2.「まあいい」ってそれでいいのか?
有り得ないような意外な事実を知った理紗……いやリリシェラは、叫んだあとしばらく天を仰ぎ、沈黙した。そして、ようやく口を開いたと思ったら、出てきた言葉は「ま、いっか……」というものだった。
何が「まあいい」なのか、俺には全く理解できないし、何を考えているのか読めない。元々、理紗は兄の俺から見ても、何を考えているのか分からない所があった。
今世は他人とは言え、基本の思考回路は同じはず。聞いたところで答えないのは分かっている。俺は彼女に気付かれないように、小さくため息をついた。
あの時、妹が生き残れなかった事を残念に思う気持ちと、すぐ身近に居るという安心感とに挟まれ、俺の頭の中はごちゃごちゃになっている。
もちろん、兄妹揃って死んでしまい、残してきた両親に申し訳ないという気持ちも有る訳だが。
「二人して死んで、親を残してきちまったのか」
「そうだね、死ぬ直前にお兄ちゃんの声が聞こえたから、死んだのは私一人だと思ってたんだけどねぇ……」
少し寂しそうな顔をする。理紗なりに思うところがあるのだろう。
「……うん、まあ、なんというか、これからもよろしく」
頑張って捻り出した言葉がこれだった。上手い事を言えず我ながら情け無いと思う。
「よろしくね、お兄ちゃん」
差し出した俺の手をとり、笑顔を向ける理紗……もといリリシェラ。何はともあれ、先が思いやられる状況になったものだ。
少なくとも俺にとっては、ただの幼馴染よりも、重要度は確実に跳ね上がったのは間違いない。
一緒に死なせてしまった妹を今度は守らなければ、という思い。やはり兄としての責任が有るんだろうなと考えてしまう。
だが、これで俺の「美人の幼馴染恋人化計画」は暗礁に乗り上げてしまった。
いや倫理的には問題ないし、法的には一切問題がないはず。でも、中身が元実妹だと思うと、手は出せないよなぁ。うん、それ以前に、これからどう接したらいいのか全く分からない。妹なのか、ただの幼馴染なのか。
俺の気持ちを知ってか知らずか、彼女の興味は先程までと同じように足元に咲く花へと移っていた。
悩んでいる俺はアホなんだろうか。
鼻歌混じりに歩くリリシェラの姿を見て、お前もちょっとは悩め、と頭を後ろから小突きたくなった。……あとが怖いからやらないけどな。
そんな衝撃的な出来事があってから、三年が過ぎた。
リリシェラとの関係は、意外にも良好なままである。違いが有るとすれば、それ以前まであった、彼女の俺に対する警戒の壁が無くなったという点だが、今度は兄妹という線引きを俺がしているような気がする。
いや、本当にどう接していいのか分からないのだ。未だに向こうがどういう考えを持っているかも分からないし。
単純に幼馴染として接していいのか、やっぱり兄妹なのか。
この日も、リリシェラと遊びに出掛け、距離感を測りかねて帰って来たのだが……。帰宅直後、父であるマルドーの言葉に驚かされた。
「ユーキア、お前に妹が出来たぞ。よろしく頼むな」
「え?」
突然の言葉に驚いた。母親は妊娠している様子も無かったので、今日明日で子供ができるはずもない。ましてや妊娠中なら「妹」などと性別が分かるはずもない。
混乱する俺の頭を父親は優しくなでると、説明を始めた。
聞けば、父の妹夫婦が流行り病で亡くなって、親のいなくなった一人娘を今まで祖父母が育ててきたが、うちで引き取る事になった、という事らしい。要するに従兄妹がやってくる、ということだ。
従兄妹とはいえ、会ったことの無い相手。
隣の家の「妹」で手一杯の状態なのに、血の繋がらない妹ができるって、俺どうしたらいいんでしょうね?
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