006 家出娘とおでかけ


前書き失礼します。あの東日本大震災から9年がたちました。

被災地の少しでも早い復興を心よりお祈りいたします。


―――――――――――――――――――――――――――――――――――――


気を取り直してファミレスに足を運ぶと、お昼どきを過ぎているとはいえ、席は空いていなかった。

ただ食べ終わる寸前の客も多く、比較的時間を置かずに席に案内された。


「結羽はなににするんだ?」


「これっ」


結羽が指差したのはスタンダードなハンバーグだった。ソースも定番のデミグラスソースにしていた。ド定番だな。

俺はあまり頼んだことのないカットステーキにしてみた。結羽はライスはいらないらしいから俺のぶんだけライスを頼んだ。


「…じーっ」


「ん、食うか?」


「(こくこく)」


ステーキを一切れソースにつけてから彼女の皿に移す。

…がそれだけではご不満のようだ。


「…ごはん、も」


「食わないんじゃなかったのか?」


「そんなにたくさんいらない、だけ…」


「…さいですか」


取り皿に彼女のご飯を盛りつけると、フォークに刺したハンバーグの欠片をこっちに差し出してきた。


「くれるのか?」


「ん。お礼」


「ありがとう。ここに置いて…」


「あーん、して…?」


「わ、わかった」


彼女の要望通り口を開けると、口の中にフォークがこわごわと入ってくる。

一思いにパクリとやると、結羽は少し驚いた表情を浮かべたけれど、すぐに少し照れくさそうにはにかんだ。


「おいしい?」


「うん。おいしいよ」


ふふっ、と柔らかく笑う彼女。

こんな笑いかたするんだな、と少し新鮮に思った。

今まで見た目より幼い感じの行動が多かっただけにちょっとグッときた。


「?どうしたの?」


「いや、結羽にもしてあげようかと思って」


フォークを結羽の口元に持っていくと、そのままぱくりと食べられた。


「あ、ずるいぞ。俺まだなにも言ってないだろ」


「はやいか、おそいかの違い、だよ…?」


「くっそ、なんも言い返せねぇ…」


どうだと言わんばかりにどや顔を決め込んできた。

悔しいから軽く頭を小突くと、てへっと舌を出した。

なんでいちいち可愛いんだよ…。


「ゆう、だから…?」


「それだと俺も入っちゃうんだよなぁ…」


「ゆーくんも、かわいい、よ…?」


「なんか、複雑だな…」


「むぅ。文句が多い…」


「ごめんて」


ぷいっと横を向いたまま、俺と目を合わせようとしない。

なら…


「ちょっとトイレ行ってくるな」


「……」


頑張って無視しているけれど、ちょっとぴくぴくしているのが可愛い。

普通にトイレいきたかったのもあるけど、やられっぱなしは嫌だから、少し多めに時間をつぶしてから彼女を驚かせてみようかな。

っていう不純な動機からの行動だったりする。


「ゆーくん、遅い…」


「…わっ」


「…ひゃっ!?」


やった、どっきり成功♪

なんてのんきに思っていたら、恨めしそうな目で結羽がこっちを見ていた。

やべ、やりすぎたかも。


「ゆーくん…?」


「…ハイ」


この後、ファミレスで見た目幼めの女の子に大の男が怒られているというかなり奇妙な構図が目撃されたとか。

あまりにも結羽の雰囲気がやばく、店員さんまでがたがた震えていたとかいないとか――。


結局あの後、デザートにパフェを献上することでなんとか宥めることに成功し、今は駅ビルに戻って結羽の携帯を買うために携帯ショップへと移動している。

結羽にそのことを伝えたら、俺と同じものがいいと言われたのでそれにする予定だ。

ちなみに色はピンクにするらしい。


「~♪」


さっきまであんなに不機嫌だったのに今は鼻歌まで歌っている。

こういうところはけっこう子供っぽいな、とよく思う。

最初はけっこう大人びた子なのかなって思ったけれど、本当はそんなことなくてとっても可愛らしいというか微笑ましいというか…。

それに、たまに見せてくれる少し大人っぽいしぐさもあって普段とのギャップにグッとくることも多い。

まだ一緒に暮らしはじめて数日なのに、彼女のいない生活が考えられなくなってしまっている。

いつか離れることになってしまうだろうし、そのことを考えたらあまり深い関係にならないほうがいいのかもしれないけれど…。


「えへへ…」


こんな顔で手をぎゅっとされたら、ね?

どう思うかくらいわかるよね?


「ゆーくん」


「ん、どうした?」


「…いろいろ、ありがと。…好きっ」


「おう」


好き、か…。どういう意味での好きなんだろうな…。

これからしばらくの間、この答えの出ない問いに頭を悩ませることになるのはまた別の話。

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