金のなる木

黒うさぎ

金のなる木

「博士、見せたいものとはいったいなんですか?」


 突然呼び出されたシードは博士に尋ねた。


「これじゃよ」


 博士の手には一つの鉢植えがあった。


「これは……、金色の木ですか?」


 それは金色の葉をたくさんつけた、小さな木だった。


「ただ金色なだけじゃないぞ。

 これは『金のなる木』。

 文字通り、金でできた葉をつける木じゃ」


「スゴい発明じゃないですか!

 これがあれば億万長者にだって簡単になれる!」


「確かにそうじゃろうな。

 だが、わしは研究さえできればそれで十分じゃ。

 それ以上のことに興味はない」


「そんな、もったいない」


「それでじゃ。

 わしとシード君の仲じゃ。

 シード君が望むなら、この『金のなる木』を売ってやろうと思ってな。

 わしは研究に必要なお金さえあれば、それ以上は必要ない。

 どうじゃ?」


「もちろんです!

 是非、買い取らせてください」


 シードは『金のなる木』を植木鉢ごと博士から買い取った。

 決して安くはない買い物であったが、『金のなる木』からとれる葉を売っていけば、すぐに元はとれるだろう。


 ◇


 それからしばらく。


 いつものようにシードが『金のなる木』に水をあげようとすると、いくつかの実をつけていることに気がついた。


「この木には実がなるのか。

 まてよ、ということは中には種があるはずだ」


 それから実が熟すのを待ち、採取した実を割ってみると、中には予想通り種が入っていた。


「これがあればいくらでも『金のなる木』を育てることができるぞ。

 いや、それよりもこの種を売ったほうが稼げるに違いない」


 シードはさっそく知り合いの商人を通じて、貴族たちに『金のなる木』の種を売りつけた。

 金と珍しい物に目がない貴族たちは、競うように高値をつけて種を買っていった。


 大金を手に入れたシードはある日、商人からある商品を紹介された。

 それは『金のなる花』の種だという。

 どうやら、その花の花弁は金でできているらしい。

 実際にその花を見せてもらったが、確かに金色の花弁をつけていた。


 普通であれば怪しい話だが、実際に『金のなる木』を育てているシードとしては疑う余地はなかった。

 せっかくなら『金のなる花』も育ててみようか。

『金のなる木』と一緒に飾れば、この部屋もより華やかになるに違いない。


 種はとても高価だったが、幸いお金には余裕がある。

 シードは『金のなる花』の種を一つ購入した。


 それからシードは毎日水やりを欠かさなかった。

 肥料も高級なものを使用した。


 そしてついに、大切に育てた花の蕾が開いた。

 その花は、しかし金でなどできておらず、普通の白い花だった。


「いったいどういうことだ?

 まさか、偽物を買わされたのか」


 そのときだった。

 以前、『金のなる木』の種を売りつけた貴族が押しかけてきたのだ。


「貴様、私に偽物の種を売りつけたな!」


「そんなことはありません」


「嘘をつくな!

 金でできた葉などつけないではないか!」


 貴族の持つ植木鉢には、緑の葉をつけた小さな木が生えているだけだった。


 ◇


「育てた植物を金に変える『肥料』の発明は大成功だったのう。

 さて、次は『金のなる野菜』でも育てて売るとしよう」


 一人研究室で水やりをしながら博士は呟いた。



  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

金のなる木 黒うさぎ @KuroUsagi4455

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ