第159話 最悪のファーストコンタクト



◇◆◇



ーーーやはり旦那はんは侮れない。

一見、ウチらに有利になる様に見せ掛けといて、その実、しっかり自分に有利となる様に罠を仕掛けとったんやからな。

けど、ウチは、そんな旦那はんに厳しさと同時に、も感じていた。


確かにこれはや。

せやから、アイシャはんやリサはんの言う通り、ウチらに自信を着けさせる意味でも、旦那はんが手加減して、ウチらにこの模擬戦の勝ちを譲っても良いのだろう。


しかし、旦那はんはあえてそれをせずに、ルールの範囲内での一手を繰り出して来る。

これは、こちらにとっては致命的な一手やった。


せやけど、これはあくまでや。

せやから、例えこのままウチらが負けたとしても、ウチらが死ぬ事はない。


しかし、これがもし本当の戦闘やったら、ウチらはなす術もなく倒されてしまったことやろう。

本当の戦闘においては、旦那はんの言う通り、キレイも汚いもない。

勝つ為なら、生き残る為なら、あらゆる手段を用いるのはむしろ当たり前の話やろう。


だが、もし旦那はんが手加減しとったら、少なくともウチはそんな簡単な事実に気付かんと、上手くやった事に満足してしまって、そうした危機感を持たなかったかもしれへん。

それでは、の意味がないんや。


常に最悪の状況を想定して、それでも起こり得る事態にアドリブで対応して、それで生き残れる者達がなんや。

どんだけ強くたって、死んだら終わりやからな。


逆に言えば、生きてさえいれば逆転する事も可能なんや。

それを、旦那はんは暗に伝えたかったんやろう。

いや、本当のところは分からんけどもーーー。



そんな事を考えながら、再開した模擬戦にウチは全力で頭を回していた。

残念ながら、アイシャはんとリサはんの脱落は確定や。

つまり、ウチらは貴重な前衛役を失った事になる。


もちろん、旦那はんの言う通り、人数(?)の上では互角や。

残っとるのは、こっち側がウチ、ティーネはん、エイルはんの三人。

対して、向こう側は旦那はん、クロはん、ヤミはんの三人(?)や。

しかし、状況的には完全にこちらの不利や。

ティーネはんとエイルはんは、クロはん、ヤミはん、それに旦那はん相手でも、十分に渡り合う事が可能やろう。

ただし、それは一対一ならば、っちゅー前提条件がつく。


ここに来て、ウチのレベル不足がじわじわと効いてくる。

三対三のチームプレーで、その不足分を補う方法もあるんやけど、それは相手の連携が拙ければ、っちゅー前提条件がつく。

残念ながら、旦那はん、クロはん、ヤミはんの信頼関係や連携力は、一朝一夕で築き上げたモノやない。

故に、チームプレーにモノを言わせる方法は最善の手段やない。


せやから、ウチらが取れる方法は、必然的に一対一の短期決戦になる。

上手くティーネはん、エイルはんがクロはん、ヤミはんを撃破出来れば、三対ニ、三対一の状況に持ち込む事が可能だからや。

けど、これも茨の道や。

何せその場合、ウチは旦那はんからどうにか逃げ切らなければならないからや。


もちろん、今のウチのレベルなら、クロはんかヤミはんを相手取る事は十分に可能かもしれんけど、クロはんとヤミはんの身体能力や瞬発力バネは侮れんし、彼らには覇気っちゅー奥の手もあるんや。

以前のでも、まぁ、状況は多少違うまでも、ウチはクロはんとヤミはんにしてやられたからなぁ。

それに、指揮官であるウチがやられたら、その時点でウチらの負けが確定なんやから、勝率を考えた結果、結局はクロはんとヤミはんはティーネはんとエイルはんに任せて、ウチが旦那はんを相手取るのが現状では最善の手やった。


もっとも、当然ながら、ウチが旦那はんと直接うなど自殺行為に等しい。

故に、どうにか逃げ回るしかないっちゅーこっちゃ。


だが、旦那はん相手では、中途半端な手では即座に看破させてしまうやろう。

それに、旦那はんの『』はホンマに厄介や。

何せ、掛けられた事にすら気付く事がでけへんからや。

まぁ、旦那はん曰く、これも抵抗レジストする方法があるみたいやけど、いずれにせよ今のウチでは到達でけへんみたいやし、それについては考えるだけ無駄やな。


せやから、現状のウチに取れる最善策をやり通すしかない。

ホンマに、旦那はんが何時だか言っていた、


“ないもんねだりしてるほどヒマじゃねえ。あるもんで最強の闘い方探ってくんだよ。一生な。”


っちゅー言葉が身に染みんでっ!



そんな事をグルグル考えながら、ウチはを切ろうとした矢先、


「どりゃあぁぁぁぁっーーー!!!」

「「「「「「っ!!!???」」」」」」

「「・・・。」」

「ちょっと待ちやがれ、そこの悪党っ!!!」


まるで、これまでの話の流れを無視するかの如く、何者かが乱入するのだったーーー。



◇◆◇



「ハッハッハ、どこへ行こうというのかね?」

「くっ!」


模擬戦を再開した僕は、絶賛ヴィーシャさんを某大佐のセリフを呟きながら追い掛け回していた。

いや、これはオタクの悪い癖で、場面や状況的にアニメなんかの有名セリフを言う機会があればは、一生に一度は使ってみたい衝動に駆られるのである(言い訳)。

まぁ、このセリフと行動はハタから見れば完全に悪役だけど、やってみると意外とこれが面白かったりして・・・。


ヴィーシャさん達は、どうやら短期決戦に望みをかけた様だ。

これについては、もし僕がヴィーシャさんの立場だったら、同じ選択をしただろう。


人数(?)の上では五分五分の状態だが、残念ながらヴィーシャさんだけはレベル的には僕らの中で一番下である。

故に、本来ならばその不足分を補う為に、三対三のチーム戦に持ち込んだ方がより良い選択の様に思えるのだが、多少のブランクはあれど、まるで兄弟の様に育ってきた僕、クロ、ヤミの連携力は、残念ながらヴィーシャさん、ティーネ、エイルのそれを遥かに上回る。

つまり、チーム戦に持ち込んだ時点で、ヴィーシャさん達の敗北はより濃厚になってしまうのである。


それ故に、僕らを分断させて一対一の状況に持ち込み、素早くクロとヤミを倒して、ティーネとエイルがヴィーシャさんのもとに合流するのが、現状では最善の手段となる。

だが、その為には、ヴィーシャさんが僕の相手を務める事となる訳だ。


これはヴィーシャさんにとっては厳しい試練となるが、むしろ僕は、追い詰められたヴィーシャさんがそれをどの様に乗り切るのかを見ている側面もあった。

相手が格下だとナメている時こそ、その対象が意外性を発揮すると一気に戦況が引っくり返る事がままある。

もちろん、それには、“能ある鷹は爪を隠す”ではないが、何かしらの武器が必要になる。

時としてそれは、明晰な頭脳だったり、単純に運だったりするが、ヴィーシャさんの頭脳と能力を十全に発揮すれば、このレベル差を引っくり返す事は十分に可能だと僕は思っている。


必死に逃げ回るヴィーシャさんを、僕はあえてギリギリ捕まえられない範囲で追い掛ける。

ぶっちゃけると、一気に終わらせる事は可能なのだが、それだとこのの意味がない。

緊迫したプレッシャーの中、ジリジリと追い詰められた環境の中で、ヴィーシャさんは如何なる手段を用いるのか?

それを、僕はこのの裏のテーマとしていた。


真剣なヴィーシャさんの目から、微かに光が灯るのを僕は感じていた。

どうやら、何か思い付いた様だ。

さて、ヴィーシャさんが何を見せてくれるのか楽しみであるーーー。



と、思っていた矢先、僕は軽く脱力感に苛まれていた。

何故ならば、このもっとも正念場であるタイミングで、まさしくお呼びではない存在の乱入を感知していたからであるーーー。



◇◆◇



話は一旦、ティア達の方に移る。

あれから紆余曲折を経て、ティア達はようやくロマリア王国へと到達していた。

この頃になると、ティアも流石に辟易へきえきしていた。

主に、アーロスとN2の考えなしの行動について、である。


ここら辺は、性格の違いに由来するモノである。

元々ティアはにおいても頭脳明晰であり、慎重で思慮深い女性であった。

それ故、エイボンと並んで、元・『LOL』では参謀役、御意見番を務められていた、と言う側面もある。


ただその一方で、その場のノリや勢いで行動する人とは相性が悪い部分も存在する。

もちろん、所謂感覚派の全てが悪いと言う事はないが、所謂論理派であるティアとしては、内心考えなしの行動に疑問を感じる事も多かったのである。


もっとも、それを今まで指摘した事はない。

それをする事で、仲間間の空気を悪くする事もないと考えていたからである。

また、『TLWゲーム』時であればそれも特に気にならなかったのである。

様々な人が集まるMMORPGにおいては、当然ながらその考え方も性格も様々だ。


しかし、あくまでそれはゲームであり、四六時中一緒に行動する訳ではないから、性格の合う合わないはあまり気にならなかったのである。

もちろん、明らかにマナーの悪いプレイヤーにはその限りではなかったが。


だが、それがこちらの世界アクエラに来てから段々表面化する事となった。

何故ならば、こちらの世界アクエラはゲームではないので、まさしく仲間達と四六時中共に過ごす事となってしまったからである。

また、そうした考え方の違いによって仲間同士の衝突を避ける意味でも、アラニグラやククルカン、キドオカやウルカ、タリスマンらと距離を置く事ともなった。


更には、この旅を通して、すぐに本筋から脱線するアーロスや、ストレスによるモノかは定かではないが、変な正義感を発揮するN2、それに、あまり直接的ではないモノの、時にアーロスと一緒になって、時にティアの意向に沿った行動をするどっち付かずのドリュースに、流石のティアも疲れ果ててしまったのであった。


だが、その苦労もここまでである。

ティアにとっても意外な事に、アキトはロマリア王国この国では有名人であり(これは、『泥人形ゴーレム』騒動の折にその知名度を一気に上げてしまったからでもある)、彼らについての情報はすぐに入手する事が出来たからである。

それによると、現在アキトらは、ルダの街の北部に存在する『魔獣の森』と呼ばれる大森林地帯にいるとの事。

いよいよもって、この旅の目的の終着点が見えてきたのであった。


だが、ここでもアーロスが暴走する。

いや、ある意味ではその判断は間違っていない。

何せ、今まさに若い男と魔獣に襲われそうな女性達を見付け、すぐにアーロスが助けに入ったからである。


しかし、実際にはそれは早合点であり、言ってしまえばただ単に、アキトらのの邪魔をしてしまっただけのいらぬお節介だった訳であるがーーー。



・・・



「ちょっと待ちやがれ、そこの悪党っ!!!」


颯爽と駆け付け、そんな啖呵を切るアーロスに内心ティアは頭を抱えていた。


いや、先程も述べた通り、その判断はある意味では間違いではない。

事情を知らないアーロス達にとっては、アキト、クロ、ヤミが、今まさにヴィーシャ、ティーネ、エイルを襲おうとしている場面に見えていたからである。

ただ、残念ながら彼らは仲間であり、これもただ模擬戦をしているに過ぎなかったのであるが。


一瞬溜め息を吐くアキト。

その様子をティアは遠目に見て、少し違和感を感じていた。

彼は、突然出現したアーロスに、特に驚いた様な素振りを見せなかったからである。


いや、むしろ呆れてさえいる様にも見える。

その証拠ではないが、まるで大人が子供に言い聞かせる様に、アキトは努めて冷静に語りかけた。


「・・・あの、何か誤解がある様ですが、僕は別に悪党ではありませんよ?僕と彼女達は仲間であり、この状況についても、ただ単にを行っているだけでして・・・。」

「見苦しい言い訳してんじゃねぇよっ!こっちはアンタが彼女達を追い掛け回してんのを見てんだっ!!おおかた、を追い掛け回して、“狩りの訓練”とか言ってんだろっ!!!」


しかし、そんなアキトの言葉にアーロスは耳を貸さなかった。

一見超理論の様でもあるが、実際にアーロスらはこの旅を通して、盗賊団などの無法者達が、弱い者達や他種族を迫害している場面を何度も目撃していたからである。

まぁ、アキトには大変迷惑な話ではあるが、そんな経験からアーロスは、アキトもそうした類いの人間であると最初から決め付けて掛かっていた訳であった。


「いやぁ、参ったなぁ~。彼女達に聞けば、誤解は解けると思うんですけど・・・。」

「それも、アンタの報復を恐れて本当の事を言わない可能性があるんだよっ!そんな訳で、とりあえず、アンタの事を取っ捕まえて、それからゆっくり事情を聞く事とするぜっ!」


残念ながら、話は平行線を辿っていた。

ここら辺は、アーロスの短慮さが裏目に出た形である。

状況判断が早い事は時として良い事だが、場合によっては悪手ともなり得る。

今回の場合は、完全に悪手であった。


「やれやれ、人の話を聞かない人ですねぇ~。では、仕方ありません。が来られるまで、少しお相手をして差し上げましょう。」

「けっ、ほざいてろっ!」


アキトも、アーロスの説得を諦めた様だ。

いや、アキトはこういった類いの人間の行動パターンを、前世からの経験で熟知していたのである。

自分が正しいと信じて疑わない者達は、どんな正論も意味を成さない、と言う事を。


こうして、突発的に、そしてある意味では最悪の形で、アキトと『異邦人地球人』達はファーストコンタクトを迎える事となったのであるがーーー。



◇◆◇



僕を悪党と断じた見た目から騎士風の美青年が、神速の速さで僕に強襲を仕掛けてくる。

その驚異的な身体能力と、その珍しい装備の数々から、僕は彼の正体を確信していた。

おそらく、は『異世界人地球人』達であろう。


なるほど、確かにレベルの上では僕らと同等の強さを持っている様だ。

ただ、以前にセレウス様がおっしゃっていた様に、彼はその強さとは裏腹に、戦い方においては全くの素人である事がすぐに分かった。

(ちなみに、『異世界人地球人』と手合わせするのは、実はこれが初めてである。

ウルカさんとは直接接触したが戦う事はなかったし、キドオカさんとは直接的に会った訳じゃないからな。

故に、まぁ、こんな機会が巡ってくる事はなるべくなら避けたかったが、同郷である『異世界人地球人』とうのはこれが初めてであった訳である。)


何故そう断言出来るかと言うと、彼の戦い方がからである。

いや、もっとも基本的な技も突き詰めれば奥義となる訳で、それ故に一概には言えないのであるが、彼は虚実を全く理解していなかったのである。

これは、ある程度戦い方を学んだ者達にはありえない事態であった。


虚実とは、実質・実体のある事、ない事。

嘘と誠。

虚構と事実。

戦闘などで用いる場合は、所謂フェイントやフェイクの事である。


この一瞬の駆け引きは、戦闘では非常に重要なスキルとなる。

当たり前の話であるが、単純な攻撃は相手に簡単に見切られてしまう恐れがあるからだ。

例えば、サッカーにおいても、フェイントも入れずにドリブルやパスをしても、簡単にボールを取られる事がままある。

実力のあるプレイヤーほど、この虚実を上手く使い分けて、場を支配する事に長けているモノなのである。


ただ、もちろんこれも絶対ではない。

フィジカルに圧倒的な差があった場合、下手なフェイントを入れるより、身体能力に任せて振り切ってしまう方が話が早い場合もある。

だが、いずれにせよ虚実を含めた戦い方はある意味基本であり、相手の判断を誤らせる効果がある非常に有用なスキルである事は言うまでもないだろう。


極論を言うと、彼の戦い方は、ある意味ではもっともRPG系のゲームを体現している戦い方と言えた。

すなわち、“レベルを上げて物理で殴る”、である。

確かに、彼の身体能力はこの世界アクエラにおいては圧倒的である。

故に、何も考えずに突っ込んで行っても、これまでは何とかなったのであろう。


しかし、相手も自分と同じレベルの使い手であった場合、所謂アクション系のゲームの様に、かなり高度なテクニカルさが要求されるのである。



「はぁっ!」

「よっと。」


自信満々な彼の攻撃を、僕は軽くいなした。

虚実もへったくれもない攻撃など、いくらとんでもなく速くても、僕にとっては何て事はない攻撃であった。


「な、何っ!?」

「ほらほら、よそ見している暇はありませんよ?」


攻撃が防がれた事に驚愕する青年は、ハッキリ言って隙だらけだった。

それに、僕は彼を攻撃する様に、


「くっ!」


それに勘付いた彼は、僕から距離を取った。

・・・この様に虚実を用いれば、相手を本当に攻撃しなくとも、相手を自ずと退けさせる事など訳はないのである。


「チッ!!!」


それがハッタリだったと理解すると、彼は更に頭に血が上った様だ。

いや、こんな事くらいで冷静さを欠いていたら、少なくともスポーツは出来ないっすよ?


「アーロスさんっ、援護しますっ!」


と、そこへ、てこずっている様子の彼を見かねた彼の仲間と思わしきそんな声が聞こえてくる。

それに、彼は一瞬ニヤリッとして、再び僕に攻撃しようとした足を止める。


だが、残念ながら僕は、先程と発言している通り、彼の仲間の存在はとっくに察知している。

それに、奇襲を仕掛ける時に大声を上げるなど、避けて下さいと言っている様なモノである。


ドパンッ!!!


「ほっ!」

「なっ!?」

「なにぃっ!!??」


ほぉ~、これが『異世界人地球人』達の扱うかぁ~。

確かに、この世界アクエラの魔法技術とは似て非なるモノの様である。

彼らのは、どうやら魔素の干渉を受けないので、この世界アクエラの者達にとっては、まさに未知のチカラの様に見える。


だが、今や神性の域に達している僕にとっては、そのにすぐに察しが付いていた。


「こ、こいつ、相当出来るぞっ!」

「ええ、全力で行きましょうっ!」


いえ、まだ準備運動ぐらいの感じなんですが・・・。

やはり、格下相手しかして来なかったのかな?

これなら、『異世界人地球人』の評価を下方修正しても良さそうだなぁ~。

いや、まだその実力の全てを把握した訳ではないから、この判断は時期尚早かもしれないが。


「いやいや、待て待てっ!」


相手(僕)の予想外の実力に、彼らは全力を出そうとした矢先、慌てた様子のそんな声が響き渡った。

どうやら、まだ話が出来そうな人が到着した様だ。


「なんだよ、ティアの姐さんっ!」

「ここは危険ですよっ!?」

「少し落ち着かんか、アーロス殿、N2殿っ!」

「ちょっとっ!いきなり攻撃してきて、一体何のつもり?」

「「・・・へっ???」」


更に、数瞬の攻防に異変を感じた僕の仲間達も、模擬戦を中断して駆け付けて、そんな抗議の声を挙げていた。


「何?君達、ダーリンを狙ってきた刺客?」

「この際、彼らの正体などどうでも良いでしょう。主様あるじさまに仇なす者達は、速やかに排除して然るべきですっ!!!」

「ま、まあまあティーネはん。少し落ち着きや。」

「ティーネ・サン。ヲ抑エテ下サイ。森ノ生命達ガ怯エテイマスノデ・・・。」(どうどう)

「グルルルルッ、ワンワンッ(アキトくん、やっちゃう?)」

「グルルルルッ、ガウガウッ(何時でもいけるよ?)」

「はいはい、みんな落ち着いてね?特に問題ないから。」

「えっ・・・、何がどうなって・・・?」

「さあ・・・?」

「・・・どうやら、儂らの勘違いであった様じゃな・・・。(ヒソヒソ)」

「そう、みたいですね・・・。それに、どうやらには僕のチカラも上手く機能しませんでした・・・。ティアさん、もしかしたら、彼らが・・・。(ヒソヒソ)」


次々と挙がる非難に、騎士風の青年と、狩人系の装備と銃らしきモノを携えたエルフっぼい青年が困惑する中、民族衣裳っぽい服を纏い幾何学的の刺青タトゥーの入った青年と、何処か予言者を彷彿とさせる美しいローブ姿の女性がヒソヒソと会話を交わしていた。


「うむ、儂もそう思っていたところじゃ・・・。(ヒソヒソ)仲間が失礼した。儂らは冒険者をしておる者で、旅をしながら人を探しておったのだ。この森へも、その調査の一環で訪れたのだが、てっきり人が襲われていると思い介入してしまったのだ。仲間達の無礼を謝罪したい。」


ややあって、彼らを代表してそのローブの女性が、そう謝罪の言葉を述べる。

その言葉に、騎士風の青年が一瞬何か言いたげな様子を見せたが、女性の手で制する様な仕草に(おそらく、“しばらく黙っていろ”と暗に伝えたいのだろう。)、言葉を飲み込んで押し黙った。


「いえ、誤解が解けたのなら良いのですが、一応ご忠告として状況をしっかりと確認しないままに行動を起こされるのは注意した方が良いと思いますよ?貴女方も判断を誤った様に、この世界アクエラでは盗賊と冒険者の判別は難しいモノです。人が襲われていると思って行動した事は素晴らしい事ですが、それが結果として冒険者同士がただ訓練をしていただけ、と言う場合もあるのです。当然ですが、その場合はトラブルのもととなり得ますからね。」

「う、うむ。そう言われてみれば、その可能性もあったのだな。以後、気を付けるとしよう。」

「・・・何だよ。こんなところで誤解される様な事してんのがわりぃんだろ?」


そう受け答え、一応やんわりと冒険者としての注意点を伝える僕に対して、女性はそれに真摯に応えたが、騎士風の青年はブチブチと文句を溢していた。

・・・うん、彼とは気が合わないな。

それに、見積りが甘過ぎる。


「そこの貴方。そんな了見では何時か足をすくわれますよ?今回は何事もなかったから良かったですが、もし相手が全うな人間で、それを知らずに攻撃したとして、それでもし相手に怪我を負わせていたり殺してしまった場合は、貴方はどう責任を負うんですか?当然ですが、これは誤解でした、では話は済みませんよ?もしそうなった場合、貴方はめでたく殺人者や犯罪者の仲間入りであり、普通に治安維持部隊に追われる立場となります。冒険者は、ある意味では暴力によって生業を得ている職業ですが、暴力それだけで、ただ強いだけで務まるほど甘いモノではありませんよ?」

「なっ・・・!」

「アーロス殿っ!・・・貴方のおっしゃる通りです。儂らは、少し冒険者稼業を甘く見ていたのかもしれません。」


反射的に反論しようとした騎士風の青年を、今度はハッキリと言葉で制して、女性は僕の言葉を肯定した。


「失礼、少し言葉が過ぎましたね。ですが、いきなり攻撃されたら、誰だって腹が立つモノですよ。」

「・・・それは、おっしゃる通りです、はい。」


すっかり恐縮した女性に、僕は何とも言えない空気を感じていた。

これじゃあ、まるで僕がイジメているみたいじゃないか!

被害者はこっちだってのに。

そこで僕は、空気を変える意味でも、ここで話題を変える事とした。

・・・ある意味では、こちらが本題と言っても過言ではないだろうが。


「・・・ところで、人を探しているとの事でしたが、をお探しなんですか、『神の代行者アバター』の皆さん?いえ、それとも『異世界人地球人』とお呼びした方がよろしいですか?」

「「「なっ・・・!?」」」

「で、では、やはり貴方が・・・!?」


まぁ、『異世界人地球人』と渡り合える者など限られている訳だし、察しは付くだろうね。

僕は、改めて名乗る事とした。


「ああ、これは申し遅れました。僕の名前はアキト・ストレリチアと申します。おそらくですが、貴女方が探している者ですよ。」


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