3.新しい妹

 物凄いクソゲー世界に放り込まれた気がしてならない。罰ゲームに近いぞ。

 何だか俺、前世の妹萌えの連中に、嫉妬されそうな状況に陥ってないか?

 確かに、理紗には「大きくなったら、お兄ちゃんのお嫁さんになる」って言われたことがあるがな、それはただのお約束のネタだろう?

 今もどう接したらいいか分からないのに、もう一人増えるってなんだよ。


 ぶつぶつとつぶやきながら表に出ると、隣の家の庭で遊んでいたリリシェラに呼び止められた。

『何ぶつぶつ言ってるの、気持ち悪い』

 中身の方が出た。頼むから、その美少女顔で毒を吐くのは止めてくれ。

「いや、どうも俺に妹が出来たらしいんだ」

「は?」

 眉間にしわを寄せ、言っている意味が分からないとばかりに睨む。

「それそれ、そういう反応になるよな」

 俺と同じような反応をする彼女の様子に、思わず笑みがこぼれる。

「馬鹿にしてる?」

『いや、聞いたときの反応が俺と同じだったから、流石は元兄妹だと思ってな』

 一応、元兄妹だというのを他人に聞かれると困るので、こっちの言葉では言えない。


 ふん、と鼻を鳴らすと、リリシェラは普段の表情に戻る。

「で、どういうこと?」

「ああ、何でも俺の従兄妹にあたる娘が引き取られてくるんだとさ」

「ほうほう」

 意外な反応だった。

 柵に手をかけ、身を乗り出すように話をせがむ。同じ年頃の娘が来れば、友達が増えるかも、程度の考えなんだろう。

「で、いつ来るの?」

「明日だと」

「ふぅ~ん、いい子だといいねえ」

 リリシェラはニヤリと笑う。意味ありげなその笑みに、若干不安を覚える。

 あれ、そういや、理紗って彼氏いたっけ? もしかして百合の気があるんじゃあるまいな。と、聞く訳にもいかず……。

「そうだな。できれば仲良くしてやってくれ」

「了解っ!」

 どのみち可愛い娘が来たとしても、妹になるわけだし、俺的にはちっともオイシイ話ではない。

 リリシェラは見ているだけなら目の保養になるが、中身がアレだし。

 どこかから妹属性の無い、普通の可愛い女の子がやってきてくれないものか。


「そういえば来年このあたりに学舎が出来るって聞いたけど、ユーキアは行くの?」

「ああ、俺たちみたいな地方役人の子供は、将来の為に行かなきゃ駄目だろうな」

「あ、やっぱりウチと同じかぁ」

 そう、規模は小さいが、来年から小学校的なものができると決まった。国営事業的なものらしいが、ここの領主は随分と受け入れを渋ったらしい。

 高校生だった俺達にとってみれば、初等教育なんて大したものではない。地球と酷似した自然環境だけに、文字と数字が読めれば大して困る事はないだろう。

「そん時はよろしくな」

「はいはい」

 手を出して軽くタッチで挨拶を交わす。これは由基弥と理紗だったときからの兄妹の習慣。


 そして翌日。


 父に連れられ、同い年くらいの女の子が我が家にやってきた。

 流石に血縁者らしく、俺や父と同じ、濃茶の瞳に茶色の髪。家族に入っても全く違和感がない。可愛らしい顔をした娘で、年は俺よりひとつ下という事だった。

 見知らぬ場所に連れて来られ、初めて見る俺と、母と知らない家に戸惑いながら、少々おどおどした様子で父の陰に隠れた。このまま父に紹介されたとしても、怯えたまま出てきそうにない。

 ちょうとその時だった。

 後ろからリリシェラが現れた。

「こんにちは、妹さんが来るって聞いてたので、来ちゃいました」

 含み笑いをする姿が、理紗が悪巧みする様子と被って見えた。

(ろくな事考えちゃいないな……)

 思うが口にはしない。というか、この状況では言えない。

「いらっしゃい、リリシェラ……」

 わざとらしくとも、とりあえずは言っておく。それを受けて、彼女は俺に向かってウインクしてみせる。何だろう、嫌な予感しかしない。


「私は隣の家のリリシェラ。あなたのお名前は?」

 新しくやってきた俺の妹の顔を覗き込み、ニッと笑う。

「……ミューリナ……」

「うん、よろしくね、ミューリナ!」

 そう言うと、リリシェラは不意打ちのように、ミューリナの頬に挨拶代わりのキスをする。


 やっぱりそっちなのか、理紗っ!

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