a19 同級生と混浴



 夜の10時に終わったテレビドラマはラブストーリーだった。男女の入浴シーンで今週のエンディングになった大人の情事ことしか考えていないラブロマンス。


「……あの後、どうなるんだろうね? あの二人……」


 脱衣所に二人して入って、制服を脱ぎにかかる雫が訊いてきた。百色は慌てて背を向けると雫が着替え終わるのをひたすら待った。テレビドラマの登場人物たちは入浴シーンで終わったが、こっちはこれからが始まる本番だった。実に勘弁して頂きたい。

 百色はため息を吐きたかった。

 ……気マズ過ぎるんだが?

 百色が俯いていると、布の擦れる音の最中に重く一枚、パサリと落ちた。


「脱がないの?」

「待ってるんだけど」

「わたしが全部、脱ぐのを?」


 そうだ、とコクりと頷く。


「……泉さんとは、いつも一緒におフロ入ってんでしょ?」

「一緒に脱ぐことまではしてない」

「ーーーーーえーーーーーーーーッ?!」


 鼓膜が破れそうな程の大きい声を出してきた。


「い、いっしょに脱いでないの?」

「脱いでないよ! 脱ぐわけないでしょ!」

「じゃあ、いつもどうやって入ってるワケ?」

「いつも、どっちかが先に入ってるか待ってるかしてるだけだけど……」


 百色が先に入ってるか詩織が先に待ってるかの順番が違うだけで、一緒に脱衣するなんて危険な行為をするわけがない。


「なら、わたしが初めてなんだ? 一緒に脱いで入るの?」


 笑いながら、着ていた服の全てを脱いだようだ。くすくすと笑って浴室のドアを開ける。雫が下着を放り込んだ洗濯カゴは見ないことにしよう、と切実に誓う。


「この事……クラスのみんなにも言いふらしていい?」

「一緒にこんな事になってることまで言う気なの?」


 コクりと肯くように髪の毛の音がする。正気の沙汰ではない。……この事を知ったら、恐らく詩織は怒り狂うだろう。これからは自分と入浴する時も一緒に着替えろと脅迫するに違いない。

また一つ、百色の弱みな部分が出来上がった。


「はやく、こっちに来て、お風呂に入ろ? あなた」

「涙さん。それ絶対、ドラマの見すぎでしょ」


 仕方がないので百色も全部脱いだ。水着も一応、持ってきてはいたのだがそれは雫に却下された。泉家と同じように涙家でもしろ、という事なのだろう。深く聞き返すことのできない自分が情けない。


 とうとう下着まで脱いで新郎の百色も浴室に入った。目の前には同じ裸になった涙雫が立っている。湯気で水着と同じ部分が隠れている新婦の雫。


水泳プールが始まる前に裸、見られちゃった。……もうお嫁にいけないかも」


 恐いことを言う雫が背中を見せた。全裸の背中で尻も太腿も見えている雫の体……。


「お嫁にいけなくなったら七紀くんが責任とってくれる?」

「花嫁は君だけじゃないけどね」

「……今……どんな気分なのかな? ……泉さん……」


 いつも雫が想像してきた時間を、今は詩織が想像している……逆襲の奇跡。

 シュレティンガーの猫……。七紀百色たちの会話で時々、耳にしてしまう気になる言葉……。


「今ごろ泉さんも他の男子とお風呂に入ってたりして?」

「だったら別れる口実が出来ていいな」

「本気で言ってるの?」

「言ってるよ。本当だったらこの時点で別れていても不思議じゃないでしょ?」


 中一で別れるも何もあったものではないと思うのだが、男がそうなるのだったら女子でもそうなるだろう。女子は七紀百色に拘りすぎなのだ。

 ちゃぷん、と未成年な体を流した雫が湯船に足を浸けて、肩まで沈み落とした。


「背中にホクロがあったら舐められるんだよね。こういう時」


 何を言っているのか、わからない。


「……ってるんだよね。それ……」


 女子の雫が、百色の男子としてギンギン!に光輝いている股間を見る。百色の男の象徴が、今はどうなっているのかはその光度で推し計ることが出来る。


「そんなに勃っちゃって……、れたいの? わたしに?」


 そっか、と言って首までお湯に浸ける。


「わたしのココに挿れたいんだ……七紀くんのソレ……」


 雫の尻……女子でもよく分からないその場所に、あの目の前の物がメリ込む。そしてデキるのだ……。雫のまだ性徴途中の、このはらに……。雫と……百色の子供が……。


「……ぷ……、そんなに隠さなくていいよ。わたし、弟ので見慣れてるから。男のチンチンなんて……」


 百色にも妹はいるが、女子の局部を見慣れてしまうほど妹の場所なんて拝んだことはない。どうも男と女では体の形が根本的に違うとしか、どうしても思えてならない。


「女の子なら誰でもいいんだ? 女たらしの七紀くんは?」

「……美人だったら誰でもいい」

「面食い屋」

「泉さんと同じ事を言わないでよ」

「泉さんだって。気を遣わなくていいよ。いつもの呼び方で呼べば」


 幼馴染みの間柄……。弟の流は手に入れて、姉の雫が手に入れる事の出来なかった永遠に憧れる関係……。


「幼馴染みってどうなの? やっぱりお互いの事は、なんでも知ってるものなんでしょ」

「シオリの事なんて……おれにだってまだまだ知らない部分はあるんじゃないかな」

「泉さんも、七紀くんの全てを知ってるワケじゃないってこと?」

「……おれが何を考えてるかなんて、おれでも分からないからね……」


 意味深げなことを言って百色が湯面を見つめたまま立ち止まっている。


「……どうしたの?」

「……そこに……入るの?」


 涙家の浴槽の大きさは普通だった。大人二人が入れればいいほどの大きさしかない一般的な浴槽。


「そうだよ。早く入れば? 別に我慢できるんでしょ? 童貞くんなら?」


 入ったら間違いなく、男と女のカラダがぶつかるほどしかない面積。

 脱衣所の外からテレビの音が聞こえてきた。百色が雫と脱衣所に来る前、流たちは雰囲気の流れで顔と顔を×にバッテン交差しようとしていた。あれはなんかキスでもしようとしていたような気がする。


(アイツラ絶対反省してねぇだろ)


 独り言を呟いて、百色は覚悟を決めると湯船に足を踏み入れた。



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