第131話 わんぱく王子とおてんば姫



◇◆◇



以前にも軽く触れたが、ロマリア王国この国の王位は代々男子が継ぐと決まっている。

しかし、様々な事情もあって、初の子供が待望の男児(ティオネロとアキト。もっとも、アキトはその存在を公式には抹消されているが)だったとは言え、マルク王とエリス夫妻は、そこで子供を設ける事が終わりと言う訳にもいかないのである。

この世界アクエラでは、医療が独自の方向へ発達している為に、昔の向こうの世界地球の様に、複数人の子供を設けるのが当たり前だからである。

これは、嫌な話、いわば“スペア”の為でもあった。


現代医療が発達した向こうの世界地球ではあまり想像がつかないかもしれないが、医療が未発達で、衛生状況もあまりよくなかった昔の向こうの世界地球では、子供の死亡率は非常に高かった。

実際、日本には“七五三”と言う行事があり、子供の健やかな成長を祝う風習があるほどだ。


これは、今現在のこの世界アクエラも同じ状況であった。

もちろん、ライアド教が独占しているとは言え、回復魔法と呼ばれる技術は存在するのだが、こちらも以前に言及したと思うが、回復魔法は別に万能ではないのだ。

むしろ、回復魔法は知識のない者が使用すると、とてつもなく恐ろしい魔法となる。

これは、回復魔法が自然治癒力を爆発的に促進させるモノだからである。


人の身体は、様々な機能を備えている。

例えば免疫機能だ。

これは、外部からの細菌やウイルスの侵入に対抗する為の防御システムだが、この免疫機能が過剰に反応してしまうと、宿主自身を攻撃する現象が起こる。

所謂、“アレルギー”である。

回復魔法では、この“アレルギー”を引き起こす可能性も高いのである。

同時に、細菌やウイルス自体を活性化させてしまう危険性もあるし、ガン細胞の活動を促進させてしまう可能性もあるのだ。


それ故に、この世界アクエラでの療養の基本は、応急救護と薬学、後は栄養を摂取して安静にする事であり、回復魔法はある意味最終手段なのである。

もちろん、所謂外科的療法を思い付くリリの様な天才の部類も過去から現在に掛けて存在したのだが、権威確保の観点から、医療分野に進出する事はライアド教から睨まれる可能性が非常に高い。

ライアド教は世界的宗教団体であるから、それすなわち多くの人間を敵に回す事と同義だった。

リスクとリターンを冷静に鑑みれば、当然リスクの方が大きいと判断するだろう。

それ故に、向こうの世界現代地球の様な方向への医療の発達が困難な状況になっていたのであった。

まぁ、それはともかく。


そんな訳もあって、子供達が無事に成長出来るかどうかはある意味未知数な部分もあり、その子供達(次世代)の生存の確率を少しでも高める為に、複数人の子供を設ける事が一般的であった訳だ。

これは、身分の高い低いは関係ない。

いや、むしろ身分の低い者達ほど、働き手としての子供が重要になる事からも、子沢山なんてケースも珍しくない。

ここら辺も、昔の向こうの世界地球と似通った状況であるかもしれない。


さて、そんな訳もあってマルク王には、王妃エリスとの間に3人の子供がいた(正確には、アキトも含めて4人であるが)。

その1人で第一皇太子・ティオネロはすでに成人を迎え、今まさに次代の王となろうとしている状況ではあるが、とは言え、これはかなり早すぎる事でもある。

何せ、ティオネロはアキトと同じく、今現在は15歳であるからだ。

(もっとも、向こうの世界地球も含めて、実は“少年王”は決して珍しい存在ではないが。)


そして、そんな年若いティオネロの下の兄弟となると、当然もっと若くなる。

一人は、第二皇太子のギルバート。

今年で10歳になる、わんぱく坊主であった。

もう一人は、第一王女のノエル。

今年で6歳になるおてんば幼女であった。


そんなロマリア王家の人々(+α)が、何故アキトと仲良く談笑していたかと言うと、それはマルク王とアキトの謁見まで話は遡るーーー。



・・・



「ねーねー、わたしもえいゆうがみたいなぁ~。」

「あ、ずるいぞ、ノエル。オレも、オレもみたいなっ!」

「だ、ダメですよ、ノエル様、ギルバート様。英雄殿は、今現在お父上と会談中なのですから・・・。そうですよね、エリス様?」

「そうですよ、ノエル、ギルバート。英雄殿は今お父様と大切なお話中なのですから、邪魔をしてはいけませんよ?」

「えー!?」

「ぶーぶー!」

「「ハァ~・・・!」」


以前にも言及したかもしれないが、ロマリア王国この国では貴族派閥が台頭していた事もあって、マルク王の権威は長らく衰退していた。

しかし、それ故に、マルク王時代とは違い、次期ロマリア王となるであろうティオネロやギルバートに対する干渉がほとんどない状況であったのだ。

つまりは、マルク王の子供達が政治のドロドロとした話に巻き込まれる事が少なかったのである。

そうした事もあり、普通の子供の様に健やかに真っ直ぐ育てる環境となっていたのであった。

世の中、何が功を奏するか分からないモノである。


もちろん、普通の子供達とは違い、当然ながら高い教育を受けられる環境にあった為に、高い知性や教養を身に付けてはいるのだが、とは言え、普通の子供と変わらない彼らはやはり普通の子供達同様に中々に活発であったのである。

もっとも、ティオネロは比較的穏やかな子供時代を過ごしていたが、その弟と妹は、かなりのヤンチャだった訳である。


そんなヤンチャ盛りのギルバートとノエルが、噂の英雄を一目見てみたいと言い出したのである。

ギルバートは、向こうの世界地球で換算すると小学校高学年くらいに該当し、ノエルは小学校低学年くらいに該当する。

その年代の男の子が強い者に憧れるのは普通であるし、その年代の女の子が、ある種の王子様を夢想するのは普通である。


しかも、今まさにそうした対象が父親であるマルクと会っていると言うのだから、彼らが興味を惹かれるのも無理からぬ話なのである。


それを必死になだめているのは、彼らの専属侍女であるモナと、彼らの母親であるエリスであった。

王家の子供ともなると、子育てには様々な人の手を借りる必要がある(まぁ、これは貴族家なども同様であるが)。

何故ならば、エリスも王妃としての立場がある為に、公務をする機会が数多く存在するからだ。

しかし、小さい子供を抱えたまま公務をする事など出来よう筈もないので、必然的に彼らの面倒を見てもらう必要が生じるのだ。


とは言え、エリスの意向で、子育ては出来得る限り人任せにしないスタンスを貫いていた。

これは、エリスがアルメリアからの“宣戦布告”に影響を受けた結果かもしれないが、その結果として、一般の家庭の様に両親の愛情をしっかり受けて育ったティオネロ達は、健やかに真っ直ぐに育っていった訳である。

まぁ、それ故に、色々と手を焼かされる機会も多いのだが・・・。


さて、そんな普通の子供と同様にヤンチャなギルバートとノエルが、そんな言葉で諦める訳もない。


「会談が終わったら、少し会う機会を設けてもらいましょう、ね?」

「それまでは、大人しくしていましょう、ね?」

「「はぁ~い・・・。」」

「良かった・・・。では、少し早いですが、お茶でも飲みながら待っている事としましょう。」

「ああ、エリス様。王妃様自らそんな事をなさらずともよろしいのですよ?」

「まあまあ、いいからいいから。」


素直に返事をした子供達に安堵しつつ、ご機嫌を取る為に他の興味に対象を移そうとして、エリスとモナはお茶の準備をする為に一時彼らから目を離してしまった。

そのチャンスを逃す様なギルバートとノエルではなかった。


「ああはいったけど、少しくらい覗いたってばれっこないぜっ!」

「あっ、ずるいよ、ギルバートお兄ちゃんっ!ノエルも、ノエルもいくー!」

「ああ、わかったよ。そのかわり、あんまり騒いじゃダメだぞ?」

「うんっ!」

「よし、じゃあ行くかっ!」


コソコソと部屋を抜け出して、英雄アキトを見に行くギルバートとノエル。

まんま普通の子供の行動パターンであった。


「さあ、ギルバート様、ノエル様。お茶が入りましたよ?」

「あら、あの子達は何処にいったのかしら?」


少し目を離した隙にいなくなっている二人に、エリスとモナは真っ青な顔をして顔を見合わせる。


「「ま、まさかっ・・・!!!」」


ーーーそう、そのまさかであった。



・・・



当然であるが、宮殿内には様々な働く人々が存在する。

故に、ギルバートとノエルがコソコソ行動していても、通常ならば誰かしらに発見されて捕まるのがオチである。

しかし、今回は、英雄アキトと『リベラシオン同盟』が宮殿を訪問し、マルク王との謁見を行っている関係で、かなり人手は出払っていた。

また、くだんのマルセルム公らが画策した政権交代騒動も手伝って、宮殿内は、何処か慌ただしい様子であったのだ。

そんな訳で、彼らの事を気にする者達はおらず、彼らは簡単に謁見の間に到達する事が出来ていたのだった。

別に宮殿の警備がザルだった訳ではないのである。


「ラッキーだったなっ!これなら簡単に覗けるぜっ!」

「そーだねー。」


しかし、それはギルバートとノエルには都合が良かった。

そうして彼らは、コッソリと謁見の間の扉を開いて英雄アキトを鑑賞する事としたのだった。


「「(ワクワクッ!)」」


残念ながら、ギルバートとノエルは、マトモに英雄アキトを見る機会に恵まれていなかった。

いや、マルク王とエリス同様に、泥人形ゴーレム騒動時に遠巻きにあの神秘的な光景を目撃する事は出来たのだが、それ以上近くで見る機会に恵まれなかったのである。

むしろ、そんな神秘的な光景を目撃したからこそ、英雄アキトに対して人一倍興味を惹かれていたと言っても過言ではないのだが。


コッソリと少しの隙間を開けて覗き込んだ先には、二人にとっては、いや、誰にとっても目を惹く様な光景が広がっていた。


「「わぁっ・・・!!!」」


これまで何度となく言及しているが、アキトの容姿はかなり飛び抜けている。

いや、当然この世界アクエラも広いので、アキトを越える美貌を持つ者達は男女問わずにそれなりにいるだろう。

しかし、アキトの特質すべき点はその神秘的な容姿だけでなく、その圧倒的な存在感やそれに対比する様な暖かなオーラ、そしてその知的な雰囲気や立ち居振舞いにある。

立場上、美しいモノにはそれなりに触れてきている王候貴族がアキトを見て息を飲んだのも、そうしたモノの為だ。

そして、王家に連なる者とは言え、まだまだ子供であるギルバートとノエルにとっては、初めて間近で見る全てを超越した存在であった訳だ。

二人の興奮は最高潮に達していた。


「すごくキレーな人だね、ギルバートお兄ちゃんっ!」

「しーっ!声が大きいぞ、ノエル。(ヒソヒソ)」

「あ、ごめんなさい。(ヒソヒソ)」

「けど、確かにな。それに、噂だとメッチャ強いらしーぜ?いっぱいのモンスターを追っ払った事があるんだって!(ヒソヒソ)」

「えー、そうはみえないけどなー。(ヒソヒソ)」


ティオネロは、どちらかと言うと文武両道を地でいく優等生タイプであるが、ギルバートは、まぁ、この年代の男の子にありがちな、どちらかと言うと身体を使う事の方が好きなスポーツマンタイプだった。

それ故に、身体を使う武芸や魔法の実技には人一倍熱心に取り組んでいた。

まぁ、その一方で、頭を使う勉強の方はあまり好きではなく、当然ながらそこまで頭は悪くないのだが、その事はエリスや家庭教師達の悩みのタネだったりする。

まぁ、それはともかく。


で、そんなギルバートは、英雄譚や冒険話も大好きで、また、強い者達に非常に強く惹かれる傾向にあった。

実際、宮殿にいる近衛騎士団には立場を越えて憧れを抱いており、また仲も良かったりする。

騎士団は騎士団で、皇太子殿下に憧れを抱かれて悪い気はせず、結構色々と(余計な事も含めて)教えたりしているのだった。

その中には、英雄アキトに関する噂話もあって、実はギルバートが一番王家の人々の中では英雄アキトの情報通だったりするのである。


一方のノエルは、まだまだ幼い事もあって、そうした外面的な事よりも、アキトの放つ暖かいオーラに惹かれていた。

以前にも言及したかもしれないが、今現在のアキトは何故か子供に好かれやすい傾向にある。

いや、『前世』の彼も似た様な傾向にあったが、こちらの世界アクエラに来てからそれがより顕著になったのである。

一例を挙げると、アランやエリー、ファブリス、ディアンヌに、この間助けた幼女などがアキトに懐いている。

そして、ノエルも今まさに、アキトのオーラに触れてアキトを“おうじさまみたい”と思っていた。

いや、実際にはアキトは血縁上のノエルの兄であるから王子様で間違いないし、何なら自分の兄二人も王子様なのだが、そこら辺の細かい事はまだまだノエルには区別が付かなかった。

故に、おとぎ話に登場する様な“ヒーロー像”をアキトに重ねていたに過ぎないのである。


とは言え、タイミング的には間が悪かった。

アキトにはそのつもりはなかったが、この謁見では、アキトはロマリア王国この国の上層部を痛烈に批判していた。

これは、長らく国という組織を運営する上で生じたシステム上の不具合や、権力や権限に胡座をかき自らの職責を怠っている事に対する批判、つまりは、マルク王だけに言っていた訳ではないのだが、それを客観的に見た結果、あるいは子供の視点から見ると、まるで英雄アキトマルク王父親をイジメている様に映ったのである。

これには、流石に二人も困惑した。


「な、何か様子がおかしいな・・・。(ヒソヒソ)」

「う、うん・・・。(ヒソヒソ)」


これは、ティオネロも、あるいはジュリアンも経験した事であるが、血縁上の家族としての父と、社会的立場を持つ父を分けて考える事は、かなりの矛盾や葛藤を要する。

当然ながら、親族に対する情の様なモノは存在する訳で、それ故にどうしても擁護してしまいがちになるのだが、しかし社会的に立場を持つ者達ともなると、時として心を鬼にして諫める事や切り捨てる事も必要なのだ。

そうでなければ、より多くの者達が不幸になってしまう事があるからだ。

それ故、ジュリアンは父親であるフロレンツを切り捨て、ノヴェール家の存続を取った。

また、ティオネロも、ロマリア王国この国の未来や国民の為にも、今まさにマルク王を王位の座から引きずり下ろそうとしていた訳だ。

それが人の上に立つ者の責務であり、多くの者達の命を預かる者達の義務なのである。

まぁ、それすら出来ない者達も多いのだが。


とは言え、マルセルム公らが画策したマルク王に関する政権交代は、むしろその周囲の者達を刷新する事が主な狙いであった。

故に、マルク王自体は王位の座から下りる形での明確な罰則を与える事となるから、それ以上のマルク王に対する批判もかわす事が出来るという狙いもあったのである。

本来ならば、辞めた程度で責任を果たしたとは言えないのだが、まぁ、企業や政治の世界では首をすげ替えて責任を取った事にする手法は、まぁ、よくある話である。


とは言え、子供にそこまでの難しい裏事情が分かる筈もない。


「「っ!」」

「お待ち下さいっ!」

「見付けましたよ、ギルバート、ノエルっ!」

「「っ!?」」


何となく嫌な感じがして、ギルバートとノエルは謁見の間に踏み込もうとした。

もしかしたら、マルク王父親を助けようと思ったのかもしれない。

しかし、その前にモナとエリスに見付かり二人は捕まってしまったのだった。


「もう、ダメじゃないですか、こんな所まで来てっ!」

「さあさあ、二人とも、大人しく部屋に戻りなさい。」


中で何が起こっているか知らないモナとエリスは、ギルバートとノエルを軽く叱りながら、元の部屋へと引き返す様に誘導する。


「ち、ちょっと待ってよ、母上。」

「何、ギルバート?英雄殿は見れたでしょ?」


コッソリ覗いていた事で満足しただろうと、エリスはすげなく応える。


「いや、違くて、何だか様子がおかしーんだよっ!」

「「・・・はっ???」」


そのギルバートの言葉に、モナとエリスは顔を見合わせる。

今日の予定は謁見だった筈だ。

それに、この間の泥人形ゴーレム騒動に関する褒賞と、それに関連した報告会はあるかもしれないが、ギルバートが焦る様な内容ではない。

もっとも、エリスがいくら王妃とは言え、政策上の重要な秘密までは知らされない事も多い。

それに関する事だろうかと考えていると、ギルバートとノエルがこう続けた。


「とにかく、ちょっと覗いて見てよっ!」

「おねがいー!」

「わっわっ!」

「ちょ、もう、何なの?」


グイグイとモナとエリスを扉に近付けると、ギルバートとノエルは中を覗く様に催促する。

子供である自分達よりも、大人であるモナとエリスの方がマルク王父親を救う手立てを思い付くかもしれないと考えた末での事だ。

その二人の剣幕に押されて、モナとエリスは困惑しながらも中を覗く事にした。


ちょうど、場面は英雄アキトの糾弾から、ティオネロとマルセルム公らによる政変クーデターもどきのシーンに移り変わっていた。

モナはともかく、エリスとしては、自身の夫と長男(子供)が対立する衝撃的なシーンを目撃する事となったのだ。


「こ、これはっ・・・!?」

「ど、どうなっているのっ!!??」


あまりの衝撃に、エリスは驚き固まってしまう。


「アイツが父上をイジメているんだっ!」

「ちちうえをたすけてー。」

「・・・えっ、・・・はっ?」

「・・・っ!ま、まさかっ!!!」


だが生憎、ギルバートとノエルは、先程の光景だけを見ていた為に、英雄アキトがダメ出ししていた事を伝えてしまう。

それと目の前の光景は噛み合っておらず、モナは軽く混乱してしまった。

一方のエリスは、この間の泥人形ゴーレム騒動のおりに、アキトが“希望の首飾り”を身に付けている事を目撃していた事から、英雄アキトが自身の子供である事を確信していた。

だからこそ、“”と言う不吉な文字が頭に浮かんでいたのだった。


いや、これはエリスの早合点だ。

そもそも、アキトにエリスやマルク王に捨てられた認識はない。

それに、様々な事情から離れて暮らす事を余儀無くされたが、それはアルメリアが介入したからで、更に言えばライアド教が介入したから、もっと言えば双子だった事もある。

とは言え、それとエリスの深層心理にある負い目みたいなモノとは関係がなく、それ故に変な想像をしてしまったのだ。

私達を恨んだあの子が、ティオネロを唆してマルク王に反旗を翻させたのでは?、と。


それ故に、モナ以上にパニックとなり、目を見開いたまま驚き固まってしまっていたのだった。


「母上?」

「エリス様?」

「・・・っ!」


そのエリスの尋常ではない様子に、ギルバートとモナはエリスに目を向ける。

が、ノエルは何も言わないエリスに痺れを切らし、今度こそ謁見の間に突入を敢行した。


「あっ、ノエルっ!」

「ノエル様っ!?」

「・・・ハッ!ノ、ノエルっ!待ちなさいっ!」


一瞬、変な想像に囚われていたエリスも、そのギルバートとモナの驚いた声に意識を取り戻し、ノエルに続いたギルバート、モナと共に彼女も謁見の間に突入するのだったーーー。



◇◆◇



「いやはや、僕達は完全に部外者ですねぇ~。」

「いやいやアキトくん。他人事みたいに言ってるけど、君がこの事態を引き起こしたんじゃないのかい?」

「いやいや、誤解ですよ、ダールトンさん。いくら僕とは言え、そこまでは予測出来ませんよ。それに、僕はつい最近までヒーバラエウス公国に行っていたんですよ?こんな大規模なが出来る訳ないじゃないですかぁ~。」

「ふむ、確かにな・・・。しかしアキトだからなぁ~。」


ロマリア王国この国の歴史的政権交代の一幕に居合わせながら、何処か他人事の様にノンキに僕らはそんな会話を交わしていた。


これは、いわばある種の内乱だった。

ただの謁見かつ、『リベラシオン同盟』への褒賞、泥人形ゴーレム騒動の報告会程度で済めば、僕としてはそれならそれでも良かったのだ。

後日改めて、『三国同盟(仮)』参加へと打診する事にしたからだ。

まぁ、その時にまた内部でアレコレと揉める事が予測されたが。


しかし、それだけで済まない事は、ヨーゼフさんからのリークで分かっていた。

故に、僕は自身の立場を明確にしたのである。

僕は誰かに仕えるつもりも、何処かの国に属するつもりもない、と。

これは、政治的なアレコレに巻き込まれたくないと言う僕自身のスタンスもそうなのだが、もし仮に、僕のが何処かの国や組織にあった場合、僕は今の様な自由に対応を取る事が困難となるからである。


ロンベリダム帝国やライアド教はともかくとして、その勢力にどういう形であれ協力している『異世界人地球人』達とも、僕達は残念ながら敵対する可能性は高く、かつ彼らのチカラこの世界アクエラのS級冒険者の人々すら凌駕するモノである。

故に、彼らに対抗出来る手札は僕らしかなく、もし仮に、僕らが何処かの国や組織に属していた場合、当然ながらその行動の自由度は極端に下がってしまう。

それ故に僕らは自由度の高い冒険者としての立場を選んだ訳だ。

これならば、様々な支援は望めなくとも、何処の国へ行っても咎められる云われないからである。


逆に言うと、ロマリア王国この国の組織としてや、『三国同盟(仮)』の組織としての枠組みで僕らが存在していた場合は、そこにつけ込まれる可能性が高い。

『三国同盟(仮)』は、確かにロンベリダム帝国やライアド教に対する抑止力であり一種の軍事同盟だが、それすなわち全面的に向こう側と争う為に在る訳ではない。

どちらかと言うと、向こう側を孤立させて、国力や勢いを削ぐ事がメインであると僕は考えている。

どれだけ強国であろうと、大国であろうと、世界的宗教団体であろうと、結局は相互作用、何かしらの関係性によって成り立っているのが現実だからね。

極端な話、ハレシオン大陸この大陸全てが敵となれば、政治、経済、軍事の観点からも、ロンベリダム帝国やライアド教が追い詰められるのは言うまでもない。

まぁ、流石にそこまでは行かないだろうが。


だが、そこで僕らが何処かの国や組織に属していた場合は、話が少し変わってくる。

もし仮に、その状態で『異世界人地球人』達と僕らが衝突した場合、それは『三国同盟(仮)』からロンベリダム帝国やライアド教に対する宣戦布告と同義と捉えられかねない。

そうなれば、ハレシオン大陸この大陸全土を巻き込んだ、泥沼の戦争になってしまう可能性が非常に高い。


相手に大義名分を与えるのは、ハッキリ言って悪手も悪手。

むしろ、相手に如何いかに気付かれない様に水面下で優位を取れるかに懸かってくる訳だ。

その為の布石として、僕らは『リベラシオン同盟』から独立した訳だし、その為に何処にも属さない事を選択している。


しかし、そんな事は知らずに、ロマリア王国この国の上層部は、僕に対して爵位を与えるていで、僕らをロマリア王国この国の枠組みに取り込もうと働き掛けた。

これは、こちらとしては非常に都合が悪い訳だ。

その末で、僕はNOを突き付けた訳だが、まぁ、それがロマリア王国この国の上層部の逆鱗に触れたのであろう。

今度はこちらを潰しに掛かった訳だ。


そのカウンターとして、僕はロマリア王国この国を見限る発言をする事となった。

そうなる可能性を考慮して、ティオネロ皇太子やマルセルム公らが、慌てて僕らとロマリア王国この国の間に割って入って、上層部の刷新を求めて、ある種の政変クーデター、政権交代を迫った訳だ。

マルセルム公らとしては、ロマリア王国この国と『リベラシオン同盟』の関係を悪化させたくなかったのだろう。

それは、ひいては『三国同盟(仮)』に合流出来ない=ロマリア王国この国の緩やかな自滅と同義だからである。


当然ながら、これはある種の内乱であるから、部外者である僕らが口出しする事ではない。

ある意味関係者だが、内政干渉に当たるからね。

まぁ、今更と言えば今更なんだけど、結局どうするかは、ロマリア王国この国の人々自体が決める事だ。

それ故、ティオネロ皇太子やマルセルム公らが登場してからは、僕らはこうして第三者として、それらの結末を見届ける事とした訳だった。


なんて事を考えていると、突然子供に声を掛けられたのであった。


「あ、あのあのっ・・・!」

「「「・・・ん?」」」

「ち、ちちうえをイジメないでー!」

「「「・・・・・・・・・へっ???」」」


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