a17 クラスの女子の家



 涙雫の言い分はこうだった。

 ゴールデンウイークの間、仕事の都合で一日だけ両親が家から不在になる。その間。子供達だけではどうしても心配なので、女子に対して百戦錬磨(?)の百色が泊まりにきてくれないか?というものだった。

 七紀の両親の了解は取ってある。もちろん泉家の保護者からもだ。だからその日だけは、どうしても百色には涙雫の家に泊まって欲しい、と。

 そんな話を下校時にされてしまったのだ。


〝い……や、いやいやいや。さすがにそれはマズ過ぎでしょ。ちょっと本当に親御さんたちの了解はとってあるのッ?〟

〝七紀くん、親御さんなんて言葉、フツー中学生の男子は使わないよ〟

〝いや、だから、そんなことは本当にどうでもいいからホントに了解はとってあるの?〟

〝だからそれは取った。って言ってるじゃない。信用ないなぁ。じゃあ今日、帰ったら七紀君の両親にでも聞いてみればいいでしょ。多分、話は通ってるから〟


 ……。

 確かに家に帰ってみると、本当にその話は通っていた。百色の両親も。そして今の住まいとしてお世話になっている泉家の保護者である詩織の両親でさえも、それらの事案は全て了解されていた。


「行ってきなさい」

「いってきなさい」

「……いってらっしゃい」

「詩織……泣かせないでね?」


 泣かせて欲しくないなら、自分を行かせなければいいのに。なのに、なぜか最高責任者の四者はくだんけんを快く了承したのだった。まだ12歳の七紀百色に……隣の席の女子の家に堂々と一泊して来いと太鼓判を押したのだ。


(おい、ちょっとフザケてんだろ。最近の親はッ)


 仕方なく一泊用のお泊りセットを担いでゴールデンウイークの前半もつつがなく終わった頃。言われた日付どおりに七紀百色は、涙家の玄関前にやって来た。地図を仕舞って自転車から降りると駐輪できそうな場所を探す。しかし自転車ケッタの置けそうな適当な場所は見つからなかったので、ひとまず置けそうな塀の隅に自転車をめてインターホンを押した。


〝はーいっ。《……お、やっときたっ》〟


 ……ん?


〝おい、アンタは黙ってなさいよっ。(えー?いいじゃん。聞かせてよ)……で、……ぇ、ぇえと、ど、どちら様ですか?(どちら様ですか、だって。プーッ)〟

「……。ぁ、あの七紀ですけど……」

〝ぅうおおおおぉぉぉぉぉぉっ!キタァァぁァァぁっァァぁッ!(ちょッ、アンタやっぱダマってろッ!)バコォッ(おゲぶっ!)〟


「……………………」


 ……賑やかだなァ……。

 本当にこれほど賑やかな家に自分は必要だったのか? 激しくそんな事を考えながら百色が上の空でいると、インターホンのある小さな洋風の簡素な門戸の向こうで華やかな庭先が広がる奥にある一軒家の玄関のドアが開いた。


「……い……いらっしゃい……」


 開いたドアから半身を隠して、GW前に学校で別れた時と同じ制服姿で、涙雫が顔を出してきた。それを見とめて百色も、ぎこちなく笑う。


「え、ええと。言われた通りに来たんだけど、まず自転車、何処に置けばいいの?」

「あ、えっと自転車はね」

「自転車はそこですよ。そこ。門の隣に駐車スペースあるでしょ。そのスペースの奥に置いてもらえればいいです。柵は開けときますから」


 雫の背後からぬらりと割って出てきて、百色に自転車を留める方向を指差したのは雫とほぼ同じ背丈の少年だった。


「な、ながれっ!」


 ……ながれ


 百色が首を傾げていると、玄関のドアから無理やり出てきた少年に押しのけられて喧幕を向けている雫が、言葉に詰まりながらも説明を始めた。


「あ……、え、えっとね。コイツはわたしの弟でながれって言うの。なみだながれ

「涙……流くん……」

「よろしくー。兄キッ!」

「…………兄キ?」


 初対面で馴れ馴れしく兄貴呼ばわりさられた事に困惑を受けながら、百色が怪訝に見ていると。雫の弟である涙流もニカッ!と百色の最も苦手とする白い歯笑顔マブしぃ!を最大にブチカマしつつ親指を立ててグッジョブする!


「そりゃあ、兄キでしょッ!七紀さんってアレでしょ? 今夜、ウチの姉貴とるんでしょッ? 避妊具ゴムはちゃんと持ってきてます? なんなら貸してあげましょうか?」


 あハハと高らかに笑いながら、腰に手を当てて堂々と立っている。


「……。……えっと涙さんの弟さんなんだよね?」

「そぅっスよ。小6です」


 年子……か……。ならば相当、体格がいい分類ぶるいだ。姉である雫と背丈も肩幅でも負けていない。


「……じゃ、じゃあ、とにかく荷物置きたいんだけどなかに入ってもいいのかな? 取りあえず明日の朝までオレが居ればいいんだよね?」

「……。ヤだなぁ七紀さん。質問に答えてないですよ。ヤるんでしょ? 今夜、この姉貴と?」

「流っ!」


 それでも雫の弟である流は、不気味な笑みを放つことをやめない。


「別にいいだろ? ネェちゃんだって、いつも壁越しで俺たちがシテるのを聞いてるじゃないか。だから今日、この方を誘ったんだろ? 今度は自分の番だって」


 弟がイヤらしく姉の未発達なカラダを足から首筋へと舐め上げるように見ると、雫もそっぽを向く。そんな姉弟の様子を、百色はどこか漠然とした不安に襲われたまま見つめていた。

 なぜだろう、なにか……雲行きが怪しい……。


「姉貴、入念に体を洗ってきたんですよ? そりゃもうすんごい変な鼻歌なんか唄っちゃって。録音してあるんですけど聞きます?弟から見るとオエっとしか言いようがないんですけど。ひょっとしたらこんなオンチな声でも噂の七紀先輩にならお気に召すかもしれない。どうです? ちょっと聞いてみませんか?」


 流がスポーツ用のハーフパンツのポケットから取り出してきたスマホを凝視して、百色は言葉を失ったまま立ち尽くすしかない。


「あれ? どうしたんすか? ヤりましょうよ? 例の裸で4Pってヤツ。おれ、今日、メチャクチャ楽しみにしてたんですよ! 姉の夫婦カップルと弟の夫婦カップルが同時にヤるってヤツ! ちょうどオレの相手オンナも呼んであるんで大丈夫ですよ。オレたち姉弟夫婦の子供が運命みらいの幼馴染み従兄妹になるってワケです! あ、するのは別々の部屋がいいです?それとも同じ部屋ですか? まあ、姉貴は初めてなんで後で姉貴の意見も聞いて決めましょうか」


 そこまで言って雫の弟の流は、庭の奥の玄関を振り返って呼んだ。


「おいッ!」


 大声で呼ぶと、呼ばれた主も扉を開けてこちらを恐々と窺っている。


「な、なによ」


 恐る恐る窺っている目が、百色たち三人を捉えた。


「紹介しますね。コイツ、オレの幼馴染オンナでヒロコって言います」


 すでに性行為を経験している小学生とまだ童貞の中学生の思春期がぶつかる……。



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