5.爆弾発言?

 季節は巡って、俺とリリシェラが九歳になり学舎に入る準備を始めた頃、我が家に家族が一人増えた。

 妹が生まれたのである。

 今度は俺と血の繋がった妹ということになる。彼女はシエスと名付けられた。

 母の妊娠が発覚以降、俺は出産直前まで弟の誕生を願ったのだが、それは叶わなかった。落胆はしたものの、生まれてきた妹に罪は無い。顔を見た途端に、抱いていた願望の事などどうでも良くなっていた。


 だがここまでくると、俺の妹運って何なんだろうかと疑問に思えてくる。

 幼馴染(元妹)に、上の妹(義妹)、そして下の妹(実妹)。それぞれみんなと仲良くやるつもりではいる。とはいえ何だかもう状況的には、増えるなら姉でも嬉しい気がしてきた。


 だが、ひとつ文句が言いたい。

 ここまできて、他に近くに可愛い女の子が居ないという状況、どうなのさ。前世に続き、彼女なし人生爆死決定じゃないですかね?


 とまあ、俺の愚痴はさておき。


 リリシェラと俺は……。まあ、うまくやっている。

 あの日以降も彼女の態度は大して変わらなかったので、やはりアレは悪戯だったんだろうと思っている。……いや、変わらないと言っても、「以前と変わらず色々とちょっかいをかけてくる」という意味でだ。

 理紗だった当時から変わらない行動なのだが、今は兄妹ではでなくなった二人のやりとりは、傍目からはどう見えるのだろうか、と気にはしている。

 向こうにはそういう事を一切気にする様子は無いので、普通の幼馴染ってどんなだったろう、と俺は思い悩むようになってきた。


 そんな俺とリリシェラのやりとりに、時々やっかんだ様に、ミューリナが挟まってくるようになった。


 ミューリナも我が家に来た当初こそ、怯えたり寂しそうにしていたのだが、今ではすっかり打ち解けて、しっかりと大事な家族の一員になっている。余計なお世話かもしれないが、兄としてはシエスが誕生したことで、長女としての自覚が出てくれたらいいな、なんて思っている。


 そのミューリナが我が家に早期に馴染んだのは、多分リリシェラのおかげだろう。

 リリシェラは事あるごとに理由をつけては我が家にやってきて、一緒に食事をしたり泊まっていったりしている。ちなみに泊まるのは子供部屋で、ミューリナのベッドを女二人で使用している。

 おかげでミューリナもリリシェラとは大の仲良しになり、兄そっちのけでそっちが実の姉妹なんじゃないかと思う時もある程だ。


 そんな彼女が最近、俺の事を「兄様にいさま」と呼ぶようになったんだが、どういう心境の変化だろうか。


 などと思っていたら。

 ある日遊びに来ていたリリシェラが、夕方になり自宅に帰った後の事だった。俺が自室で本を読み始めた所に、ミューリナがやってきた。

「兄様」

「ん?」

「……あの、……その、私が……」

 何やら顔を赤くしながら、言い辛そうにもじもじしている。

 その愛らしい姿に俺も少しニヤリとする。見ているだけでも、彼女は十分な癒し要素だ。

「なに?」

「……あの……、私が……大きくなったら……、兄様……の……お嫁さん……に……して下さい……」

「え?」

 まさかの爆弾発言に俺は一瞬固まる。だが、動揺しながらも、俺は無理矢理平静を装った。本を持つ手が震えているのは、彼女には気付かれてはいないはずだった。

 混乱する頭で、今の言葉をもう一度再生する。うん、分かった。ミューリナは実妹じゃないから、きっと問題ないよな……って違う、そうじゃない!

 今のは幼少期にありがちな、「将来お嫁さんにして下さい」発言だよな。成長したら黒歴史になっちゃうような。きっとそうだ、そうに違いない。

 自分を納得させつつ、ミューリナの顔を見る。

「……はっ!」

 ミューリナは顔を真っ赤にすると、すぐに両手で覆い、部屋から走って出て行った。


 な、ん、だ、その、反応、は!

「おーい、ミューリナさん?」

 おい、俺、滅茶苦茶動揺しているぞ。何だあれ……、と思った瞬間に原因が分かった気がした。


 リリシェラ、何か吹き込んだな!

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