第155話 帰ってきたルドベキア



◇◆◇



「と、言う事なんっスけどね?」

「なるほどねぇ~。エイルが味方についてるなら、まぁ、仕方ないですよねぇ~・・・。」


僕は今、例によって例の如く、自分の『精神世界』にてアルメリア様から、ヴィーシャさんが合流に至ったのあらましを聞いていた。



ヴィーシャさんとクロ、ヤミの訓練をかねた追いかけっこを見届けた後、僕が負けたヴィーシャさんをパーティーから追い出すと勘違いした彼女が必死に僕に泣きすがり、それを見たエイルが僕を蔑んだ目で見ながらヴィーシャさんを擁護し、アイシャさんとティーネ、リサさんも結託して僕を糾弾する。

そんな状況に困り果てた僕は、とりあえずそれは誤解であると弁明し、ヴィーシャさんをパーティーから追い出す事はないと明言した。

それで、とりあえずその場は落ち着いたのだが、なるほど、エイルがヴィーシャさんをスカウトして、更にはアイシャさん達もすでに味方に引き入れていたと言う訳か・・・。

我が娘(もちろん、血の繋がりはないが)ながら、中々抜け目のない事である。


まぁ、一度受け入れた以上、僕も今さらヴィーシャさんを追い出す事はありえないが、それはともかくとして、エイルは何を思ってヴィーシャさんをスカウトしたんだろうかね?


「それについては私達も分からないっスねぇ~。エイちゃんは少々生まれが特殊ですし、今現在の私達では彼女の抵抗プロテクトを越えられませんし、彼女についてあれこれ調べる事は困難っスよ。まぁ、元々これは彼女のプライベートに関わる事でもあるっスから、分かったとしてもむやみやたらにアキトさんにお伝えする事もありませんけどね?」

「はぁ、まぁ、それは構いませんが・・・、アルメリア様達ですら分からない事があるんですねぇ~。」

「それはそうっスよ。前にもお話したかもしれませんが、私達もある意味に近いっスけど、って訳じゃないっスからねぇ~。まぁ、そうでなきゃ、そもそも今現在の様な状況には陥っていませんしねぇ~。」

「まぁ、そりゃそうか・・・。」


アルメリア様もセレウス様も、更には他の神々やハイドラスだって、確かにとんでもないチカラを持つ存在ではあるが、一方で様々な制約に縛られてもいるからなぁ~。

万能に近いチカラを持っていても、それだけで全て解決出来るほど、世界は単純ではないのだろう。



「おおっ!これがVRかっ!!!」

「うん、まぁ、これは数世代前のヤツなんだけどね?今現在の向こうの世界地球のVR技術は、フルダイブ技術によってユーザーの五感全てを仮想世界へと送り込む事が出来るからねぇ~。」

「ほうほう。噂では聞いていたが、実際に体験してみると改めてすげぇモンだなぁ~。・・・ところで、これってどうやってコントロールすればいいんだ?何か、敵が目前に迫っているんだが・・・?」

「それは、ボクが握っているコントローラーで操作するんだけどね?」

「なら、さっさと応戦してくんない?冷静に見えるかもしんないけど、俺これでも内心バクバクよ?っつか、それって本来俺が操作するモンじゃないのん?って、うおっ!!!」

「いやぁ~、それだと面白くないじゃないかぁ~。久々にセレウス様、もとい、セレウス様遊べるチャンスなのにさぁ~。」

「・・・ん?今、俺遊ぶって言わなかったん?っつか、操作するならしっかりやってくれよっ!視点がグルグルで、気持ち悪、って、ギャアァァァッ~~~!!!」

「あっはっはっはぁ~、いやぁ~、ごめんごめん。」(棒)


「ところで、あそこでバイ○っぽいので、いやどっちかと言うとセレウス様遊んでるドS美女はどちら様ですか?あ、いや、何となく見覚えがあるんスけどね?」( ̄▽ ̄;)

「ああ、あれはセレウス様とルドベキア先輩っスね。」


ああ、やっぱりね・・・。


視界のスミにチラチラ映り込んでいた英雄神(笑)ことセレウス様と、そして、何処か見覚えがある、しかしその容姿は僕の知っている少し幼い姿ではなく、彼女自身が言及していた通り、超絶金髪美女が仲良く(?)VRゲームで遊んでいるのを見て、僕はアリメリア様にそう質問する。


その答えが僕の予測通り過ぎて、僕は軽く脱力感に苛まれていたのだったーーー。



・・・



「さて、色々と疑問はあるのですが、まずはお久しぶりです、ルドベキア様。」

「やぁ、アキトくん。しばらく見ないウチに、随分カッコ良くなったねぇ~。いや、西嶋明人にしじまあきと時代の姿も、ボクは嫌いじゃなかったけどね?」

「はぁ、アリガトウゴザイマス・・・?」


僕は、改めてルドベキア様との再会の挨拶を交わしていた。

それに、ルドベキア様はウインク付きで軽くそう応えるのだが、記憶にある彼女の姿とは違った事もあって、内心ドキッとしたのはナイショである。

・・・そこ、チョロいとか言わない様にっ!!


「い、いや、それは一先ず置いておきましょう。っつか、何でアンタ、こちらの世界アクエラに戻って来ちゃってるのっ!?」

「なんだい、ボクがこちらの世界アクエラに戻って来たら悪いってのかい?元々ボクは、こちらの世界アクエラの出なんだけどねぇ~。」


ヨヨヨッ、と、下手な泣き真似をするルドベキア様。

しかし、今現在の容姿から、それが絵になっているのが若干腹立たしい。

何か、僕が悪い気分になってくるし・・・。

・・・あれ?

最近も似た様な事があった様な・・・?

もしかしてこれって、デジャヴ?

などと言う冗談はともかく。


「まあまあ、ルドベキア先輩。アキトさんが懸念してるのは、おそらくルドベキア先輩とのの事っスよ。」

「そ、そうそうっ!ルドベキア様がこっちアクエラに戻ってきちゃったら、僕の魂が向こうの世界地球に戻れんじゃないですかっ!!!」


そうなのだ。

以前にも言及したが、僕の魂は元々こちらの世界アクエラの所属ではない。

故に、“アキト・ストレリチア”としての肉体が滅んだ後、僕の魂はこちらの世界アクエラでは帰化出来ないという問題点があるのだ。


今現在の僕のチカラを客観的に評価すれば、僕は少なくとも今現在のこの世界アクエラでは最強に近いチカラを有している訳で、当然ながら、その魂のエネルギーも比例して強力になっている筈だ。

そんな強力な霊的エネルギーが世界へと帰化出来なかった場合、少なくともこの惑星に与えるダメージは計り知れない。

場合によっては、僕の魂がこの惑星の自然環境や生態系に致命的なダメージを与える可能性すらあるのだ。

これは、条件が近い『異世界人地球人』達も同様である。


もっとも、これに関しては向こうの世界地球の管理神であるルドベキア様とのリンクを繋ぐ事ですでに解決済みであった、・・・筈だった。

なのに、その肝心のルドベキア様がこっちアクエラに戻って来ちゃったら、その前提が覆される事となる。


「ああ、その事か。それならば問題ないとも。僕がこちらの世界アクエラに復帰する際に、向こうの世界地球の後任の管理神にその件に関してはをしているからね。それに、限界突破を果たした今のアキトくんならば、ボクと同様に自力で世界線を越える事すら可能だと思うよ?まぁ、肉体を持った状態では不可能だとは思うけどね?」


あっけらかんとそう述べたルドベキア様。

・・・分かっていてからかわれたのかもしれないなぁ~。

僕は、僕の中でルドベキア様を要注意人物のリストに加える事とした。


「はぁ、なら、いいのか、な?その後任の管理神が何者かはあえて聞かない事として(何か、下手な詮索は悪手っぽいからな)、その神様(?)が引き継いでくれてるなら、問題ないって事ですよね?僕のリンクを介して『異世界人地球人』達を送り返す事も可能だろうし。」

「そういう事だね。」


軽く考えをまとめていた僕に、ルドベキア様はそう肯定した。

一応確認の為に、アルメリア様とセレウス様の方を見やるが、彼らも否定的な表情は浮かべていないので、それに関しては問題ないだろうと、僕も納得する事とした。

・・・主に、僕の心の平穏の為に。


「じゃあ、それについてはもういいですが、もう一つだけ。何でアンタ、しれっと僕のに居るんスか?」

「いやぁ~、世界線を越えるのは、ボクら神々にとってもエネルギーを大量に消費してしまうからねぇ~。まぁ、ボクの場合は管理神としてのアドバンテージがあったから、それも微々たるモノだけど、今現在のこの世界アクエラではボクに役割が与えられていないんだ。まぁ、セレウス様と同様に『野良神』ってところだね。だから、下手に世界に刺激を与えない為にも、また神霊力しんれいりょくの療養も兼ねて、アキトくんのに一時的に避難してるって訳さ。」

「ハァ、ナルホド・・・?」


いや、突っ込みどころは満載だが、セレウス様やアルメリア様で慣れていた僕は、すでに諦めの境地に立っていたのだった。

いやぁ~、何か知らんウチに、僕の心の中も大所帯になってきたモンだなぁ~、なんて現実逃避気味に考えていたりしたーーー。



・・・



「さて、アキトくんのを間借りさせて貰っている手前、キミに少しだけ情報提供をしておこう。」


急にキリッとした表情を浮かべるルドベキア様。

いや、流れが急過ぎて、気持ちが追い付かんわっ!!!


「なんでしょうか?・・・もしかして、ハイドラスが僕に虚偽の情報を流している件でしょうか?」


とか考えつつ、僕は思い当たる節を述べてみた。

それには、素でルドベキア様もびっくりしており、セレウス様とアルメリア様も同様の表情を浮かべていた。


「何だ、気が付いていたのかい・・・。」

「よく気付いたな、アキト。」

「はぁ、まぁ、僕も大変不本意ながら神性の仲間入りを果たしていますからね。ただ、その歴で言えば、残念ながらハイドラスの方が一日の長がある訳で、その可能性がある事は最初から視野に入っていましたからね。まぁ、あえて虚偽の情報を流すのは情報戦の基本でもありますしね。」


ウルカさんを介した情報の取得は、僕としても実験段階のモノだ。

彼女に施したのは、言わば(霊的な)盗聴器とか監視カメラ、GP

Sみたいなモノで、これによって中々入手しずらいハイドラス派の内情の調査を試みた訳である。


だが、攻撃手段があるならば、逆に防御手段や対抗手段があると考えるのはある意味当たり前の話であり、(霊的な)盗聴器や監視カメラ、GPSにハイドラスが勘付く可能性は織り込み済みであった。

ただ、これまでの経緯から、ハイドラスが中々したたかな存在である事は分かっていたので、その監視システムをただ破壊するのではなく、高確率でそれを逆に利用して、僕に虚偽の情報を与えて混乱させようと目論む可能性が高い、と僕は読んでいた訳だ。

故に、監視システムを乗っ取られた場合、僕に知らせが来る様に最初から細工を施していたのである。


「なら、余計な心配だったかな?」

「いえ、すでに分かっていた事ではありますが、改めて情報の補強になりましたから、十分参考になりましたよ。まんまとハメられて、ハイドラスに出し抜かれる事もなくなりましたからね。」

「ならいいんだけど・・・、それだとボクの立場がないよねぇ~。」

「はぁ・・・。」


変なところでこだわる女神だなぁ~、とか考えつつ、まぁ、彼女の言わんとする事は分かる。

ドヤ顔で情報提供したのに、“あっ、もう知ってます。”では格好がつかないのだろう。

少し考え事をしたルドベキア様は、ややあって再び言葉を続けた。


「・・・よし、それなら、もう一つサービスで情報提供してあげよう。ロンベリダム帝国が、いや、正確にはハイドラス派が『異世界人地球人』から銃のデータを強奪し、それがロンベリダム帝国へと渡った。その結果として、ロンベリダム帝国にて“魔法銃”が開発され、現在急ピッチで量産が進んでいるんだ。ルキウス御自慢の“銃士隊”も、密かに錬度を高めている様だよ。」

「えっ!!!???それは初耳ですね・・・。いや、予測していなかった訳ではありませんが、やはり銃を持った『異世界人地球人』がいたのですか・・・。」


続く追加の情報提供には、今度は僕が素でビックリしていた。

アルメリア様の情報では、『異世界人地球人』はとある『VRMMORPG』のアバターの状態でこちらの世界アクエラに飛ばされたと言う事だった。

故に、僕が想像していたのはファンタジー寄りの世界観であり、実際僕が出会った『異世界人地球人』であるウルカさんも、神官系の格好をしていたから、銃の情報がこちらの世界アクエラに流出する可能性は極めて低いと考えていたからである。


まぁ、もっとも、僕も飛ばされてきた『異世界人地球人』についての詳しい情報はほとんど知らないので、仮に向こうの世界地球にて、軍事関係や警察関係などの職についていた『異世界人地球人』がいないとも限らないし、単純にミリタリー系に造形の深いオタクがいないとも限らないので、可能性はゼロではないと思っていたが。

いや、まぁ、ファンタジー寄りな世界観とは言え、ルドベキア様が口にした“魔法銃”系のモノがないとも限らないか・・・。


だが、いずれにせよ僕の予測では、『異世界人地球人』がそれを意図的に流出させる可能性は低いと考えていた。

何故ならば、それは自分達の優位性を失ってしまうからだ。


ただ、奪われてしまったのならば、分からない話ではない。

異世界人地球人』を出し抜けるほどの猛者がいるとも中々考えづらいが、もしかしたら『異世界人地球人』の誰かが裏切る可能性もあるだろうからな。


「なるほど、それが本当なら、由々しき事態ですね。人は、新しいを手に入れると、必ず使ってみたくなるモノです。更には、ロンベリダム帝国には、近隣諸国に目の上のたんこぶが存在する状況だ。場合によっては、そこに攻め入るかもしれませんね・・・。」

「さぁ、そこまでは分からないけどね?」


ブツブツと呟く僕に、ルドベキア様が素知らぬ顔でそう述べた。

ぶっちゃけると、僕個人はロンベリダム帝国が何処と戦争をしようと知った事ではない。

以前にも言及したが、僕は別に正義の味方ではないからである。

ただ、個人的な事情によって、ロンベリダム帝国が攻め入る可能性の高い場所は、僕としてもなるべくならば手出しして欲しくない場所だった。


「よしっ、それなら、ヴィーシャさんの訓練がある程度進んだ段階で、いよいよ僕達も渦中に飛び込む必要があるかもしれませんね。いずれにせよ、情報提供、ありがとうございましたっ!!!」

「いやいや、どういたしまして。」


再び考えをまとめると、僕はルドベキア様やアルメリア様、セレウス様に軽く挨拶をして、そそくさと『現実世界』へと帰還するのだったーーー。





















「ルドベキア先輩、見事な誘導でしたっス!」

「いやいや、アキトくんの性格はすでに分かっていたからねぇ~。が戦場になる可能性を示唆すれば、自ずと向かうだろう事は分かりきっていた事さ。」


アキトが去った後に、アルメリアがルドベキアにそう賛辞を贈った。

それに、ルドベキアが照れ臭そうに応え、しかし、と続けた。


「いやぁ~、それにしてもアキトくんの成長は予想以上だねぇ~。」

「そうっスね。おそらく、もう私達が色々しなくても、自分達で何とかしてしまうでしょうね。」


その言葉に、アルメリアは誇らしくも若干淋しそうな表情でそう応えた。

ここら辺は、こちらの世界アクエラでの母親代わりであるアルメリアならではの心情があったのであろう。


「まぁ、それはボク達のとしては、あり得ない選択肢だけどね?・・・さて、セレウス様。いよいよ、色々と準備が整って来た訳ですが、のほどは如何ですか?」

「・・・ああ、とっくに出来てるぜっ!」


いつになく真剣な表情のセレウスに、ルドベキアは満足げに頷いた。


「それなら良かった。じゃあ、までは、せいぜい英気を養う事としましょうか。」

「ああ。」

「はいっスっ!」



~~~



エネルギー革命とは、主要に使用されているエネルギー資源が他の資源へと急激に移行する事を指している。

地球では今現在のところ(もちろん様々な意見や説はあるものの)、3回のエネルギー革命が起こっていると考えられている。


第一次エネルギー革命は、人類が“火”を発見し利用する様になった事をいう。


人類が最初に利用していたエネルギーは太陽、風力、人力などであった。

考古学上では、少なくとも50万年前の中国の北京原人(ホモ・エレクトス・ペキネンシス)の頃には、“火”を保存したり作ったりすることが出来る様になったと考えられている。


第二次エネルギー革命は、人類が蒸気と化石エネルギーを利用する様になった事をいう。

18世紀後半になると石炭を利用する蒸気エネルギー機関が発明され、自然エネルギーしか使わなかったそれまでの手作業の長閑のどかな社会は激変した。


イギリスはヨーロッパ大陸の諸国よりも森林が少なかった為、製鉄業は薪炭を求めて移動したが、16世紀には燃料不足となり、木材価格が上昇し始めた。

この為、他国よりも真剣に他のエネルギーを探す必要に迫られたが、そこで注目されたのが石炭であった。

この石炭エネルギーへの移行により、イギリスは他国に比べて50年も早く第二次産業革命を起こす事となった。


第三次エネルギー革命は、人類が石油や電気を組み合わせて利用する様になった事をいう。


今現在の、少なくとも先進国における主要なエネルギーはこの石油と電気であり、これらがある事によって、現代の先進国の繁栄があるのである。


ただし、化石エネルギーが有限な資源である事は言うまでもないだろう。

石油危機以降、石油輸出国機構(OPEC)に対する危機感と原油価格の高騰により、世界各地で探鉱活動が活発になるとともに、石油探査・生産技術が向上した事もあり石油の可採埋蔵量が増加する事となった。

しかし、依然として化石エネルギーが有限な資源である事に変わりなく、その問題を解決する為に、辺境の土地や海洋での探鉱、オイルシェールやオイルサンドなどの採掘に対象が移ると考えられている。(某百科事典より抜粋)



さて、この様に人類はその利用するエネルギー形態の変遷により、その社会構造を大きく変えて来た訳である。

上記の通り、産業革命が起こるまでは、“火”や自然エネルギーを利用していたが故に、その生産システムは手工業が主であり、現代の様な大量生産は非常に困難だったのである。


そこに、蒸気エネルギー機関が登場した事により、生産システムも、それまでの家内制手工業から工場制手工業(マニュファクチュア)に代わり、都市に大規模な工場を建設して機械により生産を行う、所謂“工場制機械工業”が主流となっていった。

これにより、物が大量に生産可能となり、人類は物質的な豊かさを手に入れる事となったのである。


ただし、それに伴い、今までは中々表面化しずらかった問題が浮上する事ともなった。

それが、自然環境に対する様々な悪影響であった。


もちろん、第一次エネルギー革命時代から、自然エネルギーと共に“火”を利用していた訳であるから、少なくとも人類はそれまでも、燃料として森林を伐採してきている。

故に、ある意味自然破壊は古くから人類が行っている事とも言える。


ただし、これに関しては特段問題となるレベルではなかったのである。

先程も述べた通り、産業革命が訪れるまでは、手工業が主であり、大量生産は望めなかったからである。

故に、人類の生産活動によって、自然の持つ浄化作用を越えるほどの悪影響を与える事もなかったのである。


しかし、産業革命以降、自然環境は目に見えて汚染されていく事になった。


蒸気機関は、ボイラーで発生した蒸気のもつ熱エネルギーを機械的仕事に変換する熱機関の一部であり、ボイラー等と組み合わせて一つの熱機関となる。

これを利用する為に、石炭を燃やして、ボイラーで湯を沸かして、その蒸気でタービンを動かす訳だが、石炭を大量に消費すれば、当然ながら大気がどんどん汚染されていく事になる。

実際に、産業革命頃には、都市に大規模な工場が乱立した事によって、そこから吐き出される黒煙が都市の衛生環境を悪化させ、人々に深刻な健康被害を引き起こしていたそうだ。

蒸気機関車の巻き起こす黒煙が、それこそそこかしこで巻き起こっていた様なモノだ。

どう考えても、体に良い訳はない。


また、蒸気機関は、膨大なエネルギーを無駄に浪費してしまう問題点があった。

改良しても、全エネルギーの90~85%を浪費するのだ。

それに加え、ボイラーとタービン/ピストンは、どっちも大きな機械であるから、蒸気機関は重くて嵩張ると言った問題点もあったのである。


こうした事から、徐々にエネルギーの主軸が石炭から石油へと移行していき、従来の蒸気機関から内燃機関へと置き換わっていったのである。



そして、現在主要なエネルギーの一つである電気エネルギーに徐々に移行して行った訳である。


電気エネルギーは非常に汎用性に優れたエネルギーであった。

何故ならば、電気エネルギーは他の様々なエネルギーに変換出来、また逆に他のエネルギーから電気エネルギーにも変換出来るからである。


その一例として、


→ 運動エネルギー : 電動機

← 運動エネルギー : 発電機、風力発電、水力発電

→ 化学エネルギー : 電気分解、電気精錬

← 化学エネルギー : 電池

→ 熱エネルギー : 電熱器、電磁調理器

← 熱エネルギー : 火力発電、原子力発電、太陽熱発電、海洋温度差発電

→ 磁気エネルギー : 電磁石、電磁ブレーキ

← 磁気エネルギー : MHD発電

→ 光エネルギー : 照明、発光ダイオード、エレクトロルミネセンス

← 光エネルギー : 太陽光発電

← 核エネルギー : 原子力電池


が挙げられる。


他のエネルギーと比べ効率が良く伝送が容易な為、現代では広く利用されているのである。


だが、電気エネルギー自体はクリーンなエネルギーだと言われているが、それを発生される過程で、膨大な量の二酸化炭素を排出してしまう問題点が指摘されている。


発電の方法は、実験段階の細かいものを合わせると数百にも及ぶと言われている。

その中でも主要な発電方法を取り上げてみよう。


まず、現代において主要な発電方法である火力発電である。

火力発電の基本的な原理は、


1、燃料を燃やす

2、燃焼で得られた熱エネルギーからボイラーで水蒸気を発生させる

3、水蒸気でタービンを回す

4、タービンの回転から電気エネルギーを取り出す


というものである。


この方式を“汽力発電”と言うが、火力発電ではこの“汽力発電”が主力となっている。


火力発電の長所は、安定的に電力を供給でき、扱いやすい点にある。

電力の需要量に応じて出力の上げ下げが調整しやすく、季節や時間帯によって変動する需要に対応する事が可能である。


一方で火力発電の短所は、やはり煙が出る事であった。

煙の成分は燃えるものによって異なるのだが、化石燃料が燃えると硫黄酸化物や窒素酸化物などを多く含んだ煙を発生する。

これが、地球温暖化につながると言われ、火力発電の大きな課題となっている。


次に水力発電は、水の持つ位置エネルギーを利用し、発電機を作動させエネルギーを発生させている。

水力発電の特徴は、


・水が落ちる力を利用して電力を生み出す

・エネルギー効率が非常に高い

・電力を安定的に供給することが出来る


水力発電は、電力を生み出す過程で二酸化炭素をほとんど発生させない為、非常にクリーンなエネルギーとされている。


ただし、そこら辺の小川でも可能な水力発電ではあるが、それだとやはり発電量は微々たるモノになってしまう。

故に、まとまった量を発生される為には、大型の施設を建設する必要があり、場所が水場に限定される事もあり、結果として自然環境や景観を破壊してしまうといった問題点も指摘されている。


次に風力発電は、風による運動エネルギーによって風車を回し、その回転力を利用してエネルギーを発生させている。

風力発電の特徴は、


・風の力を利用して電力を生み出す

・発電コストが安い

・エネルギー効率が非常に高い

・陸・海での設置が可能

・夜間でも発電可能


ただし、国土が狭く土地代が高い日本の様な国において、陸上に風力発電を設置する場合、発電コストが高い事が問題点となる。

故に、今後は海上に多くの風力発電施設を設置する事が課題と見られている。


次に太陽光発電は、太陽による光エネルギーを太陽電池に蓄え、エネルギーを発生させている。

太陽光発電の特徴は、


・太陽電池により電力を生み出す

・光熱費を削減することが出来る

・電気を貯蓄・売却する事が出来る

・災害時の自立発電としての役割を担う


ただし、太陽光発電に使用される太陽光パネルの寿命は約30年であり、2040年頃には大量のパネル廃棄物が発生すると言われている。


また、現代の技術力では太陽光発電のエネルギー効率が良いとは言えず、太陽光発電施設を設置する為には、広い土地を必要とし、更には太陽の光が届かない雨や曇りの場合、充電がされにくいという問題点もある。


最後に、原子力発電である。

原子力発電の発電原理は、


1、原子炉で核燃料の原子核を分裂させる

2、分裂時に発生した熱を利用して水を温めて水蒸気を発生させる

3、その水蒸気でタービンを回転させて、発電させる


つまり、火力発電と同様に“汽力発電”と言う事である。


しくみは火力発電と同じだが、火力発電では化石燃料を燃やすのに対し、原子力発電は核燃料を核分裂させている。


原子力発電の長所は、“汽力発電”でありながら、原子力発電の場合は大気中に硫黄酸化物や窒素酸化物などの物質を放出しない。

つまり、地球温暖化への影響がないという事だ。

また、発電効率も高く、一般的な“汽力発電”と比較すると半分程度のコストで発電可能と言われている。


一方で原子力発電の短所は、やはりその燃料であるウランやプルトニウムの存在に起因する。

使用した後の燃料が高濃度の放射性物質を含んでおり、その処理方法がまだ確立していないのである。

(一応、地下深くの安定的な地層の中に埋める“地層処分”という案は出ているものの、その処分地の選定に苦慮しているのが現実

である。

まぁ、安全であると言われても、自分の生活圏の周囲にそうした処分場を作ると言われたら、人々が反発するのも無理からぬ話であろう。)

また、使用前の核燃料も犯罪、事故、災害などにより何らかの形で損なわれることによって、自然環境や人体などに大きな被害をもたらす原因となり得ると言った問題点も指摘されている。


他にも様々な方法があるが、それも一長一短である。

脱炭素社会を目指している各国であるが、現状では再生可能エネルギーよりも、火力発電と原子力発電に頼っているのが実情であった。


もちろん、本当の意味で脱炭素社会を目指しているならば、それこそ初期の頃の様な生活をすれば良い訳だが、一度豊かさを覚えた現代人がそれに適応する事は困難であるし、あまり現実的ではない極端な方法だ。

故に、如何に自然環境を守りながら経済活動を両立するかといった具合に、日々研究が進んでいるのであるーーー。





















いやぁー、勉強になる夢だなー(棒)。


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