その計画は水面下で進む

「てかさぁー

 お前最近どうした?悲しい事でもあったのかよ」

そんなことを言われながら

タクミは思いっきりツカサに背中をたたかれていた。


この飲み会は月に一回開催される定例会のようなものだった。

場所は、ツカサとタクミが住むアパート。

メンバーは家主のツカサとタクミ、幼馴染で二人の親友のシンヤ。


たった3人だけでしかも三分の二が兄弟で

飲み会といえる会なのかどうかはわからないが

とりあえず、月に一回は三人で顔を合わせて日頃の鬱憤を晴らすのだ。


というのも、三人は高校を卒業してタクミはそのまま大学に進学。

ツカサはホスト。

シンヤは高校のころからバイトをしていた服屋に就職。

あっという間に三人はバラバラになり、

気が付くとタクミは

楽しいことなど一つもない

つまらない生活がダラダラと続いていた。



高校を卒業したての頃はよかった。


タクミたちが母親と住んでいたマンションは

母親が買い取って新しく立て直すことになった。

タクミたち兄弟は二人で家を出ることにり、

手ごろなアパートを二人で借りて生活をしている。

母親という負荷がなくなり、タクミもだいぶ家事が楽になったし

ハルカとも楽しく付き合っていた。


しかし、それも一瞬の事。

大学に入って周りを見渡せば


教師を目指している人

国家公務員の親の背中を追って必死で勉強している人

外国語を学ぶ人


みんな何かの目標に向かって勉強をしていた。

ハルカと同じ学校に通いたいという理由だけで

この大学に進学したタクミに将来の目標など何もない。


その肝心のハルカも、

数学の教師になるという目標に向けて

日々勉強と家庭教師のバイト。

それに加えて塾講師のバイトまで始めた。

タクミは暇をもてあまし、

スーパーのバイトを辞めて、より自給の良い

深夜のカラオケ店でバイトをはじめていた。


そのカラオケ店の店長の紹介で、店長が昔

とても世話になったというライブハウスの仕事も手伝う事になり

昼夜逆転の生活が続いている。


時間がたつにつれてハルカと遊ぶ機会も減り、

大学の勉強もだんだん分からなくなってきた。

始めはハルカに教えてもらいながら、

まじめに授業を受けていたりしたタクミだったが

今までのクセが急に直るわけがない。


授業中に寝るのは当たり前。

遅刻で授業の部屋に入れてもらえなかったり、

レポートの提出が遅れてテストを受ける権利をもらえなかったり。


成績はどんどん下がり、留年スレスレのところで進学できた。

あさってから大学2年の生活が始まるが、

正直、タクミは学校に行く気がしなかった。


日々の生活がつまらないのはどうやらタクミだけのようで、

ツカサは今ホストクラブで№1争いをしているし

シンヤは服屋の仕事が楽しくて楽しくてしょうがないらしい。



「それで、俺は確信したんだ……

 こいつ、俺の事が好きなんだって。

 男だよ?オレも相手も。

 でも最高のお客さんだし、友達だし、服のセンスも俺好みだし」


「で?キスでもされた?抱きしめられた?」


「いやー

 昼間のお客さんがたくさんいる服屋の真ん中だったから

 何にもないけどさ、ねぇ、俺どうしたらいい?」


タクミは

ツカサとシンヤの楽しそうな会話を聞いているのかいないのか。

いつもならハルカが遊んでくれないとか、

バイトの愚痴を延々と話すはずなのに今日はとても静かだった。


「じゃ、この中で彼女がいるのはタクミだけだから参考意見を聞こう!」


「てか聞いてた?」


「聞いてるよー。彼女はいるけど

 最近遊んでないから特にないよ、参考になる事なんて」


タクミはそれまで手にしていた缶ビールをテーブルに置いて

大きなため息をついた。


「あー。学校行きたくねぇ」


「何だそれ、

 おまえ結構必死に受験勉強してたくせに」


「そうだけどさぁ、今は行っても楽しくない。

 勉強もわかんないし、眠い」


「でも、ギリギリ進学できたんだから。

 バイトの数減らせよ。

 とりあえず大学出て

 いいとこに就職して、ハルカさんと結婚して安定した暮らしをしろ。

 そんで俺らがいつか金に困ったときに助けてくれ」


それからしばらく

ツカサは理想の将来像を話し続けた。

タクミもシンヤも、そのバカげた話のおかげでたくさん笑い

一瞬、

今の自分を忘れることができる。


酔いつぶれた二人に毛布をかけてやりながら

タクミは二人の存在に感謝した。

ケータイにはメールも着信もない。

今日もタクミは、ハルカのバイトが終わる時間に電話をかけたが

留守電につながっただけだ。

これで何日目だろうか。

最近は出れなくてごめんねというメールすら来ない。

こんなケータイなんてなくなればいいのに。

タクミはそう思いながら

ソファーに横になった。

 

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