第132話 アキト、子供達への怒涛の言い訳タイム



◇◆◇



そこには、非常に可愛らしい幼女が立っていた。

身に付けている装飾品はどれも高級品で、明らかに高貴な子供である事が窺い知れる。

っつか、こんなところにいる以上、王候貴族の誰かの関係者だろう事は想像に難くないが。


とは言え、色々と好き勝手にするイメージがあれど、流石の貴族の皆さんも仕事場に子供を連れてくるほど非常識ではないだろう。

いや、もちろん向こうの世界現代地球では様々な理由から子育てと仕事を両立する事が認められる風潮に昨今なっているが、とは言え、ここは日本で言うところの国会議事堂に当たる、政治的な機密事項なども取り扱うところだからね。

子供であろうと、むやみやたらに部外者を連れてきて良い場所ではないのだ。

そんな事を考えていると、活発そうな少年が遅れて幼女のもとに駆け寄る。


「お、おいっ、ノエルっ!」

「ノエル様、ギルバート様っ!」

「ノエル、ギルバートっ!」


それに続いて、妙齢のメイドさんっぽい人と、非常に高級そうなドレスを身に纏った40ぐらいの女性も幼女のもとに駆け付ける。

あれ、この人って・・・?


「え、エリス王妃っ・・・!?」


すると、ダールトンさんがその女性を見て、驚愕した様にそんな事を呟いた。

あー、そうそう、王妃、エリス王妃ね。

どうりで見覚えがあった訳だ・・・。


って、エリス王妃っ!?

って事は、この幼女と少年はもしかしてっ・・・!?


「失礼しましたわ、英雄殿、それに『リベラシオン同盟』の皆さん。この子が、何か失礼な言動でも?」

「ああ、いえ・・・。」

「特にそういった事はありませんが・・・。」

「ああ、重ねて失礼致しました。わたくしは、エリス・ロマリア。ロマリア王国この国の王妃を務めておりますわ。こちらは第二皇太子のギルバート、第一王女のノエル。こちらは、専属侍女のモナですわ。」


やっぱり、僕の弟と妹なのか・・・。

いや、公式には僕はロマリア王家の人間ではないけれど。

それに、『前世』の記憶を色濃く残している僕は、もちろん今現在の僕とは血の繋がりはあるんだろうが、マルク王やティオネロ皇太子、エリス王妃も家族って感じの親しみは薄い。

どちらかと言うと、会った事もない遠い親戚って感じの感覚に近いかもしれない。

何せ、今では随分古い記憶とは言え、の顔を一瞬忘れていたくらいだしね。


「これは御丁寧に。私は、アキト・ストレリチアと申します。」


しかし、悲しいかな、元・社会人のさがとして、相手が名乗った以上、反射的に僕はそう自己紹介を返していた。

まぁ、無視するのは失礼に当たるからね。


「わ、わたくしは、僭越ながら『リベラシオン同盟』の盟主を務めております、ダールトン・トーラスと申します!」

「同じく、『リベラシオン同盟』の戦術顧問を務めております、ドロテオ・マドリッドと申します。」


その僕に釣られる様に、ダールトンさんとドロテオさんも慌てて自己紹介をした。

マルク王の時も思ったのだが、どうやらダールトンさんは権威に対して、少し尻込みしてしまう傾向にある様だな。

まぁ、本来はダールトンさんの反応の方が正しいんだけどね・・・。


「ええ、どうぞよしなに。・・・それで、申し訳ないのですが、は一体どういう状況なのか、どなたか御説明頂けてもよろしいかしら?」

「あぁ~・・・。」


なるほど、先程のこの幼女、ノエルちゃんの発言は、そういった事か・・・。

何処か非難めいた表情を浮かべるエリス王妃に、困惑した様子のモナさん。

ジッとこちらを睨むギルバートくんに、悲しげな表情のノエルちゃん。

まぁ、彼らからしたら、であるマルク王とティオネロ皇太子が対立しているシーンだ。

驚いたとしても無理はないだろう。


とは言え、これは必要な措置でもある。

詳細を知っていれば、これはある種の茶番ではある事が分かるが、端から見れば本気の政変クーデターに見えるだろう。

しかも、僕らはそれを傍観している立場であるから、もしかしたらこれを僕らが画策して、高みの見物をしていると思ったのかもしれない。


う~ん。

エリス王妃とモナさんだけならば、詳しく説明すれば理解して貰えるかもしれないが、まだまだ幼いギルバートくんにとノエルちゃんはなぁ~・・・。

しかし、ここで黙っていると言う選択肢はあり得ない。

流石の僕も、子供に嫌われるのは避けたい事態だからな。


僕は、ギュルギュルと頭を高速で回転させる。

先程までよりも、を出している証拠である。

我ながら現金ではあるが、子供を悲しませるのだけは僕も心が痛い。


そして、一つの結論に行き着いた。

先程のノエルちゃんの言葉がヒントとなった。

ここからは、数々の大人達を出し抜いてきたの本領発揮であるーーー。



・・・



「誤解しないでね、ギルバートくん、ノエルちゃん。僕達は、何もお父さんをイジメている訳じゃないんだ。むしろその逆。お父さんのを協力してやっつけているところなのさ。」

「・・・?」

「どーゆー事?」

「「・・・。」」


僕がなるべく柔らかい雰囲気と表情を浮かべると、ギルバートくんとノエルちゃんは、少し警戒を解いてそう疑問を浮かべていた。

子供の感覚は侮れないが、幸運な事に今現在の僕は子供に好かれやすい容姿や雰囲気を持っている、らしい。

まぁ、それでも、家族に対する情よりは優先順位は下がるだろうが、とりあえずは聞く耳を持って貰えた様だ。


「お父さんはすっごく偉い人なんだけど、それでも全てお父さんが決められる訳じゃないんだ。皆で仲良く出来ればそれが一番いいんだけど、中にはお父さんの足を引っ張る人もいるんだよ。二人にも、年の近いお友達、がいるかは分からないけど、そうした人達の中には意地悪な人がいる事は何となく分かるんじゃないかな?」

「あー・・・。」

「・・・うん。」

「「っ!!!」」


その僕の具体的な言葉に、二人も思い当たる節があるのか、コクコクッと頷いた。

まぁ、子供の社会も、大人の社会と似た様なモノだからな。


よく子供を諭す方便として、“皆仲良くしましょう”なんて事を言う人がいるが、僕からしたらそれはナンセンスだ。

何故ならば、人の性格は十人十色だし、中にはどうしても馬が合わない人、主義・主張が合わない人はいる。

自分に対して意地悪、攻撃してくる人とまで仲良くする必要は、ハッキリ言ってない。

いや、まぁ、幼い頃ならば、それが好意の裏返しである事までは否定しないが、友達はよく選ばないと、最悪に引きずり込まれる事があるのは紛れもない事実である。

実際、僕も『前世』で悪い仲間とつるんだ結果、変な方向へ行ってしまった知り合いは少なくない。

っつか、そういう人達に実際に被害に遭ってるからね、僕は。


だが、大人になると、その線引きを良い悪いはともかく、明確に出来ない事もまた事実だ。

もちろん、反社会勢力などの関係者と仲良くする必要はないが、プライベートならばともかく、仕事上で付き合いの選り好みは出来ないモノなのである。

それは、仕事の幅を狭めてしまうかもしれないし、最悪損をしてしまうかもしれないからだ。

故に、そうした自分とは価値観の違う人達とも適当に付き合えるスキルや適度な距離感で付き合えるスキル、所謂『対人スキル』が社会人には必須のスキルなのである。

色々複雑になる事はあるが、結局はこの人間関係が仕事や家庭、社会生活に与える影響はバカには出来なかったりするのである。


そして、それは国のトップだろうと企業のトップだろうと、そうしたからは逃れられないモノなのである。

いや、場合によっては、子供や普通の人々以上に面倒な側面が増える事もある。


本来、マルク王はロマリア王国この国のトップであるから、彼に指図出来る者などいる筈がないのである。

しかし、そうは上手く行かないのが世の常だ。

例え独裁者であろうと、実際は様々な人間関係・相互関係によって成り立っているモノであるから、色々な方面に気を使わなければならない事も多いのだ。

ロマリア王国この国の上層部の顔触れを見るだけでも、それは明らかであろう。

中には、間違いなくその域に能力的に達していないにも関わらず、何故かその席に着いている者がいるのは、そうした裏事情からである。


以前にも言及したが、ロマリア王国この国の中央政権の政治体制的には、大まかに、


マルク王(総理大臣、みたいなモノ)

マルク王に近い有力貴族(内閣、政府、大臣相当、みたいなモノ)

元老院(有力貴族で構成された国会、みたいなモノ)

宮殿内で働く人々(各省庁に該当)


となっている。

そこから更に、各領地(都道府県)、地方自治体(市町村)へと細かく行政体系が別れるのだが、ここでは一先ず置いておこう。


それに、これは行政権に関わる事で、ここに更に立法権と司法権、軍事権まで付随してくるので、実際には更に複雑になる。

ロマリア王国この国、と言うよりも、この世界アクエラの大半の国では、三権がまだ明確に分かれていないので、こうした現象が起こるのである。

所謂“権力の一極集中”である。

だからこそ、王候貴族がやたらとチカラを持ってしまっていると言う事情もあるのだ。

まぁ、それはともかく。


さて、では国のトップであるマルク王ではあるが、形式上は彼も元老院(場合によっては、そこに更に上の機関である朝廷とか、宗教上の権威、上位の国)に認められる(承認を受ける)事で即位が可能なのである。

まぁ、これも半ば形骸化してはいるが、そうした意味では、ここからすでに、彼と貴族との関係が始まっているのである。


その後、マルク王の主導のもとに内閣の人事が決まる訳だが、先程の話から推察出来る様に、ここで貴族達の介入を受ける事となるのだ。

マルク王に対する支持、票を集める見返りとして、自身、あるいは自身の関係者(大抵は自身の親族)を内閣入りさせる様に働き掛けるのである。

所謂、である。

よくよく考えてみるとこれはおかしな話なのであるが、


(何故なら、元老院からの承認は形式上の事で、大抵の場合は何の問題もなく審議を通過するからである。マルク王に対する支持や票などはあってない様なモノなのだ。これは、向こうの世界現代地球も同様で、本来選挙と言うモノは、個人の自由意思によって投票されるべき事であるが、当然ながらそれでは当選するかどうかは正に神のみぞ知る状態となる。そこで、人々は合法・非合法問わず各方面へと働き掛ける事がままある。それを成し遂げた人を、当選した人は重用する事となる訳だが、もちろん戦略的に優れている場合もあるが、その本当のところは実際は不透明なのである。何故ならば、いくら現代社会とは言え、誰が誰に投票したかは明らかにされないからだ。まぁ、選挙の公平性の観点から言えばこれは当然なのだが、それ故にその働き掛けた人の功績は数値上や結果で判断するしかなく、当選した場合はその人の功績に、落選した場合はその人の失策となるのである。、である。)


まぁ、こうした事がまかり通るのが世の常なのである。

それに、マルク王の即位に関する話はともかく、その後の政策を推し進める上では、そうした人々のチカラは重要になってくる事もあって、様々な事を考慮した結果、今現在のマルク王と上層部が存在する訳なのである。


だが、そうなると何かしらの試験によって選考された訳ではないから、その中には明らかに求められる能力に達していない人が紛れ込んでしまう場合がある。

あるいは、これは一般企業でも起こり得る事であるが、学力的には有能だが、仕事上は全く戦力外である事も少なくない。

更には、仕事は出来るし不正行為を働いた訳ではないが、人格的に問題があり、周囲の人間との関係性を悪くしたり、職場の空気を悪くする者達もいる。


では、そうした者達は即刻排除出来るかと言えば、答えはNOだ。

もちろん、その国や企業、職場のルールや倫理規定によっては、何かしらの理由をつけてそうした者達をクビに出来る可能性もあるが、このと言うものが非常に厄介なのである。


フロレンツ候らの様な、明らかに不正行為を働いた者達ならば、その証拠さえ押さえれば排除する事は比較的容易だ。

(まぁ、その証拠を押さえる事自体が困難となるから、これはこれで非常に難題ではあるが。)

だが、(端から見れば)大きな失点もなく、(端から見れば)大きな人格的に問題のない者達を排除する事は困難を極める。

更に、ここにまで介在していれば尚更である。

今現在のロマリア王国この国の上層部は、まさにそうした厄介者達の巣窟だった訳である。

(もっとも、マルセルム公の様に、中には非常に優れた者達もいるが。)


さて、ではこうした現状をどの様に是正すれば良いだろうか?

一つは、監査という方法論だ。

当然だが、いくらがあるとは言え、いくら大臣相当の権限を有しているとは言え、求められる能力がその域に達していなければ、職務を全うする事は困難だ。

そうした実情を調査し、法令や倫理規定などの基準に照らし合わせて、業務や成果物がそれらに則っているかどうかの証拠を収集し、その証拠に基づいて、監査対象の有効性を利害関係者に合理的に保証するのが監査の仕事だ。


しかし、これも実際は形骸化していたり、あるいはすでに抱き込まれている事もよくある話だ。

ある程度の効果は認めるが、それで全てが上手くいく訳ではない。

そうでなければ、この世にブラック企業などすでになくなっている筈だからである。


一つは、関係者の内部告発という形だ。

これは、アンケートや意見聴取で浮き彫りになる事があるが、実際に現場で働いている人々の意見によって、実情を炙り出す方法論だ。

当然だが、現場の人間が一番事情に詳しい。

どんな問題点があり、その解決には何が必要で、その為に誰が何をする必要があるのか。

それを分かっているからである。


しかし、ここでも上層部と現場ではその認識が大きくズレている事が多い。

これは、見ているモノが違う事に由来するものだ。

上層部、国のトップや企業のトップともなると、その業務も複雑で多忙を極める事も多い。

彼らが扱っているモノは、もはや膨大に膨れ上がった情報そのものだ。

それを一々精査していては、時間がいくらあっても足りない。

故に、数値として人々を見る様になっていき、その結果として現場の切迫感を全く感じ取れない事もしばしばである。

“数値上は問題ないのだから、特に改善する必要はなくない?甘えてんの?”、って感じである。


だが実際には、現場の人間達の工夫や努力でギリギリのところでそうしたハードルをクリアしている事がほとんどだ。

しかし、当然であるが、それではいつか破綻する。

そうなった時に、初めて上層部は己の失策を理解する。

いや、あるいは理解していない事も多い。

“何故こんな事になったのか・・・。”、“いや、アンタらがアホだったからだけど?”、そう何らかの会見で思わずツッコミを入れてしまった人も多い事だろう。


他にも、現状を是正する方法論は色々あるが、実際にはその効果は一長一短で、大きく改善する事は困難を極める。

もはや、上層部自体を刷新しなければ何も変わらない、ってところまで来ている場合も多い事だろう。


ロマリア王国この国が、まさにその状態だった訳だ。

フロレンツ候らを排し、ロマリア王国この国の最大の癌を取り除いたが、実際には状況はあまり改善せず、フロレンツ候らの影にそれまで隠れていた問題点が浮き彫りになっただけだった。

つまり、そもそもロマリア王国この国の現体制の、政治システム、っつか、人事そのものに問題点を抱えていた訳なのである。

まぁ、これに関しては、ロマリア王国この国の政治に関わる者達が是正すべき事であるし、僕は政治に関わる事を避けていたので皆さんの裁量にお任せしていた。

実際、マルセルム公やジュリアン候らは、その問題点を是正すべく、方々に働き掛けていた様だしね。


だが、その前に、ロマリア王国この国の上層部は、泥人形ゴーレム騒動を理由に、僕へと接触する事となった。

僕のスタンスとしては以前にもお話した通りだが、そうして、


“何処かの国に仕えるつもりがない僕”


と、


“どうにかして僕を国に取り込みたいロマリア王国この国の上層部”


とで、意見が対立してしまった訳である。


その末で、ロマリア王国この国を見捨てる事も視野に入れたプランを僕は想定していた訳だが、今までの流れの通り、それはティオネロ皇太子やマルセルム公、ジュリアン候らの機転で回避される事となった訳だ。

マルク王を退に追い込むと言う形ではあったが。


これは危険な賭けではあったが、同時に上手い手でもあった。

先程も述べた通り、問題となるのはマルク王と言うよりも、その周辺の人々、つまりはロマリア王国この国の内閣、大臣相当の有力貴族達である。

彼らは、フロレンツ候とは違い、明らかな不正行為を働いた訳ではないが、本質的にはフロレンツ候とそう変わらない。

基本的に彼らの行動原理は、表向きはロマリア王国この国の為とは言いつつも、実際は自分達にとって都合が良いかどうかでしか動かないからだ。

しかも厄介な事に、自己保身に長けているし、システム上の問題やもあって、彼らの役職を解く事も容易ではないのだ。


しかし、マルク王を退に追い込めば、彼が集めた内閣も、同時に解散となる。

つまり、合法的に彼らの職を解く事が可能なのである。

もっとも、これはある種の政変クーデターであるから、ロマリア王国この国が割れる事態となる危険性も孕んでいたが、まぁ、そこはマルセルム公らが上手くやった様だ。


で、後は、ティオネロ皇太子、いやティオネロ王のもと、新たなる内閣が組閣され、ロマリア王国この国の上層部の刷新が完了するという訳だ。

この場合は、すでにマルセルム公らが介入している事もあり、人事に関しても問題はないだろう。


では、何だかマルク王が損な役回りになってしまったと考えるかもしれないが、実はそんな事はない。

確かに、王としての権限を息子に剥奪された形とはなるが、実際にはティオネロ皇太子、改めて、ティオネロ王のとしての道が残っているからである。


以前にも言及したが、ロマリア王国この国のトップの代替わりは、ほとんどの場合が先王が崩御する形で行われる。

まぁ、歴史的には健康上の理由などで、先王が亡くなる前に王位が継承された事例もあるそうだが、これはかなり稀な例で、一度権力を握ると、人は中々その権限を他者に譲渡する事はしないのである。


しかし、これは職務遂行の為には致命的な欠陥も孕んでいる。

何故ならば、そうした継承ではが上手く機能しているとは言い難いからである。


当たり前だが、王とて仕事である以上、それなりに仕事上のルールが存在する。

もちろん、ティオネロ皇太子の例にもある様に、先王のもとで補佐をしながら、後々の為に仕事内容を学んだり準備する事は可能だが、これは実は特殊な方だ。

何故ならば、王位の継承はある種の指名であるから、先王の今際の際いまわのきわに次期国王が決まるなんて事も往々にしてある。

つまり、大抵は事前に準備する時間がない事がほとんどなのである。


そうした事が、逆に貴族達を更に増長させる要因ともなっている。

何故ならば、つまりは何をすれば良いのかよく分からない状況で次期国王は即位している訳だから、先王の重鎮だった貴族達のサポートがある種必須になってくるからだ。

その者がどれほど有能であろうと、仕事内容が分からないでは、そもそもそのチカラを発揮する事も出来ないからな。

そうして、ある種のブレーン、王の教育係としてそうした貴族達の影響力が増大していく様になっていったのである。

まぁ、こうした事は、様々な政治体制や企業の上層部にも起こり得る現象である。


もちろん、マルセルム公の様に国家や国民の為に尽力する者達もいるが、大抵そうした者達は、自身や家の利益を最優先に考える訳で、そうするとドンドン良くない方向へと突き進んでしまうのである。

そうした政権のトップ達の認識と、世論の認識に大きなズレが生じると、最悪本意気の革命が起こりかねないのは歴史的にも明らかである。

まぁ、そう分かっていても、人々は同じ過ちを繰り返すモノではあるがね・・・。


そうした下手な者達に権力を握らせない為にも、このという役職を先王が務める事が重要になってくるのだ。

と言うのは、所謂『アドバイザー』の事である。


顧問は、ある組織に関与し、意志決定を行う権限を持たないが、意見を述べる役職やその役職に就いている者のことである。

オブザーバー、参与、カウンセルなどというときもある。

相談役も同義の役職名称だが、やや栄誉職的なニュアンスが強い。(某百科事典より抜粋)


先程の例からいうと、ロマリア王国この国のそうした『アドバイザー』は、重鎮の貴族達が務める事が常だった。

もちろん、政策や国を運営していく上で、様々な人々の意見を取り入れる事は重要になってくるが、これまでの様子から言えば、半ば貴族達の傀儡になってしまった印象が強い。

そうして、先程挙げた問題点が出てきてしまった訳だが、それらを排し、マルク王をこの役職に就けようと言うのだ。


もちろん、これはこれで問題を孕んでいる。

ロマリア王家に権力が集中してしまうからである。

これは、向こうの世界現代日本でもしばしば指摘されている点だが、しかし同時にメリットもある。


企業における、特には、社長経験者や会長経験者が引退後に就く役職である。

その豊富な経験や社内外の人脈の広さを活用し、事業成長のためのアドバイスを求めたいと考える企業も多いのである。

特にティオネロ皇太子は、まだまだ年若い事もあって、マルク王のアドバイスは重要になってくるだろう。

マルク王が王を辞する事で、逆に様々な問題点を解決し、かつその彼自身のこれまでの経験値を王時代以上に国の運営に活かせる可能性が高くなるのだ。

何故ならば、そこに下手な貴族達の介入がなくなるからである。


そして、更に重要な点がある。

この役職は、勤務時間の自由度が比較的高いのである。

まぁ、これは向こうの世界地球における規定であるし、もちろんそうした事は、それぞれの企業などによっても異なるが、王時代よりは確実に自由な時間が増える事は間違いないだろう。


これは、まだまだ幼いギルバートくんやノエルちゃんには結構重要な事だ。

当然だが、両親の愛情をしっかり受け取った子供の方が、精神的にも人格的にも安定する事は明確にデータでも示されているからね。

もちろん、すでにティオネロ皇太子が次期国王となる事が確定しているから、ロマリア王国この国の王位継承権がこの後どうなるかは不透明だが、王家の人間である以上、政治的に様々な影響力を持つ事は否定出来ない。

その時に、周囲に良い印象を与える事が出来れば、それはひいてはロマリア王国この国にとっても良い事だろうからねーーー。





















「・・・と言う訳で、おじさ、じゃねーや、お兄さん達は、別にお父さんをイジメていた訳じゃないんだよ。分かってもらえたかな?」

「「なるほど~!!!」」


フフフッ、どうよ、この完璧なまでに理路整然としたをっ!

もちろん、子供にも分かり易い様にマイルドに表現したが、ギルバートくんとノエルちゃんはすっかり信じ込んでくれた様だ。

先程までの沈んだ表情や警戒感は、嘘の様にすでに四散していた。

うんうん、これで子供達の心の平穏と、僕への子供達の好感度が保たれたって訳だ。


「・・・アキトくん・・・。」

「・・・アキト、お前・・・。」

「・・・。」

「・・・英雄殿・・・。」

「・・・旦那はん・・・。」

「・・・アキト殿・・・。」


なので、微妙な表情を浮かべながら何か言いたげな皆さんは空気読んでっ!


っつか見逃して下さい、お願いします。いや、分かってますよ、おっしゃりたい事は。子供相手に、何本気出してんだって言いたいんすよね?けど、僕も子供に嫌われたくないんすよ。(早口)


「そ、それよりさ、君達の事をもっとお兄さん知りたいなぁ~。普段何して遊んでんの?」

「えっとねー・・・。」

「オレもぼうけんのはなしとか聞きたいなっ!」

「おお、いいよいいよっ!」


そんな訳で、僕は皆さんに変な事を言われる前にギルバートくんとノエルちゃんの興味を逸らしつつ、この話題を終わりにする事とした。



幸いな事に、子供達の手前大人達は空気を読んで、色々とスルーしてくれた事をここに追記しておくーーー。


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