鬱の正体

ヤスハルの話によると、

二人がもう一度付き合い始めたのは

ヤスハルが高校1年になってすぐだという。

タクミは高校3年だ。


3年になってすぐの時は

まだハルカなんて知らない。

スーパーのバイトに明け暮れていた時期だ。

中学の時に

短い間しか付き合うことができなかったのは、

お互いが離れていたから。

自分がまだ子供すぎたから。

自分が中学生で、親元から離れて自立していないからと

そう思ったヤスハルは、

ハルカが通うこの大学の付属高校に入学。


そうしてもう一度、彼女に近づいた。

二人はもう一度

彼氏と彼女になったそうだ。

その数か月後に、タクミとハルカは付き合うことになる。


「タクミさんの事は去年の夏くらいから遊んでる友達だって。

 かっこいいから、俺と別れて付き合いたいって言ってたので」


「それを言われたのはいつ?」


「冬くらいです。

 それからはめちゃくちゃハルカさんにつくして

 嫌われないように頑張ったんですが……

 もう一人彼氏がいることがわかりました。

 タクミさん以外の彼氏です」


タクミは耳を疑った。

自分以外の彼氏のヤスハルという存在。

プラスもう一人。

今まで散々浮気をされてきたタクミだったが

三股という新記録ができた。



ヤスハルはもう一人の彼氏を調べ上げていた。

今年高校に入学した

ハルカが家庭教師で勉強を教えていた人だという。

どうゆうことだと

ヤスハルはハルカを問い詰めたが、

あんたに関係ないでしょと言われただけだったそうだ。


それより今は

タクミと付き合いたいから

邪魔だからもう家に来ないでと。


「俺、ハルカさんの事本当に好きだったので

 いつか振り向いてくれると思って

 家事もしたしお金も貸しました。

 でも、ハルカさんは、

 もっと尽くしてくれそうな人が見つかったからもう来ないでって。

 その人には俺がしつこいからなかなか別れられないって言ってるって」


それがタクミさんです。


ヤスハルは最後にそう言った。


「そんな事、なんでわざわざ言いに来た?」


「これから付き合うなら

 俺と同じ事をされないようにと思って」


「俺への報復か?」


「そんなんじゃないです。 

 俺がしつこいから別れられないって相手に言ってるって、ハルカが言ってたんで……」


謝ろうと思って、と。

たぶんそう言っただろう。

もう、何の言葉も入ってこなかった。


自分以外の男にハルカと呼び捨てをされるのが腹立たしい。



タクミはこの話を聞いて

塾講師のバイトなんて嘘だと思った。


その時間は

ヤスハルと過ごしていた時間なんだろう。

それか、そのもう一人の彼氏と。

思い返すと不審な点がたくさん出てくる。



「迷惑だ!」


それからどうしたかタクミは覚えていない。

ショルダーバックを背負っていたから

いったんロッカーに戻ったんだろう。

タクミは涙を流しながら学校を出ていた。


女の子みたいだから泣くのやめて?

いつかのケンカの時に言われたっけ。

でも、この感情はどうすればいいのか。


自分の感情を言葉にしようとすると、一緒に涙が出てくる

声が震える。

この感情は、物に当たり散らして治まるものではない。


少しずつ、

体のどこかに蓄積して、いつか自分自身を壊してしまうような恐ろしいものだ。


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