第一章:不幸の申し子

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一歩前に出ると百分の一の確率で不幸なことが起きる。例えばガムを踏むんだり、鳥の糞が落ちて来る。酷い時は車が突っ込んできたり、看板が落ちて来ることもある。確率の方はその場その時で変わるが、そんな人生を過ごして来た。そして俺……荒神 真也の朝の日課はベットから落ちることである。


「うは……あー朝か……」


昨日の深夜、蟹と戦ったせいで寝不足気味ではあるが、ベットから落ちた衝撃により起きる。カテーンの合間から来る光に当たりながら目が少しずつ覚めて行く。枕横に置いてあった携帯のアラームが鳴り立ち上がる。


「あージャストタイミング……」


時刻は午前四時四十五分アラームを設定した時間である。ガチャとドアが開き、同居させてもらっている家族の一人娘でセミロングの黒髪、紫色の目の少女ーー俺の相棒でもある竜崎陽野がドアを開けて顔だけを覗かせて来る。


「起きた?」


「あぁ起きたよ」


じゃ朝ご飯できているから着替えたら下に来てねとだけ言ってリュウはドアを閉め行ってしまった。寝ぼけた脳を働かしてクローゼットを開けて新品の制服上下を取り出す。それから寝間着を脱いで新品の制服に手を通して行く。通しながらも俺ははぁーと溜息を吐く。


「どうせすぐにボロボロになるんだろうな…」


自身の体に身に纏った新品の同様の制服を見ながらため息を付く。ベットの上に置いてある携帯、クローゼットの横に立てかけられていた護身用の剣、勉強をするための机の上に置いといた学校の指定の鞄を持って部屋から出る。部屋の目の前には俺と陽野が夜によく使っている二階のリビングルームがあり、茶机とクッションとテレビが置いてある。部屋を出てベランダに行くための通路を横切った後右側にある階段を使い下に降りようとしたが、途中で足を滑らせ頭から転げ落ちた。天と地が一回、二回逆さまになった後、背中から地面に落ちる。その間に手放してしまった剣と鞄が自分の上に落ちて来る。


「…………グフッ」


避けること無く全てお腹の上で受け止める。上半身を起き上がらせ、同時に太腿に鞄と剣が乗っかる。


「大丈夫?」


階段下の左側にあるダイニングルームとリビングに繋がる扉が開き相棒が首だけを出してこちらを見て来る。


「いつものことだから気にするな」


「まぁそうだけどね」


自分の太ももの上に乗っていた鞄と剣を手に持ち、リビング&ダイニングルームになっている部屋に入る。


「おはよー」


「ん、おはよー」


一階のリビングに置いてあるソファの所まで歩いて行き、ソファーの上に鞄を置き剣はソファに立て掛ける。剣の横には鞄と巨大なスナイパーライフル"へカートII"が同じく立て掛けてあり、それが陽野の副武器である。


「早くご飯食べちゃって」


その持ち主は今玄関へ行く扉がある側のダイニングテーブルの席で食事をとっている。はいよと答えると朝ご飯が置いてある席に歩いて行き座る。まだ眠気が取れておらず、体を動かすのが嫌だったため顎を机の上に付け皿の上にあったパンを手を使わずに食べ始める。


「…もがもぐもぐ」


「ちょっと行儀悪いからちゃんと食べなよ」


目の前で行儀良くパンを食べていた陽野がすぐさま注意して来る。


「あーうん、わかった」


流石に行儀悪いなと思い陽野に従い、両手を机の下から出す。それからパンを手で持って食べ始める。


「ごちそうさま」


パンを半分ぐらい食べ終わった頃に相棒は朝食を終える。椅子を引き陽野は立ち上がると、キッチンの方に行き台所にパンが乗っていた皿を置いた後、リビングの方に行き、へカートと鞄を回収する。


「じゃ、玄関で待ってるから」


と言いへカートを背負い陽野は玄関行きの扉の向こうに行ってしまった。少し食べるスピードを上げる。


「いっつ、舌噛んだ」


早く食べていたためか誤って舌を二、三回噛んでしまう。涙目になりながらも全て食べ終わる。皿を持ってキッチンに行き、皿を置いて荷物を回収してダイニングとリビングルームから外に出る。


「目覚めた?」


先に玄関に行っていた陽野が、腰に小刀、肩に対物用のスナイパーへカートⅡを装備している状態で靴置きの前で待っていてくれた。


「まぁな、舌を噛んだしな」


「それはご愁傷様」


ふっと笑みを浮かべている陽野を他所にリビングとダイニング部屋のドアを閉める。それから口の前に手をやり、ふぁぁぁと不意に来た欠伸をして歩き俺は玄関の所にある鏡の前に立つ。切りたくても切ることができず背中まで伸びた髪、黒眼で、俺を主語に使うにしては不自然過ぎる程顔は女性みたいに整っている自身の風貌を見て、はぁとため息を吐く。新品の男子の制服を着て、腰に剣を装備しているため、背は若干低いけど辛うじて男子だとわかる程度である。そしてよく女子と間違えられるこの頃……はぁやだなぁと思いながらも陽野の方を見る。


「ほら、早くしないと学校遅れるよ」


「そうだけどさぁ……どうせこんな早く行っても、どうせ遅刻待った無しなんだよなぁ……主に俺のスキルのせいで」


ポケットの中から携帯を取り出し時間を見る。現在の時間は午前五時、そして今日俺らは高校の入学式が八時半からある。なぜこの時間かって言うとちゃんとした理由がある。俺が所持している個人能力パーソナルスキルの中に"魔人の匙"オートスキル)と"幸運の吸収"(オートスキル)と言うのがある。前者は能力値運に関係なく不幸になる、常に発動。そして単独行動を取ると効力は上がる能力スキルで、後者は名の通り、他人といる時自身の幸運と他人の幸運が低くなり不幸な目に会いやすくなる能力スキルである


「だから、それらをなるべく無くす為に早く出るんでしょ」


「まぁ、そうなんだけどさぁ……」


この二つの能力(スキル)のせいなのか、かなりの高い確率で外を歩くとダンジョンの扉と遭遇する。普通だったら三日に一個遭遇するかしないかの確率なのだが、この二つの能力(スキル)お陰で一日に十個前後は余裕で扉が目の前に現れるのである。そのため普通の学生が出るような時間帯に出ると確実に扉と遭遇して遅れてしまうのである。


「不幸だ…なんで俺は生まれてきたんだ…」


「あまり自虐的なことは言わない」


靴を履いた陽野が両腕を腰に当てこちらを見てくる。それに対しそうだなと言いつつ一歩前に踏み出すーーー


ーズルッズテン、ゴンッ


ーーーが、玄関用のマットを踏んだ瞬間マットが何故か滑り、転び地面に後頭部を思いっきり当てる。


「はい、きたー」


倒れながら俺は朝の恒例となっている言葉を吐いた。普通の人だったらこの時点で痛いのなんの言い始めて転がるシーンなのだが、こんなこと日常茶飯事の俺にとっては正直に言うともう痛くも痒くもない。


「今日で何回目だ」


倒れた体の上半身だけを起き上がらせ頭を少しかく。それに対して相棒はため息をつき自分の方に飛んできたマットを片手に持ち大袈裟に両肩を上げる。


「確か私の家に同居し始めてからだから…二千四百五十三回目だよ、多分」


「そんなにずっこけてるのか」


先程も言ったけど今俺は陽野の家に同居している。両親はとある事件事故で共にもう既に死んでいるからだ。今は世間的に有名な攻略者で尚且つ懐が厚い陽野の両親に引き取ってもらい、陽野の家で先程も言ったように同居させてもらっている。苗字が違うのもそのせいである。


「つーか数えてるんだ」


「いつも聞いて来るからでしょ」


それもそうだなと答え立ち上がる。土間に下り自分の靴を履く。陽野はその間に玄関用のマットを引き直していた。


「さて、どのぐらい上がったかな」


右手首の所から手のひらに向かって指をスライドさせる。その動作により手首に嵌め込まれているマイクロチップのリング型NIGが反応して自身のステータス画面が右手の手のひらに表示される。目に付けているコンタクトと同期しており、現在は自分以外は不可視になっている。


「あ、経験値15上がったてた」


背景が青いステータス画面は上半分に自身の名前と自身の経験値の量とLvが表示され、下半分は九個あるステータスが九分割して表示されている。能力や特殊能力を見るためには再び同じ動作をすることによりページが捲られ鑑賞することができる。


「それもいつものことでしょ」


まぁなと言って手の平の先から手首に向かって左指をスライドさせる。そうすることによりニグを閉じることができる。


「さて、行きますか」


「そうだね」


マットを引き終わり、俺がニグを見ているうちにドアの前に立っていた陽野がドアノブに手を添えてからこちらを見る。


「一つ予言するけど私が開けたあとシンが出ようとした瞬間、風が思いっきり吹いてドアが閉まり出ようとしていた貴方を襲うよ」


「確率的には二分の一だな、俺はお前が鍵を開け忘れてそのままドアが開かずに激突すると読んだ」


お互い昔から不幸な事にあい過ぎて、不幸に慣れてしまい、先に起こることを予言し合う事も、たまにしている。それもお互い高確率でそれと同じことが起こる。


「まぁ、それはそうとしてだ、早く行こうか」


「そうだね」


催促すると相棒は頷き玄関のドアを開け先に外に出ようとするーーが本当に鍵を開け忘れていたのかドアに激突する。


「あうぅ…」


「言わんこっちゃない」


今度はきちんと鍵を開け相棒が外に出る。そのあとに続き玄関の枠を踏み越えた瞬間、急に突風が起こり開けたドアが勢い良く閉まる。


「ドボロ!?」


勿論そのドアは俺に当たり、鼻の頭を強打する。


「あ、私の予言も当たった」


「あぁ、ぞうだなぅぅ」


ドアを開け相棒が言い、俺は鼻の頭を抑えながらしゃがみ込み、目に涙を溜める。


「ドアに当たるのはやっぱ痛い」


「それは私も同じ」


立ち上がりドアを開けている相棒の顔を見ると鼻の頭が軽く赤くなっていた。


「大丈夫か?」


「そちらこそ」


外に出ると陽野がドアを閉めて鍵をかけた。歩いて道路に出る。背伸びし欠伸をした後隣に陽野が来る。


「今度こそ行こ」


あぁと答えて俺らは今日から通う学校"魄ノ宮高校"に登校するするのだった。

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