のみ込め! めぐみ先生

安室 作

のみ込め! めぐみ先生




・ドン引きりょうくん痛みの種


「おっ! 大きい絆創膏ばんそうこうだ! これでなおったね」

「まだいたいよ……! しみた!」

「まだ痛い? 大丈夫?」

「だいじょうぶじゃない! いたい!」


「よーし、じゃあ……いたいのいたいのとんでけー! ふわふわふわふわ……ごくんッ。あ痛ッ! いたたたた! 先生いたい! はっ腹ァ!」

「い、いたいの? せんせい。も、もうぼくだいじょうぶだから」




・いつもはとてもいい子、ちこちゃん怒りの種。


「あーっ! おーっ! なんだよーっ! もおおおぉぉ!」

「ほらちぃちゃん、先生が抱っこしてあげる」

「せんせいのぎゅーはいらなーい! あっちいって!」


「よーし、じゃあ……おこったのおこったの、とんでけー! ふわふわふわふわ……ごくんッ。ううう怒りィィッ!? 先生怒っちゃう! あれ? なんで怒ってたの?」

「ママが、おむかえくるよって、ぎゅーってしてくれなかった!」

「ママのこと大好きなんだね……大丈夫だよ! 夕方お迎えちゃんと来るから。さあ、上着とかばん置きにいこっか!」


「やだ。まだおこったのとんでいかなーい」

「そうなの、あらあらどうしましょう」

「……めぐみせんせいが、ぎゅーってして!」




・やる気を出せば無敵。まなちゃん苦手の種。


「……ぅぇ」

「まなちゃん、粘土いや?」

「きたない。くさい。なんでやんなきゃいけないの?」


「どれくらい凄いのを作れるようになったか、みんなに見せてあげようよ!」

「……ぇぇ」

「これは紙粘土だから、真っ白できれいだよ。固まったら、明日色を塗ろう。何色がいいかなー」

「むずかしそう……」

「パパやママに、すごいでしょって自慢しよう! パパやママは何が好き?」

「あかときいろ、おはなといぬ……よし! あ、あれやって! とんでくやつ」


「ああ! ふわふわふわふわ……ごくんッ。苦手ェー! って見てないし」

「もうとんだよ?」




・いつもゆうちゃんと一緒、けいくん退屈の種。


「つまんない……つまんない!」

「今日はブロックで何か作らないの?」

「あめふってるし、ユウちゃんおやすみだし、なーんにもしない!」


「よーし、じゃあ……つまらないのつまらないの、とんでけー! ふわふわふわふわ……ごくんッ。うう、ああ! つまらないッ! 退屈だァ! けいくん、先生と遊んでー!?」


「せんせいひとりであそべば?」

「わーいそうしよーっと! 積み木かな? 折り紙かな? 決められないなー」

「……もう! じゃあちょっとだけね! いっしょにブロックやろっ!」







星組ほしぐみみんなが飛ばす楽しさの種


「ふわふわってなにでできてるの?」

「んん? んー何で出来てたかな」

「せんせいしらないの? タンポポのふわふわでしょ?」

「あ、ああーだから吹けば飛ぶんだ」

 

「しろいふわふわはたねなんだよ?」

「とんでいってタンポポがふえるんでしょ! しってる!」


「めぐみせんせい……いたいのとか、ふえてない?」

「つまらないのは!?」

「お、おこったの……」


「そんなおはな、おなかでふえちゃや! せんせいのまないで!」

「おまえらがせんせいにのますんだろ!」

「ケイくんもユウちゃんとなかなおりのとき、とんでけーしてたもん」

「ぷんすかもごくんッって、またせんせいにのませるんだー!」

「ああー! なんだよ!?」


「ストップ。ストーップ! 先生はのみこんでも平気なんです」

「どうして?」

「それはね……んん、ああっーと、それはねぇ……」


「先生はいま楽しいからです! みんなが楽しくしてくれるから。のみこんでもお腹は平気なんです!」

「じゃあもっとたのしくしよう!」

「「「「「「おー!」」」」」」


 みんながパーっと散って、遊びに入る。ちらちらこっちを見ながら。

 しばらくしてケイくんが、せーのって声を出す。


「たのしいのたのしいの、せんせいにとんでけー! ふわふわふわふわ……!」

「「「「「「ふわふわふわふわ……!」」」」」」


 集まっていた子も、そうでない子も。

 いつのまにかクラス全体で、ふわふわふわふわの大合唱。

 星組ほしぐみはいま、見えない楽しさの種が飛び交っていた。


 みんながみんな私を見ている。わくわくした期待の目。

 それに応えてあげるのが、保育士としてのサガ


「……ごくんッ。ああ、うん。うん……ッ!」

「せんせい、たのしい!?」


 楽しいっていうよりも――


「めぐみせんせい、ないてるの?」

「かなしいをとばしたのだれだ!」

「ま、まなじゃないよ……?」




「うれしくて……お腹いっぱい、です……ッ!」




 しばらく星組ほしぐみでは、いろんな気持ちを飛ばすのが流行りました。

 励ましたり元気づけたりが必要な子に、誰かが飛ばしてあげるのをよく見ます。これからも日々見守り、楽しさを共有する子どもたちの心を育んでいけますように――




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