30.大好きなお兄ちゃんへ(Side:リリシェラ)

 私が意を決して発した言葉。

「……いつまで……兄と妹でいるつもり?」


 ごめんね、お兄ちゃん。

 お兄ちゃんを苦しめる為だけに言った言葉じゃないんだ。半分はブラコンだった私自身にも向けた言葉。

 好き、好き、好き、大好き!

 そんな気持ちで溢れているのに、もう一歩踏み出せていない私自身に対する問いかけ。


「俺は……」

 目の前に居る大好きな人は、私の問いに何て答えようか迷い困っている。


 そう、私にはお兄ちゃんが答えに詰まるって分かってた。


 でも私の事を何よりも一番大事に思ってくれているって知ってる。それが「妹だから」でもいい。だからお兄ちゃんの答えが「兄と妹」でもいいんだ。困らせてごめんね。

 私はきっとその優しさに甘えているんだと思う。


 それでも私の中では区切りをつけたい。

 お兄ちゃんは私が悩んでいると絶対に助けてくれた。泣いている時にはいつも慰めてくれた。

 そんなお兄ちゃんが大好き。

 好きじゃ止まらない。愛してる。そう、愛してるって言葉がようやく分かるようになった気がする。言葉にできないけど、家族の愛情だけじゃない。ううん、全部含んでの愛してるかな。

 だからもっともっと近くに居たい。手を繋いだって、腕を組んだって、足りない。もっともっと……って。


 私が理紗でいたとき思った。

 どうして好きな人がお兄ちゃんなんだろうって。

 その反面、誰より近くに居られる妹で良かったって、思う自分が居て。悲しいけどいつかきっと知らない誰かが現れて、お兄ちゃんを私から奪っていくんだって思ってた。でも……あの日のせいで、その時は訪れなかった。

 あの日で理紗と由基弥は終わったはず。


 そう、私はリリシェラ。ここからは私も「お兄ちゃん」じゃダメなんだ。


「ユーキア……」

 今まででと同じように名前を呼んだつもりなのに、何故か今までで一番恥ずかしい。私、変に意識しすぎておかしくなってるんだ。

 いや、まてまて落ち着け私。まずは息を大きく吸って……。と、私が動揺しまくって息を整えきれないうちに……。


『いつまでも理紗じゃないんだもんな、今は別々に生まれたただの幼馴染……』

 絞り出すように出したユーキアの声……ううん、少し寂しそうなお兄ちゃんの言葉。


「もう十年以上も前からそうなのにな。でも……、ただの幼馴染って割りきってしまうと大事な繋がりが消えるみたいな気がして……」

 言っている事は分かる。分かるからこそ、辛い部分もある。……けどね。


「消えないよ……。心の中にはちゃんと前の思い出もあるし、それも含めて二人は生きていくんでしょ。だから、ただの幼馴染じゃないよ。今は血は繋がっていないけど、それでも誰よりも一番近い存在だと思ってる」


「……そうだな」

 そう答えたユーキアはどこかすっきりした顔をしていた。


「本当はそういうのは俺から言わなきゃいけないのにな、ゴメン……。これからは俺にとって一番大事な幼馴染だ。情けないけど、そう割り切って初めて言える事もある。……俺はリリシェラの事がきっとす……」

「なーにをふたりでイチャついてやがるんですか! コラァッ!」

 兄ではなく、ユーキアとしての言葉……は、見事に止められた。


「あ……。ミューリナちゃん……」

 この重要なタイミングで登場するあたりは、もうさすがとしか言いようがない。何か電波でもキャッチしてるのかって程だよ。

 彼女は少しプンプンコラコラお怒りのご様子。私達が一緒だからってだけじゃなくて、自分だけ幼年部だからっていうのもあるのかな。

 自分の居ない間に仲良くするなってとこだろうなぁ。うん、あとでヨシヨシなでなでしてあげようか。


 でも、ユーキアとして何を言い掛けたのか。聞きそびれたのは残念だけど、長年共にしたからこそ言おうとしてた事が分かる気がする。それは……いやいや、自意識過剰かな。

 続きは本人の口から聞けるのを待ちますか。


 だから私も言ってあげない。

「ずっと前から大好きだよ」って言葉。


 そういうのは男から言わせるもんだ、って高校時代に友達に力説された記憶があるしね。

「お兄ちゃん」からは決して聞くことの出来なかった言葉だけど、期待してもいいよね「ユーキア」になら……さ。

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