第4話 吸血鬼と食事




 吸血鬼特有の食事である『吸魂』は、本能で行う。

 牙を立てる必要は無いし、直接相手に触る必要も無い。慣れが必要だが、視認するだけでも『吸魂』は可能だ。とはいえ、それが出来る吸血鬼は稀ではある。


「む、む、むかしーのです」

「貴方も出来るはずなんですけどね? 二月前は実際に行ってましたし。……まぁ、暴走状態でしたけど」

「むー」


 奥から飛び掛かって来たリトルドラゴンをリリーナの目の前で地面に叩きつけ、昏倒したところを手で触れさせる。


「これなら出来ますか?」

「出来るのです!」

「触れずに出来るようになる前に、吸収量を調整して塵に変えずにすむ方法を身につけましょうか。それが出来れば、相手を殺さずに無力化できるようになりますよ」

「んー……食べ過ぎないようにする?」

「そんな感じです。普通の人間――生命力の弱い相手だと、ちょっと味見させてもらう感じに近いですかね」

「むつかしーの」


 眉をぎゅっと寄せたリリーナに、アルノルトは笑う。一瞬で生命力の強いリトルドラゴンを塵に変えてしまうのは、調整が下手な上に空腹だからだろうか。


「何事も練習ですよ。ところでさっきのトカゲを食べた感じはいかがです?」

「おなかはふくれるけど、味気ないのですよ」

「そうでしょう」


 アルノルトは深く頷いて同意を示す。


「料理を舌で味わうのと違って、空腹が消えるだけなんですよね」

「うん? 力がわいてパワーがぶわーってなるですよ?」

「ああ、貴方はまだ幼いから吸収した力が分かりやすいのですね。長生きだと、ちょっとやそっとでは差異が分からなくなるんです」

「お年寄りは大変なのですな」

「ええ。お外のお年寄りは大事にしましょうね」

「あい!」


 大真面目に頷く幼女のために周囲の敵を探し、一匹以外を素早く狩って残りを幼女に食べさせながら、アルノルトは遠い地上へと意識を向けた。

 突進して来た鎧大鰐をなんとか両手でひっくり返し、そのまま『吸魂』したリリーナはそんなアルノルトの姿に小首を傾げる。


「どうかしたの?」

「――ああ、ちょっと気になることがあっただけですよ。食事を続けましょう」

「あい! でも、アル、さっきから倒して袋に入れるばっかりで食べてないですよ?」

「私はもう満腹になりましたからね。貴方が食べる以外は保存しておこうかと。肉を確保することは大事ですからね」

「それはだいじですな! でも、お腹空いたらアルも食べるのですよ?」

「そうですね。動き回ってお腹が空いたらまた食べましょう。貴方はまだまだ成長期なのですから、いっぱいお食べなさい。私のような年寄りは年々食が細くなるんですよ」


 世のお年寄りに盛大にクレームをつけられそうなことを嘯いて、アルノルトは育ち盛りの欠食児童の頭を撫でる。


「この辺りは人がいなくて魔物が多くて最高ですね」

「さいこうなのです!」


 彼等がいるのは地下五十二階。この街の最高到達階数は五十階。

 人外の化け物二人は、のほほんと笑いながら人類の未踏破領域へと進んでいった。





 ※





「幼児を連れた貴族?」

「おう。心当たりはあるか?」


 依頼を出してから数日。早くも有力情報の無さに痺れを切らしたらしい男の声に、カルステンは近隣の貴族の情報を脳内から引き出し、次いで国内の貴族の情報も引き出す。


「幼い子供のいる貴族は国内にも何人かいますが、それが何か?」

「そいつらのうち、誰かがこの街の地下迷宮ダンジョンに来る予定になっていたか?」

「……パッと思いつく限り、そういった予定は無かったと思いますが……」

「つーことは、そいつら、怪しいな?」


 嫌な予感を覚えながら言ったカルステンの答えに、吸血鬼狩りの男はニヤリと笑う。カルステンは舌打ちしたい気分で反論した。


「国外の貴族がお忍びで来ているのかもしれませんよ。ここは隣国とも近いですから」

「ほーぅ? そんな酔狂な貴族がそうそういるかねぇ?」

「……いないとは限りません。万が一間違えれば大事でしょう?」

「ハッ……まともに情報も集めてこれない無能のくせに、口だけはまわるなぁ?」


 嘲笑する男に、カルステンは真面目な表情を崩さずに相手の次の言葉を待つ。

 望む反応を返さないカルステンに、男は鼻白んだように嘯いた。


「お前の組合の所の女探索者達がな、酒場で話していたそうだ。曰く、この辺では見ない幼児を連れた貴族らしき青年が、数日前に地下迷宮ダンジョンに入ったっきり姿を見せない、とのことだ」

「何日も地下迷宮に入ったままなのであれば、貴族であれば行方不明の捜索依頼が出る可能性がありますね」

「はぐらかそうとするんじゃねーよ。本当にお貴族様のお忍びなら護衛がいるはずだろーが。いねぇ、ってことは貴族じゃねぇってことだし、そんな男が、今この時分に、オレ等が探してるような幼児を引き連れてるってのが怪しいんだよ。親を殺された吸血鬼が魅了で操ってるのかもしれねぇだろ?」

「確証はあるのですか? ただ幼児を連れているだけの探索者がいたとして、その幼児が吸血鬼だっていう話にはならないでしょう?」

「勘だよ。オレの吸血鬼狩りの勘が囁くんだよ。獲物はそいつだ、ってな。そもそも、時期が合いすぎるじゃねーか。ここらじゃ見ない男が、同じくここらじゃ見ない幼児を連れて歩く。しかも、地下迷宮に入った初日からガンガン奥へ進んで行ったそうだ。ここの迷宮は、初見の人間がそんなにズンドコ進んでいけるようなモンか?」

「……いいえ」

「ちゃーんと確認はとったぜ? 同じような特徴の男と幼児のペアは、その初日の日に探索者組合で加入料を払って証を受け取ったばかりの新人だそうだ。男の方は慣れた様子だったから、おそらく経験者ではあるんだろうって話だったがな?」

「二重登録は原則として認めていないのですが」

「毎年何百人とくたばるド新人の証と名前なんぞ律儀に照らし合わせていやしねーだろぉ? 遠くに行った先でまっさらなド新人の証をわざわざ作る馬鹿がいたとしても、全組合で調べ上げれるわけでもねぇよなぁ? きちんと登録が照らし合わされるのなんて、新人が数年経っても死なずにすんで、『初級探索者』になってからだろーが」


 言われて、その事実に苦い思いをしながら頷く。男の言は正しい。探索者になりたての新人の死亡率は依然として高い。そのため、最初の探索者の証は木で作られた素朴なものだ。個人を特定できるような特殊な魔法が使われたり、魔法の道具を使った特殊な登録をしたりするわけでは無い。言わば仮登録であり、たんなる地下迷宮への通行を許可する許可証でしかないのだ。


「ガキが操って自分と男の分の許可証を作らせた、ってのが真相だろうよ。吸血鬼の『操り』は、対象の無意識下に働くそうだからな。男は自分が操られてることにすら気づいてねぇだろーよ。矛盾した行動をしても、それがおかしいと気づきもしねぇ」

「……顔さえわかれば、上位の探索者であれば照合は出来ますが」

「どんだけ時間がかかんだよ、そりゃ。そもそも、まともに顔なんざ覚えてねぇだろ。まぁ、もしかすると? 組合にとって有力な男が犠牲になっちまったのかもしれねぇけどよ?」

「……万が一その連れている幼子が吸血鬼だったとして、その男の安全は――」

「無理ぃ無理無理無理だーって、わかってんだろぉ? 相手は吸血鬼だぜ? 虜にされちまったらもうアウトなんだよ! そもそも、そうやって手元においた僕を吸血鬼が手放すかよ。諦めるんだな」

「……ッ」

「いいじゃねーか、なぁ、もっと喜べよ? お誂えむきにわざわざ地下迷宮(ダンジョン)にいるんだぜ? おめぇら、相当運がいいじゃねーか、違うか?」

「……どういう意味で?」

「あったま悪ぃなぁ!? 戦うなら人里離れた場所にオネガイシマスって言ってたんじゃなかったですかーぁ!? 地下迷宮ダンジョンでやりゃあ、周りの一般人にゃ被害いかねーじゃねーか、ぁあ?」

地下迷宮ダンジョンで吸血鬼と……!? それは……」


 確かに、破壊不能と呼ばれる強固な地下迷宮ダンジョン内であれば、彼等がどれだけ暴れても力の余波で街に被害が及ぶことは無い。問題があるとすれば、二つ。


「貴方方が争うことで、魔物達が狂乱状態になって地上に溢れてくる可能性は?」

「知らね。それこそおめぇらがどうにかしろよ。吸血鬼は奥へ奥へと追い込んでやらぁ。上層ででもへっぴり腰の探索者共を集めて布陣でもしいておけ。ああ、それと、お前らの所で把握してる全階層の地図を寄越せ。無駄に索敵して時間を費やしたら、お前らだって困るだろ? 封鎖期間が長くなっちまったらなぁ?」

「……もし、件の幼児が吸血鬼で無ければ? そもそも、どうやって確かめるつもりですか?」

「ばーか。何の手段ももたずにいるわけねぇだろ?」


 小馬鹿にした顔で、男は懐から小さなベルを取り出した。男の武骨な手に相応しくない、可憐な銀のベルだ。


「吸血鬼の精神を狂乱に導くベルだ。鳴らしてやりゃあ、一発で分かるだろーよ。擬態が上手そうなら手の一本でも切り飛ばしてやりゃあいい」

「なっ!?」

「何日も地下迷宮ダンジョン内にいて、俺が襲撃するまで無事な奴がまともな子供なわけねぇだろ? 下の階層に行っていたら、なおのこと大当たりじゃねーか。そんなわけで、俺はこれから吸血鬼狩りに地下迷宮ダンジョンに潜る。間違って殺されたくねぇなら、街のガキ共が入らないように見張っておくんだな」


 男は背負い袋を担いで歩く。二の句が継げぬカルステンに、皮肉気な声が浴びせられた。


「せいぜい、連中が人のいねぇ深い場所に潜ってることを祈るこったなぁ!」





 ※





 探索者組合から緊急連絡として『地下迷宮ダンジョンの中層における一時的封鎖』と『可能な限り探索者は地下迷宮ダンジョン上層での戦闘待機せよ』という、二つの異例の通達を聞きつけて、傭兵組合のパウルは探索者組合を訪れた。組合長に面会を依頼すると、じきに待合室へと通される。


「下の組合内も大騒ぎだったが、ありゃあ、何だ?」

「……本当に事情は分からないか? パウル」

「……吸血鬼狩りの連中か」


 数日前に出された依頼で、街に吸血鬼狩りが来ていることは知れ渡っていた。吸血鬼狩り自身が自分のパフォーマンスをしたから余計にだ。その間、傭兵組合はひたすら係わりを持たず冷静に待機していた。


「お前から密かに連絡を受けてたのに、このザマだよ」

「どうせ王都の司教なりその伝手の貴族なりの名前をチラつかせられたんだろ? うちと違って、お前達の所は他の貴族の名で突っぱねにくいからな……」


 傭兵達に戦場を任せることの多い貴族は、傭兵組合に対して威圧をかけることを嫌がる。万が一そんな風に不興をかってしまえば、自分の政敵に素早く加勢される可能性が高まるからだ。貴族と直接交渉で渡り合う傭兵団長も多く、あまり知られていないことだが、傭兵団長によっては並の貴族を凌ぐ伝手を持っていたりもする。


「お前の所には行ったのか、あいつ」

「来たぜ。ご丁寧に司教様のしたためた一筆を持ってな」

「ハッ……うちと同じやり方で行ったのか」

「話だけ聞いて帰ってもらったがな。うちのバックには大司教様がいる。金積み上げてわんぱく小僧どもを唆されさえしなけりゃ、あんな奴らに力を貸すかよ」

「傭兵団が一つ、壊滅させられたんだったな……」

「……いい奴らだったぜ。馬鹿共だがよ……。国内最大の傭兵団を一つ潰されたんだ、大司教様に傭兵を損耗させる奴がいるっつーてご連絡申し上げておいたぜ。連中も、傭兵がいなくなりゃ自分達で兵隊を用意しなきゃならねぇんだ。それもまともに戦闘の出来ない兵隊をな。そんなんで戦争に勝てるはずも無いからな」


 戦争を傭兵に頼っている連中がこぞって味方についた為、傭兵組合は不干渉を貫くことが出来た。かなり嫌味を言われたが、矜持で腹は膨れないと知っている傭兵達には見向きもされなかった。


「かわりに、お前達の所にしわ寄せがいったが……」

「もともと、うちはああいう連中にいいように使われることが多いからな。街の無関係な人間が巻き込まれないようにしてたんだが……妙にあの男の興味を惹いちまう二人連れがいたらしくてな」

「狙われちまったわけか……狙われる以上、ここいらじゃ見ない連中なんだろ?」

「ああ。俺は実際に見ていないからなんとも言えないが、一見して貴族のような男だったらしい。連れてる幼子が女なのか男なのかは分からないな。フードで顔を隠してたようだし、十歳以下の女児なんて服と髪型ぐらいでしか判別できねぇだろ?」

「吸血鬼が頭いいってんなら、髪型を変えて男の子のフリをするぐらいはしそうだしな」


 それからいくつかの情報を交換しあって、二人は同時にため息をついた。


「例の二人組が吸血鬼と関係無いなら、早い目に保護したいが……難しいだろうな」

「いっそ本物の吸血鬼であの馬鹿野郎を返り討ちにしてくれると嬉しいんだが……子供が狙われるってだけでけっこうクるものがあるな……」

地下迷宮ダンジョンの道中であの男が魔物に殺される可能性もあるんじゃねぇか?」

「おお。そうなったら祝杯だな」


 地下迷宮ダンジョンの一時的な閉鎖は、上層に関しては長くて半月としている。これは魔物の出現数の多い上層の魔物の間引きを長期間放置するのは危険だからだ。だが、猶予のある中層以下の封鎖は最大半年。その間のことを思うと、カルステンとしては頭が痛い。


「あの男が死んだら通知が来るようなシステムがあればなぁ……」

「協会にゃああるらしいがな。なんとかの宝珠オーブっていう、生命探知のやつらが」

「探索者組合は教会みたいに上等な魔道具をわんさか持ってねーよ。地下迷宮ダンジョンから出る宝珠オーブだって、人間様に合わせた使い勝手の良い物なんて稀だしよ。そもそも出土してもたいていお貴族様に献上されちまうしな」

「そういうもんか。まぁ、俺達傭兵からすれば、宝珠オーブなんて一生お目にかかることもないだろう品だけどよ。噂じゃ魔結晶や宝珠オーブはけっこう『迷宮から出る』って聞いたんだけどなぁ……」

「そんなポンポン出るなら、俺等の暮らしはもっと便利になってるはずだろ? お偉い魔法使い様によれば、ありゃあ、何らかの魔力が結晶化して出来たっつう代物らしいけどな。一回使用したら砕けるのが多いし、世間どころか貴族の間にもそうそう出回らねぇよ。数多く出回るのは魔物の心臓部にある魔石ぐらいなもんだ」

「まぁ、魔石だけでもだいぶ生活に貢献してくれてるけどな。魔道具技師様々だぜ」

「ランプとか着火とかな」

「国境街には通信の魔道具もあるんだろ? 必要になる魔石がクッソ多いらしいけどよ」


 通信、という言葉で、カルステンはハッとなった。


「そうだ、お前の所の組合が、あいつがここで吸血鬼を狩ろうとしてることを大司教様達に報せたんだよな? 他の狩人が来るとかいう話はあったか?」

「いや……あー、だが、話を聞きつけて様子見にか漁夫の利狙いかで新手が来そうな気はするな。少なくとも、この街で吸血鬼狩りが本腰入れて狩りをしようとしてるってことは上の連中には伝わったはずだ。まずったか……」

「いや、お前が報せなくてもどのみち噂は駆け巡るだろ。あの男、目立ちたがり屋らしくて毎日酒場でご高説を垂れてたらしいからな」

「吸血鬼狩りを含め、高位種族をつけ狙う連中はたいていそういうもんだろ。竜狩りとか魔族狩りとか」

「どいつもこいつもロクなのがいねぇ……」


 盛大なため息をついて、カルステンは気を取り直すように椅子に座り直した。


「まぁ、来るなら来るでとっとと集まってくれたほうが封鎖期間が短くなるからいいんだがな。呼び寄せられた連中が次々に地下迷宮ダンジョンに入ってくれれば、強い魔物の間引きの手間がはぶけるかもしれねぇし」

「封鎖期間が短くなることはねぇのか?」

「吸血鬼狩りが地上に戻ればその時点で解除だな。いっそ道中の魔物に半死半生になってとんぼ返りしてくれねぇかな……」

「下手に行方不明になられるより手早いな。問題は先送りになるけどよ」

「狙われてる二人組が地上に戻って来てくれるんでもいいんだけどな。そうすれば、子供は上層限定にする形で条件解除を行える。……まぁ、吸血鬼狩りの勘を信用するなら、幼児は吸血鬼なんだろうけど」

「人間としては信用出来ねぇが、あいつらが化け物なのは本当だからな。狂うほど吸血鬼を求めてる連中だ、お前に言ってないだけで、探索用の魔道具ぐらいは持ってるだろうよ。でなけりゃ、広大な地下迷宮ダンジョンを一人で探そうなんて思うはずがない」

「だよな。……大人しく暮らしてるなら、吸血鬼だろうと竜だろうとわざわざ手を出す必要は無いと思うんだがなぁ」

「言うな。あの狂人共にゃ通じねぇよ。大昔のどこぞの街みたいに、庇う発言をしたせいで街ごと焼かれたら目も当てられねぇ」

「あとは、封鎖中に下に行くヤツが出ないことを祈るか……」


 閉鎖中は上層以外への侵入は禁止している為、それより先に進んだ場合、戦いに巻き込まれて死んでも自己責任だ。


「最終的には、行動は全て自己責任、になるからな」

「そんなもんだ。……ああ、しばらくうちの組合に傭兵団が寄ることは無いから、こっちには期待しないでくれ」

「逃がしたわけか。……まぁ、賢明だな」

「化け物の戦いに係わりたいような奴らはそもそも傭兵なんてやってねぇからな」


 地下迷宮ダンジョンの魔物が、化け物同士の戦いの余波で上層に溢れてくるかどうかは分からない。傭兵組合が傭兵達の安全を優先したのとは逆に、探索者組合は封鎖期間の探索者達の生活を守るために、彼等を雇って上層に詰めさせなくてはならなかった。万が一魔物が溢れた時の対応と、彼等の最低限の生活を守るために。


「……吸血鬼も気の毒にな……」


 会談の最後に、パウルが零した言葉が、カルステンの印象に残った。




 ※




 一方その頃、満腹になった幼女に御昼寝を命じ、その間にせっせと収集した魔物の死骸を解体していたアルノルトは、ふいに解体の手を止めて自分の顔をグニグニと揉んだ。


「……そんなにこの顔は、貴族っぽいんですかね……?」


 血まみれの手で揉んだせいで、起きた幼女に絶叫をあげさせるのは、しばらく後の話である。





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