出来上がった家族
ハルカは自分の事がかわいそうだから付き合っていた
ハルカは自分の事が嫌いだけどかわいそうだから付き合っていた
ハルカは自分の事が嫌いだけどかわいそうだから付き合っていた優しい人
ハルカの大切な人はナオキで自分ではない
ハルカの好きな人はナオキだけど自分と付き合っていた
自分はハルカに浮気された
自分はハルカの浮気相手だった?
自分はハルカを愛していた
自分はハルカを
書いているうちに
ヤスハルの言っていた
「同じ思いをしてほしくない」
という言葉が頭に浮かんだ。
あの時は、ヤスハルがどうしてタクミにすべてを打ち明けたのか
理解できなかったが
今はなんとなくわかる気がした。
もしも自分がヤスハルの立場だったら
どうしていただろうか。
まさに今、そうだ。
彼と同じように
ナオキという人物に会って
自分はもう付き合っていないからと言ってやりたい。
ただの腹いせかもしれない。
そのせいで
その二人の関係がどうなろうと構わない。
ただ自分はこんなに辛い思いをしたんだと
知ってほしいだけなのかもしれない。
自分はハルカにフラれた。
タクミはルーズリーフをぐちゃぐちゃに丸めて
ごみ箱に捨てた。
朝方、ツカサが部屋に帰ると
珍しくタクミが寝ている。
確か今日もバイトだったはずだと
首を傾げたツカサだったが
深く考えずに自分の部屋に向かおうとした。
が、
テーブルの上に置いてあったルーズリーフを見て
胸がざわつく。
慌てて寝ているタクミの手首を確認する。
昔、
女にフラれた日の事だ。
タクミはもう死にたいと
ルーズリーフに書いて
カッターナイフで腕を切って倒れていたことがある。
今のタクミはただ寝ているだけのようだったが
念のため何か飲んでいないか
周辺やごみ箱を探すと
ぐちゃぐちゃに丸められたルーズリーフが出てきた。
幸い、
薬のようなものは見つからなかったようで
ツカサは胸をなでおろした。
タバコをくわえながら
ルーズリーフの
ハルカは自分の事が…
という同じような文面を読み始める。
「あーあ、大丈夫かよ」
ツカサは大きなため息をついた。
たぶん、タクミは起きている。
さっき腕を見たときに結構動かしたから、
眠りが浅いタクミなら目を覚ますだろうとツカサは思った。
「話す気にもならないの?」
返事はない。
ツカサは弟の心の闇がどんなものか
理解できないでいた。
自分と同じ境遇で生きてきたのに、
感じ方は全く違う。
それは人だからその通りなのだろう。
双子は意思が通じ合うとよく言われるが、
そんなことはない。
ツカサは楽観的
タクミはその反対、悲観的に物事を見る傾向があった。
だからといって、お互い敵対することはなく
楽しい時はツカサがぐいぐい引っ張っていく。
慎重にいかなければならないときはタクミが前に立つ。
お互い助けあって生きてきた。
だから、
ツカサはタクミが自殺未遂をしたときは
一体何がそこまでタクミを追い詰めるのか聞いてみたものの、
しっかりとした返事は帰ってこなかった。
いや、
しっかりとした返事ができなかったのかもしれない。
ツカサは、その原因が自分にもあるのではないかと
双子のカンで思った。
ツカサはいいよな、と
タクミはよく言う。
確かに。
自分には、これからやりたいこともたくさんあるし
別に女に振られるのもそこまで辛くない。
楽しい。
人も集まってくる。
タクミはそんな自分と、いつも比べられて生きていた。
これが逆だったらどうだろう。
ツカサは考えた。
考えたが、自分はタクミではないから何の答えも見つからない。
自分にそんな双子の兄がいたとしても、
ツカサは自分は自分だと思って楽しく生きていくだろう。
だからツカサはタクミと一緒にいて
その暗い闇を取り払う何かになれればいいと思っていた。
「おい、息してるか?
なんか食うか?」
ズズ、
と、鼻をすする音がした。
「ま、好きなだけ泣けばいい。
明日おまえの顔がパンパンに腫れたら
それを写真にとって一生笑ってやるよ」
そう言ってツカサはタクミの頭に優しく手を乗せた。
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