第58話 望みし夢
「お帰りなさい、あなた……」
隆之の目の前でエリーナが微笑んでいる。思えば、彼女から伴侶としてお帰りなさいと言われるのは初めての経験かもしれない。
彼女と誓い合った以降、隆之は
(そうか……夢か……俺は夢を見ているのか……)
「どうなされたのです? 怖い顔をされてるのですね……」
隆之の目の前の彼女は変わらない。誰にでも優しく、暖かい微笑を自分に向けてきてくれている。
(そうだよ……エリーナ……俺は君の笑顔の為なら何でもする。これだけで良かったんだ。君が笑ってくれるだけで、それだけで……)
隆之の涙腺が緩み、涙が止め処無く溢れてくる。彼は自分の護りたい者、守りたかった物が今だけは手元にあることに安堵すら覚えた。
全ては彼の望む幻に過ぎないが、それでもエリーナと共に歩む人生を再び手に入れることが彼を支える全てである事に違いは無い。
「貴方……笑って下さい……貴方が笑って下さらないと、私も笑えませんから。貴方が笑ってくれさえすれば、私は何時でも笑ってます……」
少しだけ悲しそうな顔をしたエリーナが迷い
(そうだね、エリーナ。君と一緒なら俺はきっと笑えるよ。もう少しだけ、待っていてくれるかい?)
「ええ……ですが、あまり無理はなさらないで下さい……」
(無茶を言わないでくれよ、エリーナ。愛する妻の為に無理をしない夫なんている訳ないじゃあないか。でも、約束するよ……本当に後少しなんだ。何かの歯車が上手く噛み合って来ている気がしてならないんだよ。本当に不思議なんだ。今すぐにでも君を救える気がしてならない)
「ありがとうございます、貴方……本当に楽しみにお待ちしておりますから、次にお会いする時にはこの子の名前を考えていて下さいね……」
優しく右手を下腹部に添えたエリーナが隆之に福音を告げた……
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます