3度目の夏
学校が始まった。
タクミは、ハルカが自分から離れていった理由は
タクミが不真面目だからだというツカサとシンヤの言った事を信じて、
バイトの日数を減らして学校に通うようになった。
2年生になり、新しい教科も増えて、校内でハルカに会うこともある。
会えば仲良く話をする二人。
忙しくてごめんね、
今度いつ遊べるの?
そうして
貴重な時間をやりくりしてハルカとデートをする。
デートと言っても、会ってご飯を食べて、ハルカの家に泊まる。
ほとんど同じことの繰り返しだ。
旅行に誘っても、
塾が忙しいと断られる。
付き合いたての頃は、
ハルカの車でいろいろなところに出掛けたのに。
高3の夏は、今までの人生で一番楽しかった。
まだそんなに長く生きていないけど。
高3のクリスマスも幸せだった。
初めてのクリスマス。
タクミはハルカにペアリングをプレゼントして、
結婚式の練習だねと、二人で指輪を左手の薬指につけあった。
タクミはそんな幸せが
これからずっと続くのだと思っていた。
冬が明け、大学に合格して、付き合って1周年の日。
付き合ったあの日の
流れ星がたくさん流れていた空は
梅雨が明けきらずに土砂降りで。
ケーキを買ってハルカのアパートに行くと、
出迎えた彼女はタクミにこう言った。
『タクミって、そういうの気にするタイプだったんだ。
忙しくて忘れてた』
レポートが終わらないから今日は帰ってと、
あっさりアパートのドアを閉められた。
そのあたりから、二人の関係はすれ違い始め、
夏は夏期講習の合宿でほぼ会えず。
寂しさを埋めるためにたくさんシフトを入れたカラオケのバイトが思いのほか楽しくて
雪が降るころには、ハルカと車でデートをすることはなくなっていた。
2回目のクリスマスはカラオケの夜勤明けで。
ハルカには夜に会いに行こうと
昼寝をしているタクミの元に宅配便が届いた。
送り主はハルカ。
塾の冬期合宿で会えないから
プレゼントを贈りますという手紙付きで
大きめの段ボール箱には、小型のファンヒーターが入っていた。
前から部屋が寒いからほしいとは言っていたが……
タクミのバイト代約1か月分をつぎ込んだブランド物のアクセサリーは
大みそかにハルカの手に渡った。
なかなか会えないのはつらかった。
もっと一緒にいたいとケンカになった。
そのたびに、タクミは女々しいねと、冷ややかな言葉を浴びる。
それでも、
楽しかった時の思い出は消えなかった。
またいつかあんな風に笑えるんだと思って
大学2年になり、迎えた記念日はハルカと一緒ではなく
カラオケ店のバイト仲間と過ごした。
去年のような、悲しい思いはしなくて済んだが
家に帰ってからの一人の時間がつらい。
タクミは今、高3の夏に人生の楽しいことを
すべて使い果たしてしまったんじゃないかと思うくらい荒んでいる。
そうして梅雨が明けて
セミが鳴き始めた頃。
その日がやってきた。
「めんどくせぇな。
なんでバイトするのに書類出さなきゃないんだよ」
「お前さぁ、
1年のはじめの方に言われたじゃん?無許可だと最悪停学処分だって」
「大学にも停学なんてあるの?俺そん時学校に来てたのか?」
タクミはリョウタと一緒に学生課に向かっていた。
リョウタは
タクミたちの学年で一番頭が良い。
大学にもトップの成績で入学したらしく
入学式では入学生代表であいさつをした人物だ。
そんな優等生が
タクミのような落ちこぼれと付き合うことを
教師たちは良く思っていなかったが、リョウタは特に気にしていないようだった。
頭が良いせいか
物の言い回しに少し癖があって、リョウタを嫌う人もいる。
タクミも思いっきりイヤミを言われて
1年生の頃は
本気で殴ってやろうかと思うことが何度もあったが
今ではお互い本音をぶつけられる仲になった。
2年になって
タクミが適当に選んだ選択科目が
すべてリョウタとかぶっていたこともあり
学校ではほぼ一緒に行動している。
今日はタクミが学校に無許可でバイトをしているということが
リョウタにばれて、
グダグダ説教をされた末に今すぐ学校の許可をもらうかバイトを辞めろと言われ
学生課に連れられてきたのだ。
タクミの通う大学にはかなり細かい校則があった。
どれもこれも勉強に関係ないものは排除せよという内容で、
アルバイトもその一つらしい。
学校にどんな理由でバイトをするのか
どこで、何時まで、どんな仕事をするのか
細かく紙に書いて提出して、
許可が出た人のみアルバイトが許可される。
もちろん
成績が下がれば即刻バイトを辞めなければならないし
無許可でバイトをしているのが見つかれば
厳しい罰があるらしい。
「罰って。
成績が下がって苦労するのは自分でしょ?
なんでそんな事まで学校に管理されなくちゃないんだよー
大学ってもっと自由じゃないのかよ」
「ここは私立の大学だ。
頭が良いやつしか入れない全国的に有名な学科もあるけど
金さえ払えばバカでも入れる学科もある。
そんなバカのせいで学校の評判を落としたくないんだろ」
「俺はちゃんと受験して合格したからな。
頭がいいやつしか入れない方に」
「だったらもう少し理解しろ。
その頭を無駄遣いするな」
タクミとリョウタは
学生課の向かい側にある学食の前にいた。
今はちょうど昼休みで
学食は食券を買う自販機の前に長蛇の列ができている。
ついでに昼ご飯を食べようと思っていた二人は
混雑が収まるまで
学食の前にある「知恵の広場」と名前が付けられたスペースで暇をつぶすことにした。
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