第154話 トライ&エラー
・・・
誰もいなくなった部屋で一人ポツリと呟くヴィーシャに、そう声を掛ける存在があった。
「おわっ!?エ、エイルはんかいなっ!一体、いつからおったんやっ!?」
「エートッ、確カ先程ノ男性ガコノ部屋ヲ訪レタ辺リカラデショウカ?」(思案)
「ほぼほぼ最初からやんけ・・・。」
呆れた様子のヴィーシャの目の前に、何処からともなくエイルが姿を
「・・・しかし、
「コレハ、私ニ搭載サレテイル『光学迷彩』ト言ウ機能デス。オ父様ノ補修ヲ受ケテ、最近ニナッテヨウヤク復活シタ機能デスネ。一応、魔法技術ニ分類サレル機能ナノデスガ、更ニ複雑ナ魔道科学ヲ基礎トシテオリマスカラ、ヴィーシャ・様ノ
「ほ、ほぉ~。何や、よお分からんが、やっぱり古代魔道文明の技術はスゴいモンなんやなぁ~。いや、それを修復出来てしまう旦那はんも大概やけど・・・。」
「・・・。」(えっへん)
自分自身とアキトを褒められたと感じたエイルは、やや誇らしげな様子で胸を張った。
それにまたしても呆れたながら、ヴィーシャは再開していた書類仕事の手を再び止める。
「シカシ、
「まぁ、そうするのが一番やったしなぁ~。」
シレッと惚けた様な事をのたまわるエイル。
最初から盗み聞きするつもりやったんやろうなぁ~、とは思いつつヴィーシャはあえてそれをスルーしたが。
「デスガ、立場ヲ持ツ人ハ大変ナノデスネ?ワザワザ色々ナ“言イ訳”ヲ用意シナケレバナラナイトハ・・・。」(同情)
「まぁ、それはしゃあないやろ。それに、その“言い訳”も理由の一つではあるし、全くの嘘って訳でもないんやで?」
「・・・素晴ラシイ“屁理屈”、モトイ柔軟ナ対応力デスッ!ソレラノ分野デハ、ヴィーシャ・様ハ十分ニオ父様ノオ役ニ立テルデショウッ!!ヤハリ、貴女ニ声ヲ掛ケタ私ノ判断ハ間違イデハナカッタ様デスネッ!!!」(自画自賛)
「何や、褒められてる気がせぇへんなぁ~・・・。」( ̄▽ ̄;)
実はヴィーシャに、『ブルーム同盟』ではなく、アキトのパーティーである『アレーテイア』に合流する様に働き掛けたのは意外にもエイルであった。
エイルは、最近はやたらとアキトをからかう様な素振りを見せているが、基本的に彼女は、
これは、エイルが元々
元々は兵器として産み出されたのに何とも不可思議な事ではあるが、『アストラル』を持つと言う事は、ある意味で『自我』を持つと言う事でもあるので、エイルは人間と同じ様に、“望み”とか“希望”、好き嫌いの嗜好や彼女なりの価値観が存在するのである。
もっとも、その『アストラル』が極まり過ぎて、
この様にエイルは、『
ただ、同時にエイルは、『
以前にも言及したが、『
プロジェクト名は『魔道兵量産計画』。
これは、人間種を軽く越える物理性能に加えて、高度な魔法技術を扱う事も可能で、更には基本的に『アストラル界』に身を置く高次の存在であるところの神々に干渉出来る様にと、『
もっとも、結論から言えばその目論見はほぼ失敗に終わっている。
エイルはその『魔道兵量産計画』の
例えば、最初期の『
『魔道兵量産計画』は、言わば兵器を量産する事を目的としている。
であれば、わざわざ行程も複雑で、高い技術を要求されるコンパクトな“ヒトガタ”にこだわる必要はなく、戦車や戦闘機の様な大型のモノでも良い訳だ。
ある程度の大きさの方が、各種兵装や高度な魔法技術をプログラムする事も比較的容易な訳だから、コスト面から考えてもその結論は当然の帰結と言えた。
また、当初の技術力では、いくら古代魔道文明時代の技術力とは言え、いきなりエイルほどのコンパクトかつ高性能な試作品を製造する事が出来なかったと言う事情もあったが。
ただ、それは上手くいかなかった。
いや、ただの
ただ、先程も述べた通り、『
そこで、中期頃からは、エイルの様な“ヒトガタ”が現れ始める。
実は古代人達も、『アストラル』に関してはそこまで深く知っていた訳ではない。
これは、『アストラル』の定義が極めて曖昧だからでもある。
以前にも言及したが、人間種は『肉体』・『精神』・『霊魂』の3つの要素によって構成されている。
この内、『肉体』、すなわち、実際に物理的な形を持ち、我々の住む物質界に存在するそれは、自らの目などを通して様々なモノを知覚する事が可能である。
これによって、古来より様々なモノを観察し、人体の構成から科学技術に至るまで、人類は様々な事を解き明かして来た。
しかし、残りの『精神』と『霊魂』に関しては、物理的に
『精神』に関しては、人々の感情などにも密接に関わる事から、その概念は古くから良く知られているが、『霊魂』に関しては今現在においても眉唾な話であると考えている者達が大半であろう。
もちろん、『霊魂』に関しても研究をする者達も古来から存在するし、それに関わる様々な資料は残されているものの、要はそれが存在する客観的・決定的な根拠が示されていないのである。
故に、『霊魂』はオカルトちっくでスピリチュアルな概念として、科学的には“有る”と証明されていないのである。
まぁ、だからと言って、“無い”とも言えないのであるが。
そして、“霊能力”は、この『霊魂』に深く関わる概念なのである。
『アストラル』も、この『霊魂』に深く関わる概念だ。
故に、
ただ、その何だかよく分からないモノを何だかよく分からないまま何となく利用する事は実際には意外と多いのである。
これは、科学技術が発達した
例えば、
もちろん、『ガラス』を生成、加工する工学的な方法は解明されている。
しかし、『ガラス』が固体なのか液体なのか、そんな根本的な事すら、実はまだ結論が出ていないのである。
他にも、長らく解明が進んでいなかった全身麻酔のメカニズムについても(これは昨今の研究で結論が出たそうだが)、原理がよく分かっていないまま、実際に広く利用されている例は意外な程多いのである。
古代人達も、先程述べた通り『アストラル』に関する造形は深くなかったが、『人工霊魂』を産み出す理論
中期以降に機械然とした外見のモノではなく、“ヒトガタ”に移行しようとしたのは、当時残されていた様々な資料なども参考にした結果である。
これは、
そしてそうした資料を参考に、『肉体』と『精神』や『霊魂』が密接に関わる事から、人間によく似た外見を持つ人形、“ヒトガタ”の方が、『霊魂』が定着しやすいのではないかとの仮説を、『
結論としては、その目論見は成功した。
ただ、ここで更なる問題も浮上したが。
“ヒトガタ”にした事によって、『
これは、『人工霊魂』の作成が極めて困難だったからである。
以前、アキトも言及していたが、『人工霊魂』を作成するのは、複数のパターンが想定される。
例えば、『精霊』や『妖精』を利用するとした場合である。
人間一人に該当する『霊魂』は、実はかなりの容量を持っており、『精霊』や『妖精』でこれを構成しようとした場合には、複数の素材を必要とする。
更にはそれらを命令を受け付ける様に統合して一つの『人格』を産み出さなければならないので、元々別々の存在である『精霊』や『妖精』を合体させようとすると、どうしても拒絶反応が出てしまうのだ。
イメージとしては、肉体的概念ではないものの、精神的・霊魂的な人体錬成や臓器移植法に近いかもしれない。
適合率の極めて高い臓器移植であっても、やはり元々持っているモノとは異なるので拒絶反応が出てきてしまう。
これに、更には『人格』が関わってくるとなると、その結果はお察しの通りである。
制御が効かず暴走率が極めて高かった事もあり、この方法はすぐに廃止される事となった。
次に模索されたのが、既存の
先程も言及した通り、元々人間は『肉体』・『精神』・『霊魂』を生来備えているので、被験者を元の『肉体』から分離し、『
こちらも、一時的には成功したのだが、結果としては失敗だった。
何故なら、それには、所謂『幽体離脱』を可能にする必要があり、むしろ『
下手すれば、二度と元の『肉体』に戻れない可能性もあるからだ。
もっとも、その時にはすでに研究者達の道徳的・倫理的観点は麻痺しており、そうした無茶な実験をしたのだが、長期的に『肉体』と『精神』・『霊魂』を分離してしまうと、被験者の元々の『アイデンティティ』とか『ルーツ』が曖昧になってしまうリスクを見過ごしていた為に、一時的に成功したが、その後高確率で『自我』も崩壊してしまったのである。
『自我』が崩壊すれば、当然だが論理的な命令は一切受け付けなくなる。
故に、こちらも成功率が極めて低い事からも、あえなく断念する事としたのである。
だが、それらの失敗は必ずしも無意味なモノではなかった。
複数の素材を繋ぎ会わせる方法や、既存の
研究者達が最終的に目を着けたのは、『残留思念』だった訳である。
『残留思念』とは、こちらも以前に言及したが、『幽霊』や『魂』に近い存在である。
ただ、
でなければ、少なくとも人類の有史以来、亡くなってしまった人々は、今現在その世界に生きている者達よりも多くなってしまう訳で、世界は『霊魂』で溢れかえってしまう筈であるからだ。
これは、所謂『輪廻転生』の概念であるが、要は自然現象などと同様に『霊魂』も循環しているのである。
ただし、中には先天的か後天的かはともかくとして、“霊能力”が強い者、あるいは『魔素』との親和性が高い者達が存在する。
そうした者達が、何らかの
これが、『残留思念』である。
言うなれば、『残留思念』は元の『霊魂』のコピーであり、本物の『幽霊』や『魂』とはやや異なる存在なのだが、一般的に見た場合はそこに大きな違いは存在しない。
さて、そうした『残留思念』は“想い”の塊であるから、
それ故、『残留思念』を利用する方法も困難を極めたのだが、そうした超常的存在は、ある種、『魔術』や『魔道』、『魔法』とは近しい関係性にあるので、
『精霊』や『妖精』などの素材を複数集める事よりコストが安く済み、『残留思念』は厳密には本物の『幽霊』や『魂』とは異なるので、既存の
それに、『残留思念』は過去に存在した人のコピーではあるとは言え、また常識や理性が吹っ飛んでいるとは言え、元々一つの『人格』を有していたモノである事は間違いない。
こうした事があって、後期は、この『残留思念』を利用する方法が主流となっていったのである。
で、こちらも様々な失敗と試行錯誤の末に、最終的に極めて成功に近い存在として、エイルが産み出されたのである。
エイルの場合は、比較的大人しい性質(おそらく、その
もっとも、試作品は完成したのだが、それが発表される前に、また量産体制に移行する前に古代魔道文明自体が崩壊した事で、『魔道兵量産計画』としては結果的に失敗に終わった訳である。
それに、エイルにしても、安定した成功例とは言え、最終的な完成形ではなかった。
これは、彼女の『アストラル』を完成させられる存在、突出した『マテリアル』と『アストラル』を持つアキトの様な存在が、古代魔道文明時代にはいなかったからである。
故に、エイルが本当の意味で完成する為には、結局は古代魔道文明時代では不可能であり、皮肉な事に、長い時を経てアキトレベルの存在が登場するのを待つ必要があったのである。
さて、長々と説明してきたが、こうしたいくつもの偶然や奇跡の末にアキトと出会い
それに加えて、今現在では失われてしまった古代魔道文明時代の知識もあって、エイル自身にも実はよく分かっていないが、アキトと様々な人々との
その末で、エイルはヴィーシャをアキトの仲間に引き込む事を画策していた訳なのであるーーー。
「デスガ、単純ニオ父様ト一緒ニ居ラレル事ハ、ヴィーシャ・様ニトッテモ喜バシイ事デハアリマセンカ?貴女ガオ父様ニ惹カレテイルノハ、私ニモ分カッテイマスヨ?」(確認)
遠慮のないエイルの指摘に、ヴィーシャは顔を真っ赤にして、しどろもどろになった。
色々と“屁理屈”や“言い訳”を駆使したが、最終的にはエイルの指摘通り、ヴィーシャが『アレーテイア』に合流するつもりになったのも、そんな単純な理由からであったからだ。
まぁ、とは言え、実際には人を動かす理由などそんな単純なモノで良いのだが。
「ま、まぁ、それはそうやけど、改めて指摘されると、何や色んな人達に申し訳ない気持ちになってしまうなぁ~・・・。それに、旦那はんには、アイシャはんらがすでにおる訳やし・・・。」
「ソンナ事ヲ気ニスル必要ハアリマセンヨ。自身ノ幸セヲ最優先ニ考エル事ハ、本来他者ニ何ラ咎メラレル謂ワレノナイ事デス。他ノ事ハ他ニ代用ガ効キマスガ、自分ノ人生ニハ代用ハ効キマセンカラネ。ソレニ、オ父様程ノ存在ナラバ、多クノ人々ヲ惹キ付ケテシマウ事ハ、アイシャ・サン達モスデニ承知シテオリマス。故ニ、ヴィーシャ・様ガコレカラ考エルベキハ、オ父様トアイシャ・サン達ニ認メテ貰ウ事デショウ。モチロン、私モ協力シマスシ、スデニアイシャ・サン達ニハ話ヲ通シテオキマシタガ、コレニツイテハヴィーシャ・様ノ努力次第デスカラネ。」(応援)
「う、うん・・・。何や、そう言って貰えると幾分心が軽くなるわ。まぁ、一先ず、これからよろしゅう頼んますわ、エイルはん。」
「モチロンデスッ!!コレカラバシバシ鍛エテ上ゲマスカラネッ!!!」(熱血)
「あれっ!?そういう流れっ!!??」
良い感じに話がまとまったと思ったら、エイルの不穏な一言により、ヴィーシャは思わず突っ込みを入れてしまっていた。
まぁ、後にこのエイルの判断をヴィーシャは感謝すると同時に、軽く後悔しつつも、何かを勝ち取るのには努力が必要不可欠なんだなぁ~、と当たり前の事を再認識したりした訳なのであったーーー。
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