま現実と変わらねぇのな…


「236の方ぁ~、前へ!」


「あ、俺だな。」


「では、ご武運を。」


「そんな戦う訳じゃねぇんだからぁ~。

 縁起でもねぇこというなぁ…。」


「236の方ぁ~!?」


「あー!はいはい、俺です。どうも!」


面長、白く長い髭、眼鏡、まんまじゃねぇか…

…いるぅ~、こんなキャラよくいるぅ~。


「この度はどのようなご用件で?」


「はい!市民登録をさせて頂きたく参りました!」


「そうですか、では両方の掌を出して下さい。」


「あ、はい。こうですか?」


って何?ナニコレ!!!??

俺も莫迦みたいにあのクソ猫に付いてきちゃったけど、

身分証も何もないし、何だこれ!!!!???


すると担当官らしき白髭ジジイが俺の掌に、

同じく掌を乗せてきた。

き、気持ち悪ぃいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!


「う、うわあああああああああ!!!」


「ん?騒がない。初めてなのかね?」


何とジジイの掌が光りだし、黒い文字のような、蛇のような何かが

俺の腕へと巻き付いたのだ。


手を振りほどこうにも身体に力が入らない。

あろうことか、心地よささえ感じてしまっている。


何なんだよ、何だよこれぇえええええええええええええええ!!!!


「はい、おしまい。」


気が付けば光も黒い何かも消えていた。


「…あ、どうも。」


「残念。君は不能者だね。

 一応市民権は与えるが、街はずれの特別移住区へ行きなさい。

 ああ、その手続きは階段降りて、右にずーっと行った奥の所だから。

 それでは。

 はい、次、237の方ぁ~?」


「…は?ふ、ふのう?」


「ん?邪魔だよ。早くどきなさい。」


何か知らねぇが俺はこのジジイを思いきりぶん殴ってやろうかと思った。

…その瞬間。


「いけません!早くいきますよ!

 あなたはそもそも暴力とか嫌いでしょ!?」


クロが俺の足元へ飛んできた。


「…クロ。ああ、悪い悪い。…行くか。」


俺は渋々あのジジイに言われた場所へと向かった。


…しかし、なんだあの態度、訳解らねぇし、これが夢でも地獄でも、

ああいう人を見下すような奴にゃあ

一発ぶちかましてやらねぇと気が済まねぇ!


「いいですか。絶対に暴力はいけません。

 これから何があっても、ぐっと堪えるんですよ。」


「十分堪えたわ!つーか何だあのジジイの手品!

 マジできめぇしムカつくわ!!!」


「…ほら、周りの方たちに見られてます…。

 落ち着きましょう。」


「…あ。…わーったよ。」


ったく、夢にしても、どうなってんだちくしょう!

早く覚めろ!


…それより、不能者?残念?

ってイ〇ポじゃねぇからなぁあああああああああ!!!!

俺様38歳でもギンギンですからぁああああああああああああ!!!

あんのジジイぃいいいいいいいいいい!!!

やっぱぶん殴る!!!!


「どうしました?着きましたよ。」


とぼとぼと歩いていたので気付かなかったが、

すでに指定の場所へと着いていた。

ここはさっきまでとは違い、まったく、というか、

人が一人も居ない。


ガランとした殺風景な場所。

誰もいない、役所の受付みたいな雰囲気だ。


「…ん?うぉおおおおおおおおおおおおおお!!!!

 これまたすんげぇ美人!!!!」


「…あら、どうも。…こちらは不能者限定受付となっており、

 市民権の取得、特別移住区への入居許可、

 及び、労働の手続きとなりますが、間違いございませんね?」


「はいはぁーい!そうですそうですぅ!!

 もう不能でも何でも、労働でも市民でも何でも大丈夫でっす!!!」


「あはは!…祝福を受けられなかったというのに、

 あなたのような明るい方、初めてですよ。」


「しゅ、しゅく?はははは!!!

 いやぁ~、そうですそうです!!

 もぉ~元気だけが取り柄なもんでぇ~!

 しっかし、お姉さん美人ですね!!猫耳も似合ってますよ!」


受付嬢がコスプレぇえええ!!??

…まあ、夢の国だから不思議じゃねぇのか。


「美人?まあ、ありがと。

 それに、耳を褒めてもらうのなんて初めて。

 ほんと、面白い人ね。」


…あ、あれ?猫耳バンド…電動?

う、動いてるぅううううううううううううう!!!???

ホンモノぉおおおおおおおおおお!!!???


「(おい、クロ、どういうことだよ!)」


「(どういうって、なにがですか?)」


「(だぁあああああかぁあああああらぁあああああ!!)」


「ん?どうかしました?

 …あら、可愛い猫ね。」


「い、いやぁ~、何でもございませんよ!」


「そう。では、手続きをしますね。

 右手を私の目の前、ここに置いてくださる?」


「はいはぁーい!お安い御用ですともお姫様ぁ~!!!」


俺はコスプレ姉ちゃん(ホンモノ)に言われるまま、

右手を彼女の前へと差し出した。


「じゃあ動かないでくださいね。」


いやぁ~ん!さっきのジジイは気持ち悪かったけど、

この姉ちゃんと手をつなげ…


…ザクッ!!!


「…え?

 …ぎゃあああああああああああああああああああ!!!!

 すげぇナイフ刺さってるぅうううううううううううう!!!」


「あははは!ほんともう、お兄さん面白いのねぇ~。」


「あ、あれ?」


人は嘘の情報であったとしても、脳がそれを感知すれば、

そうであると認識してしまうというが、これはまさにそれだった。


ナイフ、というか、なんかすげぇ装飾がされた短剣でもって

右手を刺されたが、よくよく冷静になってみると、

痛みも無ければ出血もしていない。

しかも、この短剣はホログラムのように幽かに透け、

光りを帯びていた。


「はい、登録は完了しました。

 次に、あなたの名前を教えてください。」


「…あ、ナイフ消えた。」


…もう、何がなんやら!!!!


「…な、名前っすか?」


「そう、名前。」


名前かぁ…


「あなた野良猫みたいね…。」


「じゃあねぇ~野良猫ぉー!!」


「ほんっと、野良だよねぇ~。」

 

「ああ、いらっしゃ~い!野良ちゃ~ん!」


「…野良猫みたいな人、私は無理。」


あの女たち、みんな何やってんのかなぁ。

俺が死んでも、誰も泣かねぇんだろうなぁ~。


「うん、ノラで。」


「はい?のーら?」


「いえ、ノラです。俺、ノラ!宜しくね!美人さん!」


「あはは。変わった名前ですねぇ。

 …はい、ノラ、と。」


あれぇ~?書いてる字、何かカタカナっぽいなぁ。

ああ、ぼけぇ~っとしてたが、

あの受付や、街中の看板、宿屋の色々、

そういやみんなカタカナっぽい字で書かれてた!


…あっ!書いた文字が宙に浮いて消えたぁ!!??


さっきのジジイといい、この世界では魔法のようなものが存在するようだ。

…俺、ゲーム創ってたけどさぁ、これ、現実なの?


まあ、深く考えても仕方ねぇか…。

う~ん、しっかし、この姉ちゃん美人だよなぁ。


「ようこそ、ギョウコウ共和国へ。

 え~、では、最後に…」


「あ、ねえねえ美人さん!そんなことより、名前何ていうの?

 今晩あたり、よかったら飯でも行かない!?」


「…あははは!!!

 ほんとあなたって面白い。でもね、ごめんなさい。

 あたし、不能者とは食事出来ないなぁ。」


「…えぇええええええええええええええええ!!??

 そんなさびしいこと言わないでよぉおおおおおおおおお!!!!」


「あははは!…もう、お腹いたい…。

 はぁ~、あたしの名前はミカヅキ。

 ノラさん、あなたが奇跡を起こせるようになったら、

 考えてもいいわよ。

 いくつになっても、祝福は得られるっていうしね。」


「…わかったよ、わかったよみっちゃん!!!!

 俺、祝福されまくって奇跡お越しまくってくるから!!!!

 待っててくれよな!!!」


「あははは!!!…はいはい。

 もぉ~う、仕事どころじゃないじゃない。」


「へへへ!」


「それでは改めて、…それっ!」


…ザクっ!


「ぎゃああああああああああああああああ!!!

 今度は脳天んんんんんんんんんんんんんん!!!!

 みっちゃんエグイぃいいいいいいいいいいいいいいいいい!!!!」


「あははははは!!!

 …もぉ~う、ほんっと…

 そこらへんの楽士より面白いのねぇ。」


「…あ、またナイフ消えたぁああ!!!」


「これで完了となります。

 今、私の奇跡であなたの中に特別移住区までの道のりと

 そこで必要になる各種の印を施しました。

 手続き以上ですね。はい、それでは失礼致します。」


「…あははは…。みっちゃん、ま、まったねぇ~…。」


俺は何が何やら解らぬままに市役所、

…じゃなかった、登録所を後にした。


「それにしてもみっちゃんの手品すごかったなぁ~。

 …あれ?クロ、なにだんまりしてんのさ。」


ふいにクロは足を止め、俺の方を向いた。


「…私は残念で仕方ありません。」


「なんだよ。」


「なんですかあの態度!!!

 私の姿が猫なのも得心致しました!!」


「だからなんだよ!」


「さっきから見ていればすぐに女性だ女性だ、

 美人だ美人だ!だの。

 恥ずかしくないのですか!?

 私はあなたの分身として恥ずかしい!!」


「…何をぬかしやがんだ化け猫ぉおおおおおおおお!!!

 たらしなのは生まれつきだぁあああああ!!!

 美人いたら口説くのが当たり前ぇだろうがぁあああああ!!!」


「はぁあああああああああああああああ!!!

 情けない!!!!

 あなたは、あなたという人はぁああああああああああ!!!」


「…あっ。」


クロと口論している姿に、

街の人々から冷ややかな目で見られていることに気が付いた。


「チッ!…ここじゃあ人目に付く。

 どっか人がいねぇとこまで移動すっぞ、クソ猫!」


「ええ、そうしましょう。クソ人間!」


「こんのぉ~!」


蹴とばしてやりたいところだったが、

残念なことに、この猫だけが俺がここで生きてゆくための頼りだ。


ああああああああああああああああああああ!!!!

ちっくしょぉおおおおおおおおおおお!!!!

どうなってやがんだよぉおおおおおおおおおおおおおお!!!


「…ふぅ、ここら辺は人も少ねぇ。」


「…ですね。」


「おいクロ。」


「はい。」


「いいか、お前にどう思われようが俺は俺だ。

 俺の好きにさせろ。」


「いいえ、そうはいきません。」


「なっ!?」


「私の使命はあなたを導くことです。

 それは、より良い方向へとあなたを生かすということでもあります。

 ですから…」


「わーった!わーったよ!!!

 あいあい、気を付けますよ。」


「…口だけでしたら何とでも言えます。

 とにかく、行動で示してください。」


こんのぉクソ猫ぉおおおおおおおおお!!!!!

と思ったが、…疲れた。

何から何までどうなってやがんだよ…ったく。


…って、一つずつクロに説明して貰えばいいのか。


「ふぅ~、よし!クロ、色々と質問させて貰うから

 簡潔に答えてくれ。」


「はい、解りました。」


「まず、あいつらの手品、じゃなかった、あの変な力は何だ?」


「はい、この世界では万物の全てに神が宿ると信じられております。」


「…」


「そしてその万物より人々は祝福を受け、奇跡を起こせるようになるのです。」


「しゅくふく?きせきぃ?

 …あっ、さっきみっちゃんが言ってたことって…。」


「奇跡の種類は数えきれないほどあり、その内容も千差万別です。

 また、祝福は主に13歳から15歳の間に得られると言われております。」


「ふ~ん。」


「しかし、その祝福を受けることが出来ず、奇跡を起こせぬ人々のことを

 不能者と呼び、呪詛を受けた者として忌み嫌う風潮があります。」


「ふ~ん。…って。」


「はい、その通り。」


「俺ぇええええええええええええええええええ!!!???」


「まあ、生きているのですから、どうにかなるでしょう。

 この国では特別移住区を設けており、

 不能者はそこに集められ、肉体労働をする義務があります。」


「…」


「そして労働の代価として賃金が支払われるのです。

 住所不定無職のあなたにとっては、却って都合が良かったのではないですか?」


「…えーっと。うん、簡単に言うと…。

 特殊能力使えない俺は…、

 要らない子とでも言うのかぁああああああああああああああああ!!!!!

 なんじゃその差別ぅうううううううううううううう!!!!

 ここは夢の国じゃねぇのかぁああああああああああああ!!!!!


「憤慨なさらずに。

 物は考えようです。

 あなたはこの世界の何一つ知らぬ、いわば赤子同然。

 何もない状態から一つずつ学んでゆけばいいじゃないですか。」


「…ふぅ~、やっぱ俺死んだのかなぁ。

 これ、新手の地獄なのかなぁ~。」


「…もし死んだと思うのならば…。」


「んーだよ…。」


「死ぬ気で何でもやってみれば良いじゃないですか。」


「…」


「どうしました?」


「…お前…」


「はい。」


「猫のクセに良いこと言うなぁ!!!!」


「お言葉ですが、私はあなたです。

 あなたが普段から考えている、生きていればどうにかなる。

 命があるだけで幸せだ。それを言い換えたまでです。」


「クロぉ~、よく言ってくれたぜぇええええええええ!!!!

 いよぉっしゃぁあああああああああああああ!!!!

 訳わかんねぇけどやったるぜぇええええええええ!!!

 みっちゃぁあああああん!!!

 ぜってぇデートしようなぁあああああああああああ!!!!」


「…でーと?意味は解りませんが、

 あなたの行動原理は、結局、女性ですか…。」


「あぁ!?なんか言ったか?」


「…いえ、なんでも。

 (晩年祝福を受けたという例外もあるが、

 この人にそれを教えるのはやめておこう。)」


「いよぉおおおおおおおおっし!!!

 気合入れてくぜぇえええええええええ!!!」


そして、このヘンテコな世界での、俺の生活が始まった。

…あ、あと変な猫一匹も。



【俺メモ】


1.猫型ガイドブックは黒猫のクロ。

 話せるがそれは俺とだけ。

 そしてこの世界のことをそれなりに知っている。

 (俺は認めねぇが、俺の魂の欠片で出来ていると言い張る。)


2.この世界の住人は種々雑多で、

 何故か日本語が共通言語。(文字はカタカナ?)

 おまけにアラビア数字と十進法を使用。

 (猫耳美人がいることは有難い!!!)


3.いわゆる魔法や特殊能力みてぇなものを"奇跡"と呼ぶらしい。

 そしてその"奇跡"は"祝福"を得ることによって使えるようになるらしい。


4."奇跡"を使えない連中を不能者と呼んで差別している。

 ちなみに俺は不能者。(つーか、普通そんなもん使えねぇだろ!)

 あの役所でそれを選別してるのか?

 はたまた奇跡の種類を見定めているのか?


5.白髭ジジイはムカつく。


6.みっちゃんは、とても美人。

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