種とタネ
高梯子 旧弥
第1話
「兄貴! 見てくれよこれ!」
僕の部屋にノックもなしで入ってきた妹の
どうやらSNSに自分が撮った写真や動画を載せているようで、それが良い評価が得られたのを喜んでいるようだった。
「へー」
「いや、もっと感想ないの!? すごくない!?」
「まあ何の取り柄もない一般人にしては頑張ってると思うよ」
「辛辣じゃない!?」
感想を求められたから述べただけなのに、どこか不満気な湯女。
せっかくあんな楽しそうに僕に教えてくれたのにこれではいくら妹相手といえ失礼だと思い、もっと細かく観察する。
「うーん、この写真……良い天気だね」
「いや、別に天気を見てほしくて写真撮ってないから! それにどちらかと言えば曇ってて良い天気じゃないし!」
「良い天気ってのは必ずしも晴れた日のことじゃないんだぞ。個々人によって何が良い天気かは違うんだし」
「いきなり説教された!?」
なるほど、これでも駄目なのか。女心は難しいというが、そういうものなのだろうか。
ますます元気がなくなってしまった湯女。
これでは兄としての威厳(そんなものがあればだが)が失われてしまう。
僕は湯女に了承を得て自分のパソコンから湯女のSNSアカウントを見ることにした。
スマートフォンで見るより見やすく、これならちゃんと湯女に喜んでもらえるような感想を言える何かを見ることができるかもしれない。
早速僕は投稿されている写真や動画を見ることにした。
正直、僕には写真映えしているとか、そういったものの良さがわからないが、知っている人が撮ったものなら少しは良さがわかるのではないかと期待したが、そうはならなかった。
食べ物の写真や風景の写真ならぎりぎり理解できないでもなかったけれど、顔を隠した自撮りや後ろから自撮りしているやつは何をしたいのか理解できなかった。
顔を載せたくないなら撮らなければいいのに……。
そもそもどんなのがSNS上だとにんきがあるものなのだろう。
それに湯女の投稿しているものの何に惹かれているのだろうかと探ってみることにした。
投稿されているもののコメント欄を見れば、わかるだろうと思い、そちらを見てみる。
食べ物の投稿には「美味しそう」や「どこの店ですか?」というものが多い気がする。風景や物の投稿も似たようなコメントが並んでいた。
これだけだと何でにんきなのかてんでわからなかった。
「何でこれで評判良いの?」
「そんなはっきり聞かれると困るし、自分で言うのもなんだけど、センスがあるってことじゃない」
「平凡な高校生が調子に乗るな」
「厳しい! もっと優しい言葉をください!」
ここに来てようやく湯女は褒めてほしいのだと理解した。感想を求められたから率直なことしか言ってなかったが、方向性が示されたのなら簡単だ。
褒めるところを探すため写真を見直していると、あることに気付いた。
確かにどの投稿も良い評価が得られているが、その中でもさらに評価の高い投稿がある。それらをじっくりと見ていると、思わず「あ」と驚いてしまった。
湯女が「どうしたの?」と訊いてくるので、僕はおそるおそる確認することにした。
「お前、投稿する前に写真とか動画ってちゃんとチェックしてるか?」
「してるよ。顔とか映ってたら編集しなきゃいけないし」
「そうか。ならこれはどうなんだ?」
そう言って僕のパソコンに映っている画像を見るよう促す。
そこには顔を飲み物で隠した湯女が写っていた。
それを見て「この写真の何が……」とわからない様子だったので、僕は写真のある箇所を指差す。
視線をそちらに持っていってようやく気が付いたようで、「あ!」と大きな声で叫んでいた。
「下着の紐が見えてる!」
「こっちの写真もどうだ」
「あー! こっちは下着が透けて見えてる!」
他の高い評価のやつも同じようなもので、少しセンシティブに見えるようなものだった。
「センシティブ湯女」
「やめて! 芸名みたいにしないで!」
「良かったね。お前の写真でみんなが楽しんでるよ。主に男性が」
「嫌だ! これじゃああたしがすごい欲求不満みたいじゃん!」
「欲求不満な男性はお前でフィニッシュ決めてるから似た者同士だね」
「気持ち悪いこと言わないでよ!」
どうしよう、と頭を抱えている湯女。
湯女が蒔いた種で世の男性がタネを出していると思うと中々に滑稽だったが、面白がってばかりもいられない。一応僕は兄であるので「とりあえず消せば?」と助言しておく。
そうだ、と思い至ったらしく、急いでスマートフォンを操作し始めた。
僕はそんな湯女に呆れながらパソコンを操作した。
湯女が消す前に画像を保存しておこう。特にやましい気持ちがあるわけではないが、湯女の成長記録ということで。
いつか僕も湯女の写真でタネを出す日が来るのかもしれない。そう思うと股間に熱が帯びるのを感じる気がした。
種とタネ 高梯子 旧弥 @y-n_k-k-y-m
★で称える
この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます