※001 家出娘が拾われるまで
※がついている話は結羽視点になります。
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もうどれくらい走っただろうか、家はとっくに見えなくなって、かなり弾んでいる自分の息と足音しか聞こえない。
周りは住宅街になっているのかたくさんの家があるけれど、まだ誰ともすれ違っていない。
いや、必死すぎて私が気づいていないだけかもしれないけど…。
「はぁ、はぁ…」
集中が途切れたことでアドレナリンの分泌が一気に少なくなり、今まで意識していなかった疲れがどっと押し寄せてきた。
「…少し、休もう」
体力を回復させるためにゆっくり歩いていると、小さな公園が見えてきた。
もう真っ暗なので公園に人は誰もいない。
…でも、そっちのがいい。
きっと今自分はひどい顔をしているだろうから。
「…さむい」
今までにないくらい全力で長い間走っていたせいでかいた汗が、冬の冷たく刺すような風で容赦なく冷やされる。
まるで私の居場所はもうどこにもないと残酷に告げるように――。
ひとまず公園のベンチに腰を下ろしたけれど、あてなんてどこにもない。
本当に、ここで死んじゃうのかな…。
そう思うと少し怖くなったけれど、よくよく考えてみればあんなところにいれば、近いうちに殺されていたかもしれない。
「…はやいか、おそいかの違い」
小さな声で呟いたはずなのに、やけにはっきりと耳に届いた。
もし、明日になっても生きてしまっていたら、死のう。
そう決めて、目を閉じようとしたときに、声が、聞こえた。
「ねえ、そこの君」
「…なに?」
いつも以上に冷たい声が、自分の口から飛び出た。
声の主を見ると、まだ若い20代くらいの男の人がいた。その顔に映っているのは単純な疑問。
まあいいかとその人と少し話した。
でも、不思議と今までほとんどの人に感じてきたはずの嫌悪感がない。
気がついたら、いろいろなことを話してしまっていた。
その人は最初は心配して私に話しかけてきてくれたみたいだったけれど、今はただ聞き役に徹してくれている。
場所も移動して、彼の家になっている。
落ち着いてから、なんで知らない人の家に転がり込んでるんだろうって思ったけれど、彼は追い出そうとはしなかった。
しかも、家に帰りたくないって言ったらここに住めばいいって。
私や家族が通報したら逮捕されてしまうかもしれないのに。
まあ、両親は私のことなんて探さないだろうし、私はそんな恩知らずなことはしないししたくない。
安心したからか、とめどめなく涙が溢れてきた。
もう泣かないって決めていたはずなのに、涙は止まってくれない。
ただ泣きじゃくっているしかできない私を、彼はなでなでしてくれた。
「…ん。お願い、します」
「うん。これからよろしくね」
彼が柔らかく微笑んだのをみたときに、心の奥からぽかぽかした暖かいなにかが溢れそうになった。
それが恋だと私が気づくのは、まだまだ先の話。
「私、ちょろいの、かな…?」
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