a18 子供の晩餐



「うお、すっげぇウマそうっ。もう食べちゃっていいんですか?」


 ガタガタと椅子を引く音がして夕餉の時間が始まった。


「いや、もうちょっと待ったほうが」

「流、アンタ食いイジ張りすぎだからっ」


 夕飯のカレーライスが出来上がって、この涙家に今いる四人だけの子供達は席に着く。


「あー、ハラ減ったァ~。姉キが作るメシっていつもマズいから食いたくないんスよ~。

ホントぉ」


 カラカラと笑いながら髪の毛を短く刈り込んだ涙流が言う。それぞれに反対の目に泣きボクロがある姉と弟。


「……でも義兄アニキって、料理できるんですね。昼に作ってくれたチャーハンめちゃウマかったです。あんなパラパラな炒飯どうやって作るんですか?」


 この家に来たのが午前中だったので昼をどうするか訊いたのだ。すると、まだ何も決まっていないと言うので外へ買い出しにでもいこうという話になったのだが、その前にまず涙家の冷蔵庫の中を失礼ながら拝見させて貰ったのだ。


「……あれだけ食材があるのに、なんでわざわざ外でまた出来合いの物を買おうとするのかが理解できないんだけど」

「そりゃ料理する人間がいないからですよ。ウチって、いつもそうです」


 親が不在なのは一泊だけ。しかし一泊だけなので、その為に冷蔵庫の中身までカラにしておくのも手間だ。というのが、その理屈らしい。


「料理……覚えないの?」

「だってよ。姉キ」


 カレーライスの前に置いたスプーンを掴みながら流が生返事する。どうやら姉弟の仲はあまり良くないようだ。


「……女の子の全部が全部、料理好きだなんて思わないでよ」


 ……それは正論だと思う。正直、百色の幼馴染みである四人の女子たちの中でも料理に秀でた人間は半分いれば良いほうだと思っている。


「わ、わたし、ちょっと興味があるんだけど……」


 恐る恐る流の隣に座る流の幼馴染みだというヒロコ、間柴ましば尋仔ひろこが流と雫を交互に見る。なかなか可愛い女子だ。快活な雰囲気で運動が得意そうな雫と同じ髪形の女子。肌も日に焼けて色が濃くなっている。


「乳首も濃いですよ」


 危うくニンジンを噴き出すところだった。


「……下の膜も同じ色になって黒ずんできました。ちょっと最近ヤリすぎたかな? 本当だったら今日の昼の食後にでも腹ごなしにシようと思ってたのに、みんなノリが悪いんだもん。もうさっ、オレ一人でバカみたいじゃないですかッ」


 ヤケになってガツガツと喰う。百色と雫で格闘して作った渾身のカレーライスを味わいもなく口に流し込まれると、雫の母親の気持ちが痛いほど分ってくるようだった。


「いい女でしょ? ヒロコ。反応も声も具合もたまらんですよ。ヤリたくなってきました……?」


 皿に盛った白飯とカレーを半分に減らして言う。


「……きみ本当に小学生?」

「小学生だってコンドームの使い方ぐらい習いますって」


 ……そんなモノの使い方、自分は習っただろうか? 深く首を傾げつつ、極力、隣で座って食事をしている雫の顔は見ないように努めた。どんな顔をしているのか知るのが恐い。


「これ喰い終わったら、やっぱりヤルか。ヒロ」

「ちょっとナガレっ」


 口の回りにカレーのあとをつけたまま尋仔の首筋に寄っていく。それを呆れて眺めてから、目を逸らした。


「あれぇ? 反応悪いなぁ。ってんでしょ? 男の棒同じヤツ


気のせいだと思いたいが、小学生にケンカを売られているような気がする。


「でもヒロは義兄アニキにはあげませんよ? 義兄アニキには、もう姉キがいるんだからさ」

「……安心してくれ。おれは中古のオンナには興味はない」


 売られたケンカを買ってしまった発言。なんで他人ンまで来て、ケンカ腰にならなければならないのか。


「……中古のオンナって……ヒロコのことですか?」

「お姉さんは中古なの?」


 パシンと百色の頬が叩かれた。隣の涙雫が、百色を睨み切って腕を振り抜いている。


「……今日オレ、本当にこの家に泊まっていいの?」.


 これは最大限の嫌味だった。今のこの険悪な状況も勘案して、本当によく再考して貰いたい。


「七紀さんって、やっぱ童貞ガキですよね。童貞を捨てられないわけだ」

「オレはまだ童貞を捨てるつもりはない!」


 堂々と言い切って、百色は周りの三人を騒然とさせる。


「オレはまだまだ童貞を捨てるつもりなんて微塵もないから! 当然、雫さんも処女のままだ。まあ本当に処女かどうかは知らないけどね?」

処女しんぴんですよ。間違いなく。でもなんで七紀さんは童貞を捨てたくないんですか? 男なら童貞なんてさっさと早く捨てたいでしょッ?」

「いいや? 全然? むしろ貴重な少年どうていの時間をなんで、そんなに早く捨てたいのか、オレは逆に理解に苦しむけどね? 早く捨ててなんか意味でもあんの? オレは、もう子供に戻れなくなる束縛された大人になんて、全然なりたくないんだけどッ?」


 七紀百色は、まだまだ貴重な少年コドモでいたいのだ。それなのになんでわざわざいつでもなれる大人になど、なりたいものなのか。


「あ、頭おかしいッ。どうかしてますよッ! コンドームさえ填めヤッてりゃ、大人たちだって小学生コドモがセックスしてたって何も文句なんか言ってこないのにさッ!」

「コンドームは避妊率100%じゃないッッッ!!!!!」


堂々と、これまた、まだ未成年コドモの七紀百色は断言するッ!


「コンドームを使ってたって避妊の失敗率は0%にはならない! つまりだ? オレたち子供は、たとえコンドーム使ってても性交してちゃいけないんだよ。それが! おれたちの親や先生である大人たちが、子供おれたちに言いたい事なんだッ!」


 据え膳食わぬは子供の義務。大人たちが子供たちに望んている生活ことを、七紀百色だけは分かっている。


「じゃ、じゃあ子供は我慢してても大人たちはヤッてていいって言うんですかッ?」

「だから大人たちだって、自分たちで困ってるじゃないかッ? 大人同士で『望まない妊娠がどうとか』罵りあってさッ!!!」


 大人たちでさえ避妊の問題はついて回る。だからこそ、せめて。子供の時だけでも、それだけはやめておこうと思うのだった……。


「で、でも、オレはもう経験して……」


 取り返しのつかない女子との性交を経験してしまった男子小学生が狼狽える……。


「やっちまったモンはしょうがないんだから、これから苦しんで我慢すればいいんじゃないの?まあ我慢できなくなったらなったで、自己責任でまた依存症で繰り返してもいいとは思うけどね? おれは知らないけど。完全な避妊の方法なんて完全に無い!大人と同じように後で困る性行為をねッ! もちろん、おれはしないけど!」


 言い終わって、カレーを全部、食べ終わった皿を流し台に持っていく。それと同時に背後で雫も立ち上がった。


「七紀くん……」


 制服にピンク色のエプロン姿で振り向いた雫が、振り返る百色を真面目に見る。


「見たいドラマが終わったら、おフロ……、一緒に入ろ?」


 子供の覚悟……、見せてもらうぞ? 七紀百色。



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