第一章:不幸の申し子(2)
高校の入学式に間に合うため早く出たはずの俺らは今日六個目になるダンジョン産の扉の前にいる。
「おいおい、マジかよ」
目の前に現れたエメラルドの扉を見て俺は黒の長髪を触りながら容姿とはかけ離れた言葉遣いで呟く。扉にはランクがあり、木造の扉、レンガの扉は低級クラスの怪物が作ったとされる扉、銅の扉、銀の扉は中級クラスの怪物が作った扉、金の扉、プラチナの扉は上級クラスの怪物が作ったとされる扉、エメラルドの扉、ルビーの扉は究極級クラスの怪物が作ったとされる扉である。一番最高クラスはダイアモンドの扉なのだがこれは完全にボス級の怪物が作った扉である。
「いつものことだと思うけど」
隣にいる同じく今日開けたばかりの制服が血で染まりボロボロになっている龍崎が眈々と言う。そして今目の前にあるエメラルドの扉は究極級クラスの怪物が作った扉で、集団で行くと適性Lv.80、個人で行くと適性Lv.95は必要になるダンジョンである。因みに一般男性の平均LvでLv60あるため、このエメラルドの扉を攻略するには冒険者と言う扉(ダンジョン)を攻略するだけを職業にしている人又はそのLvに匹敵する人を呼ぶ必要がある。普通はだけど。
「さて、どうするか」
「行くしかないと思うよ、どうせ遅刻するのは目に見えているんだしね」
ジド目にして相棒は諦めたように言った。歩く度に扉が現れ新品だった制服は怪物の血で染まり、怪物の攻撃によりボロボロったのである。ついでに腰には今まで攻略して来た五つの扉で得たボス級の怪物の首がぶら下がっている。
「だな、遅れるなら、とことん遅れるか」
隣にいる相棒とエメラルドの色をした扉に手を当てお互いを見た後頷き押す。ゴゴゴゴゴと言う音共に扉が開く。
「さて、今回はどんな所に繋がっているんだ」
中を見ると天然の石の洞窟のような通路が見える。通路が前に続いている所を見ると何処かの行き止まりだとわかる。
「これは…七十層あたりかな」
「そうだな」
世界中の地下にあるダンジョンは先人により国で進みは違うけれど、日本は九十層中部まで発見している。二十階層毎に内装は変わり、洞窟の様な見た目をしている階層は七十から八十層ら辺になる。一歩足を踏み込むとひんやりとした風が襲ってくる。それに相棒が反応する。
「訂正八十層の深部ら辺」
「そうなのか」
「うん、だって八十層の次って氷がメインのダンジョンでしょ、それにこんな寒い風、洞窟じゃ早々簡単に吹かないでしょ」
基本七十から八十層は洞窟なのであまり風は吹かない様になっている。しかし八十層の深部は氷のダンジョンとなっておりそこでは寒い風が吹き荒れていることを思い出し、今のがそこから来た風理解した。成る程なと頷き、中に入り相棒は鞄をドアの近くに置く。それから自身のバックの所でしゃがみバックを漁り手をこちらに向けて来る。
「携帯」
「はいはい」
ポケットから携帯を取り出し手渡す。相棒は鞄から窪みのある黒い機械を取り出し、携帯をその窪みに差し込み少し弄り始める。今俺の携帯をは嵌めている黒い機械は、MSE(map search edcation)と言い今まで行ったことのある地図とその時に攻略しようとしている地形を合わせて今何層にいるか調べる機械で、無い場合は扉で繋がった先の層から地上の距離で何層か割り当てる優れものである。
「ん、新しい所みたい」
携帯をずっと見ていた相棒が顔を上げ、黒い機械から携帯を抜き取り手渡してくる。
「層は?」
「見ればわかる」
渡された画面を見る。青いバックに白い道が一本だけ現れている、そして画面右上には先程相棒が予測した通り、八十層の深部である89層と書かれた文字があった。
「ボス前の層って考えれはいいのか、これは」
「うーん、そうかもね」
十層毎に一体いる巨大な怪物の事を俺らはボスと呼んでおり、彼らが作る扉がダイアモンドの色をしているのである。ま、そうそうそんな扉は出現しないけど。マップの機能を使いドアの位置に赤い丸でマーキングした後、相棒は地面に置いた鞄を手に持ち上げる。
「行くか」
「ちょっと待って」
声を掛けると右手で止められる。もう一度相棒は鞄を開け、へカートの弾倉を取り出す。それを腰に引っ掛け、鞄を閉める。
「後どのぐらい不意打ちはできそうだ」
「あと六回」
へカートを背負い直して相棒が答える。頷くと俺は腰に引っ掛けている剣を確認した後、自分を先頭にしてダンジョンの攻略を始める。少し歩くと十字路が現れた。前方の道は先に壁があり行き止まりになっている。顔を少し前に出しひだりとみぎを見るが特に怪物もいない普通の道だった。顔を引っ込めて左手を顎に持っていく。
「成る程、本当に行き止まりに作られたんだな…どうするここで敵の出方を待つか?」
「うーん…それも良い手だけど、印ありを見つける為に適当に狩ってけばいいってわけでも無しいね…」
印ありとは敵の頬に三日月に剣が刺さっている赤色の模様が浮かんでいる怪物の事を指す。赤模様を持っているのは扉が出現した階に一体のみいて、そいつを倒すとゴーンゴーンと鐘が鳴り、来た扉から出ると扉が勝手に消えてくれる。ただ層は広大なの物が多いので、下手に行動して印ありを外に出す訳にもいかない。そのため少人数の場合ドアの目の前で待ち伏せすることが多い。ただこれにも弱点はあり、ただ待ち伏せしているだけだと印を持った相手がいつ出て来てくれるのかわからないため長期戦になりやすい。かと言ってダンジョンを攻略しようとすると先程も述べた様に印ありが外に出る事を許しかねないのである。だが、今回は初めて来る層、次いつ行けるか分からないので攻略して今後の為にも地図を埋めときたいと言う気持ちもある。
「どうすべきか…」
「それはリーダーが決めて」
うーんと悩んでいるとキェェェェェ‼︎と言う声が複数個聞こえ、剣を持って鎧を身にまとっている蜥蜴の人型戦士ーリザードマン…それもその上位版である肌が白いエンシェントリザードマンが、壁になっている前の通路の右壁から三体現れる。どうやらそこに道が一本あるらしい。
ーさて、いるかな
こっちに来ているエンシェントリザードマンの頬を見る。だが一体も印ありではなかった。
「いないな」
「まぁそうでしょう、でもこれじゃ不意打ちもできない」
真っ正面から来たせいで隠れる暇も無かった相棒が残念そうに呟き、腰から小刀を取り出す。
「ちっ、面倒くせぇ」
剣を抜き応戦する構えを取る。
『キシャァァ!』
雄叫びを上げてエンシェントリザードマンの中の一体がこちらに洞窟の天井ギリギリの高さまでジャンプして、飛び込み攻撃を仕掛けて来る。
「相棒…」
「了解」
隣にいた相棒の姿がブレて風が起こり、空中にいたエンシェントリザードマンの横に相棒が現れる。
「遅い、そして何よりも弱い」
彼女が右手に持っていた小刀でエンシェントリザードマンの頭より上が吹き飛ばされていた。
「ひゅ〜流石〜」
落ちてきたエンシェントリザードマンだった物の血を浴びながら拍手をする。
「リーダーも仕事して」
へいへいと答えると剣を下に構える。右斜め前に相棒は着地し小刀を構えた。
「行くよ」
「了解」
残った二体に向かって突っ込む。最初に出た相棒が片方のエンシェントリザードマンを秒も掛からない内に倒す。瞬殺された仲間を見て驚いていた片割れをエンシェントリザードマンだった物の上を通り俺は襲う。
『キシャァ‼︎』
「はぁぁぁぁ」
エンシェントリザードマンは石の新品の剣…まぁダンジョン内で生成される自然武器(ネイチャーウエポン)を上で横に持ちこちらの剣を受け止めにはいる。
『キシャ⁉︎』
だが、ピキッと受け止めた石の剣にヒビが入り剣ごとエンシェントリザードマンを縦に真っ二つにする。ザバァァァと血が飛び出て返り血を喰らい、赤い制服をもっと赤くした。
「…戦い方が乱暴」
「ふ、それが俺だ」
お互いの腕を当て合い、お互いの自分の武器をしまう。それと同時にグニャっとエンシェントリザードマン達が倒れているダンジョンの地面がエンシェントリザードマン二体を中心にして蠢く。
「さ、何が来るかな」
「さぁな」
地面から手触みたいな物が出て来て、倒れているエンシェントリザードマン達に巻き付き地面に引きずり込む。エンシェントリザードマン達が完全に地面の中に引きずり込まれると、彼らがいた場所に彼らの加工された首が一つ、牙が四つそして爪が六本落ちていた。
「お、いい感じのドロップ品か」
「そうだね。首一個落ちたし」
相棒はしゃがみ、印あり以外だとレアドロップの首を手に持ち、それをバックの中に仕舞う。俺は残っていた素材を回収してバックの中に入れる。このダンジョンで得られるモンスターのドロップ品はざっくり分けて2種類に分けられている。一つ目は武器の強化、もう一つは嗜好品である。首はレアドロップと言う具体に入り主に嗜好品として使われる。
「まぁそれはそうと、攻略する?」
「そうだな、攻略したいのはしたいんだがな…」
考え事をしようとして扉の方に歩いて行こうと、一歩前に出た瞬間何かを踏む。
「え?」
一瞬合間が空いた後ズテンと転び、頭部を地面に強打してしまう。
「リーダー⁉︎」
余程打ち所が悪かったのか、脳震盪を起こし俺はすぐさま意識を失うのだった。
鉄壁の覇者 ノッキー @Nokiya0317
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