第12話 誓いを守る
ヨルセンの村の現状は少しずつ良くなって来ている。隆之が初めて見た時は、田畑が荒廃し、村人も
しかし、今年に入り、ジゼルの街の代官が代わると、新任の代官が村の現状を
彼はエリーナの事をずっと気に掛けてくれていたあの役人であり、この度、
ここまで
隆之は、
①税率の見直し
②増収分の六割を村人の物とする事
③支払期間におけるヨルセンの村人の労役及び兵役免除
これら、三つの条件を呑む事が出来るならば、今まで使い切れなかったオネットからの仕送りであるオーリン金貨二百枚余、二億四千万リィル強もの大金を「無利子」・「無催促」・「無担保」を条件とし、その支払い期間を二百年払いとする融資計画を提唱した。
その条件を聞いた代官は
隆之にとっても、前任の代官にらば、融資計画提供などはしない。
融資を行なったとしても、横領された挙句に逃げられる。
そして、また似たような者が噂を聞き付けて、買官運動を行う。
これでは何をしたいのかが、分からない。
だが、今まで出来なかった村の改革を行う機会が巡ってきた幸運に隆之は感謝をしている。
村人達も新しい鋼鉄製の農具を手に取り、希望に満ちて日々の労務に励んでいる。農耕に使う牛馬も新しく買い
このまま行けば、そう遠くない日に彼の夢である【誰も飢える事の無い村】が実現するだろう。
隆之は妻であるエリーナと朝の農作業をした後、野良着を着替えた後に弁当にして貰っていた昼食を村の広場の南を流れる川の土手で妻と二人で食べていた。
村の広場では子ども達が元気良く遊んでいる。元気に走り回る子ども達が鬼ごっこで遊んでいる姿はどこの世界でも変わらないものだ。
隆之の妻であるエリーナは
隆之は川に釣竿を仕掛けて魚が釣れるのを待っている。
彼らはそんな穏やかな日々がこれからもずっと続くと信じて疑っていなかった……
突如、その異形の物は空より落雷の如き音を
(何だよ……これ……)
それは全身が黒く、彼が今まで知るどの生物よりも巨大で、
(恐竜なのか?)
彼がそう思ったのも無理は無い。それは彼の元いた世界で数千万年前に絶滅したとされる生物に印象がとても似ていた。
巨大な頭に長い首、全身を黒い鱗で覆われ、その口には獲物を引き裂くための鋭い牙が幾本と並んだその生き物の名前は隆之が空想の産物として良く知る【竜】だった。
広場にいた子どもたちを竜が狙っている。子どもたちが余りの恐怖で動けないでいるのを
竜は人間が
隆之の右手に込められた魔力が放出され竜の胴体に鋭利な傷が生じ、そこから鮮血が
彼の
「エリーナ! 子ども達を連れて家まで逃げろ! こいつは俺が何とかするから!」
隆之の
獲物を横取りされた竜は
(コドモヲクラウダト? オレノメノマエデ? フザケルナ……オレガコロシテヤル……)
彼の思考はあまりの怒りの激しさに鈍っていた。理不尽な化物に自分の幸せを奪われるなど彼にはもう耐えられない。
この一年余り使用することの無かった彼の無限とも言われる膨大な【魔力】が解放され、彼の瞳が金色の光を帯びていく。
隆之が魔力を具現化させる
隆之はオネットから魔力の具現化の体系だった物を学ぶものの、座学だけで身につける事は彼には不可能であり、人間と魔人との間にある才能の差を思い知らされていた。
だが、力の具現化が
(見事なものですな……この短期間でここまでの
彼の脳裏にオネットのからの忠告が浮かぶが、今はそんなことは関係無い。目の前の異形を殺してから
竜は必死に隆之を喰い千切ろうとするも、彼が具現化した【魔力障壁】によって
竜の攻撃は隆之には届かず、一方的に隆之が竜を攻撃している。
迸る魔力が両の手に圧縮されて一気に放たれる。
今の彼の
彼の手刀に込められた魔力によって、竜に深い傷が一つ、また一つと刻まれていく。
やがて、竜はこの得体の知れない人間を相手にする不利を悟り、雄叫びを挙げると西の空へと去っていった。
彼は竜が去って行くのを確認した後で魔力放出を止める。
そして、子ども達の無事を妻から聞かされて安堵の息を吐いたが、彼を見ている村の住人に気付くと全てを諦めた顔で皆に謝った。
彼にも分かっている。自分も先程の竜に変らぬ化物だということが……
「すみません……俺、今日にはこの村を出ていきますから……エリーナの事を頼みます……」
彼の言葉に
隆之が後ろに殴り飛ばされ、倒れ込む。口の中が切れて鉄臭い血の味が広がった。
「あんまり、ふざけたことをぬかすな! そんな言葉はお前がこの村に現れた最初の一週間以内に言うんだったな。今、そんな事を言っても誰も納得なんかしない! 男なら自分の誓いに責任を持て! お前はこの村の恩人だよ、タカユキ。
「エリックさん……」
エリックの言葉に隆之はそれ以上言葉が続かない。
「お前に言う事はこれだけだ。息子達を護ってくれて本当に有難う!」
そう言って、頭を下げるエリックに続いて村人全員が隆之に頭を下げた。
隆之が妻を見ると、彼女も頭を下げている。
彼にはこんなにも大勢の人達から御礼を言われた経験など無かった為、どうしたら良いのか分からずに途方に暮れる事になる。
そして、忘れていた
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