第158話 冒険者・ティアの苦労の日々
◇◆◇
ウルカの裏切りとライアド教ハイドラス派(と言うより、『
目的は、(表向きは)諸国漫遊の為である。
本来、彼女達『
しかし、彼らをロンベリダム帝国に引き込みたい思惑の存在したルキウスらによる策謀によって
まぁ、それは後に発覚した事ではあるが、結局は本当に何も知らない世界を旅する事はリスクが高い訳であるし、当初は自分達の
ただ、ある程度
また、ロンベリダム帝国側としても、ティアらの今回の出立は、色々と都合が良かったと言う側面もある。
何故ならば、ロンベリダム帝国側は間接的とは言え、『
それについては色々と方便を用意していたので、のらりくらりと追及をかわす事自体は可能ではあるが、『
そんな中で、特にそれに関する抗議もなく、ティアらから諸国漫遊の打診が来る。
ほとぼりを冷ます意味でも、また、“魔法銃”を使った
もちろん、ティアらの
まぁ、銃の情報がロンベリダム帝国側に漏れた件に関する懸念もあったのだが、ぶっちゃけるとティアらがいたところでどうにもならない可能性もあったので、そちらはエイボンやキドオカ、またアラニグラやククルカンに任せる事として、彼女達は予定通りロンベリダム帝国を出立する事としたのであったーーー。
・・・
以前から言及しているが、ティアら『
彼女達が本気を出せば、ロンベリダム帝国からロマリア王国へと移動する事はさほど時間を要する旅ではないのだが、ロンベリダム帝国を出立して一ヶ月が過ぎても、彼女達はまだロマリア王国に到達していなかった。
これは、様々な問題もあったのだが、一番はアーロスとN2に要因があった。
これは、魔獣やモンスター、盗賊団などの脅威がそこかしこに存在するからである。
故に、
そもそも
近世に入ってからは、街道が整備され、交通手段や治安が改善した事なども相俟って、広く一般的になっていったが、そこまでの文明や環境の整備が整っていない
ティアらも、そうした事を考慮した上で、旅をしていても不自然ではない様に、また各方面への配慮や自身の立場を守る事も含めて(ロンベリダム帝国の関係者である事をカモフラージュする意味でも)、対外的には一介の冒険者のパーティーとして旅をする事を選択した訳である。
また、この選択には資金を稼ぐ為、と言う別の目的も存在していたのである。
当然ながら、旅にはお金が掛かる。
しかし、当然ながら、飲食費や宿泊費などは掛かる訳だ。
(他にも、武器・防具や水や食糧などの消耗品を含めた装備費などの支出がある。
余談ではあるが、旅慣れた冒険者や商人達ほど、こうした支出を節約する為に、野営や野宿、食糧などを現地調達する技術、所謂高いレベルのサバイバル技術を身に付けている者達も多いのである。
更に余談ではあるが、ウルカはトニアやエネアのサポートや、ライアド教という後ろ楯があったので、資金面で苦労する事はなかった。
また、キドオカに関しては、ヴァニタスのサポートがあったので、こちらも資金面に関しての問題は最初からクリアしていたのであった。)
もちろん、彼女達もロンベリダム帝国にて仕事に従事していた訳であるから、全くお金がない訳ではない。
しかし、彼女達は高いレベルや身体能力に反して、色々と経験が不足しているので、知らず知らずの内に
当然ながら、無収入のまま旅を続けていれば資金などすぐに尽きてしまう。
それ故、旅をしながらも資金を稼げる方法としては、冒険者稼業はまさにうってつけであった訳である。
ただ、先程も述べた通り、あくまでティアらの旅の目的はアキトを捜索する事であった。
故に、ある程度
・・・
ティア、アーロス、ドリュース、N2の中で、ティアだけは今回が本格的な冒険者デビューであった。
これは、ティアが皇帝・ルキウスらを監視(牽制)するチームの一員だったからであり、アーロスとドリュース、N2はロンベリダム帝国周辺を捜索・情報収集するチームとして冒険者経験があったからである。
もちろん、テポルヴァ事変の折に、ティアも帝都・ツィオーネを離れた経験があるものの、基本的には
それ故、冒険者としてはアーロスらの方が先輩であった為に、この旅の
(と、言っても、彼らも冒険者として見た場合は、その実力はともかく、経験的には駆け出しに毛が生えた程度であったが。)
もちろん、ティアもアーロスらも、この旅の主目的がアキト捜索である事は共通して認識していたものの、ある種のフラストレーションを抱えていたアーロスとN2が、冒険者活動を通じてそれらを発散する事に夢中になってしまったのである。
具体的には、魔獣やモンスター、盗賊団などの脅威によって困っていた者達を救って回ってしまったのである。
いや、それ自体は立派な行為である。
また、資金を稼ぐ上でも、別に悪い選択肢ではない。
しかし、そんな事を続けていれば、当然足止めを食らってしまう訳で、言うなればゲームにおけるメインストーリーそっちのけでサブクエストをこなしまくっている様な状況であったのだ。
ただ、ティアとしても、それに強く言えない事情もあった。
アーロスは、元・『LOL』、現・『LOA』の仲間達の中で一番年下である事もあって、まだまだ精神的に未熟な面が存在する。
まぁ、
アーロスの年齢は、
これは、所謂“厨二病”の発展系であり、ある意味では“厨二病”の派生系であるのだが、“厨二病”が「カッコよさや熱血への憧れ」によるものならば、“高二病”は「ニヒルさクールさへの傾倒」であるので、痛々しさは“厨二病”より更にパワーアップしている。
まぁ、アラグニラとククルカンも、ある意味この“高二病”とも言えるのだが、アーロスはむしろ“厨二病”寄りの患者と言えるだろう。
まぁ、ここら辺はややこしいので、ここでは割愛するが、つまりこうした事もあって、アーロスの精神はまだまだ不安定で、成熟には至っていなかったのである。
英雄願望や変身願望がありつつも、それを現実的な観点から否定しつつ、その憧れを心の底では捨てきれていない。
そんなアーロスに、異世界転移と言う大事件が起こったのである。
当初は、アラニグラらと同様に夢にまで見たファンタジーな世界に胸を踊らせていた訳であるが、テポルヴァ事変の折に発覚した
ここら辺は、状況や覚悟の差であろう。
アラグニラやククルカンが、
それ故、帰れないと分かった瞬間、取り乱してしまったのである。
ここら辺は、ウルカも似た様な状況であった。
ただ、アーロスはドリュースやエイボンと言った友人の存在によって持ち直したのに対して、ウルカは仲間達を拒絶してハイドラスにつけこまれる事となった違いが存在する。
まぁ、それはともかくとして。
更には、アキトと言う別の『
まぁ、その弊害ではないが、アーロスはこれまでのフラストレーションを解消するある種の代償行為として、この英雄願望を存分に満たす冒険者活動に没頭してしまったのであった。
一方のN2は、彼の
その二人の状況が分かっていただけに、ティアも強くは言えなかった。
彼らのその行為を止めさせて目的を優先させた場合、最悪関係がこじれてしまう可能性があったからである。
確定ではないものの、高確率でウルカが裏切った可能性があり、なおかつタリスマンもルキウスに傾倒している現状の中で、これ以上仲間との関係が悪化する事は、ティアとしてもなるべくなら避けたい事態であったのである。
まぁ、それに、アキトの情報が得られた今、焦る必要もなかったと言う計算もあったのだが。
もちろん、ロンベリダム帝国や“魔法銃”の事もあって、あまり時間は掛けたくなかったのも正直なところであったが。
そんな事もあって、アーロスとN2がある程度満足するまで、適当に冒険者活動に付き合いつつ、頃合いを見て、アキト捜索へと誘導しようとしていたのであったがーーー。
◇◆◇
「本当にありがとうございましたっ!!!」
「いやいや、無事で何よりでした。」
「これからは気を付けて下さいね。」
これまで、何度となく交わされたやり取りに一応の謙遜をしながらも、何処と無く自慢気にアーロスとN2は人身売買用として捕らえられていた人々からの感謝の言葉を受けていた。
今現在の
今回も、そんな悪名高い盗賊団の一つを壊滅させて、奪われた資産や人々を解放したアーロス達は、律儀にも治安維持部隊と連携して、資産や人々を回収、盗賊団連中の連行をこなしていたのだった。
ぶっちゃけると、資産や人々はともかくとして、悪人の人権などないに等しい
いや、極端な話、そうした連中は結局
まぁ、ここら辺が、アーロスらとアラニグラ達との差であり、本当の意味で
逆にそれ故に、ある種の
もちろん、大半の冒険者達もアーロスらと似た様な状況ではあるが、そちらはどちらかと言うと、管轄違いである為に余計な事をしないと言った職業倫理的な観点からである。
故に、盗賊団壊滅の後は、行政機関などに丸投げするのが普通であり、むしろその後の身体、精神のケア、生活再建の目処まで含めて面倒を見るアキトらの方が例外中の例外と言えるだろう。
「いやいや、今回も大活躍でしたな、ティアさん。貴女方が来られてからは、この街の治安も目に見えて良くなっておりますぞ。」
「い、いや、儂らは仕事をこなしただけですから・・・。」
「ハハハハッ、これだけの活躍をされても謙虚でいらっしゃる。貴女方は、高潔な精神をお持ちの様だ。」
一連の仕事を終えた後、人々からの感謝の言葉を受けるアーロス、N2、ついでにドリュースを遠巻きに眺めていたティアのもとに、この街の治安維持部隊の隊長であり、これまで幾度となく顔を合わせている男が近寄って来てそんな言葉を投げ掛ける。
それに、ティアは曖昧な返事を返すが、それを謙遜と受け取った男は、更にティア達を持ち上げる様な発言を繰り返していた。
男の立場から言えば、管轄が違うとは言え、冒険者としてこの街周辺の治安維持に務めてくれる人材は重宝するモノであった。
いや、ここら辺はバランスや考え方にもよる。
治安当局側から言えば、冒険者にあまり活躍されると、自身の立場や出世のチャンスが減ってしまう、と考える者達もいる。
実際、以前にダガの街周辺にて派手に暴れていたランツァー一家や、彼らと裏で繋がっていたコロナエ領・領主であるレイモン伯の大捕物の件に際して、アキトらが裏で暗躍していた事を知らなかったダガの街の騎士団・団長、クロヴィエによって、デクストラのメンバーが軟禁されると言う事件が起こっている。
これは、クロヴィエがデクストラ達の手柄(と勘違いしていた)を横取りし、自分達の手柄として一連の事件を処理しようと画策したからであった。
まぁ、結局これはアキトらによってクロヴィエが損を引く形に終わったが、この様に、治安維持部隊と冒険者の関係はある意味では仕事内容が近しい事もあって色々と微妙なのであった。
だが、中には柔軟な考えを持っている者達もいる訳で、治安維持部隊と冒険者ギルドが密接に連携する事をよしとする者達もいるのである。
結局、その街周辺の治安が良くなれば、それは回り回って治安維持部隊の評価にも繋がる訳で、下手に自身の手柄に固執しなければ、むしろ状況は改善する、なんて事も多いのである。
まぁ、それはともかくとして。
「・・・ところで、
一通りの賛辞の言葉を述べた後、ややあって男はそう切り出した。
ティアは、内心“不味いな・・・。”と考えながらも、これまで何度となく繰り返して来た言葉を口にするのだった。
「お話はありがたいのですが、儂らにも目的があります。この街に立ち寄ったのも単なる偶然です。流石にこの街に骨を埋めるつもりはありませんよ。」
「そこを何とかっ!こう言う言い方は
「ですからっ・・・!」
「おぉ~い、ティアの姐さんっ!そろそろ冒険者ギルドへ報告に行こうぜぇ~!」
やんわりと断るティアに、男はなおも食い下がって来る。
そのしつこい様子に、ティアが反射的に声を荒らげそうになったタイミングで、人々の波から抜け出したアーロスがそう声を掛けた。
「うむっ、了解したっ!」
「・・・時季が悪かった様ですな。まぁ、焦りは禁物ですし、では、また改めてこの話の続きをさせて頂く事としましょう。改めてご協力、感謝しますっ!」
次などないがな・・・。
チラリと男を一瞥して、ペコリと一応頭を下げ、ティアはアーロス達のもとに合流するのだったーーー。
・・・
ティア達が今いるのは、ロンベリダム帝国から西南方面の周辺国家郡を抜けた先の国であった。
以前にも言及したが、ロンベリダム帝国から
もっとも、南方面、つまり
もちろん、ここにもオアシスを中心として国家が存在するし、それを抜けた先にはドワーフ族の地下国家も存在するので、冒険者や商人は普通に旅するルートであるが、旅に慣れていない者達にとってはかなりハードルの高いルートでもある。
故に、必然的に西方面、ちょうどティアらが通ってきたルートがもっとも安全なルートとなる訳なのであった。
さて、ティアらが滞在しているのは、そのグランバルドと言う王国のデプタと言う街であった。
このグランバルド王国は、古くからロンベリダム帝国の周辺国家郡の先住民族達(他種族も含む)との付き合いがあり、その関係から他民族や他種族に対する差別意識は薄く、彼らの技術の影響を受け魔法技術における今現在の主流からは外れるものの、中々面白い発展を遂げていた国であった。
また、歴史の古い国でもあり、文化、芸術の観点から、多くの文化人や芸術家、研究家が集まる国でもあった。
ただ、その反面、軍事力は少々劣っている印象が否めない。
先程述べた通り、先住民族達とは比較的良好な関係を築いているし、その先住民族達の国家郡が緩衝材となって、これまでロンベリダム帝国の脅威からは守られていたからである。
平和なのは良い事だが、そうした環境が続くと平和ボケしてしまうデメリットもある。
また、国の予算をかなり割いてしまう軍備費を縮小しよう、などと言う意見も出てくるものなのである。
これは、ハッキリ言ってナンセンスな事だ。
故に、まずは安全保障の観点から、最優先で軍備に力を入れなければならないのだが、まぁ、上層部が現場を把握出来ていない、なんて事はよくある話であった。
そんな事から、盗賊団としては活動しやすい環境が整っており、それに対抗する為にグランバルド王国では冒険者に頼る傾向が他の国より顕著だったのであるーーー。
「そろそろ冒険者活動にも慣れてきたし、旅を続ける資金も十分に稼げた頃合いじゃ。ここら辺で、本来の目的の為にも、そろそろ移動を再開するべきじゃと思うのだが、皆の意見はどうじゃ?」
その後、デプタの街の冒険者ギルドにクエストの終了を報告し、今ではすっかり定宿と化しているデプタの街の一等地にある高級宿の食堂にて、ティアがそう切り出した。
「そう、だな・・・。元々、俺らは『
「・・・確かに。思いの外、
一瞬、残念そうな顔をしたアーロスとN2の顔色をティアは見て取ったが、二人とも口ではティアの言葉を肯定する様な雰囲気を滲ませていた。
それを、同じく感じ取っていたドリュースは、ティアにその真意を問う。
「しかし、急ですね。何かあったのですか?」
ドリュースとしては、しばらく塞ぎ込んでいた二人が、かなり前向きになっていたところだっただけに、もう少し様子を見ても良いのではないかと考えていた。
ここら辺は、すでにアキトの情報や所在の目処が立っていたからこその判断である。
「うむ。実は、
「「っ!!!」」
「それって・・・。」
「儂らは目立ち過ぎた。儂らの
「け、けど、そんなの断れば良いだけの話じゃないのか?」
「ところが、そういう訳にもいかない。今はまだ良いかもしれんが、このままここに留まっていたら、その内強引な手段に訴え掛けてくるかもしれんからな。世の中は、綺麗事だけではない。それは、ロンベリダム帝国でも十分に経験したじゃろう?」
「「「・・・。」」」
これは、ティアの方が正論である。
もちろん、本来は冒険者は自由の身ではあるものの、高い実力を備える者達は、どの勢力も自身の陣営に引き込みたいものなのである。
最初は、穏やかな交渉から始まるかもしれないが、その内焦れて強引な手段に訴え掛けてくる可能性もあった。
「まぁ、そんな訳じゃから、余計なトラブルに巻き込まれる前に儂らは移動するべきじゃろう。場合によっては、儂らが原因となって、
「お、おう。そうだよな。」
「確かに、それは私達としても本意ではありませんよね。了解しました。」
「そういう事情ならば仕方ありません。それに、他の国や街でも、困っている人達がいるかもしれませんしね。」
「おおっ、そうだよなっ!」
「私達の助けを必要としている者達がいるかもしれませんねっ!」
ティアの誘導によって、アーロスとN2も納得した様に頷いた。
それに加え、ドリュースのさりげないアシストによって、アーロスとN2も先程より前向きに移動の件を了承した。
その様子に安堵した様にティアも頷き、ドリュースに目配せをしながら、
「では、明朝、関係各所に挨拶回りをしてから、
「おう、了解っ!」
「了解しましたっ!」
「分かりました。」
そう締め括って、ティアらは各々に割り当てられた部屋に戻って行くのだったーーー。
「やれやれ、
部屋で一人になった後、そんな愚痴をポツリと溢してしまうティア。
しかし、彼女の苦労は、まだまだ始まったばかりなのであったーーー。
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