無口な家出娘、拾いました

みーにゃ

001 無口な家出娘、拾いました

前書き失礼します。

みなさんはじめまして。

みーにゃです。カクヨムはあまり使ったことがないので至らないところがたくさんあると思いますが、よろしくお願いします。


――――――――――――――――――――



「ふぃ~、今日も疲れたー」


季節は冬、雪でも降りそうなくらいに冷え込んでいる。

いつも通りの時間にいつも通りの道を歩いていると、近所の公園に誰かが座っているのが見えた。


「このクソ寒いのになんであんなとこに…」


見た感じ高校生くらいの女の子だろうか、艶のある黒い髪をショートカットにした小柄な子だった。

もうすぐ9時になるし、こんなところにいたら風邪ひくよな…。

あまり気乗りはしないけど、声かけるか…。


「ねえ、そこの君」


「…なに」


彼女は感情の起伏を感じさせない瞳でこちらを見た。しかも、かなり警戒されている。

まあ、仕方ないよね…。


「この季節の、しかもこんな時間にここにいたら危ないよ。風邪ひいちゃうかもしれないし」


「…放って、おいて」


「せめてどこか暖かいところに移動しなよ」


それだけ言って踵を返すと、彼女のほうから声をかけてきた。


「…なにも、聞かないんだ」


「聞いても、俺にはなにもできないからね」


「…そっか…。じゃあ、聞いて?」


「えっ…」


いや、なんでそうなる。

でも彼女の目はほんの少しだけ潤んでいるようにも見える。それにこのまま放っておくこともできないしな…。


「わかった。でも、ここだと風邪ひいちゃうから暖かいところ行こうか」


「…ん」


…で、どこいこうか。

この時間じゃやってる店は少ないし、俺の家に来てもらうわけにもいかないからな…。


「ごめん、どこかいい場所あるかな?」


「…考えてなかったの?」


ジトッとした目で呆れたように俺を見る彼女。

やめろ、そんな目で俺を見るなっ…!


「…面目ない」


「この時間じゃお店、やってない…」


「そうなんだよね…」


彼女はしばらく考え込んだあと、パッと顔をあげて、じっと俺のことを見つめてきた。


「えっと、どうしたの?」


「あなたの、家は…?」


爆弾発言きたよ。この子こういうとこ抜けてるのかな…。普通こんなこと言ったらなにされるかわかったもんじゃないのに。いや、俺はなにもしないよ?


「俺は大丈夫だけど、君が嫌でしょ?」


「別に…。悪い人じゃ、ないし…」


この子、あっさり騙されたりしないだろうか…。ちょっと将来が心配になってきた。


「わかった。君がいいなら」


「…ん」


コクンと頷くと俺のスーツの端をちょこんと摘まんで、見上げてきた。

か、かわええ…。

でもそういうことが目的ではないので気にしないようにして、家まで案内した。

…理性を保つのはすごく大変だった。


「着いたよ」


「…ん」


俺が住んでいるのはだいぶ古いアパートだ。

それでも生活に必要なものは揃ってるし、なにより家賃が安い。俺みたいに社会人の仲間入りをしたばかりの人間に優しい世界なのだ。


「ごめんね、狭くて」


「(フルフル)」


「最低限は、ね。お茶でいい?」


「(こくこく)」


寒いのでストーブをつけてキッチンで温かいお茶を入れて持っていく。


「はい。熱いから気をつけてね」


「…ありがと」


礼儀正しい子だな。敬語は使わないけど。

猫舌なのかちびちびと飲んでいる彼女にしばらくの間癒されながら、話し始めるのを待った。


「話して、いい…?」


「うん。俺のほうはいつでも大丈夫だよ」


それじゃあ…と彼女が話し始めた内容は、想像を絶するものだった――。






…私の家は、あまり裕福じゃなかった。何年か前に、夫婦喧嘩がもとでお父さんがどこかに行ってしまって、お母さんと二人だけの生活が始まったの。でも、お母さんは身体があまり強くないから、生活するのが精一杯な状態だった…。それで、だんだん荒れてきて…。

その頃に、お母さんは別の男の人と再婚したんだけど、その人が私に暴力を振るうようになってきた。最初は顔とか目立つところばかり狙ってきたけど、一度、児童相談所から人が来てからは服で隠れるところを執拗に殴ったり、蹴ったり…。

お母さんはずっと見てるだけ。学校でもいじめられたし、学費が払えないからって最終的に辞めさせられた。

昨日なんて、寝ているところを襲われかけた。だから、今日、逃げてきた。

あんな家にいるくらいなら死んだほうがいい。


でも、こんなにいろいろ言ったところで、またあの家に戻される。なら、悔しいけど、死ぬしかない。どうせあそこにいたら近いうちに殺される。


「そっか。大変だったんだね、俺が思っているより、ずっと…」


でも彼はそう言いながら私の頭を優しく撫でてくれた。目頭が一気に熱くなって、泣くまいとこらえていた涙がぽろぽろとこぼれ落ちる。

それから、私も耳を疑う言葉が彼の口から紡がれた。


「じゃあ、うちに住む?」


「えっ…?」


「もちろん、君さえよければだけどね」


ちょっとどころじゃなく動揺した。でも、迷惑じゃないかな…。


「俺からこの話をもってきてるんだから、迷惑だなんて思わなくてもいいよ。ただ、学校は通わせてあげられないと思う。ごめん」


申し訳なさそうに頭を下げる彼。

ここに住まわせてくれるだけでもありがたいのに、そんな贅沢は言わないし、言えない。それに私自身、今はあまり学校には行きたくない。


「ん。お願い、します…」


「わかった。これからよろしくね」


「…っ!」


なに、これ…。

心の奥のほうから、ぽかぽか、あったかいのが…。

こんなの、初めて…。


こうして、私は彼の家に居候することになった。

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