第157話 獅子は我が子を千尋の谷に落とす様なイメージで



・・・



チームプレー、言わば連携の重要性など今さら議論するまでもないだろう。

サッカーにおいても、非常に優れた技術を持つスタープレイヤーが、この相手チームの組織力に敗北する事も往々にしてある。

つまり(もちろん絶対ではないし、状況によっても異なるが)、個のチカラだけではこの集団のチカラに抗う事は難しいのである。


もちろんそれを成す為には、まず相手勢力の戦力を分析・解析し、味方勢力の各々の得意・不得意を把握し、その中からもっとも最適な作戦を立案する指揮官(監督など)の存在、刻一刻と変わる戦況をコントロールし、作戦通りに状況を臨機応変に修正出来るだけの現場指揮官(司令塔)の存在、更には、それを遂行出来るだけのある一定以上の技術を持った個々の兵士(プレイヤー)の存在、そして、お互いがお互いをフォロー出来るだけの的確な連携行動などが重要になってくる。


逆に言えば、個々に高い技術力だけ持っていても、この組織力・連携力が劣っていると、意志疎通やコンビネーションに難が出てしまい、むしろ実力の半分も出し切れない、なんて事態にも成りかねないのである。

ここら辺は、まだ幼い子供達にも見られるのだが、役割分担や連携、組織力の重要性がイマイチ理解出来ておらず、皆が皆ボールに群がってしまい、しっちゃかめっちゃかになってしまう、なんて現象も起こりがちである。

まぁ、子供ならばそれも致し方ないし、それはそれで微笑ましい光景ではあるが、ある程度の経験を持つ者達がそうなってしまった場合は、成す術もなく相手に負けてしまう事は間違いないであろう。



さて、では、ここで改めてヴィーシャ達の模擬戦の作戦とその経緯を見ていこう。


ここ最近は、アキトの提案によって、ヴィーシャの個人的なレベルアップの訓練とは別に、アイシャ、ティーネ、リサ、エイル、そこにヴィーシャを加えた連携をよく練っていた。

これによって、お互いの得意・不得意や特性、性格的な事への理解度が深まり、親密さも増していた。


そうした事もあって、彼女達の個人個人の信頼性は高まっており、ヴィーシャがアキト以外では自分達の指揮官にもっとも相応しいと素直に認めるに至っていた訳である。

これは、言わば適性の為である。


アイシャとリサは、本人達も自己分析が出来ていた様に、一種のアタッカータイプであり、サッカーのポジションで言えばフォワード(FW)、RPG系のゲーム的な観点から言えば、近接戦闘に特化したアタッカー、兼タンク役と言った事を得意としている。

もちろん、彼女達はアルメリアやアキトからシュプール式トレーニング方法を施されているので、魔法はともかくとしても、遊撃的な働き(他の者達のサポートなど)や、拠点や要人を守るディフェンス的な働きも高いレベルで実行する事が可能である。

しかし、性格や種族的な特性からも、やはり一番輝くのが最前線での攻め役であり、模擬戦でも、同じくアタッカータイプであるクロとヤミと直接対峙する役割を担っていた。


ティーネとエイルは、一種の遊撃タイプであり、サッカーのポジションで言えばミッドフィルダー(MF)、RPG系のゲーム的な観点から言えば、アタッカー兼タンク役のサポートをする支援役であり、なおかつ遠距離から魔法や弓矢などの飛び道具による狙撃なども可能なオールラウンダーであった。

その中でも、ティーネはやや攻撃寄りのタイプで、サッカーで言えばオフェンシブハーフ(攻撃的ミッドフィールダー)、エイルは防御寄りのタイプで、サッカーで言えばディフェンシブハーフ(守備的ミッドフィールダー)の様な働きを得意としている。

もちろん、先程のアイシャとリサの例と同様に、近接戦闘も高いレベルで実行する事が可能ではあるが。

模擬戦でも、アイシャ対クロ、リサ対ヤミの構図を崩されない様に、アキトによるクロとヤミへの支援を事前に牽制、妨害し、相手を好きに仕事させない様に戦況を見事にコントロールして見せていた。

と、同時に、エイルはヴィーシャを守る役割も実は担っていたのである。


そして、最後にヴィーシャである。

元々ヴィーシャは、政治家寄りの立場を持つ女性ではあるが、戦闘においてもかなりの腕前を持っていた。

だが、アキトらの基準から言えば、残念ながらレベル的にも経験的にもそこまで大した使い手ではなかった。

それは、S級冒険者相当の実力を身に付けた今現在においても変わらないのだが、彼女の強みは、その頭脳と他者を上手く扱える資質、そして何よりも、その『妖狐族』特有の『幻術特殊能力』にある。


アキトも以前言及していたが、今現在のこの世界アクエラでは『幻術使い』は極めて貴重な存在となっている。

これは、魔法技術の一時喪失の歴史によって取りこぼされてしまった技法であったからであり、なおかつ、現代魔法の主流から外れてしまった為もある。

まぁ、ここら辺は向こうの世界地球でも割と見られる傾向ではあるのだが、非常に有用かつ高い技術なのにも関わらず、時代の流行や流れによっては、または後継者不足によって、惜しまれつつも消えていってしまう技術や技法は思いの外多いのである。

もっとも、後の人々によってその価値が再発見されて(ルネサンスがこれに該当する)、再び陽の目を見るモノもあるにはあるが、それはある意味では連綿と続いていたモノとは異なるので、全く別体系の技術に変化してしまっている場合も多い。

まぁ、それはともかくとして。


アキトも言及していたが、この『幻術』は、非常に応用範囲の広い技術である。

術者の技量や発想力次第では、まさしくチート級の性能を持つ技術と言っても過言ではないのだ。

ヴィーシャはこの『幻術』を上手く活用して、アキトらとのレベル差や経験値の差を埋め、戦況を有利に進める事に成功していた。


策を労する事は立派な兵法である。

世には“正々堂々”などと言う言葉があるが、相手に何もさせず、終始自分達のペースに持ち込む方が戦力の損耗を避ける上でも重要なのは言うまでもないだろう。

ヴィーシャは『幻術』を応用して、によりアイシャとリサのサポートをする事で、実は多対一の状況を作り出し、クロとヤミの撃破を実現した訳である。

サッカーなどにおいても、お互いにフィールド上に立てる人数は決まっているものの、強いチームや上手いチームほど、瞬間的にこうした多対一の状況を作り出す事が上手だ。

当然だが、一対一より、二対一、三対一の方が有利なのは言うまでもないだろう。


具体的には、クロ対アイシャの場合、ヴィーシャは『幻術』を応用する事によって、クロのさせていたのである。

以前の訓練時に、ヴィーシャは自身の分身を作ると言った『幻術』を披露している。

もちろんこれは、本当に分裂している訳ではなく、一種の催眠や暗示なんかと同様に、ヴィーシャが複数人いる様にだけである。

言わば、視覚効果に特化した『幻術』ではあるが、高い感知能力を持つクロとヤミには、これは効果が薄かった。


そこで、アキトから『幻術』のレクチャーを受けていたヴィーシャは更に嗅覚を誤認させる『幻術』も併用したが、残念ながら聴覚も非常に優れていたクロとヤミの前にヴィーシャは敗北した。

だが、その経験は必ずしも無駄ではなかったのである。


高い戦闘能力を持つクロとヤミとは言え、相手がアイシャとリサであれば、どうしても周囲への注意力は散漫になってしまう。

何故ならば、目の前の相手は、油断すれば一気に押し込まれてしまう相手だからであり、それ故に、目の前の相手に集中するあまり、周囲への意識が疎かになってしまうからである。

それ故、平常時であれば絶対に引っ掛からなかったであろう、周囲の足場があるかの様に見せ掛けられた『幻術』に見事に引っ掛かり、一瞬体勢を崩した隙にアイシャに一気に仕留められてしまうと言う事態に陥ってしまったのである。

自分だけでは出来なかった事でも、仲間のチカラを借りる事で実現出来る事がある。

まさしく、アイシャとヴィーシャによるチームプレーの勝利であった。


リサの場合はアイシャとは違い、周囲の足場ではなく、リサの得物である鎚自体の攻撃範囲を誤認させる事を選択。

これは、手甲を用いた素早い攻撃を得意とするアイシャとは違い、振りは遅いが、一撃一撃は大きいリサの特性を考慮した結果である。

強者同士の戦闘の場合、相手の隙を狙って紙一重でかわす事が往々にしてある。

何故ならば、あまり余裕を持ってかわしてしまうと、相手も余裕を持って体勢を整えてしまうからである。

高いレベルになると、時として死中に活を求めるかのごとく、リスクの中でチャンスを掴む必要も生じるのである。

そうした心理を利用して、ヴィーシャはリサの鎚自体の攻撃範囲を誤認させたのだ。


こちらも、先程のアイシャの例と同様に、平常時であれば絶対引っ掛からないであろうヤミでも、リサ相手では緊張感が高まり、通常の冷静さを欠いてしまう。

結果として、見事にヤミはヴィーシャの策に引っ掛かり、空中に放り出されると言った致命的な隙を相手に与えてしまう。

それでも、とてつもない反射神経と瞬発力バネによって体勢を持ち直したヤミだったが、残念ながらリサの方が早かった。

こうして、ヤミもヴィーシャとリサのチームプレーの前に敗北してしまったのである。


この様に、ヴィーシャはわずかな時間の中で確実に、急速に成長していたのである。

もちろんこれは、仲間達のチカラあっての事だが、それもある意味ではヴィーシャのチカラであった。


だが、それもルールに則った範囲内の戦略であった。

常識に囚われないルールのギリギリを攻める柔軟な発想力ズル賢さと言う点では、残念ながらアキトの方が一日の長があったのであるーーー。



・・・



「ず、ずっこいで、旦那はんっ!クロはんとヤミはんは、確かに鉱石を破壊戦闘不能状態にした筈やっ!!せやろ、アイシャはん、リサはんっ?」

「確かに、ヴィーシャさんの言う通り、確実に手応えは感じたけど・・・。」

「ボクも、確かに破壊した感触があったと思うよ?」

「ほれみろっ!っちゅー事は、これは明らかなルール違反やろっ!?」


僕の意地悪な微笑みに一瞬唖然とした後、ヴィーシャさんは憤慨した様に抗議の声を上げていた。

一応確認の為に、当事者であるアイシャさんとリサさんにも意見も求めたが、二人の答えもヴィーシャさんの意見に沿うモノだったので、ヴィーシャさんは更にボルテージを上げていた。

確かに、ヴィーシャさんの意見が正しいだろう。



唐突ではあるがサバイバルゲームとは、主にエアソフトガンとBB弾を使って行う、おおむね向こうの世界地球の20世紀以降の銃器を用いた戦闘を模す日本発祥の遊び、あるいは競技である。


敵味方に分かれてお互いを撃ち合い、弾に当たったら失格となるのが基本的なルールとなる。

ペイントボールが圧搾空気の力で発射される塗料入りの弾を用いるのに対し、サバイバルゲームはBB弾を発射するエアソフトガンを使用するため、「競技者の失格が自己申告制」「主に実銃を模した用具が使用される」という違いがある。


統一されたルールは存在せず、グループや大会、フィールドごとにルールは異なる。(某百科事典より抜粋)


今回のこの模擬戦は、このサバイバルゲームを参考に僕が考案したモノである(まぁ、考えたと言うほど大それたモノではないが)。

もちろん細かい違いは存在するが、敵味方に分かれてお互いに攻撃し合い、自身のライフ(生命)の代わりである鉱石を破壊されると戦闘不能扱いとなり、それ以降の戦闘の継続が不可能となる、と言う点は似通っているかもしれない。


また、そうした事から、明らかなルール違反であり、マナー違反とも成り得る“ゾンビ行為”が生じてしまう可能性もあった。


ゾンビ行為とは、BB弾がヒットしたのにもかかわらず、自己申告しない事である。

本来ならフィールドから退場し、速やかにセーフティゾーンに移動しなければならないのにそのままプレーを続ける事から、ゾンビ行為と呼ばれている。

ただし、ゾンビ行為は判定や扱いが非常に難しいのである。


もちろん、故意にこのゾンビ行為を行う者達もいるが、中にはわざとしている訳ではなく、無意識にしているものも多いからである。

特に、サバゲー初心者に多いのが、ルールが分からない事で無意識にゾンビ行為をしているパターンである。

また、自分ではBB弾に当たった事に気付かず、他の人から指摘されて初めて知ったというケースもある。

これは、プレイヤーの装備によってはBB弾の衝撃に気付かず、ヒットしていないと判断してしまう、などの要因が考えられている。

(これを回避する為に、運営などの第三者の判定員を設置するなどの対策や、装備の薄い場所を狙って相手に確実にヒットした事を気付かせる、フリーズコールやナイフアタックを採用するなどの対策も考えられるが、実態は当事者同士しか分からないので、判定員による判定の基準が曖昧だったり、オーバーキルになったり、思わぬ攻撃を相手に与えてしまうなどの様に、どの道トラブルのもとになる可能性が非常に高いのである。)


この様に、故意か無意識かを判断する事が極めて難しく、それらを全て一緒くたに罰してしまうと、こじれてしまう可能性が非常に高いのである。


その点を考慮して、僕はこの模擬戦に鉱石(ライフ)を導入した訳である。

これならば、仮にゾンビ行為を行っていたとしても、後に鉱石(ライフ)の状態を改めれば、ルール違反かどうか一目瞭然と言う訳である。



「確かに、ヴィーシャさんの意見は正しいのですが、それは本当に鉱石(ライフ)が、と言う前提条件が付きますよね?」

「・・・なんやてっ?」

「よく見て下さい。クロとヤミの鉱石(ライフ)は破壊されていますか?」


僕は、ヴィーシャさんの言葉に真っ向から反論する。

そして、大人しく事の経緯を見守っていたクロとヤミの身体に鉱石(ライフ)を指し示した。


「そ、そんなバカなっ・・・!?」

「「「「っ!?」」」」

「触って確かめて貰っても結構ですよ?」


自信満々にそう告げる僕。

それに、ヴィーシャさん達は、サワサワとクロとヤミの鉱石(ライフ)が壊れていない事を確認する。

まぁ、端から見れば、クロとヤミをモフッている様にも見えるが。


「あっれぇ~、確実に壊したと思ったんだけどなぁ~?」

「うんうん。ボクもそうだよ。」

「一体、どうなっているのでしょうか?」

「・・・ナルホド、コレハオ父様オ得意ノ『幻術』、デスネ?」

「ああ、せやろな・・・。」


エイルとヴィーシャさんは何かに勘付いて、しまったと言う顔で僕に確認する。

それに、僕はコクリッと頷いた。


これは、案外単純な手である。

僕は、クロとヤミがアイシャさんとリサさんにやられた(鉱石を破壊された)様にだけなのである。

しかし、そんな単純な手であっても、様々なテクニックを併用したり、状況によっては相手を簡単に騙す事も可能なのである。


そもそもヴィーシャさんと同様に、僕も『幻術使い』である事から、僕が何か仕掛けてくるだろう事はヴィーシャさん達も最初から警戒していた筈である。

しかし、戦況は常に刻一刻と変わっているので、時間の経過によって、その意識が薄れてしまう事も往々にしてある。


例えば、サッカーのプレー中はこうした騙し合いの連続である。

フェイントを駆使して相手のマークを外して有利なポジションを取ったり、ドリブルと見せ掛けてパス、パスと見せ掛けてドリブル、パスを受けると見せ掛けてスルー、スルーと見せ掛けてドリブルに繋げるなどなど。

フィールド上のプレイヤーは、ボールに絡んでいない時も常に選択肢の連続を強いられる訳だ。

ただ、当たり前の話として、人間の集中力はそう長く継続する事は不可能である。

故に、集中→緊張感や集中力が切れる瞬間、意識が疎かになる瞬間がプレー中に波の様に繰り返される事となる。


ヴィーシャさんも、ある意味ではクロとヤミ相手にそうした罠を仕掛けていた訳だ。

だが、それが上手く行った事で、すっかり気を抜いてしまったのである。


実際には、上手く行っている時ほど油断は大敵なのである。

鮮やかに相手を抜き去り、さてパスかシュートか、などと一瞬前の過去の事から意識を切り替える瞬間がある。

これは、むしろ当たり前の話で、次の行動の為に思考を切り替える必要があるからだ。

言うなれば、前の行動が終わり、次のコマンドが発生した、と言った感じである。


しかし、実際はプレーのは終わっていない。

抜き去った相手が、素早く追いすがってくる事もあるだろう。

それ故、後ろからボールを取られる、パスカットされるなんて事態もザラに起こり得る。


この様に、最後の最後まで油断は出来ないし、かと言って常に緊張感を維持する事も難しいのである。

故に、この意識の隙間を狙って、相手を騙す事も可能なのである。


今回の場合は、完全にヴィーシャさん達の作戦が上手く行き、なおかつ、彼女達も油断はせずにその確認作業も怠ってはいなかった。

アイシャさんとリサさんがクロとヤミの鉱石(ライフ)を破壊するところを、ヴィーシャさんもティーネもエイルも確かに視認していた事だろう。

アイシャさん自身やリサさん自身も、目と感触で確実に手応えを感じていた事だろう。

故に、そこに油断が生じた。

実際には、それらは全て最初からだったのである。


「もちろん、この策はこちら側にもリスクがありました。ヴィーシャさんか誰かがその可能性に気が付き、僕が何かを仕掛ける前にさっさと僕を倒していれば、この策も失敗に終わった事でしょう。しかし、僕の態度や言葉を不審に思い、慎重に行動を起こそうとした事が返って仇となりました。それ故、倒したと思い込んでいたクロとヤミの攻撃に咄嗟に対処出来なかった。またこれは、ヴィーシャさんのや、エイルの索敵を過信した結果でもあります。僕は、以前に説明した筈ですよ?僕は、五感だけでなく、相手の脳の情報も直接書き換える事が出来る『幻術使い』である、と。」

「ああ、知っとる。知っとった筈やっ・・・!なのに、その事を失念しとったわっ・・・!!」

「イヤイヤ、ヴィーシャ・サン。御自身ヲ攻メル必要ハアリマセン。コレハ、オ父様ガ一枚上手ダッタダケデス。汚イナ流石オ父様キタナイ。ト、言ッタ感ジデショウカ?」

「・・・エイルちゃんは、僕を誉めてんの?けなしてんの?」

「強イテ言エバ、ドチラモ、デショウカ?」

「・・・そう。」


ま、まぁ、あまりエイルの言動は気にしない事としよう。


以前に、ヴィーシャさんには、五感に作用するタイプの『幻術』は看破された経験があった。

これは、おそらくヴィーシャさん(と、言うより、おそらく『妖狐族』全体が持っている可能性が高いが)には『幻術』に対する耐性があり、特別なを持っている為だと推察される。

そうでなくとも、『幻術』が効きにくいタイプの人がいる事を、僕は経験として知っていた。

故に、五感に作用するタイプの『幻術』では、今回のこの作戦も看破された可能性が高い。


しかし、僕は相手の脳の情報を直接書き換える、それこそ訳の分からないとんでもレベルの『幻術』も使用可能である。

もちろん、これに関してはアイシャさん達にも知らせていた訳だが、知っているからと言って、対処出来る事とは話は別である。

(っつか、その詳しいメカニズムについては、未だに理解出来ていないだろうしね。)


また、エイルには、通常の感知能力に加えてマテリアルやアストラル、熱源など感知する機能が搭載されている。

それがあれば、、クロとヤミに仕掛けさせた“死んだフリ”は通用しない。

しかし、今回のルールでは、別に相手を殺傷する必要はないので、クロとヤミが生きていても何ら不自然な状態ではない。

故に、戦闘不能状態である筈のクロとヤミが、突然反撃した時に咄嗟に対処が取れなかったのである。


「えぇ~、ちょっと大人げないんじゃなぁ~い、アキトぉ~!」

「確かに・・・。そこまで本気にならなくてもさぁ~!」


ブーブーと文句を言うアイシャさんとリサさん。

まぁ、彼女達の性格的には、堂々と真っ向勝負が好みなんだろうし、確かにこの訓練の主な目的はヴィーシャさんに自信を付けさせる事だけど・・・。


「ま、まぁ、その意見は分かるけど、少し見積りが甘いよ?訓練や模擬戦の本質は、実際の戦闘をシミュレートする事だ。だからこそ、本気でやる事に意味がある。実際の命のやり取りの際に、卑怯も何もないさ。ルールなどなく、勝つ為には手段を選ばない者達も沢山いる。その時に、相手を非難しても何にならないでしょ?」

「その通りですね・・・。また、訓練であってもそうした罠などを経験しておけば、実際の戦闘時にもその経験が活かせる可能性が高い。訓練だからこそ、様々な経験を積み重ねる事が重要です。」

「「「「・・・。」」」」


皆、それなりに戦闘経験は豊富だが、武人としての側面も持つティーネの言葉の重みにシーンッとした。


練習や訓練が楽ならば、本番もそれに見合った結果しか出せない。

何故ならば、それ以上の経験がないからである。

強いチームほど、ツラく厳しい練習を積み重ねているモノだ。

模擬戦でそこまでせんでも、と思うかもしれないが、模擬戦だからこそ、死なない戦闘だからこそ、本当に起こったらヤバい事を経験しておく必要があると僕は考えている。


これは僕の持論ではあるが、本番までの積み重ねで勝敗の大部分が決すると考えている。

例えば、お遊び系のチームと、常勝を旨としている強豪チームとではどちらが強いかは言うまでもないだろう。

それらの違いは、常日頃の高い意識と練習の質と量である。

皆には、出来る事ならそうした高い意識を持って欲しいモノである。


「まぁ、納得は出来ないかもしれませんが、僕はルール上は何の違反も犯していませんし、逆にアイシャさんとリサさんは、ルール上、クロとヤミの攻撃により戦闘不能の状態になった事は覆し様のない事実です。それは、ご理解頂けましたか?」

「「「「「・・・。」」」」」(コクリッ)


僕の言葉に、アイシャさん達は無言で頷いた。


「では、模擬戦を再開しましょう。何、状況は五分五分になっただけの事ですよ。」

「ワンワンッ!」

「ガウガウッ!」

「・・・クッ!」

「・・・。」

「来ますっ!!!」


・・・何か、我ながら悪役染みているセリフだとは思うが、まぁ、彼女達の為にも時に厳しい事も言わんとならんと思う。

嫌われるのはなるべくならば避けたいが、それ以上に彼女達を失う事の方が僕としては看過出来ない事態だからね。


などと、自分に言い聞かせながら、僕達は模擬戦を再開するのだったーーー。





















ーーーだが、どうやらその悪役染みた僕の演技フリが堂に入っていたらしい。


「どりゃあぁぁぁぁっーーー!!!」

「「「「「「っ!!!???」」」」」」

「「・・・。」」

「ちょっと待ちやがれ、そこの悪党っ!!!」


何せ、突如介入した男に、僕は悪党認定されたからであるーーー。


っつか、どちら様ですか?


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